【Wavesプラグイン】「Kramer Master Tape」の概要と使いどころ、使用方法について

イボG

今日はWavesのVSTプラグイン「Kramer Master Tape」を紹介します。

このみ

これもミキシング・エンジニアのシグネイチャーモデルでしょうか?

イボG

そうです。Waves社ではいくつかそのようなモデルを出していますが、Eddie Kramer(エディ・クレイマー)は音響エンジニアやプロデューサーとして、主に1960年後半以降のロックシーンで活躍した人物です。


「Kramer Master Tape」とは、Waves社が開発したテープエミュレーションプラグインの1つで、ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンといった有名なアーティストを手掛けてきたEddie Kramer(エディ・クレイマー)というレコーディングエンジニアが開発パートナーとして携わっています。

Kramer Master Tapeは、デジタル音源にアナログの暖かみや質感を与えるためのプラグインです。このプラグインには、テープレコーダーにおけるフラックスという特殊な効果が含まれており、フラックスを上げることで音の歪みやノイズレベルの変化が生じます。

Kramer Master Tapeは、トラックやマスターに対して使用することができます。プラグインには、テープの速度、バイアス、録音・再生レベル、磁束、ワウ&フラッターやノイズレベルなど、様々なパラメータを調整することができます(※)。
※それぞれの用語は後ほど解説しますので安心してください(Wavesの解説ページも勉強になりますので、ページの最後にリンクを貼り付けておきます)。

目次

テープ特有のサウンドについて

テープ系のプラグインでは、見慣れないパラメーターや用語が多くありますので、まずはその基礎について学びたいと思いますが、雑学的な知識になるため、手っ取り早く使い方を知りたい方は読み飛ばしてくださいね。


そもそも、昔はレコーディング環境が現代のようにデジタル・レコーディングではなく、テープに録音する方法が主流であり、本製品のモデリングの対象となったAmpexは1950年前後から、音楽業界で20年近く収録に使用していたそうです。

そのような貴重な実機のAmpexをWaves社で借り、検討に検討を重ねた結果、「録音カーブ、テープスピード、感光の度合い、厚さ、磁束(フラックス)、録音レベル、バイアスの設定といった要素が結果に影響することが分かってきたそうです。

余談ですが、Wavesのプロジェクトの中でも、Ampex 350、Ampex 351の真空管テープ・レコーダーのモデリングは他の製品(エディ・クレイマー氏所有のビンテージコンプ”Pye”をモデリングした「Kramer PIE Compressor」、チャンネルストリップの”HLS”をモデリングした「Kramer HLS Channel」よりも開発が難航したそうです。

また、モデリングに使用するテープも数量の問題、質や耐久性の問題などの面から選定には苦労したと言いますから、アナログ・ビンテージ機材のモデリング製品をありがたく簡単に使用させてもらっていますが、その裏には開発者の汗と涙と苦悩が凝縮されているということを改めて思い知りました。

テープスピード

テープ送りの速度には、「ips」(インチ・パー・セコンド)という単位が用いられています。言い換えれば、テープリールがどのくらいの早さで回転し、1秒あたりにどの程度の長さのテーブを使うかということになりますが、面白いのはテープの速度によってそのサウンドの特徴(周波数的キャラクター)が異なり、それぞれに一長一短があるようです。

本プラグインでも、2種類の録音速度(15ips/7.5ips)があり、15ipsは、ノイズを最低限に抑え、高音の質を保つための業界標準です。一方、7.5ipsは、家庭用としてよく使われ、プロフェッショナルな使用でも許容できる最低限のスピードです。しかし、7.5ipsでは高音の音質が劣り、低音の質は15ipsよりも優れています。そのため、60~70年代のロックのレコーディングで広く使われました。

15ipsと7.5ipsを比べると、15ipsは高音域でしっかりとした質を持っています。また、THD(トータルハーモニックディストーション/高調波歪み)のロスも7.5ipsよりも少ないです。ただ、周波数ノイズについては、15ipsで発生するノイズは7.5ipsで発生するノイズよりも1オクターブ高い周波数で発生します。また、30ipsが主流になった現代では、ノイズは音楽の邪魔をしないほど高周波数で発生するため、15ipsで発生するノイズをさらに高い周波数で発生させることができます。

テープレコーダーを使う際には、録音速度やノイズ、周波数特性を自分で確認し、自分にとって最も適した設定を見つける必要があります。

7.5ips 家庭用として広く使われていたものの、8kHzから始まる高周波数帯のロスがあるようです。一方で、低域の特性は15ipsと比較して良かったため、60〜70年代のロックのレコーディングに幅広く使用されたようです。

15ips 7.5ipsと比較し、高域特性が優れている他、歪みのロスが少なく済むといった利点があるようです。また、ノイズの周波数帯が7.5ipsとの間で、1オクターブのずれがあるようですが、これについてはどちらかが正解と言った答えはなく、単に好みの問題とされています。

エンファシス・カーブ

テープ録音が主流だった時代では、テープの特性による高域周波数帯の減衰を補正するため、録音前にプリ・エンファシスといった処理を行い、あらかじめ高周波成分を強調しておくことで、音声信号が再生される際に明瞭さを維持するという手法が取られていたそうです。

また、前処理(録音時)として行うものを「プリ・エンファシス」、後処理(再生時)として行うものを「ポスト・エンファシス」というそうですが、これらの手法は正式に規格化されているようですので、以下に紹介します(Kramer Master Tapeでは、音響特性を最も正確に引き出すことが可能な、NABを採用しているようです)。

規格(参考)

  1. RIAAエンファシス RIAAエンファシスは、1954年に米国レコード業界協会(RIAA)によって制定されたもので、ビニールレコードにおいて、低周波成分を減衰させ、高周波成分を強調することで、レコードの再生品質を向上させるために使用されます。
  2. Dolby NRエンファシス Dolby NRエンファシスは、ドルビーラボラトリーズによって開発されたもので、アナログオーディオの再生品質を向上させるために使用されます。Dolby NRは、Dolby A、Dolby B、Dolby Cなどの種類があります。
  3. ITU-R BS.450-4エンファシス ITU-R BS.450-4エンファシスは、国際電気通信連合(ITU)によって制定されたもので、FM放送において使用されます。このエンファシスは、50マイクロ秒以上の時間定数を持つRCフィルターを使用しています。
  4. NABエンファシス NABエンファシスは、米国全国放送協会(NAB)によって制定されたもので、アメリカの放送業界で広く使用されていました。NABエンファシスは、RIAAエンファシスと同様に、ビニールレコードの再生品質を向上させるために使用されました。

バイアス

テープレコーディングにおけるバイアスとは、録音時にテープに記録する音声信号を正確に再現するために、テープに事前に信号を加えることです。

具体的には、バイアスとして高周波成分を含んだ信号を録音時にテープに加えます。この高周波信号は、録音時にテープに記録された音声信号に重畳されることで、テープの磁性体をより均等に磁化させる効果があります。これにより、テープに記録された音声信号が正確に再現されることができます。

バイアスをかけることで、テープの再生時には、高周波成分が減衰することによるノイズや歪みを軽減することができます。また、バイアスをかけることで、より広い周波数帯域の音声信号を録音することができるようになります。

お絵かきをするときに、紙の上に事前に薄く線を描いておくことで、実際の絵を描くときに、線が目印となって描きやすくなるように、バイアスをかけることで、テープの上に正確な音声信号を録音するのが簡単になるということです。また、録音された音声信号を再生するときには、バイアスがテープの磁気を均等に磁化させる効果があり、よりクリアでノイズの少ない音声を再生することができるようになるということです。

バイアスの加え方は、テープの種類などに応じてエンジニアが試行錯誤し、好みの音響特性を得るといったことが行われていたそうです。

Kramer Master Tapeでは、「ノミナル・バイアス」、「オーバー・バイアス」といった2つのバイアス設定を搭載しており、パラメーターとして2種類のいずれかを選択できるようになっています。

ノミナル・バイアス 歪みを極力抑え、最大限の周波数特性を活かしたレコーディングを行う上で、Ampex351などで推奨されていた設定。ノイズを抑えつつ(ピーク-60dB)、高域ロスは-2〜-3dBに抑えることができ、高域歪みも適度なものに収めることができます。

オーバー・バイアス 多くのエンジニアに支持されていた設定(-3dB@15kHz)で、3M Scotch 207というテープに対してベストなS/N比が維持されます。一旦ノミナル・バイアスを設定し、さらに追い込んでくといった調整がなされていたことから、「オーバー・バイアス」と呼ばれているようです。

すごく難しい世界ですが、「音がカッコ良いか」感覚的に調整するだけでなく、「意味を理解しておく」と調整の方向が見えやすくなると思いますので、

磁束(フラックス)

フラックス(FLUX)とは、テープに録音された磁束密度を表しており、この単位は「nWb/m」で表されます。基本的には、フラックスレベルが高いほど、ノイズを抑えることができますが、これは記録するテープにも起因するところもあります。

テープ自体が徐々に進化してより多くのフラックス(レコーディング・レベル)を許容できるようになった結果、テープの磁束レベルが格付けされるようになりました。

最も重要なことは、テープ・レコーディングでは、フラックス・レベルを必要以上に上げることで、特にロックでは非常に有効な効果が得られるということが徐々に分かってきます。その最も顕著なものが、サチュレーションやオーバーロードの加わり方です。

WavesのKramer Master Tapeは、テープレコーダーの特有の音の“サチュレーション”や“オーバーロード”を再現するプラグインです。これに対し、デジタル録音では、音がピークを超えると“クリッピング”が発生してしまいます。

しかし、アナログテープのレベルを上げると、音の歪みやノイズが増え、さらにTHDやIM(インターモジュレーション・ディストーション)などの問題が発生することがあります。ただし、これらの問題を利用することで、アナログ録音には特別な効果があることがわかっています。

実際、多くのエンジニアは、特にロックのドラムなど、ある楽器に限ってはアナログで録音することを好む傾向にあります。それは、アナログ録音の特有のサチュレーションやコンプレッション効果を通常の方法では再現できないためです。

Kramer Master Tapeは、アナログテープの“フラックス”という機能に注目して開発されたプラグインです。フラックスを上げると、音が歪んだりノイズが減ったりする特別な効果があります。また、フラックスを上げると、真空管のインプットとアウトプットに負荷がかかり、“真空管歪み”が生じます。

Kramer Master Tapeは、フラックスのレベルを繊細にコントロールできる初めてのテープモデリング・プラグインです。さまざまなフラックスのレベルに対応できるよう、幅広い磁束をモデリングしています。フラックスを上げるほど、低域や高域が歪み、ノイズレベルが下がり、別の歪みの層も加わることがあります。

Kramer Master Tapeは、フラックスとともにテープのサチュレーション効果を再現できます。また、録音・再生レベルを調整することで、真空管サチュレーション効果も加えることができます。これにより、思い通りのアナログ録音のサウンドを再現することができます。

ノイズ

Kramer Master Tapeのノイズコントロールは、デフォルトではオフになっています。しかし、ぜひKramer Master Tapeを使ったトラックを聴いてみてください。その音に耳を傾け、集中して聴くと、Ampex351を使用したアナログ録音でしか生まれ得ないテープヒスと、それに加わるチューブの熱ノイズが混ざり合い、かつて体験したことのない、とても柔らかなノイズが生まれることが分かるでしょう。

ワウ

Waves社のKramer Master Tapeは、アナログテープの欠点を再現するプラグインです。アナログテープには、回転スピードのズレで起こるワウや、録音ヘッドのアライメント変化によるフラッター効果があります。これらの欠点を再現することで、完璧なモデリングを実現しています。

Kramer Master Tapeは、ワウのコントロールを手動で行えるようにGUIに組み込まれており、ディレイコントロールも追加されています。これらの機能は、テープの欠点とは無縁の理想的な世界を得ることもできます。しかし、アナログテープの欠点こそが、このプラグインの真髄であると考えています。ディレイ自体は、ディレイタイムコントロールによって左右されます。

Kramer Master Tapeのパラメーター

では改めて、Kramer Master Tapeのパラメーターを確認していきましょう。

パラメータ内容
SPEED7.5ips/15ips
速い(15ips)方が高音域の鮮明さが増す(低音域は若干損なう)
BIASNOMINAL/OVER
オーバーの方が高音域の鮮明さが増す
DELAY TIMEディレイの間隔をms単位で調整する
FEEDBACKフィードバックの回数を指定する
LOW PASSローパスフィルタの周波数を調整する
RECORD LEVEL音に歪みを加え、音を太くする
PLAYBACK LEVELRECORD LEVELにリンクさせることで、過度な音量変化を抑えることができる
鎖マークのボタンを解除すると、それぞれが独立し、個別に設定可能
NOISEノイズを付加する
WOW & FLUTTERテープの回転速度のムラを再現し、上げると音が揺れる
FLUX磁気飽和を起こして音に歪みが加わり、音に厚みが出る
RECORD LEVELとは異なる歪みが加わるため、組み合わせて好みの音色を得る

シチュエーション

Kramer Master Tapeは、アナログテープの特性を再現したテープエミュレーションプラグインです。以下は、Kramer Master Tapeを使うと良いシチュエーションの例です。

  1. ミックスダウン時に使用する Kramer Master Tapeは、ミックスダウン時に全トラックにかけることで、よりアナログ的なサウンドを再現することができます。アナログテープの特性を再現することで、曲全体に温かみや存在感を与えることができます。
  2. ボーカルに使用する Kramer Master Tapeは、ボーカルに使用することで、よりアナログ的なサウンドを再現することができます。特に、コーラスやバックグラウンドボーカルに使用することで、より自然なサウンドを再現することができます。
  3. ドラムに使用する Kramer Master Tapeは、ドラムに使用することで、よりパンチのあるサウンドを再現することができます。アナログテープの特性を再現することで、ドラムの音に温かみや存在感を与えることができます。
  4. ギターに使用する Kramer Master Tapeは、エレキギターに使用することで、よりヴィンテージなサウンドを再現することができます。特に、クリーントーンやクラシックロックのギターサウンドに使用することで、よりアナログ的なサウンドを再現することができます。
  5. アナログレコーディングの再現に使用する Kramer Master Tapeは、オリジナルのレコーディングが行われた時代のサウンドを再現することができます。アナログテープの特性を再現することで、レコーディング時代のサウンドを再現することができます。

以上のように、Kramer Master Tapeは、アナログ的なサウンドを再現したい場合に使用することができます。ミックスダウン時やボーカル、ドラム、ギターに使用することで、より自然なサウンドを再現することができます。

紹介動画

今回はSLEEP FLEAKSさんの動画を紹介させていただきます。

公式販売サイト

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