この記事では、Waves Tune Real-Time が「ホストにはゼロレイテンシーと申告するのに、実際には遅延がある」という仕様をどう扱っているのかを、公式ユーザーガイドと Waves 公式の技術表だけで分解します。あわせて、補正が始まる境目が 50 セントに置かれていること、そして Tolerance がその 50 セントに足し算される設計であることを整理します。
先に、いちばん誤解されやすい仕様を。現行ガイド p.5 はこう書いています。「Waves Tune Real-Time はどのホストに対してもゼロレイテンシーを申告する。ただし検出/補正の処理によって遅延が生じることはある。その遅延は動的で、入力音のピッチ/周波数に応じて 0ms から 4ms のあいだで変わる。低いピッチの音は高いピッチの音より周期が長いので、遅延も長くなる」。Waves 公式の Plugin Latency 表(2026年9月時点)も、この製品の欄だけサンプル数ではなく「Zero or near-zero latency (depending on pitch)」という文で埋めています。
以下の範囲・初期値はすべて公式ガイドまたは Waves 公式ページの記載で、編集部の実測値ではありません。ユーザーガイドには少なくとも3つの版があり、初期値がひとつ反転しているため、本稿は現行版(公式製品ページの manualPDF が指す tune-real-time-v16-update.pdf・全21ページ・作成2025-02-03/更新2025-05-29)を基準にし、旧版との差は版を明示して残しました。操作手順そのものは入門記事が担当しているので、この記事は設計の理由と数値の出どころに絞ります。
カホ「ゼロレイテンシー」と「遅延がない」は別の話です。前者はホストへの申告値、後者は実際の処理。ここを分けて理解すると、モニターの設計が変わります。
この記事でわかること
- 「ゼロレイテンシー申告」と実際の 0〜4ms の遅延が両立している理由と、低い声ほど遅れる仕組み
- 補正が始まる境目が 50 セントで、Tolerance Cents はそこに足し算されること
- 2016年版と現行版で Vibrato の初期値が Off から On へ反転していること
- Range の外に出た音は補正されずスルーされる、という「効かない」仕様の意味
Waves Tune Real-Timeとは|何を解決する製品か
現行ガイド p.4 の定義は「ボーカルパフォーマンスのピッチをリアルタイムに補正・操作するソフトウェア・オーディオ・プロセッサー」。同じページが「ライブでもスタジオでも使える」「非西洋の音階を含めどんな音楽でもよい結果を出す」と書き、p.5 で「このプラグインはポリフォニックな音を処理しない」と断っています。
解決しているのは「歌っている本人にも補正音を返したい」という要求です。スキャンして直すタイプのピッチ補正は、直した音が返るまでに解析の一往復が必要になります。Waves Tune Real-Time は検出と補正をその場で回すことで、その一往復をなくしました。公式製品ページ(waves.com/2026年9月時点)の比較表も、この製品だけ動作を「リアルタイム」、処理上限を「無制限」に分類しています(Waves Tune と Waves Tune LT はどちらもオフライン・10分)。
もうひとつ、この製品にしかない性質があります。現行ガイド p.4 は「すべての Waves SoundGrid アプリケーションと eMotion ミキサーに対応し、MultiRack SoundGrid 経由でどのコンソールでも動く」と書いています。公式の Supported Platforms の技術表でも、MultiRack・StudioRack・SuperRack・eMotion ST・eMotion LV1・DiGiCo・Venue・StudioVerse が Waves Tune Real-Time では全て対応、Waves Tune と Waves Tune LT では全て非対応です。Tune 三兄弟のうちライブ卓に載るのはこの製品だけという区別が、ここで機械的についています。
ただし、ライブ環境ではひとつ落ちる機能があります。公式製品ページの Supported Hosts に「Important Notes」という枠があり、そこにガイドには無い3項目が書かれています(2026年9月時点)。ひとつめが「MIDI keyboard support in SuperRack SoundGrid, SuperRack Performer & eMotion LV1 is not available.」=これらのホストでは MIDI キーボードのサポートが使えない。現行ガイドは Target Pitch を「画面上のキーボード、MIDIトラック、MIDIキーボードのいずれかで」弾けると書いていますが、この3環境では MIDI キーボードの経路が塞がります。残る2項目は「ホストによっては、オーディオが入っていない状態で Reference Tone を使うために “Dynamic Plugin Processing” を無効にする必要がある」と「StudioRack 内での AudioSuite 処理はクラッシュを引き起こす」です。1つめと3つめはガイドに対応する記述がなく、公式ページを見ないと気づけません。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
0〜4ms が「動的」であることの意味
ホストへの申告がゼロなのに実遅延がある、という状態は普通なら困ります。DAW の遅延補正(PDC)は申告値をもとに他トラックをずらすので、申告がゼロなら補正もゼロだからです。それでもこの設計になっているのは、遅延量が固定でないからだと読めます。現行ガイド p.5 の説明は「低いピッチの音は高いピッチの音より周期が長いので、遅延も長くなる」。ピッチ検出が波形の周期を基準にしている以上、遅延は入力の音程で毎瞬変わります。固定値で申告することが原理的にできません。
実務上の意味は2つです。ひとつ、低い声ほど遅れる。同じ設定でもバリトンとソプラノでは体感が違います。ふたつ、4ms という上限は、モニターに入れて歌えるかどうかの判断材料になる大きさです。ただし本稿は数値の解釈をここまでに留めます。本稿が参照した現行ガイド(全21ページ)には、この遅延が聞こえるかどうか、どこまで許容できるかについての記述は見当たりませんでした。



「遅延が動的だから申告できない」。この一行が読めていると、ライブでこのプラグインを何本挿すかの判断が変わります。
補正が始まる境目は 50 セント。Tolerance はそこに足す
この製品でいちばん設計思想が出ているのが Tolerance です。現行ガイド p.10 の Cents の説明はこうです。「Cents の設定値は、ピッチ補正を引き起こす50 セントのピッチ誤差に加算される。たとえば Cents を 10 セント、Time を Off にすると、検出音がその音から少なくとも 60 セント離れたときにだけ目標音が変わる。50 ではなく 60 になる」。そして「この 50 セントという基準のしきい値は西洋音階にのみ当てはまる」と続きます。
50 セントは半音の半分です。つまり既定では「いちばん近い音」を単純に選んでいる。Tolerance Cents は、その中点を外側へ広げるためのオフセットです。Time はもうひとつの条件で、現行ガイド p.10 は「Time を 100ms にして Cents を Off にすると、±50 セントを 100ms 超えて外れたあとに初めて Note Transition の時間が動き出す」と書いています。2つの条件は独立にも同時にも働き、どちらかが越えられた時点で Note Transition が始まります(p.9)。
向きを間違えやすいので言い直します。Tolerance を上げるほど、補正は始まりにくくなります。現行ガイド p.10 は使い分けの目安も書いていて、「よく訓練された歌い手なら、たいていは低いか Off のまま」「不安定な、あるいは疲れている歌い手なら高めの値を使うことがある」。そして重要な注意として、「まずスケールと Note Transition を決めて、必要なときだけ Tolerance を触る」「値が大きすぎると、半音が2つ続けて legal になっている区間で望まない結果になり、歌い手が意図した短いニュアンスを潰したり平坦にしたりする」とも書いています。
スケールを決めることが、実は最大の補正パラメーター
現行ガイド p.10 は Tolerance の節を、こう締めています。「重要:曲の正しいスケールを定義すれば、ほとんどの legal note が『広く』なり、隣り合う音とのあいだのグリッチから守られる」。legal note が広くなるというのは、隣の legal note までの距離が半音より遠くなるということです。メジャースケールなら全音の区間があるので、中点は ±50 セントではなく ±100 セント側へ動きます(半音=100セント、全音=200セントという換算からの計算で、この計算自体は本稿のものです)。Tolerance を触る前に、まずスケールで格子を粗くしろというのが現行ガイドの主張です。
スケールの作り方には2つの入口があります。現行ガイド p.18 の説明では、User Scale を選ぶとすべての音が illegal になり、そこから legal にしたい音をトグルしていく。これは通常のスケール編集と逆の作法です。もう一方の Chromatic Scale はすべての音が legal な状態で、そこから illegal を宣言していく。作りたい音階の音数が少ないなら前者、除外したい音が少ないなら後者、という選び分けになります。
キーボード上の音のステータスは、現行ガイド p.16 の記載で Legal Note/Illegal Note(最近接の legal へ)/Illegal Note, Pitch Up(上の legal へ)/Illegal Note, Pitch Down(下の legal へ)/Bypass Note, Legal Note(補正しない)の5つ。ガイドは「キーボード上のグリッドをクリックすると、音を5つのステータス状態のあいだで切り替えられる」と自ら数えています。
Range の外は「補正されない」ではなく「素通しになる」
Range は歌い手の音域に検出/補正を限定する機能です。現行ガイド p.15 は、この機能の狙いを「望んだ音の外側で不要なボーカル処理をしないようにする」「検出/補正の対象から余計な環境音を除くのにも役立つ」と書き、「必要を満たすいちばん狭い値にすることを推奨する」としています。
そして同じページの太字の注意がこれです。「重要:Range の外(グレーの領域)で検出された音はすべてバイパスされる。補正は一切適用されない」。狭めるほど誤検出は減りますが、狭めすぎると歌の端が素通しで出ます。ここは「安全側に狭める」が常に正解にならない箇所です。
ビブラート Depth の基準も「100%=原音のまま」
Vibrato Depth は範囲 0〜200%、初期値 100%(現行ガイド p.11)。ガイドの説明は「Vibrato が On で Depth が 100% のとき、速い Note Transition の値でもナチュラル・ビブラートは保たれる。100% より低いと周波数変調は減る。0 ではピッチが平坦になる。100% より高い値はビブラートの周波数変調の側面を誇張する」。基準は上端ではなく中央の 100%です。「最大まで上げれば自然」と読むと逆方向に操作することになります。
もうひとつ、現行ガイド p.11 が太字で注意している点があります。「重要:Vibrato はいわゆる目立つビブラートだけでなく、声のフラッター(細かい揺れ)にも関係する。これが Speed 0.1 という値でも補正を非常に自然に保っている」。つまり Vibrato スイッチは「ビブラートのある歌にだけ関係する機能」ではありません。同じ節は「Waves Tune Real-Time はビブラートの振幅変調には影響しない」とも書いています。この節が扱っているのは、あくまで周波数側の揺れです。
全パラメーター
範囲と初期値は現行ガイド(tune-real-time-v16-update.pdf・全21ページ)の記載です。旧版と値が違う項目には印を付けました。画面図に見えている値は初期値の根拠になりませんので、採用していません。
| コントロール | 範囲 | 初期値 | 役割 |
|---|---|---|---|
| Speed | 0.1 〜 800ms(対数) | 15ms | 音符内の補正速度。持続音のピッチのぶれを詰める度合いも決める |
| Note Transition | 0.1 〜 800ms(0.1ms刻み) | 120ms | 音符から音符へ移るときの補正速度 |
| Link | On / Off | Off | Speed と Note Transition の動きを連動させる |
| Tolerance Cents | Off 〜 40 | Off | 50セントの基準に加算するセント数 |
| Tolerance Time | Off 〜 300ms | Off | ±50セントを超えたまま保持すべき時間 |
| Vibrato On/Off | Off / On | On(2016年版は Off) | ナチュラル・ビブラートを Note Transition から守る |
| Vibrato Depth | 0 〜 200% | 100% | ビブラートの倍率。100%=原音のまま |
| Correction On/Off | On / Off | On | 補正全体のオン・オフ |
| Correction % | 1% 〜 100%(2016年版は 0.1 〜 100%) | 100% | 検出した補正量をどれだけ当てるか |
| Formant Correction | Corrected / Non-Corrected | Corrected | フォルマント補正の有無 |
| Meters(IN / OUT) | −28 〜 0 dBFS | — | 入出力レベル表示 |
| Reference Pitch | ±100セント(415.3Hz 〜 466.16Hz) | A = 440Hz | 基準ピッチの校正。2016年版の名称は Reference Frequency |
| Root / Scale | ドロップダウンで選択。User Scale・Chromatic Scale を含む | 12半音の平均律クロマチック | legal note の格子を決める |
| Reset Scale | — | — | スケールを既定に戻す(編集は失われる) |
| Range | キーボード上のグレー領域をドラッグ(bass・baritone・tenor・soprano 等) | 記載なし | 検出/補正する音域の限定。外側はバイパス |
| Group Octaves | — | 記載なし | 1音の編集を全オクターブの同じ音へ反映 |
| Send Scale to All | モーメンタリ | — | Root・Scale・音のカスタム挙動を他の全インスタンスへ送る |
| Receive Key | On / Off | 記載なし | 他インスタンスの Send to All と Key Detector からの受信可否 |
| Reference Tone Level | −/+18 dB | 記載なし | 基準音の出力レベル |
| Target Pitch | 選択式 | 記載なし(2016年版は Off) | 鍵盤やMIDIで目標ピッチを直接指定する |
Speed について1点補足します。現行ガイド p.8 は範囲を「0.1–800 ms, logarithmic」と書き、刻みには触れていません。2016年版は同じ行を「0.1–800 ms, logarithmic, in 0.1-ms steps」と書いていました。一方 Note Transition の刻み(0.1ms)は現行版でも本文に残っています。刻みの記述が Speed から落ちただけなのか、仕様が変わったのかはガイドから読み取れません。
参照した版と、版ごとに変わったところ
Waves Tune Real-Time のユーザーガイドは、本稿が入手できた範囲で3つの版があります。ページ数だけを見ると2016年版と2022年版はどちらも20ページなので、そこでは見分けられません。
| 版 | ページ数/PDF作成日 | 見分けがつく箇所 |
|---|---|---|
| 2016年版(製品同梱) | 20p/2016-07-21 | 章番号(1.1 Welcome 〜)が付いている。Vibrato の初期値が Off。Correction % が 0.1〜100%。Reference Frequency。Send Scale to All が無い |
| 2022年版(CDN の tune-real-time.pdf) | 20p/2022-11-14 | Vibrato の初期値が On に、Correction % が 1〜100% に変わっている。Send Scale to All と Block Scale Receive が登場。Reference Frequency が Reference Pitch に改称。Cents の説明が「50セントのピッチ誤差」に書き換わり、西洋音階にのみ当てはまるという但し書きが付いた |
| 現行版 | 21p/2025-02-03(更新2025-05-29) | Block Scale Receive が Receive Key に改称され、オン/オフの向きが反転。Key Detector からスケールを受け取れるという一文が追加。目次から 1.1〜3.2 の節番号と Latency・Components の項目が消えた |
現行版の判定は、公式製品ページに埋め込まれている manualPDF フィールドが tune-real-time-v16-update.pdf を指していることを確認して行いました。変わっている点を、影響の大きい順に並べます。



初期値が反転している項目がひとつあります。古いマニュアルで覚えていると、初期状態の説明が丸ごと逆になります。
- Vibrato On/Off の初期値が Off から On へ(2022年版):2016年版は「Range: Off/On Default: Off」、2022年版と現行版は「Range: Off/On Default: On」。2016年版と現行版は該当ページを画像化して誌面を目視で確認しました。初期状態で「ビブラートが Note Transition から守られている」かどうかが逆になるので、初期音の説明が反転します
- Correction % の下限が 0.1% から 1% へ(2022年版):2016年版は「Range: 0.1 – 100%」、2022年版と現行版は「Range: 1% – 100%」。こちらも2016年版と現行版は誌面で目視確認しました
- Send Scale to All(2022年版以降):現在のインスタンスの Root・Scale・音のカスタム挙動を、セッション内の他の全インスタンスへ送るモーメンタリ操作。キーチェンジのある曲や本数の多いライブ用途のための機能です。2016年版を3系統で全文検索したところ Send Scale の語は0件でした
- Receive Key(現行版で改称・向きが反転):同じ働きのスイッチは2022年版にもありますが、名前が Block Scale Receive で、「オンにすると他インスタンスからの Send Scale to All を無視する」(初期値 Off)と書かれていました。現行版ではこれが Receive Key になり、「オフにすると無視する」と向きが逆になっています。同じ状態を指す説明が反転しているので、旧版の解説をそのまま持ってくると意味が裏返ります。現行版はさらに「Key Detector からスケールを受け取れるようにもする」の一文を足し、初期値の行は無くなりました。語としての Receive Key・Key Detector は2016年版・2022年版とも0件ですが、これは2022年版の名前が Block Scale Receive だからで、機能そのものが無かったわけではありません(2016年版は Send Scale to All ともども0件)
- 50セントの位置づけの書き換え(2022年版):2016年版は「隣り合う音のあいだの余白に加算される。たとえばクロマチックスケールでは、この中間点は50セントだ」という書き方でした。2022年版でこれが「50セントのピッチ誤差に加算される」と直接書く形に変わり、「この50セントという基準のしきい値は西洋音階にのみ当てはまる」という但し書きが付きました。現行版も同じ文です。非西洋音階を扱うときに効いてくる差です
- Reference Frequency → Reference Pitch(2022年版):名称変更です。あわせて「通常はピッチ補正を始める前にスケールを選ぶべき」という一文が足され、初期値の表記も「A4 = 440 Hz」から「A = 440 Hz」へ変わりました。この3点はいずれも2022年版での変更で、現行版は2022年版と同じ文言です。なお改称後も、クイックスタートの手順(2022年版 p.5・現行版 p.6)には「Set global parameters such as Reference Frequency, Scale, and Root.」と旧名が残っています
逆に、落ちた記述もあります。どちらも2022年版の時点ですでに消えていました。2016年版は Target Pitch の節の最後に「Default: Off」と書いていましたが、2022年版と現行版のこの節に初期値の行はありません。同じく2016年版の Vibrato の節にあった「ピッチ補正アルゴリズムにとってビブラートの存在は望ましくない効果を生むので、別に扱われる」という一文も、2022年版と現行版では見当たりませんでした。本稿の表で Target Pitch の初期値を「記載なし(2016年版は Off)」としたのは、この理由です。
用途別・設定の始点
現行ガイド p.6 のクイックスタートが、この製品の手順をはっきり書いています。まず Key と Scale を選ぶ。それから補正のテクニックに入る。順番はスケールが先です。
| やりたいこと | 始点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自然なピッチ補正 | Note Transition を「音符間で量子化が起きない最小値」に置き、そこから少し戻す。Speed も同じやり方で | クイックスタート「自然なピッチ補正のために」(p.6) |
| ケロ声・量子化の効果 | Vibrato をオフ。ただし元のボーカルのビブラートが大きいときは Vibrato をオンにして Depth を 0 に。Speed と Note Transition は最小値へ | クイックスタート「音符の量子化を強調する楽器として使う」(p.6) |
| 補正を全体的に薄める | Correction % を下げる | 「検出した補正のうちどれだけを信号に当てるか」(p.13) |
| 短いニュアンスを潰したくない | 先にスケールを正しく決める。それでも足りないときだけ Tolerance | 「まずスケールと Note Transition を決めて、必要なときだけ Tolerance を触る」(p.10) |
| 環境音や息で誤検出する | Range を狭める。ただし外側は素通しになる | 「必要を満たすいちばん狭い値を推奨」「Range の外の音はすべてバイパスされる」(p.15) |
| スケールが分からない | Reference Tone と画面上のキーボードで確かめる | 「ボーカルのスケールが分からないなら、Reference Tone とキーボードで判定できる」(p.6) |
| 意図した音へ強制したい | Target Pitch を選んで鍵盤/MIDIで弾く | 「Bypass 状態の音であっても目標ピッチを強制する」(p.21) |
Speed と Note Transition はどちらもミリ秒で目盛られています。数字を下げるほど補正は速く・きつくなり、上げるほど緩みます。現行ガイド p.8 は Speed について「速い値は原音のピッチの起伏をほとんど平らにしてしまう」「遅い値では目標音へ寄せるのに少し時間がかかる」と書いています。クイックスタートが「量子化が起きない最小値まで下げて、そこから少し戻す」という探し方を勧めているのは、この向きを踏まえたものです。
Target Pitch には制約もあります。現行ガイド p.21 は「プラグインが A4 を検出しているときに C4 を弾けば、ボーカルは上へシフトする。補正の速さは Speed と Note Transition が決める」と説明したうえで、「Range の内側に無い入力音はピッチシフトできない」と書いています。Range を狭めていると Target Pitch も届きません。
似た製品との使い分け
公式製品ページの比較表(waves.com/2026年9月時点)が、Tune 三兄弟を同じ軸で並べています。推測を入れずにそのまま引きます。
| 項目 | Waves Tune Real-Time | Waves Tune | Waves Tune LT |
|---|---|---|---|
| 用途 | スタジオ/ステージでの演奏中、または録音済みトラックの補正 | 録音済みトラックを外科的な細かさで補正 | 録音済みトラックの補正 |
| 動作 | リアルタイム | オフライン | オフライン |
| レイテンシー | ゼロまたはほぼゼロ(ピッチによる) | 3072(44.1/48kHz)/6144(88.2/96kHz)サンプル | 同左 |
| 連続処理の上限 | 無制限 | 10分 | 10分 |
| Receive MIDI | あり | あり | なし |
| Export MIDI | なし | あり | なし |
| Global Shift | なし | あり | なし |
| シンセ・ビブラートの生成 | なし | あり | なし |
| 編集ツール | 該当なし | フルセット | Zoom・Note のみ |
| MultiRack・StudioRack・eMotion ST/LV1 | 対応 | 非対応 | 非対応 |
この表から読める棲み分けは単純です。Waves Tune Real-Time は「音符を書き直す」ことをしません。ピッチカーブを描く、音符を切って貼る、補正結果を MIDI で書き出す――そういう編集はすべて Waves Tune 側の仕事です。逆に、歌いながら補正音を返す、ライブ卓に載せる、10分を超える素材を通しで処理する、といった要求は、三兄弟のうち Waves Tune Real-Time でしか満たせません。
Reference Pitch の範囲も、設計目標の違いをよく表しています。Waves Tune Real-Time は±100セント(415.3Hz〜466.16Hz)。これに対し Waves Tune の現行ガイド p.5 は±2オクターブ(220hz〜880hz)と書いています。前者は「A=440 からわずかにずれた基準に合わせる」ためのつまみ、後者は「テープの回転ムラや別基準の素材にまで合わせる」ためのつまみです。同じ名前でも守備範囲が違います。
リアルタイム系のピッチ処理という括りでは Waves Vocal Bender も近い位置にいます。ただしこちらはユーザーガイド(全12ページ・作成2020-11-10)p.4-5 の記載どおり、Pitch と Formant を手で動かすシフター(Fine オフで ±12半音、Fine オンで ±1200セント)で、legal note の格子という考え方がありません。Flatten はボーカル全体を選んだ1つのピッチに固定する機能(範囲 C2〜B3)で、これも「最寄りの音へ寄せる」補正とは別物です。
よくある質問
Q. ステレオトラックに挿すとどう検出しますか
現行ガイド p.5 が明記しています。「ソース信号がステレオのとき、ピッチ補正のための検出は合算した信号に基づく:Sum (L+R) / 2」。コンポーネントは Mono と Stereo の2つで、公式の Channel Components の技術表でも有効になっているのはこの2つです。左右で別々にピッチを追うわけではない、という点を押さえておけば十分です。
Q. 挿す位置に決まりはありますか
現行ガイド p.6 は「Waves Tune Real-Time プラグインはソースへのエフェクト処理より前に置き、トラックの最初のインサートにすることを推奨する」と書いています。Waves Tune の現行ガイド p.3 も同じ趣旨のことを書いています。どちらのガイドも、ピッチ検出をチェーンの最初に置く前提で書かれています。
Q. Reference Tone が鳴らないことがあります
現行ガイド p.21 に条件が書かれています。「Reference Tone は、DAW でダイナミック処理が有効になっていて、かつプロセッサーにオーディオが入ってきていないときには動作しない」。Level ノブの範囲は −/+18 dB です。
Q. 対応フォーマットと価格は
公式の技術表(2026年9月時点)では、コンポーネントは Mono と Stereo、対応サンプルレートの上限は 96kHz、対応バージョンは V17 から V9 まで。SoundGrid 系のプラットフォームは前述のとおり全て対応です。価格は日本の公式ページの表示で定価 34,980円(2026年9月時点)。同じページには割引後の価格も出ていましたが、本稿の価格の観測は1時点ぶんだけなので、実売の相場は書きません。現在の価格は公式ページで確認してください。収録バンドルについては、日本の公式製品ページが Mercury と Vocal Production を挙げています(収録状況は公式で確認してください)。
まとめ
- ホストへの申告はゼロレイテンシー、実際の遅延は 0〜4ms で入力ピッチによって変わる。低い声ほど長い。固定値でないから申告できない、という構造。
- 補正の境目は 50 セント(西洋音階の場合)。Tolerance Cents はそこに加算されるので、上げるほど補正は始まりにくくなる。触る順番はスケール → Note Transition → Tolerance。
- Vibrato の初期値は 2016年版が Off、現行版が On。Correction % の下限も 0.1% から 1% に変わっている。古い版で覚えた初期状態の説明は通用しない。



初期値が変わる製品は珍しくありません。手元のマニュアルの日付を確認する癖をつけておくと、無駄なトラブルシュートを1つ減らせます。
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