アトモスフェリックブラックメタル・カオティックハードコア・EBM・アナーコパンクとは?重さと暗さの設計を比べる

「重い音」「暗い音」とひとくくりにされますが、それを作っている仕組みはジャンルごとにまったく違います。この記事では4つのジャンルを取り上げ、それぞれが何によって重さと暗さを生んでいるのかを比べます。

ヒバリ

……重い音が好き。でも、好きなバンドを並べると全然違うジャンル名が付いてて、自分が何に惹かれてるのか分からなくなる。

それは「重さ」の作り方が何通りもあるからです。何に惹かれているのかを知るには、設計を分けて見るのがいちばん早道です。

目次

アトモスフェリックブラックメタル:空間と長さで飲み込む

1990年代後半のノルウェーで生まれた🎵ブラックメタルの派生です。特徴はクリーンボーカルとスクリームの併用、壮大な🎵アンビエント📖レイヤー、自然や幻想を📖テーマにした長尺の曲です。

没入感を作っているのは、大気的な📖キーボード📖トレモロで刻み続けるギターです。トレモロリフは音の粒が細かく連続するため、輪郭のある「フレーズ」ではなく音の壁として聞こえます。そこにアンビエントが重なることで、聴き手を包み込む構造になります。のちに🎵ポストブラックメタルとしても展開していきました。

重さの作り方
持続と空間。速く刻み続けることで壁を作り、長い時間をかけて聴き手を沈める。個々の音は激しいのに、全体としては「風景」に聞こえるのが特徴。

カオティックハードコア:予測させないことで揺さぶる

1990年代のアメリカ東海岸周辺のハードコアパンクシーンから派生したスタイルです。🎵ハードコアとメタルを土台🎤にしながら、🎵フリージャズ🎵プログレッシブロック、ノイズの要素を取り込んで極端に複雑化・過激化しました。

特徴は不規則な📖変拍子、予測不能なブレイク、急加速と急停止を繰り返す展開です。前の2小節から次の2小節が読めない、という状態を意図的に作り続けます。

重さの作り方
不安定さ。音量や📖歪みではなく、聴き手が次を予測できないことによって圧をかける。安心して身を任せられないこと自体が効果になっている。

EBM:機械の精密さで押す

🎵エレクトロニック・ボディ・ミュージックの略で、1980年代初頭のベルギーで形になりました。Front 242が創始者的な存在として知られています。

サウンドは🎵インダストリアルの冷たさと🎵テクノの精密さを融合させたもので、「マシーンと肉体の融合」というテーマを体現しています。定義的な特徴として挙げられるのは完璧なリズムセクションで、単調な反復に陥らずに聴き手を掴み続ける構築が持ち味です。

重さの作り方
正確さと反復。人間的な揺れを排し、機械としての精度で押し切る。ここまでの2つが「乱れ」で圧をかけるのに対し、EBMは「乱れなさ」で圧をかける。

アナーコパンク:思想と生々しさで殴る

1970年代後半から1980年代にかけて、主にイギリスで発展した🎵パンクの一派です。音楽表現と政治的イデオロギーを密接に結びつけた文化運動という性格を持ちます。

掲げたのは反国家、反権力、反資本主義、反戦、反抑圧といったアナーキズム的な価値観です。そしてDIY精神に基づき、自前のレーベル運営、フライヤーやジンの自作、直接行動やコミュニティ形成を通じて、商業音楽産業と政治体制の双方に対抗しました。

代表的な存在が1977年結成のCrassで、1978年のアルバムなどを通じて明確な政治的メッセージを掲げ、自前のレーベル運営や、音楽とアートを融合させた発信で大きな影響を残しました。

重さの作り方
思想と手触り。演奏や録音を立派に仕上げないこと自体が主張になる。整えないという選択が、内容の切実さを伝える手段として機能している。

4つを並べて比べる

ジャンル重さの源時間の使い方聴き手への作用
🎵アトモスフェリックブラックメタル持続と空間長く引き延ばす包み込んで沈める
🎵カオティックハードコア不安定さ細かく断ち切る予測を裏切り続ける
EBM正確さと反復一定に刻む機械的な圧で押す
アナーコパンク思想と生々しさ短く直截に直接ぶつける

面白いのは、「時間の使い方」が全部違うことです。引き延ばす、断ち切る、一定に刻む、短く終わらせる。同じ重さを目指しながら、時間に対する態度が正反対になっています。

ヒバリ

……あたしが好きなの、たぶん「予測できない」やつだ。長く沈むのじゃなくて、次が読めないほう。自分の好みが、やっと言葉になった。

制作の視点で見ると

目指す重さ手を入れる場所
包み込む重さ曲の尺を伸ばす。トレモロなど細かい反復で壁を作る。アンビエントを重ねる
揺さぶる重さ📖拍子を変える。急停止と急加速を入れる。フレーズの長さを揃えない
機械的な重さ📖クオンタイズを厳密に。人間的な揺れを排する。📖音色を冷たく硬く
生々しい重さ整えない。ノイズや歪みを残す。編集で修正しすぎない

注目すべきは3行目と4行目が正反対だということです。機械的な重さは「揃える」ことで、生々しい重さは「揃えない」ことで作られます。どちらも正解なので、先にどちらを目指すか決める必要があります

よくある質問

Q. 音を歪ませれば重くなりますか?

それは4つのうち限られた手段でしかありません。上の表のとおり、重さは時間の使い方や予測可能性からも作れます。歪ませても重くならないと感じるなら、足りないのは歪みではなく構成のほうかもしれません。

Q. これらは混ざることがありますか?

あります。ブラックメタルと🎵ハードコアを接続し、そこにアナーキズムの主題を持ち込む流れも存在します。ジャンルの境界は思想や手法の水準で交差するので、名前が違うからといって断絶しているわけではありません。

Q. 自分が何に惹かれているか知る方法は?

好きな曲を並べて、「時間の使い方」で分類してみてください。長いか短いか、一定か不規則か。ジャンル名ではなくこの軸で並べ直すと、共通点が見えてきます。それが分かると、自分で作るときの指針にもなります。

この記事に出てきたジャンル辞典

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