Waves GEQには、見た目のよく似たClassicとModernという2系統が入っています。違いはフェーダーの本数ではなく、フィルターの形です。ClassicはDNシリーズの1/3オクターブEQに触発されたProportional Q、ModernはFlat-Top——隣のバンドと干渉するか、しないか。この記事では、その分かれ目の意味と、30バンドがISO規格の周波数で並ぶ理由、2系統のリアルタイムアナライザー(RTA)とDifferenceモードの設計、全パラメーターの範囲を、公式ユーザーガイドに沿って解説します。
想定読者は、すでにGEQを持っている人と、グラフィックEQをプラグインで持つ意味を考えている中〜上級者です。ライブの現場を想定した製品ですが、スタジオでの利用も公式が明言しています。
仕様・数値はWaves公式のGEQユーザーガイド(英語版)に基づきます。編集部は本製品を所有していないため使用感の描写はせず、裏の取れない項目は書きません。
カホマニュアルの製品概要は「all equalizers are not created equal」という一文で締められています。EQはどれも同じではない、という宣言をこれから数値で確かめます。
この記事でわかること
- ClassicとModernの違い——Proportional QとFlat-Top、そしてバンド間干渉
- 30バンドの中心周波数一覧と、それがISO規格で決まっている理由
- RTA 2系統+Differenceモードで「システム通過後の音」と比較する設計
- Scale切替が表示のズームではなく実際のゲインを変える仕様
GEQとは|何を解決する製品か
GEQはフル機能のグラフィックEQです。30のISOバンド、ハイパス/ローパスフィルター、高精度のフローティング・パラメトリックベル1基、リアルタイムアナライザーを備え、Classic/Modern×Mono/Stereoの計4コンポーネントで提供されます。ライブサウンドのために作られ、スタジオでも同様に有用、というのが公式の位置づけです。
「グラフィック」の語源もマニュアルが説明しています。多くのグラフィックEQは、固定のカットオフ周波数を持つフィルター群を、低い周波数を左・高い周波数を右に並べた横一列のフェーダーで操作します。フェーダーの位置を線で結ぶと、それがそのまま現在の周波数特性のグラフになる——だから「グラフィック・イコライザー」。周波数の刻みは1/3オクターブまたは1オクターブが一般的で、その値はISO(国際標準化機構)の規格で定義されています。GEQは1オクターブあたり3バンド、計30バンドという、ライブのSRシステムで使われてきたハードウェア機と同じ構成を採っています。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
Classic=Proportional Q:上げるほど幅が狭くなる
GEQ Classicの30バンドは、著名なDNシリーズ1/3オクターブEQに触発されたProportional Q(比例Q)フィルターです。Q値はゲイン調整量に比例し、バンドのゲインを上げるほどフィルター幅が狭くなります。少しだけ触れば広くなだらかに、深く触ればピンポイントに効く、というハードウェアの伝統的な挙動です。
この方式には持病があります。0 dB付近ではベルの周波数範囲がかなり広いため、離れた帯域なら問題ないものの、隣接するバンドを同時にブーストすると2つのフィルターが重なって相互作用し、意図しないゲインになります。マニュアルはこれを「バンド間干渉(Band Interaction)」と呼び、図で示しています。Classicにはこの比例Qアルゴリズムの乗数として働くQコントロール(0.250〜4.000)があり、効きの幅を全体として調整できます。
Modern=Flat-Top:6 dB上げたら、ちょうど6 dB
GEQ Modernは、このバンド間干渉に伴うアーティファクトを除去する特殊なFlat-Topフィルターを使います。連続する複数のバンドを6 dBブーストすると、干渉による追加ブーストなしで、ちょうど6 dBの平面(プラトー)になる。完璧な台地状・階段状の応答が得られる、とマニュアルは述べています。
つまりClassicとModernの分かれ目は「フェーダーで指定した値と、実際に出てくるカーブの関係」です。Classicは操作を伝統的な挙動で丸め、Modernは操作をそのまま実行する。どちらが優れているかではなく、どちらの応答を意図するかで選ぶ構図になっています。



隣り合うバンドを2本上げたとき、足し合わせで盛り上がるのがClassic、指定値でぴたりと止まるのがModern。分かれ目はこの一点です。
Scaleは表示のズームではない
Scaleはフェーダーの最大レンジを6/12/18 dBから選ぶコントロールですが、挙動に注意が必要です。マニュアルの例をそのまま引くと——6 dBスケールで25 Hzを+5 dBに設定した状態でスケールを12 dBに変えると、25 Hzのブーストは+10 dBに増える。つまりフェーダーの物理位置が維持され、実際のゲインがスケールに応じて変わります。表示だけ拡大されると思って切り替えると、音が変わります。
ISOフェーダー自体のゲイン範囲は−18〜+18で、Scale設定に依存します。全バンドを一括で0 dBに戻すFlatボタンもありますが、これはフローティング・パラメトリックEQセクションには効きません。
RTA 2系統とDifference——「比較」のための計器
GEQのアナライザーは入力を2系統持ちます。RTA1とRTA2にそれぞれソースを割り当てられ、モノ版はOff/In/SC-In/Out、ステレオ版はOff/L-In/R-In/LSC-In/RSC-In/L-Out/R-Out/L+Rから選択します。クイックスタートに載っている使い方が象徴的です——RTA1に元のソース、RTA2にサイドチェーン入力を割り当て、そのサイドチェーンにはPAシステムを通過した音を測定するマイクを立てる。つまり「送った音」と「会場で鳴った音」を同じ画面で見るための計器です。
2系統を比べるための道具立ても揃っています。Calibrationモードでは、入出力メーター脇のRTA1/RTA2フェーダーで表示カーブのレベルを合わせられます。このフェーダーはアナライザー表示にのみ影響し、出力音声には影響しません。2つの入力源の時間差はRTA1 Delay(0〜341ミリ秒)で揃えます。そしてDifferenceモードをオンにすると、RTAの通常表示を止めてRTA1とRTA2の周波数特性の差分だけを表示します。用途としてマニュアルが挙げるのは、システム通過後の応答に合わせた出力調整と、左右チャンネルの特性合わせの2つです。
表示の色分けは固定です。茶=EQカーブ(モノ/ステレオのL)、青=RのEQカーブ、黄=RTA1、シアン=RTA2、赤=Difference。表示範囲は20 Hz〜20,000 Hz、−80〜0 dBFSで、RTA表示はRMS、入出力メーターはピーク値です。応答速度はFast/Slowの2択ですが、Differenceがオンの間はRTA Calibrationの設定にかかわらずSlowに固定されます。差分は揺れの少ない画で読ませる設計です。
全パラメーター
30バンドの中心周波数は次の通りです(ISO準拠・1/3オクターブ刻み)。25、31、40、50、63、80、100、125、160、200、250、315、400、500、630、800 Hz、1k、1.25k、1.6k、2k、2.5k、3.15k、4k、5k、6.3k、8k、10k、12.5k、16k、20 kHz。
| セクション | コントロール | 範囲・値 |
|---|---|---|
| グラフィックEQ | Scale(フェーダー最大レンジ) | 6/12/18 dB |
| Q(比例Qの乗数・Classicのみ) | 0.250〜4.000 | |
| ISOフェーダー(各バンドのゲイン) | −18〜+18(Scaleに依存) | |
| Drag/Draw(操作方法) | Drag=1本ずつ/Draw=なぞって描く | |
| Link(ステレオのみ・左右の相対リンク) | On/Off(全バンド・HP/LP・ベル・Master Gainを含む) | |
| Flat | 全バンドを0 dBへ(パラメトリック部は対象外) | |
| フローティング・パラメトリックEQ | HP(ハイパス) | On/Off・20〜990 Hz |
| LP(ローパス) | On/Off・1,000〜20,000 Hz | |
| Parametric Bell | On/Off・20〜20,000 Hz・±18 dB・Q 0.250〜50 | |
| Master Gain(プラグイン全体の出力) | ±18 dB | |
| アナライザー | RTA1/RTA2(ソース選択) | モノ:Off/In/SC-In/Out ステレオ:Off/L-In/R-In/LSC-In/RSC-In/L-Out/R-Out/L+R |
| Difference | On/Off(オン中は応答Slow固定) | |
| RTA Calibration(応答速度) | Fast/Slow | |
| RTA1 Delay(2入力の時間合わせ) | 0〜341 ms | |
| 入出力メーター(ピーク) | −80〜0 dBFS |
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 使う機能 | 根拠 |
|---|---|---|
| 帯域を面で持ち上げる/削る | Modern+連続バンド | Flat-Topのプラトー応答(6 dB指定=6 dB) |
| ハードのグライコと同じ感覚で使う | Classic | DN系に触発された伝統的なProportional Q |
| Classicの効き幅を調整する | Qコントロール | 比例Qアルゴリズムの乗数(0.250〜4.000) |
| ISOバンドの間の周波数を触る | フローティング・パラメトリックベル | 20〜20,000 Hz連続可変・±18 dB |
| カーブを素早く作る | Drawモード | 上下左右になぞってカーブを描ける |
| PA通過後の音と突き合わせる | RTA1=ソース、RTA2=測定マイク(SC)→Calibration→Difference | クイックスタート記載の手順 |
| 左右の特性を揃える | Differenceモード | 公式が挙げる用途のひとつ |
ハウリング対策の具体的な手順や、ジャンル別・楽器別の推奨カーブは、マニュアルに記載がありません。この記事に載せていないのはそのためです。



Scaleを「表示の拡大」だと思って切り替えて、ブースト量が倍になっていた——やりがちです。仕様として明記されているので、先に知っておきましょう。
似た製品との使い分け
GEQの周波数は30バンドの固定グリッド+自由に動かせるベル1基という構成です。処理したい周波数を何箇所も自由に指定してQも個別に設定したい、という仕事なら、Q10のようなパラメトリックEQの領分になります。GEQの強みは逆で、固定グリッドだからこそフェーダーの並びがそのまま周波数特性になり、触った量が画として見える点、そしてRTAとDifferenceで測定と補正を同じ画面で完結できる点です。加えて、公式製品ページは機能一覧の最後に「ゼロ・レイテンシー」を挙げています。モニターに遅れを持ち込めないライブのSRで使う道具としては、ここが効いてきます。
GEQ内部の使い分けは前述の通り、干渉込みの伝統的な応答が欲しければClassic、指定値通りの応答が欲しければModernです。ステレオ版で左右を別々に追い込む場合はLinkをオフに、揃えて動かす場合はオンにします(相対リンクなので、左右の差を保ったまま動きます)。
よくある質問
ClassicとModern、どちらを使えばいいですか
隣接バンドの干渉を含む伝統的な挙動が欲しいならClassic、フェーダーで指定した通りの応答(プラトー・階段状)が欲しいならModernです。マニュアルが示す違いはこの応答特性で、音の優劣ではありません。
Scaleを変えたら音まで変わりました
仕様です。既存のバンド設定はスケールに応じて実ゲインが変わります(6 dBスケールの+5 dBは、12 dBスケールで+10 dBになる)。スケールは作業の最初に決めるのが安全です。
Differenceモードの表示が遅く感じます
Differenceがオンの間は、RTA Calibrationの設定にかかわらず応答がSlowに固定されます。差分表示を安定して読むための仕様です。
30バンドにない周波数をピンポイントで触りたい
フローティング・パラメトリックベル(20〜20,000 Hz・±18 dB・Q 0.250〜50)がその役目です。20〜990 HzのHPと1,000〜20,000 HzのLPも独立して使えます。
まとめ
- ClassicはDN系に触発されたProportional Q(上げるほど幅が狭まり、隣接バンドは干渉する)、ModernはFlat-Top(6 dB指定でちょうど6 dB)
- Scaleは表示のズームではなく実ゲインを変える。フェーダー範囲は最大±18 dB
- RTAは2系統+Difference。表示合わせのフェーダーは出力に影響せず、時間差はRTA1 Delay(0〜341 ms)で吸収する



同じ30本のフェーダーでも、フィルターの形が違えば別の楽器です。「どのカーブが出てくるか」まで含めて選びましょう。


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