Waves Clarity Vxの設計思想|ノブは100から下げて使う

この記事では、Waves 🎛️Clarity Vx の公式ユーザーガイドが指定している操作手順——ノブを最大の100から始めて、必要な分だけ戻す——がなぜその向きなのかを確認したうえで、Neural Network の選択(ガイドが名前を挙げているのは Broad ECO・Broad 1・Broad 2)と Reset が何をしているのか、📖ステレオ版の Analysis(Single/Double)と Width の設計、そしてループ再生で結果が良くなるという「履歴」の仕組みまでを整理します。

世に出回っている「まず30%くらいから、掛けすぎに注意して上げていく」という手順は、公式ガイドの指示と逆向きです。公式が最大値を出発点に置けるのは、ノブが「処理の強さ」ではなく「声から📖アンビエンスをどれだけ減らすか」を表しているからです。

本文の仕様と数値は、Waves がいま配布している Clarity Vx のユーザーガイド(全6ページ)に記載がある範囲だけに限定しました。編集部はこの製品を所有していないため、音の印象や使用感は書きません。確認できなかった項目は章ごと落としてあります。

カホ

Clarity Vx のノブを「少しずつ上げていく」使い方をしているなら、公式の手順と逆です。まず100から始める理由を、設計の側から説明します。

目次

この記事でわかること

  • 公式が指定するノブの動かし方と、それが逆向きに見える理由
  • Neural Network の選択が変えているもの(性能ではなく「偏り」)
  • ガイドが名指しする Broad ECO の用途と、使ってはいけない対象
  • Reset が要る理由と、公式が推奨するループ再生の使い方
  • ステレオ版の Analysis(Single/Double)と Width の使い分け

Clarity Vxとは|何を解決する製品か

Clarity Vx は、ボーカルトラックとダイアログから背景ノイズ(アンビエンス)を除去するプラグインです。公式は対象として、古い録音、うまく録れていない録音、ヒスの乗った録音、焦点の合っていない録音を挙げ、「ノイズが多すぎるとして諦めていた📖トラックに息を吹き返させる」ものだと説明しています。

その処理を担うのが Waves Neural Networks で、公式によれば「何百万時間もの例」で訓練され、声とノイズの違いを学習しています。ノブは1つ。どれだけきれいにしても、声は驚くほど乱されずに残る、というのが公式の主張です。

コンポーネントは📖モノとステレオの2つ。チャンネルインサートとしてリアルタイムでも、オフラインプロセッサーとしても使えます。画面にあるのは、Main Control Knob、Neural Network Select、Neural Network Reset、Analysis、Width、📖Waveform FFT Display。コントロールや表示については、カーソルを重ねるとツールチップが開き、それが何で、どう使うのかが表示されます。

設計思想:なぜこの効き方をするのか

100から始めて下げる、が公式の手順

公式ユーザーガイドのクイックスタートは明快です。Main Control Knob を最大(値表示は100)にして始める。この設定ではノイズをすべて取り除いている。それで満足なら、そこで終わり。ノイズを少し戻したい、あるいは声の「📖エッジ」を戻したいなら、欲しい音になるまで反時計回りに戻していく。

📖ゲートや減算型のノイズ除去では、掛けすぎが即座に音の破綻につながるため、下から少しずつ上げるのが定石でした。Clarity Vx の手順が逆を向くのは、ノブが公式の説明どおり「声からアンビエンスをどれだけ減らすか」を表しているからです。ノイズをすべて取り除いた状態を先に聴き、そこから欲しいものを戻す。判断の対象が「どこまで掛けられるか」から「何を残したいか」に変わります。

ニューラルネットワークは性能ではなく「偏り」で選ぶ

Neural Network の選択は、ノイズ除去処理が何に焦点を当てるかを左右します。公式の説明では、ニューラルネットワークは訓練のされ方によって一定の偏り(bias)を持つ。あるモデルは主に近接📖マイクのメインの声にフォーカスして強いアンビエンスやノイズを削り、別のモデルは副次的な発話をより多く残すよう訓練されている。

つまり「良いモデル・悪いモデル」という並びではありません。1人の声だけを抜き出したいのか、その場にいた複数の声を残したいのかで正解が入れ替わります。

Broad ECO — ダイアログ向けの軽いネットワーク。歌には使わない

現在配布されているユーザーガイドは、ネットワークのうち1つを名指しで説明しています。Broad ECO です。公式の記述はこうです——「ダイアログ(話し言葉・📖スピーチ)のノイズ低減に最適化されたネットワークで、CPU効率が高く、インスタンス数を2倍以上使える。📖オフラインバウンスも短くなり、📖レンダリング時間も減る」。ECO モードを選ぶと、小さな緑の葉が点灯します。

そして、そのすぐ後に対象外がはっきり書かれています。Broad ECO は、歌唱ボーカルからのノイズ低減・除去を意図したものではありません。軽くて速いからと歌に回すと、公式が想定していない使い方になります。ダイアログやナレーションのように話し言葉が中心で、トラック数が多く負荷を落としたい素材のためのネットワークです。

Broad ECO には注意書きも付いています。クリップゲインを上げて Clarity への入力が 0 dB を超えると、信号が正しく処理されないことがある。その場合は Broad 1 か Broad 2 のネットワークを使うように、と公式は指示しています。📖ゲインを稼いでから通す、という順序をとるときに引っかかる条件です。

カホ

軽いから ECO、ではありません。歌には使わない。入力が 0 dB を超えるなら Broad 1 か Broad 2 へ。どちらもガイドが Broad ECO に付けた条件です。

なお、この6ページのガイドが本文で名前を出しているネットワークは Broad ECO・Broad 1・Broad 2 の3つです(数えると Broad ECO が4か所、Broad 1 と Broad 2 が各1か所)。ほかのモデルは「主に近接マイクの声に寄るもの」「副次的な発話を多く残すもの」と性格が説明されるだけで、名前は本文に出てきません。セレクターに並ぶ選択肢の全体と各モデルの説明は、プラグイン側のツールチップで確認してください。

Reset — 履歴を持つ処理を、停止のたびに初期化する

Reset ボタンは、ニューラルネットワークの履歴キャッシュをクリアします。公式が挙げている必要な場面は、ノイズプロファイルが突然大きく変わったとき、話者が素早く入れ替わったとき、突発的な大きい音が入ったとき。こうした出来事はネットワークの焦点を失わせたり、品質を損なったりすることがあります。Reset は設定を失わずにネットワークを元に戻す操作で、📖オートメーションも可能。そして、再生を止めるたびに自動でリセットされます。

カホ

履歴を持つ処理なのに、再生のたび同じ結果になる。その理由が、停止のたびの自動リセットです。

この自動リセットには、はっきりした目的が書かれています。公式ユーザーガイドは「ある再生と次の再生とのあいだで再現性を確保するため、Clarity は停止のたびにニューラルネットワークをリセットする」と説明しています。履歴を持つ処理でありながら、同じ設定で頭から再生すれば同じ結果になるように、わざわざ初期化しているわけです。

ただし、ガイドは例外もひとつ明記しています。📖DAW が区間をループしているあいだ、Clarity Vx はリセットされません。履歴がパスをまたいで残るのはこの場合で、次の節の「ループを回すと結果が良くなる」はここから来ています。逆に言えば、履歴の蓄積は自分でループを組んだときに起きる現象であって、普通に頭から流し直したときに起きる揺れではありません。

ループを回すと結果が良くなる

この履歴には、はっきりした使い道があります。公式によれば、Clarity Vx のディープニューラルネットワークは適応的・連続的な処理ができ、音声を処理しながら蓄積していく「履歴」が以後の判断に影響する。DAW がある区間をループ再生しているあいだネットワークは適応し続け、パスごとに性能が上がっていきます。場合によっては、ループを1周するごとに結果が良くなっていくということです。

そのため公式は、うまく処理できない難所があるなら、その区間をループ再生し、満足のいく結果になるまでループ録音で数パス回すことを勧めています。ほとんどの場合、最適な結果を得るのに3パスを超える必要はない、という書き方です。1回書き出して駄目だった、で判断を下すべきではありません。

カホ

難所ほど1回で決めない。ループ再生とループ録音で数パス回してから聴く。多くの場合、3パスまでで足ります。

Analysis と Width — ステレオ版だけの判断

Analysis は、ニューラルネットワークの処理前にステレオ信号をどう解析するかを決めます。Single は左右の入力を合算してから解析する設定で、アンビエンスと声が両チャンネルで似ているなら2回解析・処理する必要はない、という考え方。両チャンネルが同じ解析データで処理され、CPU消費は Double よりかなり軽くなります。

Double は、左右が大きく異なる(アンビエンスや声がかなり違う)ときに使います。左右を独立に解析して別々に処理するので、チャンネルごとの処理はより正確になる代わりに、CPUをかなり多く使う。📖ステレオイメージを整えるために Width が必要になることもあります。公式は「状況によっては Single が Double と同じ分離を得られない。コンテンツ依存が非常に強いので、迷ったら両方試すこと」と注記しています。

Width はステレオイメージの大きさで、100(元のステレオ幅)から0(モノ)まで。Double で左右を別々に処理した結果、像が広がったり狭まったりしたときの調整弁です。

画面は「引いた分」を見るためにある

Waveform FFT Display は入力信号と📖ノイズリダクションを表示します。白い線が入力信号で、リダクションはその下にピンクで出る。公式はこれを「声からどれだけアンビエンスを分離できているかを見るために使う」と説明しています。出力波形ではなく、剥がした側を見せる画面だということです。

公式はもうひとつ作法を書いています。結果に満足したら、いったん耳を休めてから聴き直すこと。

全パラメーター

コントロール範囲・選択肢役割
Main Control Knob最大100(ガイドが書いているのは上限のみ)時計回りで声からアンビエンスを減らす。公式の出発点は最大の100
Neural Network Select複数の処理モデル(ガイドが名指しするのは Broad ECO / Broad 1 / Broad 2)処理の焦点を変える。Broad ECO はダイアログ向けでCPU効率が高く、インスタンス数を2倍以上使える。選択時に小さな緑の葉が点灯する。歌唱ボーカルは対象外
Neural Network Reset実行ボタン履歴キャッシュをクリアする。設定は失われない。オートメーション可能。再生ごとの再現性を確保するため、停止のたびに自動実行される(DAWがループ中はリセットされない)
Analysis(ステレオ版のみ)Single / DoubleSingle=左右を合算して解析、CPUがかなり軽い。Double=左右を独立に解析・処理、より正確だがCPUをかなり使う
Width(ステレオ版のみ)100(元のステレオ幅)〜 0(モノ)出力のステレオイメージの大きさ
Waveform FFT Display—白い線=入力信号、その下のピンク=リダクション量
コンポーネントMono / Stereoチャンネルインサート(リアルタイム)とオフライン処理の両方に対応

公式ユーザーガイドに記載があるコントロールは以上です。なお、このガイドで Range: と範囲が明記されているのは Width の1か所だけで、Main Control Knob については「最大位置にすると値表示が100になる」という書き方しかありません。下限を0とする記載はガイドの本文にも画面図にも無いので、表でも上限だけを示しました。周波数帯ごとの処理量、アーティファクト量、残響(リフレクション)の調整といった項目は記載がないため、この記事では扱いません。

用途別・設定の始点

状況始点
どんな素材でも、まずノブを100にして全部剥がした状態を聴く。そこから反時計回りに戻して、必要なノイズや声のエッジを戻す
左右で環境音が違うステレオ素材Analysis を Double に。ステレオ像が動いたら Width で調整する
左右が似ている素材/CPUを節約したいAnalysis を Single に
うまく分離できない難所があるその区間をループ再生し、ループ録音で数パス回してから判断する(多くの場合3パスまで)
話者が入れ替わる、突発的な大きい音が入るその位置で Reset。オートメーションで打てる
その場にいた複数の声を残したい副次的な発話をより多く残す側の Neural Network に切り替える
ダイアログ・ナレーションで、負荷とレンダリング時間を下げたいBroad ECO を選ぶ。緑の葉が点灯する。ただし歌唱ボーカルには使わない
クリップゲインを上げてから Clarity に入れている入力が 0 dB を超えるなら Broad ECO を避け、Broad 1 か Broad 2 を使う

似た製品との使い分け

まずゲートとの違いです。ゲートは音量で開閉するので、声が鳴っている最中に混ざっているノイズは通してしまいます。一方 Clarity Vx について公式が説明しているのは、声とノイズの違いを学習したネットワークが、声からアンビエンスを分離するという動作です。無音区間を黙らせたいのか、声の裏に貼りついた環境音を剥がしたいのかで、選ぶ道具が変わります。

次に、シリーズ内での位置づけ。Waves には 🎛️Clarity Vx Pro と 🎛️Clarity Vx DeReverb という別製品があります。Clarity Vx のユーザーガイドが対象として挙げているのは背景ノイズ(アンビエンス)で、部屋の反響そのものを取り除く機能は記載されていません。「反響を減らしたい」という目的で Clarity Vx を選ぶと、狙いと製品がずれる可能性があります。両製品との具体的な機能差は一次資料に記載が無いため、ここでは踏み込みません。

そして、ノイズを取った後の処理は別の道具の仕事です。整音した声をトラックとして成立させる段階では、AudioTrack のような📖チャンネルストリップや C1 Compressor が受け持ちます。Clarity Vx は、その前段で素材を使える状態に戻すための工程だと考えると位置づけがはっきりします。

よくある質問

ノブは何パーセントくらいが適正ですか?

公式ユーザーガイドは最大の100から始めて必要な分だけ戻す、と書いており、「◯%が適正」という基準値は示していません。適正値は素材によって変わる、というのが公式の立場です。

履歴を持つ処理だと、書き出すたびに結果が変わりますか?

公式ユーザーガイドは、そうならないように設計したと書いています。ネットワークは処理しながら履歴を蓄積しますが、再生ごとの再現性を確保するため、停止のたびに自動でリセットされます。Reset ボタンでも手動でクリアできます。例外はループ再生中で、このときだけはリセットされず、パスごとに改善していきます。

部屋の反響(リバーブ)は取れますか?

Clarity Vx のユーザーガイドが対象として挙げているのは背景ノイズ(アンビエンス)で、反響除去の機能は記載されていません。シリーズには Clarity Vx DeReverb という別製品があります。

リアルタイムで使えますか?

モノとステレオのコンポーネントがあり、チャンネルインサートとしてリアルタイムでも、オフラインプロセッサーとしても使えると公式に記載があります。ステレオ版でCPUを抑えたいときは、Analysis を Single にするのが公式の説明に沿った選択です。

カホ

取れる量ではなく、戻す量で決める道具です。そこが分かれば、ノブは1つで足ります。

まとめ

  • 公式の手順は「100から始めて必要な分だけ戻す」。ノブは処理の強さではなく、アンビエンスをどれだけ減らすかを表している。
  • ニューラルネットワークは訓練由来の偏りで選ぶもので、優劣ではない。名指しで説明されている Broad ECO はダイアログ用で、歌唱ボーカルには使わない。
  • 処理は時間方向に履歴を持つが、再生ごとの再現性のために停止のたびリセットされる。履歴が持ち越されるのはループ中だけで、そこがループ再生の使いどころ。
  • ステレオ版の判断は Analysis から。左右が似ていれば Single、大きく違えば Double、像が動いたら Width。

最新の仕様と現在の価格は、Waves公式のClarity Vx製品ページで確認してください。

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