Waves CLA Unpluggedのユーザーガイドには、2010年版と現行版があります。この2つを全文で突き合わせると、パラメーターの範囲と初期値は43行すべてが一致していて、1つも変わっていません。にもかかわらず、コントロールの説明文が1項目だけ書き換えられています。それがDirectスイッチです。この記事は、その書き換えが何を意味するのかを起点に、2系統のリバーブと2つのプリディレイという構成の理由まで組み立てます。
想定読者は、すでにCLA Unpluggedを持っている人と、CLAコレクションのどれを入れるか決めかねている人です。プリセット紹介はしません。扱うのは、全コントロールの範囲・初期値、同じコレクションの他5本との構造の違い、そして英語版と日本語版マニュアルで食い違っている箇所です。コレクション全体(Vocals・Guitars・Bass・Drums・Unplugged・Effects の6本)の概要と使用場面は、入門側の記事 【Wavesプラグイン】「CLAシリーズ」の概要と使用場面、使い方を解説 で扱っています。どれを入れるか決めかねている方は、そちらを先にどうぞ。
参照した一次資料は、Waves公式のCLA Unpluggedユーザーガイド(英語)の現行版と同梱版、バンドル付属のCLA Signature日本語版マニュアル、そして比較のために全文を開いたコレクション6本+CLA Mix Downの現行ユーザーガイドです。本文のパラメーター値はすべて公式資料の記載そのままで、裏が取れない項目は書きません。版の判定に使ったページ数・作成日・ファイルサイズは、公式が配布しているファイルを実際に取得して測った値です。編集部は本製品を所有していないため、使用感の描写はしません。
カホ数字が1つも動いていないのに、説明文だけが書き換わっている。こういうときは、たいてい書き換わったほうに理由があります。
この記事でわかること
- Directの説明文が2010年版と現行版で別物になっていること、そのどちらを信じるかで「ドライ音がEQされているか」が変わること
- リバーブが2系統ある構成と、6つの空間名がコレクションの他2本の名前の合計と一致していること
- プリディレイが独立して2つ付いている一方、その有効化スイッチの初期値がOffであること
- 全コントロールの範囲・初期値と、日本語版マニュアルが英語版と食い違っている箇所
CLA Unpluggedとは|何を解決する製品か
CLA UnpluggedはWaves Artist Signature Seriesの1本です。現行ガイド p.3 はこのシリーズを「用途特化型のオーディオプロセッサー」と定義し、狙いを「創作の流れを止めずに、探している音を素早く出すこと」と書いています。同じ p.3 は「The CLA Artist Collection consists of six plug-ins(CLA Artist Collection は6本のプラグインで構成される)」として、CLA Vocals、CLA Drums、CLA Bass、CLA Guitars、CLA Unplugged、CLA Effects を挙げています。
ここで名前がひとつ増えるので、先に整理しておきます。「CLA Artist Collection」はユーザーガイドの中だけの呼び方です。6本の中身は同じですが、waves.com でこの6本をまとめて買うときの名前は「Chris Lord-Alge Signature Series」です。「CLA Artist Collection」という名前の商品はストア側に存在しません——英語・日本語の製品ページ、バンドルページ、Waves の公式フィード424製品のいずれを検索しても0件でした(2026年9月時点の実測)。バンドル側の構成は現在も同じ6製品です(公式フィードの id 8・plugin_count 6)。ガイドの呼び名で買い物をしようとすると迷子になるので、公式ページで探すときは Chris Lord-Alge Signature Series のほうを使ってください。バンドル構成は改編されうるので、現在の内容は公式ページで確認を。
ガイド p.4 にはCLA本人のコメントが載っています。「CLA Unpluggedは、リバーブエフェクトの夢の箱に、複雑な音のための優れたハイレゾリューションEQとコンプレッションを足したものだ。私はずっとAerosmithの『Dream On』の、本当に長いプリディレイがかかったボーカルリバーブが好きだった。そして、ストリングス、ピアノ、アコースティックギター、ナイロン弦のギターソロにも使えるプラグインが欲しかった。このプラグインは、限界の無いリバーブとディレイの可能性、そして一番スムースなEQカーブを与えるように設計されている」。
ここで名指しされているのは、楽器名ではなく「長いプリディレイ」と「スムースなEQカーブ」です。コレクション6本のうち、CLA Vocals・CLA Drums・CLA Bass・CLA Guitarsの4本は製品名がそのまま楽器名で、クイックスタートの1行目もそれぞれ「ボーカルトラックに」「ドラムトラックに」「ベーストラックに」「ギタートラックに」挿せと指定しています。楽器を名乗っていないのはCLA UnpluggedとCLA Effectsの2本で、日本語版マニュアル p.7 の役割ラベルも、この2本だけが処理の名前で呼ばれています(CLA Unplugged=リバーブ・エフェクト、CLA Effects=エフェクト)。
一方で、waves.comの製品ページに書かれている説明文はまた別の言い方をしています。「グラミー賞受賞ミキサーChris Lord-Algeと共同で作られたCLA Unpluggedプラグインは、Green Day、Nickelback、Bon Joviのラジオ向けアコースティックギターサウンドを届けます」。ガイドのCLAコメントが並べたのはストリングス・ピアノ・アコースティックギター・ナイロン弦。製品ページはアコースティックギターに寄せています。同じ製品でも、資料によって前に出す用途が違う、ということは押さえておいてください。
コンポーネントは2つ。CLA Unplugged Mono-to-Stereo(モノ入力・ステレオ出力)とCLA Unplugged Stereo(ステレオ入力・ステレオ出力)です。モノ入力・モノ出力の構成は、コンポーネント節に載っていません。
価格は定価17,380円です。現在の価格は公式ページで確認してください(定価は2026年9月時点でwavesjapan.jpに掲載されている値。waves.comのMSRPは99.00 USD)。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
Directの説明文は、2021年に書き換えられている
この製品のユーザーガイドには2つの版があります。Wavesが現在配布している現行版(全13ページ・PDF作成日2021年4月27日)と、製品に同梱されている版(全18ページ・作成日2010年3月7日)です。現行版のURLは、waves.comの製品ページに埋まっているJSONのmanualPDFフィールドが指しているファイルと同一でした。
2版をpypdf・pdfminer.six・PyMuPDFの3系統で抽出し、文単位で突き合わせました。違いは6か所です。目次、冒頭のあいさつ文、クイックスタート末尾の1行の削除、最終ページの項目の並び順、第4章「The WaveSystem」5ページの圧縮、そして——Directの説明文。コントロール解説のうち文面が書き換えられたのは、Directの1項目だけです(最終ページのClip LEDとOutput Meterは、文はそのままで前後が入れ替わっただけでした)。範囲と初期値を書いた「Range:」「Default:」の行は43行あり、43行すべてが両版で一致しています。
その1項目が、こう変わりました。
2010年版 p.13:Directは処理経路をコントロールする。Bass、Treble、Compressがオンのとき、それらはDirect経路とエフェクト経路の両方に影響する。Bass、Treble、Compressがオフのとき、Directはドライ(未処理)信号になる。一般に、CLA Unpluggedをインサートとして使うときDirectはオンに、エフェクトリターンとして使うときはオフにする。
現行版 p.13:Directは未処理信号の通過をコントロールし、ドライ信号をウェット(処理済み)出力と混ぜるかどうかを決める。一般に、CLA Unpluggedをインサートとして使うときDirectはオンに、エフェクトリターンとして使うときはオフにする。
後半の運用指示(インサートならオン、リターンならオフ)は一字一句同じです。消えたのは前半の2文、つまり「Bass・Treble・CompressがDirect経路にも効く」という記述だけです。範囲On/Off、初期値Onも両版で同じでした。
これは読み手にとって小さくない差です。2010年版の説明を採ると、Directをオンにしてトラックに挿したとき、あなたが「ドライ」だと思っている音はドライではありません。BassとTrebleとCompressを通った音です。現行版の説明を採ると、Directは文字どおり未処理の素通しで、EQもコンプもウェット側にしか乗っていないことになります。同じ操作をしても、ドライ音がEQされているかどうかが逆になる。それが2文の削除で起きた変化です。
ガイドはどちらが正しいかを書いていません。ただ、現行版の中に手がかりが1つ残っています。クイックスタート(現行版 p.6)の注意書きの1つ目は、2010年版から一字も変わっていません。
すべてのColorがclear(Bypass/Mute)に設定されているときでも、Chrisが設計したいくつかの固定処理はそのまま有効である。
全部のColorをclearにしてもなお動いている固定処理がある、と現行版も言っています。その固定処理がどの経路に乗るのかを説明していたのが、削除された2文でした。現行版は、注意書きのほうを残したまま、その注意書きを支えていた説明のほうを落としています。だから、現行版だけを読むと「未処理の素通し」と「固定処理は残っている」が並んで置かれることになり、両者の関係が本文から追えません。この記事はどちらか一方を正解として断定しません。断定できる材料がガイドに無いからです。
もう1つ、2010年版の書き方そのものにも曖昧さがあります。「Bass、Treble、Compressがオンのとき」と書かれていますが、この3つはいずれも±10のフェーダーであって、ガイドはこれらにオン/オフの状態を定義していません。いちばん近いのは各ColorセレクターのClear (Bypass)の位置ですが、そう書いてはいません。ここも、原文が曖昧なまま残っている箇所です。
参考までに、同じコレクションのCLA Effectsの現行ガイドは、いまも2010年型の書き方のままです。「DistortionとEQがオンのとき、それらはDirect経路とエフェクト経路の両方に影響する」。つまり、この2製品のDirectの説明が違って見えるのは、片方(Unplugged)だけが2021年に書き直されたからであって、2010年の時点では両者とも同じ構文で説明されていました。片方だけを読んで「設計が違う」と判断すると、取り違えます。



2文が消えただけで、ドライ音の中身が変わって読めてしまう。仕様が変わったのか、説明を簡潔にしただけなのか、ガイドは何も言っていません。
Directの節を持つのは、現行ガイド7本のうち2本
本稿はコレクション6本とCLA Mix Downの現行ユーザーガイド、計7本を全文検索しました。directという語(大文字小文字を無視)の件数はこうです。CLA Unplugged 6件、CLA Effects 8件、CLA Guitars 2件、CLA Vocals・CLA Drums・CLA Bass・CLA Mix Downはいずれも0件。
CLA Guitarsの2件は「アンプにマイクを立てて録ったか、direct(DI)で録ったか」という録音方法の説明で、コントロールの名前ではありません。Directという名前のコントロールに節を割いているのは、7本のうちCLA UnpluggedとCLA Effectsの2本です。そしてこの2本は、クイックスタートの1行目でエフェクトリターン(AUXバス)を第一の挿し先に指定している2本でもあります。センドで受けることを前提にした製品にだけ、ドライ音をどうするかのスイッチが要る、という筋は通っています。
リバーブが2系統。6つの空間名は、他2本の名前の合計と一致する
この製品の中心はReverb 1とReverb 2です。それぞれ独立したフェーダー(±10)とColorセレクターを持ち、選べる空間の名前は重なっていません。
| セレクター | Clear | Green | Blue | Red |
|---|---|---|---|---|
| Reverb 1 Color | Mute | Room | Hall | Chamber |
| Reverb 2 Color | Mute | Tight | Large | Canyon |
ここで、コレクションの他の製品のリバーブと名前を並べてみます。現行ガイドから拾うと、CLA Vocalsは Tight/Large/Chamber、CLA Effectsは Room/Hall/Canyon、CLA Drumsは Studio/Club/Hall、CLA Guitarsは Club/Hall/Arena。CLA Bassの現行ガイドにはリバーブのColorセレクターの節がありません。
CLA Unpluggedの6つ(Room/Hall/Chamber/Tight/Large/Canyon)を集合として見ると、CLA Effectsの3つとCLA Vocalsの3つを合わせたものと過不足なく一致します。しかも組み分けは一致していません。CLA Effectsが Room/Hall/Canyon で1本にまとめている名前を、CLA Unpluggedは Room/Hall をReverb 1に、Canyon をReverb 2に振り分けています。
ただし、これは名前の一致であって、音が同じという証拠ではありません。ガイドは各Colorの中身について、残響時間もサイズも一切書いていないからです。言えるのは、Reverb 1側に部屋の種類を指す語(Room/Hall/Chamber)が、Reverb 2側にサイズと広がりを指す語(Tight/Large/Canyon)が集まっている、という並び方までです。性格の違う残響を別々のフェーダーで足せるように割ってある、と読むのが素直でしょう。ただし、どちらが狭くてどちらが広いのかをガイドは書いていないので、名前から先は自分の耳で確かめる領域です。
プリディレイの節を持つのは、現行ガイド7本のうちこの1本。ただし初期値はOff
Reverb 1とReverb 2には、それぞれ独立したPre Delayが付きます。7本の現行ガイドを全文検索すると、pre delay/pre-delay/predelayの表記ゆれをまとめた件数は、CLA Unpluggedが14件、他の6本はいずれも0件でした。同梱の2010年版でも14件です。本稿が読んだ7本のうち、プリディレイに独立したコントロールの節を立てているのはこの製品だけでした。CLA本人が「Dream Onの本当に長いプリディレイ」を名指ししていることと、この構成は一致しています。
仕様はこうです。Pre Delay 1/2ともに範囲は 64T〜4(1/64三連符から4分音符まで)、初期値は16。そしてPre Delay 1 On/Pre Delay 2 On という別のスイッチがあり、こちらの初期値はOffです。時間の値は最初から16に置かれているのに、それを有効にするスイッチは閉じている。「初期値16なのだからプリディレイはかかっているはず」と読むと、逆になります。クイックスタートの言い方も「Pre-Delay 1コントローラーを使ってプリディレイを足す(Add pre-delay)」で、最初から足されているとは書いていません。
もう1つ、注意書きが明記しているのは「Pre-Delayタイムコントローラーはセッションのテンポに同期する」ことです。プリディレイの長さはミリ秒ではなく音価で指定され、上限は4分音符。したがって、セッションのテンポを変えると、同じ設定のままプリディレイの実時間が動きます。ガイドはミリ秒の値を1つも書いていないので、この記事も書きません。
誌面のインターフェイス図(現行ガイド p.7)を見ると、この2つのノブは中央のフェーダー列ではなく、画面左端の区画の上段、INPUT SENSフェーダーと入力メーターの真上に離して置かれています。左端の区画は横線で上下に仕切られていて、上段にREVERB 1 PREDELAY/REVERB 2 PREDELAYと書かれた小さなノブが2つ並び、下段が入力段です。Reverb 1とReverb 2のフェーダーは中央にあり、それに対応するプリディレイは画面の反対側にある。見落としやすい配置なので、リバーブの前に間が欲しいと思ったら、まず左端を見てください。
ディレイの音価を、このガイドは1つも書いていない
Delayは1系統です。Delay Colorの記載はこうなっています。「Delay Colorはディレイタイムとキャラクターを切り替える。(設定はセッションのBPMに同期する)」。範囲は Clear (Mute)/Green (Slap)/Blue (Eight)/Red (Quarter)、初期値は Green (Slap)。
ここが他のガイドと違います。同じ3つのポジション名を持つCLA Vocalsの現行ガイドは、括弧の中で音価まで書いています——Green (Slap – 1/16 note)、Blue (Eight – 1/8 note)、Red (Quarter – 1/4 note)。CLA Guitarsも Green (Eight – 1/8 note) のように書きます。CLA Unpluggedのガイドは、Slap/Eight/Quarterのどれにも音価の注記を付けていません。ポジション名に音価の注記が1つも付かないのは、比べた5本の中ではこのガイドだけでした(CLA EffectsのShort Delay ColorはSlapにだけ注記が無く、EightとDot Eightには付いています)。名前が同じだから同じ音価だろう、と埋めるのは資料の外に出る行為なので、この記事では音価を割り当てません。
逆に、はっきり書かれていることもあります。CLA EffectsのShort Delay Colorには「ディレイタイムはセッションのBPMに同期する。ただしSlapは除く」という除外が明記されていますが、CLA UnpluggedのDelay Colorには、この除外がありません。注記は「設定はセッションのBPMに同期する」だけです。テンポを変えたときの挙動を気にする場面では、この差が効きます。
ついでに1つ。CLA EffectsのLong Delay Colorには、選択肢に無い値が初期値として印字されている誤植があります(選択肢は Quarter/Half/Full なのに Default: Green (Slap))。同じ型の誤植がCLA Unpluggedにも無いかを確認しましたが、こちらのDelay Colorは選択肢にSlapが入っており、初期値の Green (Slap) は自分の選択肢の中の値です。CLA Unplugged側は整合しています。——そしてCLA Effectsが誤って印字している値は、CLA Unpluggedが正当に持っている値と同じものです。
全パラメーター
以下はすべて現行ガイド(全13ページ・PDF作成日2021年4月27日)p.8〜p.13 の記載です。同梱の2010年版とは43行すべてが一致しています。日本語版マニュアル第8章とも照合し、食い違った箇所は次章にまとめました。
| コントロール | 役割 | 範囲 | 初期値 |
|---|---|---|---|
| Input Sensitivity | 最適な入力レベルに合わせる | ±10(0.1単位) | 0 |
| Input Meter | 入力ピークレベル表示 | −26〜0 dBFS | — |
| Balance | 左右のオフセット(Stereoコンポーネントのみ) | ±6 dB(0.1単位) | 0 |
| Sensitivity LED | レベルの適否表示 | 消灯(低すぎる)/緑(良い)/黄(最適)/赤(非常に大きい) | — |
| Bass | 低域ゲイン | ±10(0.1単位) | 0 |
| Bass Color | 低域フィルターの切り替え | Clear (Bypass)/Green (Sub)/Blue (Lower)/Red (Upper) | Green (Sub) |
| Treble | 高域ゲイン | ±10(0.1単位) | 0 |
| Treble Color | 高域フィルターの切り替え | Clear (Bypass)/Green (Bite)/Blue (Top)/Red (Roof) | Green (Bite) |
| Compress | ダイナミックレンジ | ±10(0.1単位) | 0 |
| Compress Color | コンプのキャラクター切り替え | Clear (Bypass)/Green (Push)/Blue (Spank)/Red (Wall) | Green (Push) |
| Reverb 1 | リバーブ1のウェットミックス | ±10(0.1単位) | 0 |
| Reverb 1 Color | リバーブの空間の切り替え | Clear (Mute)/Green (Room)/Blue (Hall)/Red (Chamber) | Green (Room) |
| Pre Delay 1 | Reverb 1のプリディレイ時間(セッションBPMに同期) | 64T〜4(1/64三連符〜4分音符) | 16 |
| Pre Delay 1 On | Reverb 1のプリディレイのオン/オフ | On/Off | Off |
| Reverb 2 | リバーブ2のウェットミックス | ±10(0.1単位) | 0 |
| Reverb 2 Color | リバーブの空間の切り替え | Clear (Mute)/Green (Tight)/Blue (Large)/Red (Canyon) | Green (Tight) |
| Pre Delay 2 | Reverb 2のプリディレイ時間(セッションBPMに同期) | 64T〜4(1/64三連符〜4分音符) | 16 |
| Pre Delay 2 On | Reverb 2のプリディレイのオン/オフ | On/Off | Off |
| Delay | ディレイのウェットミックス | ±10(0.1単位) | 0 |
| Delay Color | ディレイタイムとキャラクター(セッションBPMに同期) | Clear (Mute)/Green (Slap)/Blue (Eight)/Red (Quarter) | Green (Slap) |
| Direct | 未処理信号の通過(説明文は版で異なる。前章参照) | On/Off | On |
| Output | 出力レベル | ±10(0.1単位) | 0 |
| Clip LED | 0 dBFS超で点灯。メーターエリア内クリックでリセット | — | — |
| Output Meter | 出力ピークレベル表示 | −26〜0 dBFS | — |
この表を眺めて気づくのは、単位の付いた数値がほとんど無いことです。現行版・2010年版のどちらも全文にミリ秒(ms)もヘルツ(Hz)も1件も現れません。dBという単位が出てくるのはBalanceの±6 dBだけ、dBFSは入出力メーターとClip LEDの3か所だけです。残りのフェーダーはすべて±10という無単位の目盛りで、時間だけが音価で書かれています。Bass Colorの「Sub/Lower/Upper」が何Hzを動かすのか、Compress Colorの「Push/Spank/Wall」がどんなレシオなのかは、公式資料に記載がありません。
日本語版マニュアルと英語版が食い違う箇所
バンドルに付属する日本語版「CLA Signature マニュアル」(全44ページ・2010年9月27日)は、第8章 p.39〜43 がCLA Unpluggedです。英語版の2つの版と1行ずつ突き合わせたところ、範囲と初期値のほとんどは一致していましたが、看過できない食い違いが1つ、翻訳由来の取り違えが2つありました。
Directの初期値が逆になっている
日本語版 p.43 のDirectの項は、範囲を「On、Off」、初期値を「Off」と書いています。英語版は2010年版・現行版のどちらも Default: On です。同じ製品の同じスイッチで、初期値が逆になっています。
本稿は英語版を採ります。理由は2つで、英語版が2つの版で一致していること、そして日本語版自身のクイックスタート(p.39)が「リターントラック(AUX bus)にインサートし、DirectスイッチをOffにします」と書いていることです。初期値がOffなら、リターンに挿したときにOffにするという指示は要りません。日本語版の中でも整合していない、と読むのが自然です。
実務上の影響ははっきりしています。初期値がOnなら、トラックに直接挿した瞬間からドライ音が通っており、リターンで使うときだけ手動でOffにする必要がある。初期値がOffだと信じていると、リターンでは何もしなくてよいと思い込み、インサートでは「音が薄い」と感じることになります。日本語版だけを見て運用を決めないでください。
Reverb 2 の項が「Pre-Delay 1」を指している
日本語版 p.39 のクイックスタートは、Reverb 1の項で「Pre-Delay 1コントローラーを使用してプリディレイを加えます」と書き、続くReverb 2の項でも同じく「Pre-Delay 1コントローラーを使用して」と書いています。英語版の対応箇所は “Add pre-delay using the Pre-Delay 2 controls.” です。Reverb 2に対応するのはPre Delay 2なので、日本語版の2つ目は写し間違いです。
「ハイレゾナンスEQ」は「ハイレゾリューションEQ」
日本語版 p.10 のCLAコメントは「複雑なサウンドを得るための素晴らしいハイレゾナンスEQ」と訳しています。英語版の原文は great hi-res EQ——high-resolution、つまり高解像度のEQです。ハイレゾナンス(高共振)とは意味が違います。同じコメントの末尾が「一番スムースなEQカーブ」と続くことを考えると、共振の強いEQという読みは原文と逆方向です。日本語版だけを読んで「クセの強いEQなのだろう」と受け取らないでください。
この訳語は2010年のマニュアルの中で終わった話ではありません。日本の公式製品ページ(wavesjapan.jp/2026年9月時点)にも同じコメントが載っていて、そこも「複雑なサウンドを得るための素晴らしいハイレゾナンスEQ」のままです。英語の製品ページの対応箇所は great hi-res EQ。旧版のPDFを避けて現行の公式ページを見ても、同じ取り違えに当たります。
そのほか、日本語版 p.39 の注意書き第3項は「その他のフェーダーは、設定値に関わらず常に有効です。初期値は全てゼロに設定されています」となっていますが、英語版は “All other faders are active and set to Chris’s default setup when at zero”(ゼロのときがChrisのデフォルト設定)です。日本語版では「ゼロ=Chrisのデフォルト設定」という意味が落ちています。またクイックスタート第3項の「モード選択直後の状態が…デフォルト設定となります」に対応する語は英語版に無く、CLA Unpluggedにモードセレクターもありません。p.41のTreble Colorの説明が「低高域フィルターを切り替えます」となっているのも、英語版の “high frequency filters” と食い違います。



初期値が逆に書かれている、というのが一番こわい種類の誤りです。数値の誤植は不自然さで気づけますが、OnとOffは両方あり得てしまうので。
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 触るコントロール | 起点と注意 |
|---|---|---|
| AUXリターンで使う | Directをオフ | クイックスタート第1項の指定。初期値はOnなので、ここは手動で切り替える |
| トラックに直接挿す | Directをオン | 同項の但し書き。初期値がOnなので操作は不要 |
| 入力を合わせる | Input Sensitivity | LEDが点灯するまで上げる。曲中で最もピークの高い箇所で合わせる |
| EQを効かせる | Bass/Trebleフェーダー →その後Color | フェーダーが0のままだとColorを切り替えても効果が出ない、と注意書きが明記 |
| リバーブを1層足す | Reverb 1 Color(Room/Hall/Chamber) | ClearはMute。量はReverb 1フェーダーで決める |
| もう1層重ねる | Reverb 2 Color(Tight/Large/Canyon) | ClearはMute。Reverb 1と同時に上げれば2層になる |
| リバーブの前に間を作る | Pre Delay 1/2 と、その On スイッチ | Onの初期値はOff。時間の初期値16だけでは有効にならない |
| テンポに合った間にする | Pre Delay(音価で指定) | セッションBPMに同期。上限は4分音符 |
| ディレイを足す | Delay Color(Slap/Eight/Quarter) | ClearはMute。セッションBPMに同期。音価の注記はガイドに無い |
| ダイナミクスを整える | Compress Color(Push/Spank/Wall) | ClearはBypass。レシオ等の数値は公式資料に記載なし |
| 左右のずれを直す | Balance | ±6 dB。Stereoコンポーネントのみ |
| 出力が赤い | Outputフェーダーを下げる | Clip LEDはメーター内クリックでリセット |
この表に「アコギならReverb 1を+3」といった数値が無いのは、ガイドにその記載が無いからです。公式が手順として指定しているのは、挿す場所とDirectの位置、そしてSensitivityの合わせ方まで。そこから先は一貫して「カラーを切り替えて、その曲に一番よく効くものを見つける」という書き方で通されています。数値の正解を出さないことが、この製品の設計方針そのものです。
なお、2010年版のクイックスタート末尾には「出力メーターが赤に入ったら、Outputフェーダーで出力レベルを下げる」という1行がありましたが、現行版では削除されています(この行の削除を2版の突合で確認できたのは、CLA Unplugged・CLA Vocals・CLA Drumsの3本です)。操作としては現行版でも有効なので、上の表には残しました。
似た製品との使い分け
まず同じコレクション内での位置づけです。CLA Vocals・CLA Drums・CLA Bass・CLA Guitarsの4本は楽器名を冠していて、クイックスタートが指定する挿し先も各楽器のトラックです。残る2本、CLA UnpluggedとCLA Effectsだけが、エフェクトリターン(AUXバス)を第一の挿し先として指定され、Directスイッチを持ちます。
そのCLA Effectsとの違いは、はっきりしています。CLA Effectsのフェーダーは EQ/Distortion/Reverb/Short Delay/Long Delay/Pitch。種類を横に広げた構成で、リバーブは1系統です。対してCLA Unpluggedは Bass/Treble/Compress というチャンネルストリップの土台を持ったうえで、リバーブを2系統に積み、そこに独立したプリディレイを付けています。幅のEffects、深さのUnpluggedという分担です。実際、distortionとpitchという語は、CLA Unpluggedの現行版・2010年版の全文にいずれも0件でした(chorus・gate・phaseも同じく両版0件)。この製品は、足す種類を増やす方向には作られていません。
他の4本との違いは、Bass/Treble/Compressの3つが共通の土台になっていることで見えます。この3つのColorの選択肢を並べると、Bass Colorの Sub/Lower/Upper と Compress Colorの Push/Spank/Wall は、CLA Vocals・CLA Drums・CLA Guitars・CLA Bassの4本の現行ガイドとまったく同じ語でした。Treble Colorの Bite/Top/Roof も、CLA Bass(こちらは Honk/Bark/Cut)を除く3本と同じです。コレクション内で製品ごとに変えられているのは、EQとコンプではなく空間系のColorだ、ということが名前の比較から読めます。CLA Unpluggedの違いは、リバーブが2系統あることと、そのそれぞれにプリディレイが付くことに出ています。
汎用のリバーブと比べたときの違いは、決め方の軸にあります。残響時間やディフュージョンを数値で追い込むのではなく、色を選んで量を決める。つまみに数値が書かれているタイプのリバーブとは、操作の対象そのものが違います。時間や帯域を数値で詰めたい場面には向きません。ガイドがそもそも数値を持っていないからです。逆に、テンポに同期したプリディレイを2層ぶん、迷わず足したい場面には向きます。
よくある質問
Directはオンとオフ、どちらが初期値ですか
英語版ユーザーガイドは、2010年版・現行版のどちらも Default: On と書いています。日本語版マニュアル p.43 だけが「初期値:Off」と書いており、ここは食い違っています。本稿は英語版に拠りました。リターンで使うときは自分でオフに切り替える、と考えてください。
Directをオンにしたとき、ドライ音にEQやコンプはかかりますか
ここは資料が割れています。2010年版は「Bass、Treble、CompressがオンのときDirect経路とエフェクト経路の両方に影響する」と書き、現行版はその2文を削除して「未処理信号の通過をコントロールする」だけにしています。どちらが現在の実装かを、ガイドは明言していません。挿し方を決めるうえでは、まず自分の耳で、Directのオン/オフでドライ成分の質感が変わるかを確かめるのが確実です。
挿したのに音が出ません
仕様の可能性があります。現行ガイド p.6 の注意書きは「Reverb 1、Reverb 2、DelayがclearかつDirectがオフのとき、プラグインは何も出力しない」と明記しています。この3つのColorセレクターとDirectの位置を確認してください。トラックに直接挿しているならDirectはオン、というのが公式の指定です。
プリディレイを設定したのに、間が変わりません
Pre Delay 1 On/Pre Delay 2 On の位置を確認してください。時間を決めるノブ(初期値16)とは別に、オン/オフのスイッチがあり、こちらの初期値はOffです。またプリディレイの時間はセッションのBPMに同期するので、テンポを変えれば実時間も変わります。
Reverb 1とReverb 2は何が違うのですか
ガイドはどちらも「リバーブの空間を切り替える」としか書いておらず、残響時間などの数値は載っていません。区別できるのは選択肢の名前だけで、Reverb 1が Room/Hall/Chamber、Reverb 2が Tight/Large/Canyon です。それぞれに独立したフェーダーとプリディレイが付くので、性格の違う残響を2層重ねる用途を想定した作りだと読めます。
まとめ
- 2010年版と現行版で、範囲・初期値の43行は全一致。文面が書き換えられたコントロール解説はDirectの1項目だけで、そこでは「Bass・Treble・CompressがDirect経路にも効く」という2文が消えている
- リバーブは2系統。6つの空間名はCLA EffectsとCLA Vocalsの名前の合計と一致するが、ガイドに数値が無いため音が同じ証拠にはならない
- プリディレイの節を持つのは7本の現行ガイド中この1本だけ。時間の初期値は16でも、有効化スイッチの初期値はOff



挿す場所とDirectの位置、そしてプリディレイのスイッチ。この3つを確認してから色を回してください。順番を逆にすると、鳴っていない機能を延々と切り替えることになります。





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