映像につける音楽には、曲を単体で作るのとはまったく違う作法があります。用語も独特で、知らないと打ち合わせの言葉が分かりません。この記事では、その基本を整理します。
これは劇伴の現場で普通に使われる言葉です。いずれも「映像と音楽の関係」を表す用語で、意味が分かると指示の意図まで見えてきます。
アンダースコアとソースミュージック
映像で流れる音楽は、まず2種類に分けて考えます。この区別が劇伴のいちばん基礎になります。
アンダースコア
画面の外から流れる音楽。登場人物には聞こえていない。観客の感情を導くために存在する。いわゆるBGM。
ソースミュージック
画面の中で実際に鳴っている音楽。カーラジオ、店内BGM、登場人物が弾いているピアノなど。登場人物にも聞こえている。
この2つの対比は、リアリティを操作する技法として使われます。ソースミュージックは場所の実在感を作り、アンダースコアは感情を作る。両者を切り替えたり、途中で入れ替えたりすることで、観客の距離感を動かせます。
ヒットポイント
ヒット(ヒットポイント)とは、映像の中の重要な瞬間のことです。扉が開く、振り向く、涙が落ちる、といった決めの瞬間を指します。
作曲側は、そこに音楽のアクセントを合わせます。ただしすべての動きに合わせると過剰になります。重要なヒットポイントを3〜5個に絞るのが実務的な手法とされています。
- 映像を通しで見て、音を当てたい瞬間を全部書き出します。この段階では多くて構いません。
- そこから本当に外せないものだけを3〜5個残します。残らなかったものは、音楽としては通過させます。
- 残した瞬間の秒数を確認し、そこに音楽の切り替わりが来るようテンポと構成を逆算します。
- 合わせるのは必ずしも大きな音ではありません。音を止める、音色を変えるのも有効なアクセントです。
ミッキーマウジング
映像の動きに音楽をぴったり同期させる手法です。名前の由来はミッキーマウスのデビュー作で、効果音までも一体となって画面の動きに同期していたことからこう呼ばれるようになりました。
階段を降りる足取りに合わせて音階が下がる、といった表現がその典型です。アニメーションやコメディでは非常に効果的ですが、実写のシリアスな場面で使うと安っぽくなります。手法として知ったうえで、使う場面を選ぶのが正解です。



あー、全部に合わせたくなるやつだ! あたし絶対やりすぎるタイプ。3〜5個に絞る、ってメモしとこ。
映像と同期させる方法
- 映像をDAWに直接読み込みます。近年はこれが一般的で、フレーム単位で位置を確認しながら作れます。
- ヒットポイントの秒数にマーカーを置きます。先に印をつけてから曲を作ると、あとで合わせる作業が消えます。
- テンポを逆算します。狙った秒数に小節の頭が来るようテンポを決めるのが、劇伴特有の作り方です。曲の都合ではなく映像の都合でテンポが決まります。
- 複数の場面をまたぐ場合は、テンポを途中で変えることも普通に行います。単体の曲では避ける手も、劇伴では有効な選択肢です。
単体の曲づくりとの違い
| 単体の曲 | 劇伴 | |
|---|---|---|
| 尺 | 自由に決められる | 映像の秒数で決まる |
| テンポ | 曲の都合で決める | ヒットポイントから逆算する |
| 主役 | 音楽そのもの | 映像。音楽は支える側 |
| 目立たせ方 | 盛り上がりを作る | セリフの下では引く |
| 終わり方 | 曲として完結させる | 次の場面へ渡す |
| 納品 | 2mixで完結 | 分けて書き出すことも多い |
いちばん大きな違いは「音楽が主役ではない」ことです。良い曲を書くことと、良い劇伴を書くことは同じではありません。場面を邪魔せず、それでいて感情を動かす。引き算の技術が求められます。
よくある質問
Q. セリフがある場面ではどうすればいいですか?
音数を減らし、声と同じ帯域を空けます。具体的には中高域を強く鳴らす楽器を外すか、その帯域を削ります。考え方はボーカルミックスと同じで、主役に席を譲るという発想です。メロディを動かしすぎないことも有効です。
Q. 劇伴は音楽素材としても売れますか?
映像向けのBGMは音楽素材サイトでも需要のある分野です。ただし特定の映像に合わせて作った曲は汎用性が下がるため、素材として作る場合はヒットポイントを絞らず、ループしやすい構成にするなど設計を変える必要があります。
Q. 経験がなくても始められますか?
始められます。手元にある短い映像に音楽をつけてみるのが最短の練習です。まず映像をDAWに読み込み、マーカーを置き、テンポを逆算する。この3手順を1回やるだけで、劇伴の考え方の骨格がつかめます。
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