ねこみこドールズのメンバーが、自分の担当パートのミックスを困った場面から順番に片づけていく連載です。第2回はギターとコーラス担当のカノン。テーマは「宅録エレキが薄っぺらくなる」です。
カノンねぇ見て見て、このギターの音めちゃくちゃカッコよくない? ……あれ、オケに混ぜたらペラッペラになっちゃった。厚くしようと思ってコピーして左右に振ったのに、なんか余計ぼやけてるし!
宅録エレキで最初にぶつかる壁が、まさにこれです。原因はギターの腕でもアンプシミュレーターの値段でもなく、音を作る場所と、厚みの作り方を勘違いしていることにあります。
この記事では、ペラくなる2つの原因・音作りとダブリングの3手順・DAW付属プラグインでの代替までをまとめます。
なぜ宅録エレキは薄くなるのか
原因1:ソロで良い音を作っている
ソロで気持ちいいギターの音は、低域と中低域がたっぷりある。それをオケに入れるとベースやキックと同じ場所を奪い合い、濁ってから埋もれる。ソロで良い音とミックスで良い音は別物。
原因2:コピペでダブリングしている
1本のテイクを複製して左右に振っても厚くならない。まったく同じ波形なので、耳には中央で鳴る1本の音としてしか聞こえない。厚みは「2回弾いたときの微妙なズレ」から生まれる。
方法1:ソロで作らず、オケの中で音を決める
アンプシミュレーターのプリセットは、ほぼ例外なくソロで鳴らして気持ちよく感じるように作られています。そのまま使うと低域過多になるので、オケの中で決め直します。
- ドラムとベースを鳴らしたまま音作りを始めます。ギターだけを聴いて決めないことが最大のコツです。
- ハイパスフィルターで100〜150Hz以下を落とします。エレキギターにその帯域の仕事はなく、残しても濁るだけです。
- 歪みの量はソロで気持ちいいと感じた量の半分から始めます。ディストーションを深くするほど音は前に出ると思われがちですが、実際は逆です。
- キャビネットシミュレーターを切り替えて比べます。ギターの音色は、アンプの設定よりキャビネットの選択で大きく変わります。
歪ませるほど埋もれる理由は2つあります。歪みは強くかけるほど音の強弱を潰すので、リフの粒立ちが消えてのっぺりします。さらに歪みは倍音で帯域を埋めるため、他の楽器とぶつかる面積そのものが増えます。「音が細いから歪ませる」は、たいてい逆効果です。
方法2:ダブリングは「コピペ」ではなく「2回弾く」
ここが今回いちばん伝えたいところです。ダブリングの厚みは、2つのテイクがわずかにズレていることから生まれます。同じ波形を複製しても、そのズレが存在しないので厚くなりません。
- 同じフレーズを2回、別々に録音します。演奏が多少ヨレても構いません。むしろそのヨレが厚みの正体です。
- 2本を左右に大きく振ります。パンニングはL100・R100の全振りが基本で、中途半端に寄せると中央が渋滞します。
- 2本の音量を揃えます。片方が大きいと、そちら側に寄って聞こえて左右のバランスが崩れます。
- どうしても2回弾けない場合のみ、複製した片方を10〜30msずらす、またはごくわずかにピッチを変える方法で代用します。ただし本物の2テイクには及びません。
正しくダブリングすると、副次的な効果としてミックスの中央が空きます。その空いた席にボーカルが入ります。第1回で扱った「ボーカルが埋もれる」問題は、実はギターの振り方だけで半分解決することもあります。



えー、下手に弾いたほうが厚くなるの? 役と一緒だ! 同じセリフでもテイクごとに違うから、そこが面白いんだもんね。もう1回弾いてくる〜!
方法3:EQで居場所を決める
音作りとダブリングが済んだら、最後に周りとの関係を整えます。
- 耳に痛い帯域を探します。多くの場合2〜4kHzあたりで、ここを1〜3dB削るだけで長時間聴ける音になります。
- 200〜400Hzのローミッドを確認します。ここが濁りの正体であることが多く、少し削ると全体の見通しが良くなります。
- 存在感が足りないときは、ギターを上げるのではなくぶつかっている相手を削ります。上げ合いを始めると全部が大きいミックスに向かいます。
症状別・最初に試すことの早見表
| 症状 | まず試すこと | 目安 |
|---|---|---|
| ソロでは良いのにオケでペラい | ハイパスと歪み量の見直し | 100〜150Hz以下カット/歪みは半分に |
| ダブリングしたのに厚くならない | コピペをやめて2回弾く | L100・R100の全振り |
| 長く聴くと耳が痛い | 2〜4kHzの整理 | 1〜3dBカット |
| 音がぼやける・遠い | キャビネットを選び直す | ソロではなくオケの中で比較 |
| 中央が渋滞している | ギターを外側へ寄せる | ボーカルの席を空ける |
使う道具(DAW付属でどこまでできるか)
今回の3つも、すべてDAW付属のプラグインだけで実行できます。
| やること | DAW付属での代替 | 専用機を使うなら |
|---|---|---|
| ギターの音作り | 主要DAWにはアンプシミュレーターが標準搭載。入門なら十分 | 実機モデリングに強い専用アンプシミュレーター |
| 不要な低域を落とす | 付属EQのハイパスで完結。追加投資は不要 | 特になし。ここは付属で十分 |
| ダブリングの代用 | 付属ディレイで10〜30msずらす | ダブリング専用プラグイン |
| 左右の広がりを整える | 付属のパンで足りる | S1 Stereo Imagerのような専用機 |
よくある質問
Q. アンプシミュレーターのプリセットをそのまま使ってはダメですか?
出発点としては問題ありません。ただしソロ前提の設計なので低域が多すぎます。まずハイパスを入れて、その状態でオケと合わせてから微調整してください。プリセットを「完成品」ではなく「素材」として扱うのがコツです。
Q. ダブリングは何本まで重ねていいですか?
基本は2本です。4本8本と重ねると輪郭が溶けて「壁」のような音になります。壁が欲しいジャンルならそれが正解ですが、歌モノでは2本に留めたほうが、ひとつひとつのフレーズが聞こえます。
Q. 歪ませたほうが音が前に出ませんか?
逆です。歪みは音の強弱を潰し、倍音で帯域を埋めるので、他の楽器とぶつかる面積が増えて埋もれやすくなります。プロの音源のギターが思ったより歪んでいないのは、このためです。



ふふ、カノンさんらしい気づきですね。舞台でも同じことが言えます。ひとりが声を張り上げる芝居より、二人が少しずつ違う呼吸で同じ台詞を言うほうが、客席には厚く届くんですよ。揃えすぎないことが、豊かさになるんです。
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次回はミオの低音道場。ベースとキックがぶつかって低音が団子になる問題を扱います。



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