Waves Kramer PIE Compressorは、Thresholdの初期値が範囲の上端である+16——つまり最も圧縮のかかりにくい側——に置かれています。この記事では、その初期値が何を意図しているのか、Decay Timeの目盛り「1・2・4・8・16・32」が何の単位なのか(英語版マニュアルと日本語版マニュアルで食い違っています)、そしてAnalogの初期値が兄弟機のKramer HLS Channelと違って50 Hzである点を、公式ユーザーガイドの記載から読み解きます。
この製品がモデリングしているのは、公式ユーザーガイドの言葉でいえば「Pye Compressorとして知られるダイナミクスプロセッサー」です。ガイドはこの機械について、1960年代にPye Telecomが製造したソリッドステートのユニットである、という以上のことをほとんど書いていません。本稿でも、マニュアルに書かれている範囲を超えて型番・使用作品を補うことはしません。ただし2か所だけ、ユーザーガイド以外の資料に当たっています。ひとつはwaves.com の公式製品ページ(英語)——公式がそのページの冒頭に置いているゲイン制御の方式が、ガイドには書かれていないためです。もうひとつはPye社の社史で、ガイドの説明と独立の記録が噛み合わないことを断るためです(いずれも2026年9月6日確認)。
以下の範囲・初期値はすべてWaves Kramer PIE Compressorの公式ユーザーガイドの記載です。参照したのは3冊で、Wavesがいま配布している現行版(英語・全10ページ/2021年5月更新)と、製品に同梱されていた英語版15ページ・日本語版11ページ。英語版どうしはp.1〜10の内容が対応し、範囲・初期値・単位の記載はどれも変わっていません(違いはWelcomeの文面と、同梱版の第4章WaveSystem(pp.11-15)が現行版では3.3の1段落に圧縮された点だけです)。本文の「英語版p.○」は英語版に共通する頁です。編集部はこの製品を所有していないため、音の印象ではなく、公式資料から確認できる仕様と、そこから読める設計の理屈だけを扱います。
まず使い方から知りたい方へ:基本的な操作と導入の流れはWaves Kramer PIE Compressorの入門記事にまとめてあります。本稿はその続きとして、各つまみの数値がどこから来ているのかを深掘りする回です。
カホ初期値が「効かない側の端」に置いてあるコンプは、設計者が「数字で決めるな、針を見て決めろ」と言っている。マニュアルのクイックスタートも、まさにそう書いてある。
この記事でわかること
- Thresholdが2 dB刻みで、初期値が上端の+16に置かれている理由
- Decay Timeの単位が英語版マニュアルと日本語版マニュアルの本文で一致していないこと(と、パネルの印字がどちらを支持しているか)
- -18 dBFS=+4 dBu=0 VUという基準が、Threshold・VUメーター・Clip LEDを一本に繋いでいること
- Analogの初期値が50 Hzで、同じKramerシリーズのHLS Channelは60 Hzであること
Kramer PIE Compressorとは|何を解決する製品か
公式ユーザーガイド(英語版p.3)は、モデリング元をこう説明しています。Pye Compressorは1960年代にPye Telecomが製造していたソリッドステートのユニットで、同社はイングランドのケンブリッジに拠点を置き、もとは軍用の無線通信機器を作っていた会社でした。のちにテレビとプロ放送機器の市場へ進出しています。Pyeはこのコンプレッサーを内蔵したサウンドコンソールを限られた台数だけ製造しましたが、それが十分に人気を得たため、Neve社がPyeのコンプレッサーと同じ形状で差し替えられるコンプレッサーを作ったほどだった——ガイドはそう書いています。そしてNeve製の差し替え品のほうが実際には見つけにくいかもしれないが、本物のPyeコンプレッサーほどには需要が無い、と続けます。
ここでひとつ断っておきます。上の段落はガイドの説明をそのまま引いたものですが、Pye社の順序は独立の記録と噛み合いません。英語版Wikipediaの Pye (electronics company) は「Pye Ltd was an electronics company founded in 1896 in Cambridge, England, as a manufacturer of scientific instruments」、英国の産業史データベース Grace’s Guide も「1896 A part-time business making scientific instruments was founded in Cambridge by William George Pye」として、創業は1896年・科学機器メーカーだとしています。テレビはGrace’s Guideが「1928 Stanley took Pye into television」「1935 produced their first TV sets」、軍用無線は第二次大戦期で、1944年2月にPye Telecommunicationsが分社しています(いずれも2026年9月6日確認)。つまり「もとは軍用無線 → のちにテレビ・放送」という並びは、独立の記録では逆になります。ガイドの記載は書き換えずに引き、食い違いだけを記録しておきます。
もうひとつ、ガイドには書かれていないのに公式が製品ページの真っ先に挙げている事実があります。Pyeのコンプレッサーは、ゲイン制御にPWM(パルス幅変調)を使っています。waves.comの英語製品ページは冒頭で「Based on pulse-width modulation (PWM) technology, the Pye compressor’s speed, transparency, and low distortion set it apart from other compressor types」と書き、本文の「A Different Compression Technology」の節でも「The Pye compressor used pulse-width modulation to control gain, not opto, FET, VCA, or other common gain-control elements」と説明しています(2026年9月6日確認。日本語ページにはこの記述がありません)。オプトでもFETでもVCAでもない、というのがこの製品の速さと素直さの出どころだ、というのが公式の説明です。なおここでの「低歪み」は他方式との比較で言っているもので、後述するガイドの「速いディケイほど歪みが増える」という同一製品内でのつまみの向きの話とは、比べている対象が違います。
Eddie Kramerとの関係について、製品概要の節はごく短く書いています。クラシック・ロックの時代にロンドンのOlympic Studiosのエンジニアだった彼が当時録音したもののほとんどすべてが、このPyeコンプレッサーを通っていた、と。具体的なアルバム名やアーティスト名は、このユーザーガイドには書かれていません。本稿でも補いません。
このプラグインの立ち位置は、姉妹製品のマニュアルを読むとはっきりします。Waves Kramer Master Tapeの公式ユーザーガイド(p.3)は、Eddie KramerのOlympic Studiosでの録音チェーンを「Heliosコンソール(Kramer HLS Channelでモデリング)の出力を、PYEコンプレッサー(Kramer PIE Compressorでモデリング)でダイナミクス処理し、最終段でテープに録る」と説明しています。付属ホワイトペーパー(p.19)はモデリングの順序も書いていて、HLS Channelが先、次にPIE Compressor、最後にテープ機です。つまりPIEは、EQ/プリアンプを担うHLSに対して、同じチェーンのダイナミクス側を1台で受け持つ製品です。実際、Kramer HLS Channelの公式ユーザーガイドのコントロール一覧はEQ・プリアンプ・アナログ/ノイズ・位相反転・メーター系で構成されていて、コンプレッサーのコントロールは載っていません。
コンポーネントは2つです(英語版p.4)。Kramer PIE Stereoは2チャンネルのコンプレッサーですが、検出器は両チャンネルの経路に対して1つ。Kramer PIE Monoは1チャンネルです。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
基準はひとつ。-18 dBFS=+4 dBu=0 VU
モデリングについての節(英語版p.3/日本語版p.6)に、この製品の座標軸が書かれています。ハードウェアはリファレンスレベル -18 dBFS=+4 dBu でモデリングされており、DAWから-18 dBFSの信号を送ると、メーターは0 VU(+4 dBu)を指します。
同じ数字が、離れた場所にもう一度出てきます。VU Calibrate(英語版p.10/日本語版p.11)の初期値は「18 dBのヘッドルーム(0 dBVU=-18 dBFS)」。モデリングの基準値と、メーターの校正値が一致しています。さらにClip LEDは0 dBFSを超えると点灯する。したがってこのプラグインでは、「メーターの0 VU」「モデリングの動作点」「デジタルのフルスケールまでの余裕」が1本の物差しの上に並んでいます。針の位置を見ることが、そのまま実機の動作点を見ることになる、という設計です。
なおVU Calibrateについてガイドは、多くのユーザーには初期値の18 dBが最良だが、スタジオのアウトボードのVUメーターが14 dBヘッドルームで校正されているなら、こちら側も合わせられる、と書いています。範囲は24〜8 dBです。このつまみはVUメーター表示のすぐ下にある小さなネジ頭で表現されていて、目に見えるラベルがありません。
Thresholdの初期値が範囲の上端(+16)である意味
Thresholdの範囲は-24〜+16 dB、2 dB刻み、初期値は+16(英語版p.7/日本語版p.10)。初期値は範囲の上端、つまり最も圧縮がかかりにくい側です。
これはMeter Selectの初期値と組み合わせると意味が通ります。Meter Selectの初期値はGain Reduction(英語版p.9)。立ち上げた直後の状態は「ゲインリダクションを表示するメーター」+「まだ何も潰していないThreshold」です。クイックスタートガイド(英語版p.5/日本語版p.8)が指示している手順もそのとおりで、Thresholdはコンプレッサーが作動してアッテネーションが始まるレベルを決めるつまみであり、「VUメーターの針を見て、いつアッテネーションが始まるかを判断し、それに従って設定を調整せよ」と書かれています。数値の目標値は示されていません。
2 dB刻みという粗さも、この手順とセットで読めます。連続可変ではないので「あと0.5 dBだけ」という追い込みはできません。そのぶん設定は再現でき、針の動き出す位置を1クリック単位で覚えられます。細かい追い込みは、Thresholdではなくプラグインに入る前の信号レベル側でやることになります。本稿が参照した版のコントロール一覧には入力ゲインのつまみは出てきませんし、Outputについてはクイックスタートが明確に「これはコンプレッションには影響せず、出力レベルにのみ影響する」と書いているためです。Outputで突っ込んで歪ませる、という使い方はできない構造になっています。
Ratioの目盛りが 1:1/2:1/3:1/5:1/Lim である
Ratioは1:1、2:1、3:1、5:1、Limの切り替えで、初期値は3:1(英語版p.7/日本語版p.10)。デジタルのコンプでよく見る4:1や10:1、∞:1といった表記ではなく、最上段は数値ではなく「Lim」というラベルです。ガイドはLimが何:1に相当するかを書いていません。
目を引くのは下端に1:1があることです。Ratioは「スレッショルドを超えた信号に対するゲインリダクション量をコントロールする」と定義されているので、1:1ではゲインリダクションは起きません。ただしその状態でモデリングの色(THD・トランス・ノイズ・ハム)がどこまで残るのかを、PIEのユーザーガイドは説明していません。この点は同じKramerシリーズのHLS Channelのガイドと対照的で、あちらは「モデリングされた高調波歪みだけを残したいならAnalogをOffにしてノイズとハムをバイパスせよ」と手順まで明示しています。PIE側にその記述はないため、本稿では踏み込みません。



ここからが本題。このプラグインで一番「数字の根拠」が揺れているのが、Decay Timeの単位。英語版と日本語版で、書いてあることが違う。
Decay Timeの単位は、英語版と日本語版の本文で一致していない
Decay Time(Release Time)は、入力がスレッショルドを下回ったときにゲインの減衰が戻る速度を決めます。目盛りは1、2、4、8、16、32で、初期値は4。ここまでは英語版(p.8)と日本語版(p.10)で一致しています。食い違うのは単位です。
| 参照した資料 | 単位の表記 | 初期値「4」を換算すると |
|---|---|---|
| 英語版ユーザーガイド p.8(本文) | hundredths of milliseconds(ミリ秒の100分の1) | 0.04 ms |
| 日本語版ユーザーガイド p.10(本文) | ×100 ms | 400 ms |
| プラグインのパネル(英語版 p.6/日本語版 p.9 のインターフェイス図) | X 100 ms | 400 ms |
本文どうしは1万倍の差です。本稿はこの箇所を、別々の方法で2度読み取って確かめましたが、英語版はどちらで読んでも “hundredths of milliseconds”、日本語版はどちらでも「×100 ms」でした。読み取りの文字化けではなく、資料そのものの食い違いです。
ただし、割れを解く3つめの記載が同じガイドの中にあります。英語版 p.6/日本語版 p.9 のインターフェイス図に載っているプラグインのパネルには、Decay Time ノブの真下に 「DECAY TIME / X 100 ms」と印字されています。誌面を拡大したのではなく、PDF に埋め込まれた画像を原寸(266×606ピクセル)で取り出し、4倍以上に拡大して字を確かめました。英語版・日本語版・現行版のいずれも、同じ寸法の同じパネル図です。
つまり日本語版の「×100 ms」は、Waves 自身が描いたパネルの表記と一致します。食い違っているのは英語版の本文のほうです。ただしパネルの印字はつまみに添えられたラベルであって、DSP の実測値ではありません。本稿は「初期値の4は実際に400 msである」とまでは書きません。公式資料3点のうち2点が ×100 ms を指し、英語版本文だけがそこから外れている——ここまでが、資料から言えることです。
そしてミリ秒の実値を確定しなくても、この目盛りの設計思想は読めます。1→2→4→8→16→32という並びは、1クリックごとに倍。リリースタイムのように「短い側は細かく、長い側は大まかに」動かしたい量に対しては、等間隔ではなく倍々で刻むのが理にかなっています。初期値の4は、下から数えて3番目の位置です。
参考までに、同じくイギリスの卓のコンプをモデリングしたWaves V-Compの公式マニュアルでは、Releaseの選択肢が400ms/800ms/1.5s/autoです。桁の目安として付記しておきます(V-CompはPIEとは別製品であり、この数値がPIEの単位を決める根拠にはなりません)。
Decayは「歪みの量」を決めるつまみでもある
単位の話より実務的に効くのは、クイックスタートガイド(英語版p.5/日本語版p.8)に書かれている次の一文です。「速いディケイタイムはより多くの高調波歪みを伴う大きなサウンドを生み、遅いディケイはラウドネスと歪みが少ないスムーズなサウンドになる」。
つまりDecayは、時間軸のつまみであると同時に音量と歪みのつまみだとマニュアル自身が宣言しています。速い側に振れば大きく歪み、遅い側に振れば滑らかで大人しくなる。この製品にはWet/Dryのミックスも、歪み量の独立したコントロールも、本稿が参照した版のコントロール一覧には出てきません。その代わりに、Decayがその役目を兼ねている、という構造です。
Analogの初期値が50 Hz。兄弟機のHLS Channelは60 Hz
Analogは、オリジナル機の電源に起因するノイズフロアとハムによって特徴づけられるアナログ特性をコントロールします。範囲は50 Hz、60 Hz、Offで、初期値は50 Hz(英語版p.9/日本語版p.11)。
ところが同じKramerシリーズのKramer HLS Channelの公式ユーザーガイド(同梱英語版18ページのp.11/同梱日本語版14ページではp.13)では、Analogの範囲は50 Hz/60 Hz/On-Offで、初期値は60 Hzです。同じEddie Kramerの名を冠し、同じOlympic Studiosのチェーンを構成する2製品で、電源ハムの初期値が違う。両方のマニュアルとも、その理由は説明していません。ここは「そういう仕様である」と受け取るしかない箇所です。
もうひとつHLSとの差があります。HLS Channelには、モデリングされたノイズとハムを20 dB分パッドするNoiseスイッチ(Original/Low)が別に用意されていますが、PIEのコントロール一覧にそれに当たるものは出てきません。PIE側でノイズとハムを扱う手段は、50 Hz/60 Hz/Offの三択だけです。ノイズフロアが気になる素材では、量を減らすのではなくOffにするか使わないか、という判断になります。
モデリングされているアナログ挙動そのものについては、ガイドに具体的な記述があります。THDは出力ゲインのピークを最大±0.2〜0.3 dB程度動かすことがある。オリジナルのチャンネルには高域ロールオフを生じるトランスが載っているため、10 kHz以上でロスを感じたらそれはモデリングされたトランスによるものである。ノイズは信号がある状態と無い状態の両方で、オリジナル機のレベルとカラーに合わせてモデリングされている——という3点です。
Stereoコンポーネントの検出器は1つ。メーターは合算表示
Kramer PIE Stereoは、2チャンネル分の経路に対して検出器が1つ(英語版p.4/日本語版p.7)。左右で別々にゲインリダクション量が決まらないため、片側だけが強く潰れて定位が動く、という挙動にはなりません。
その代わり、メーターに注意書きがあります。PIE StereoのメーターはL/R両チャンネルの合計を表示するため、同じ信号を両チャンネルに送ると6 dB増えた状態で表示されます(英語版p.9/日本語版p.11)。ガイドはこれが問題になる場合、VU Calibration機能を使って補正するよう案内しています。ラベルの無い小さなネジ頭のつまみが、実はステレオ運用での実務的な逃げ道として用意されている、というわけです。
全パラメーター
| パラメーター | 範囲 | 初期値 | 何が変わるか |
|---|---|---|---|
| Threshold | -24〜+16 dB(2 dB刻み) | +16 | コンプレッションが始まるゲインリファレンス・ポイント |
| Ratio | 1:1/2:1/3:1/5:1/Lim | 3:1 | スレッショルドを超えた信号のゲインリダクション量 |
| Decay Time(Release Time) | 1/2/4/8/16/32(単位は英語版本文と日本語版本文で不一致。パネルの印字は「X 100 ms」。後述) | 4 | ゲイン減衰が戻る速度。速いほど大きく歪み、遅いほど滑らか |
| Output | -18〜+18 dB | 0 | 出力レベルのみ。コンプレッションには影響しない |
| Meter Select | Input/Output/Gain Reduction | Gain Reduction | VUメーターの表示内容 |
| Analog | 50 Hz/60 Hz/Off | 50 Hz | オリジナル機の電源由来のノイズフロアとハム |
| VU Calibrate | 24〜8 dB | 18 dBヘッドルーム(0 dBVU=-18 dBFS) | VUメーターのヘッドルーム校正。ラベルの無いネジ頭 |
| VU Meter | dBVU表示 | — | 入出力レベルとゲインリダクション。Stereoは両chの合計を表示 |
| Clip LED | — | — | 0 dBFSを超えると点灯。クリックでリセット |
コンプレッサーとして見たとき、アタックタイム、ニー、サイドチェーン、ミックス(Dry/Wet)に当たるコントロールは、本稿が参照した版のコントロール一覧には出てきません。クイックスタートガイドが「メインとなる3つのコンプレッサーコントローラー」として挙げているのも、Threshold、Compression Ratio、Decay Timeの3つです(これにOutputが加わります)。
用途別・設定の始点
以下はすべて公式ユーザーガイドの記述から導ける操作手順です。編集部が音を出して検証した推奨値ではないため、dB単位の目標値は載せていません(ガイド自身が数値目標を示していないためです)。
| やりたいこと | 最初に触るところ | マニュアル上の根拠 |
|---|---|---|
| とにかく効かせ始める | Meter SelectはGain Reductionのまま、Thresholdを+16から2 dBずつ下げ、針が動き出す位置を探す | クイックスタート「VUメーターの針を見ていつアッテネーションが始まるかを決める」 |
| 大きく前に出したい/歪みが欲しい | Decay Timeを速い側へ | 「速いディケイはより多くの高調波歪みと大きなサウンドを生む」 |
| 滑らかに、目立たせずにまとめたい | Decay Timeを遅い側へ | 「遅いディケイはラウドネスと歪みが少なくスムーズ」 |
| 圧縮量を変えずに音量だけ揃える | Output | 「これはコンプレッションには影響せず、出力レベルのみに影響する」 |
| 色(ノイズ・ハム)を消したい | AnalogをOff | Analogは電源由来のノイズフロアとハムを制御する |
| ステレオバスで針の位置を実態に合わせたい | VU Calibrate(メーター下のネジ頭) | Stereoは両chの合計を表示し、同一信号では6 dB高く出る |
| アウトボードのVU(14 dBヘッドルーム)と揃えたい | VU Calibrateを14 dBへ | ガイドが14 dBヘッドルームの例を明示 |
順序として押さえておきたいのは、Thresholdが2 dB刻みである以上、「入れる前のレベル」が事実上もう一本のつまみになるという点です。-18 dBFSで0 VUという基準がある製品なので、送り込むレベルを整理してからThresholdを動かすほうが、針の読みと設定の再現性が揃います。



刻みの粗いコンプで「効きが強すぎる/弱すぎる」と感じたら、つまみを疑う前に入力レベルを疑う。この製品はOutputで突っ込めない構造だから、なおさら。
似た製品との使い分け
Kramer HLS Channel/Kramer Master Tape(同じチェーンの別担当)
この3製品は競合ではなく分担です。Kramer Master Tapeのユーザーガイドが説明しているOlympic Studiosのチェーンは、Heliosコンソール(HLS Channel)→ PYEコンプレッサー(PIE Compressor)→ テープ機(Master Tape)という並び。HLS Channelのコントロール一覧はEQ・プリアンプ系(+アナログ/ノイズ・位相反転・メーター系)で、コンプレッサーのコントロールは載っていません。色付けと音作りをHLSが、ダイナミクスをPIEが担当する切り分けです。PIEを単体で導入する場合も、この「チェーンのうちの1台」という設計を知っていると、PIEに何を期待すべきでないかが分かります。
Waves V-Comp(同じイギリスの卓のコンプ、しかし設計が逆)
V-Compの公式マニュアルは、この製品を2254マスターバスコンプレッサーのモデリングと説明しています。同じイギリスの卓由来のコンプですが、操作の設計は対照的です。
| Kramer PIE Compressor | V-Comp | |
|---|---|---|
| スレッショルド | -24〜+16 dB、2 dB刻みのつまみとして存在 | コンプ部にスレッショルドのつまみが無い(実機では卓のマスターフェーダーが担っていたため、とマニュアルが説明) |
| 入力ゲイン | コントロール一覧に出てこない | Input(-24〜+18 dB、0.1 dB刻み)で送り込む量を調整する |
| レシオ | 1:1/2:1/3:1/5:1/Lim | 1.5:1/2:1/3:1/4:1/6:1 |
| リリース | 1/2/4/8/16/32(単位は本文どうしが不一致。パネルの印字は「X 100 ms」) | 400ms/800ms/1.5s/auto |
| アナログモデリング量 | 50 Hz/60 Hz/Off | off/25%/50%/100% |
| 基準レベル | -18 dBFS=+4 dBu=0 VU | 0 dBU=-22 dBFS(理想入力は-22〜-17 dBFS) |
ここは選択の軸がはっきり分かれます。V-Compは「入力で突っ込んで、かかる量を決める」設計、PIEは「入力は整えたうえで、Thresholdで動き始めを決める」設計です。アナログの色付け量を段階的に加減したいならV-Compには25%/50%/100%がありますが、PIEは50 Hz/60 Hz/Offの三択です。基準レベルも-18 dBFSと-22 dBFSで違うので、両方を並べて使うときはゲインステージングを分けて考える必要があります。
よくある質問
アタックタイムのつまみが見当たりません
本稿が参照した公式ユーザーガイドのコントロール一覧(英語版p.7〜p.10/日本語版p.10〜p.11)にアタックタイムの項目はありません。クイックスタートガイドが「メインとなる3つのコンプレッサーコントローラー」として挙げているのもThreshold・Compression Ratio・Decay Timeで、これにOutputが加わる形です。時間軸で操作できるのはDecay側だけ、という前提で組み立てるのが実務的です。
Decay Timeの初期値「4」は何ミリ秒ですか
本稿はミリ秒の実値を断定しませんが、公式資料の多数はひとつの向きを指しています。英語版ユーザーガイドp.8は「hundredths of milliseconds(ミリ秒の100分の1)」と書いており、これに従えば4は0.04 ms。日本語版ユーザーガイドp.10は「×100 ms」で、これに従えば4は400 msです。そして英語版p.6/日本語版p.9のインターフェイス図に写っているパネルには「DECAY TIME / X 100 ms」と印字されています。3点のうち2点が×100 ms側で、外れているのは英語版の本文だけ、という構図です。ただしパネルの印字はラベルであって実測値ではないため、「4=400 ms」とまでは書きません。目盛りの数値(1・2・4・8・16・32)と初期値(4)は両版で一致しています。実務上は、耳とゲインリダクションメーターの戻り方で判断するのが確実です。
Ratioの「Lim」は何:1ですか
公式ユーザーガイドはLimに対応するレシオ値を書いていません。範囲の表記は「1:1、2:1、3:1、5:1、Lim」で、Limだけが数値ではなくラベルになっています。数値で管理したいなら5:1までを使い、Limは「これ以上は詰まる側」として扱うのが、資料から言える範囲での扱い方です。
ステレオで使うとメーターが高く出ます。故障ですか
仕様です。PIE Stereoコンポーネントのメーターは両チャンネルの合計を表示するため、同じ信号を左右に送ると6 dB増えた状態で表示されます。公式ユーザーガイドは、これが問題になる場合にVU Calibration機能で補正するよう案内しています。VU Calibrationは、VUメーター表示のすぐ下にあるラベルの無い小さなネジ頭です。
まとめ
- -18 dBFS=+4 dBu=0 VUという基準が、モデリングの動作点・VUメーターの校正値・Clip LEDの点灯点を一本に繋いでいる。針を読むことが実機の動作点を読むことになる設計。
- Thresholdの初期値が上端の+16で、Meter Selectの初期値がGain Reduction。「数値で決めず、針が動き出す位置を2 dB刻みで探せ」という手順がそのまま初期状態になっている。
- Decay Timeの単位は、英語版本文(ミリ秒の100分の1)と日本語版本文(×100 ms)で食い違っている。ただし両版のインターフェイス図に写るパネルには「X 100 ms」と印字されており、外れているのは英語版の本文だけ。1クリックで倍という目盛りの設計と、「速いほど歪んで大きく、遅いほど滑らか」という挙動は両版で一致しており、そこを頼りに操作できる。



本文どうしが割れていたら、次は画面を見る。このコンプは、パネルに「X 100 ms」と印字してあった。それでもラベルであって実測ではないから、ミリ秒までは断定しない。目盛りが倍々で、速い側が歪む側。それが分かれば手は動く。




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