この記事では、Waves Kramer HLS Channel が「なぜあの効き方をするのか」を、公式ユーザーガイドを軸に、公式製品ページの記載も添えて分解します。Preamp を上げても音量がほとんど変わらない理由、ハイシェルフだけが飛び飛びの目盛りである理由、低域のノブ1本が「ブースト周波数の選択」と「50 Hz のカット量」を兼ねている構造、そしてノイズを止める方法が2通りあること。ここまでを扱います。
先に、この製品を理解するうえでいちばん重要な一文を引いておきます。公式ガイドは Preamp について「全体のレベルはさほど変わりません。HLS は色合いのみを再現し、アンプ自体は再現していないからです」と明記しています。つまりこのプラグインの Preamp は、増幅量のコントロールではなく、歪みとノイズとハムの量のコントロールです。ここを取り違えると、以降の判断がすべてずれます。
操作手順そのものは入門記事「Kramer HLS Channelの使い方徹底解説」にまとめてあります。まず動かしてみたい方はそちらから読んでください。本稿はその続きとして、各コントロールの範囲・初期値がどこから来ているのか、モデリング側の仕様が音にどう出るのかを扱います。以下に挙げる範囲と初期値はすべて公式ユーザーガイドの記載であり、編集部の実測値ではありません。対応サンプルレートの上限と定価だけは、公式製品ページ(技術仕様・価格欄)から引きます。
参照した版は3冊です。①Waves がいま配布している現行版のユーザーガイド(英語・全13ページ/2022年6月19日更新)、②製品に同梱されていた英語版(全18ページ/2011年9月更新)、③同じく同梱の日本語版(全14ページ/2010年4月)。英語版どうしはp.1〜13 の内容が対応し、範囲と初期値の数値は1つも動いていません。本文の違いは3点で、Welcome の文面が書き換わったこと、同梱版の第4章(WaveSystem・pp.14-18)が現行版では 3.3 の1段落に圧縮されたこと、そして後述する Phase Invert の項が現行版の p.11 にあることです。本文の「英語版 p.○」は英語版に共通する頁で、日本語版の頁は必要なところで併記します。
カホつまみの数は多くありません。でも、この卓は「量を決めるつまみ」と「段を選ぶつまみ」と「向きを決めるスイッチ」が混ざっています。そこを分けて見ると、迷う場所がほぼ消えます。
この記事でわかること
- Preamp が「増幅」ではなく「色」だけを担当する設計と、その実務上の帰結
- ハイシェルフは飛び飛び、中域と低域のブースト量は連続、という刻みの非対称
- 低域のノブ1本がブーストとカットを兼ね、両者が排他になる構造
- ノイズとハムを「20 dB下げる」と「丸ごと外す」の2段構え
Kramer HLS Channelとは|何を解決する製品か
モデリング対象は、Richard Swettenham が設計・製造した Helios コンソールチャンネルです。公式ガイドによれば、Eddie Kramer が60年代後半、ロンドンの Olympic Studios でいくつものロックのクラシックトラックを録音する際に使用したものにあたります。
来歴そのものは入門記事で扱っているので、ここではいまのパラメーターの形に直結する部分だけを拾います。
最初の Olympic コンソールとその後継種は、どちらも銀色のパネルに3バンド EQ を持っていました。中域の可変ブースト/カット、10 kHz のハイシェルフ、そして60 Hz から400 Hz をブーストし50 Hz をカットする特別仕様の低域フィルター。この構成は、そのままいまのプラグインの EQ セクションの姿です。マイクプリアンプには、ロンドンに拠点を置く Lustraphone 製の「非常に音楽的な」トランスが採用されていました。
Helios というブランド名はこのあとに出てきます。Island Records 創業者の Chris Blackwell が Olympic との競合を避けるため、コンソールの製造を依頼するのではなく Swettenham が Helios ブランドで独立するよう出資した、というのがガイドの説明です。以後も Olympic スタイルの EQ は引き継がれますが、Lustraphone のトランスが Beyer 製に置き換わるなどの細かい差異があり、しかも各チャンネルは基本的にカスタムオーダー品で、ユーザーの要望による変更が加えられていたと書かれています。ここが重要です。
個体差がある以上、Waves はどれか1台を選ばなければなりません。オリジナルの Olympic コンソールは幾度もの修復作業を経てオリジナルのトランスを失っていたため、Waves は Olympic 全盛期のエンジニアだった Eddie Kramer を頼り、最終的に David Kean 氏と Audities Foundation の提供で、Rolling Stones のモバイルトラックから最初のコンソールリビジョンを選びました。モデリングされたのは、1970年から1973年の間そのトラックにあったオリジナルのチャンネルです。ちょうどエンジニアの Mick McKenna から提供されたスペックに従って Helios がコンソールを作り直した時期にあたる、と説明されています。
つまり Kramer HLS Channel は「Helios の卓」一般の平均像ではなく、特定の1台の、特定の期間のチャンネルです。カスタムオーダー品だったという記述と合わせて読むと、この製品の目盛りがなぜこの値なのかは「Helios というブランドの仕様」ではなく「この個体の仕様」だ、ということになります。
製品としての構成はシンプルです。コンポーネントは Kramer HLS Stereo(3バンド・ステレオチャンネル)と Kramer HLS Mono(3バンド・モノチャンネル)の2つ。レイテンシーは Native 版が対応する全サンプルレートで161サンプル、TDM 版が44.1/48 kHz で292サンプル、88.2/96 kHz で548サンプルです。ここは訳し方に注意が要ります。英語版 p.5 の原文は Native 161 samples (all supported sample rates) で、「対応するどのレートでも値が変わらない」という意味であって、あらゆるサンプルレートに対応するという意味ではありません。公式製品ページの技術仕様(Sample Rate タブ)が示すこの製品の対応上限は 96 kHz です(2026年9月6日確認)。
価格について。公式のwavesjapan.jp の製品ページに表示されている定価は26,180円です(2026年9月2日確認)。Waves はセールが非常に多く実売の変動が大きいため、本稿では具体的なセール価格を挙げません。現在の価格は公式ページで確認してください。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
Preampは「増幅」ではなく「色」だけを担当する
Preamp の範囲は20から70まで、10 dB 単位。初期値は20です。日本語版ガイドの説明は「高い値だとより高周波歪みが強くなり、ノイズとハムが増えます。全体のレベルはさほど変わりません。HLS は色合いのみを再現し、アンプ自体は再現していないからです」。ほぼ同じ文がクイックスタートガイドにも置かれており、この一点が製品の中で2度繰り返されています。
これが効いてくる場面は2つあります。ひとつは、Preamp をゲイン合わせに使えないこと。レベルの上下は Input と Output(それぞれ -18 dB から +18 dB、0.1 dB 単位)で別に取ります。もうひとつは逆に、Preamp を動かしてもレベル差で比較が濁らないこと。歪みの量だけを単独で比べられるので、20と70を行き来して聴くだけで、この製品の色がどういう方向のものかが分かります。ゲインとカラーが分離されている機材は、この比較が素直にできます。
その手前に Source Select があります。Mic と Line のレベルを切り替えるスイッチで、初期値は Line です。アナログの色合いを操作するときは、まず Source で増幅段を選び、次に Preamp で深さを選ぶ、という順序がクイックスタートガイドに示されています。



色を足すつまみを回したのに、音量メーターがほとんど動かない。故障ではありません。そう作られています。レベルが動かないぶん、耳は歪みの変化だけを追える。この分離は評価すべき設計です。
モデリングされている要素:THD・トランス・ハム・ノイズ
公式ガイドは「アナログ機器のふるまいにおける、もっとも重要な要素」として全高調波歪み(THD)・トランス・ハム・ノイズを挙げ、それぞれをモデリングしたと書いています。ここは数値の出どころが集中している節です。
全高調波歪み(THD)。ガイドの定義は「全高調波成分の出力と基本波の出力の合算比」。通常は増幅の段階で発生し、基本周波数に奇数および偶数倍音を加えることで信号の形状と内容を変化させ、全体的な音色バランスも変える、とあります。そして重要な数値がひとつ。THD は出力ゲインのピークにも最大で ±0.2〜0.3 dB 程度の影響を与えることがあると書かれています。前の節の「Preamp を上げてもレベルはさほど変わらない」の裏付けが、この数値です。変わらないのではなく、この程度しか変わらない。
用語について1点だけ補足します。英語版ガイドは一貫して harmonic distortion(=高調波歪み)と書いていますが、日本語版はこれを「高周波歪み」と訳している箇所があります(Preamp・Analog・クイックスタートの各項)。同じ日本語版でも、モデリングの節の見出しは「全高調波歪み (THD)」、クイックスタートの1箇所は「倍音歪み」となっており、訳語が揺れています。指しているものはすべて同じ THD です。
トランス。かつてのトランスはフラットな周波数特性を持たず、低域と超高域でロールオフが生じていた、というのがガイドの説明です。そのうえで、オリジナルチャンネルには高域のロールオフを引き起こすトランスが搭載されているため、10 kHz 以上をロスする局面があったとしても、それはモデリングされたトランスによるものだと明記されています。High Frequency Gain のシェルフがちょうど10 kHz に置かれていることと合わせて読むべき箇所です。
ハム。Waves は50 Hz と60 Hz、両方の電流をモデリングしています。ガイドは「注意深く聴けば、50 Hz と60 Hz 間でハムレベルに違いがあることがおわかりいただけるでしょう」と書き、さらにハムは地域ごとに固有で、その場の電気的コンディションに依存するため、スタジオに存在するハムとモデリングされたハムが異なっていたり、特定の使用環境では適当でないケースもある、と断っています。つまり「必ず足すべきもの」としては書かれていません。
ノイズ。ビンテージ機器ではノイズフロアが時として非常に高く、固有のカラーを持つ、という前提が置かれています。Waves は信号の有無にかかわらず、オリジナルユニットが持つノイズレベルとカラーにマッチするようモデリングした、と書かれています。信号が鳴っていないところでも音が出る、という設計です。
EQの刻みが帯域ごとに違う
3バンドの範囲の書かれ方を並べると、設計の意図が読めます。
- High Frequency Gain:-16 dB から +12 dB。ガイドが列挙する値は -16、-12、-8、-4、0、4、8、12。初期値0
- Mid Gain:0 から15(0.1単位で15 dB)。初期値 0dB
- Low Band Boost:0 から15(0.1 dB 単位で15 dB ブースト)。初期値0
ハイシェルフだけが、値を列挙する書き方になっています。4 dB 間隔で並んだ飛び飛びの値で、連続可変ではありません。対して中域と低域のブースト量は0.1単位の連続。ハイは「段を選ぶ」、ミッドとローは「量を決める」。同じ EQ セクションの中で、操作の意味が帯域ごとに違います。
もうひとつ、ハイシェルフの範囲は上下対称ではありません。ブースト側の上限が +12 dB なのに対し、カット側は -16 dB まで下がります。ガイドはこの非対称の理由を説明していませんが、削る方向のほうが深くまで用意されている、というのは押さえておく価値があります。ハイシェルフは10 kHz 固定で、周波数の選択肢はありません。
中域は「量」と「向き」が分かれている
Mid Gain の範囲は0から15で、符号を持ちません。ブーストなのかカットなのかを決めるのは、別のスイッチである Mid Mode です。範囲は PK(boost)と TR(cut)の2つ、初期値は PK。ガイドは Mid Gain を「選択したモードに従って、中域のベルフィルターに適用されるゲイン量を設定します」と説明しています。量と向きが別々のコントロールに割り振られている、ということです。
周波数は Mid Frequency で選びます。範囲は700 Hz から6 kHz。ガイドが列挙する値は700、1、1.4、2、2.8、3.5、4.5、6(700 Hz 以外は kHz)で、初期値は2.8です。選べる中でいちばん低いのが700 Hz、いちばん高いのが6 kHz。この製品の「中域」は、いわゆるプレゼンス帯を中心に置かれています。3バンドのうち周波数を選べるのは中域と低域のブースト側(後述の60・120・250・400 Hz)で、ハイシェルフは10 kHz 固定です。
実務上の注意は単純で、Mid Gain を動かす前に Mid Mode を見る。ブーストのつもりで下げていた、という取り違えが起きやすい構造です。数値だけを見て作業していると、量は正しいのに符号が逆、という事故になります。
低域のノブは1本で2役、しかも排他
低域セクションはノブが2本です。上が Low Band Boost、下が Low Band Freq/Cut。このうち下のノブが、スケールの上半分と下半分でまったく違う仕事をします。
- 上半分(LF Selection):ブースト周波数の選択。0(Off)から400 まで。値は60、120、250、400 Hz
- 下半分(50 Hz Attenuation):50 Hz ローシェルフの減衰量。0(Off)から15 まで。値は -3、-6、-9、-12、-15 dB
- 初期値は0(Off)
ガイドは下半分について「3 から15 までは 50Hz ローシェルフの減衰量(dB 単位)を選択するため使用します」と書いているので、スケール上の3・6・9・12・15 がそのままカット量の dB に対応することになります。そして上の Low Band Boost は、「上述の Low Band Freq/Cut コントローラーを使用して選択された周波数のブースト量(dB 単位)を設定します」と定義されています。範囲は0から15、0.1 dB 単位、初期値0。
ここで効いてくるのがクイックスタートガイドの一文です。下側のノブをカット側に入れているあいだは、上側の bass ノブは無効になると書かれています。つまりこの製品の低域は「60〜400 Hz のどれかを持ち上げる」か「50 Hz を落とす」かの二者択一で、同時にはできません。1本のノブが2つの機能を兼ねているのは、パネル上の場所の節約というより、この排他性そのものの表現だと読めます。
非対称も見ておきます。ブースト側は周波数を60・120・250・400 Hz から選べて量は0.1 dB 単位の連続可変。カット側は周波数が50 Hz 固定で、量は -3/-6/-9/-12/-15 dB の飛び飛び。足すときは細かく、削るときは決め打ちという設計です。



「低域のブーストが効かない」という相談で、いちばん多いのがこれです。下のノブがカット側に入っている。上のノブをいくら回しても無効なので、回した本人は壊れたと思う。まず下を見てください。
ノイズとハムの止め方が2通りある
Analog スイッチは、アナログノイズとハムのモデリングを on/off し、同時にハムのピッチをヨーロッパとアメリカの電流に合わせて設定します。範囲は50 Hz/60 Hz/On-Off、初期値は60 Hz。ガイドは「モデリングされた高周波歪みのみ維持したい場合は、Analog を Off に設定してノイズとハムをバイパスします」(英語版では harmonic distortion)と書いています。Off にしても歪みは残る、というのがこのスイッチの要点です。
もう1つが Noise スイッチです。こちらはモデリングされたノイズとハムを20 dB 下げるもので、範囲は Original と Low の2つ、初期値は Original。ノイズレベルが多すぎる場合に Low へ切り替える、と説明されています。
整理すると、「色は欲しいがノイズは1ミリも要らない」なら Analog を Off、「雰囲気は残したいが量が多い」なら Noise を Low。ゼロか100かではなく、20 dB という中間段が用意されているところがこの製品の作りです。多くのトラックに挿すほどノイズは加算されていくので、この中間段には実用上の意味があります。
EQを切ってもプリアンプの色は残る
EQ Cut は、EQ を on(in)と off(cut)で切り替えるスイッチです。範囲は In/Cut、初期値は In。ガイドの定義文が丁寧で、「アナログおよびプリアンプの特性を維持しながら、EQ を on (in)、off (cut) を切り替えます」となっています。
プラグイン全体のバイパスとは意味が違います。バイパスすれば色も消える。EQ Cut は EQ だけを外して、Preamp の歪みとアナログのノイズ・ハムを残します。この一文があるおかげで、Kramer HLS Channel は「EQ を使わない色付け専用機」として明示的に使えます。EQ が要らないトラックにも挿す理由がある、ということです。
メーターとTrimの仕様
VU Meter は dBVU 単位で入出力レベルを表示します。範囲は24〜8 dB、初期値は18 dB のヘッドルーム(0 dBVU = -18 dBFS)。表示する対象は Meter スイッチで入力と出力を切り替えます。Clip LED はレベルが0 dBFS を超えた場合に点灯し、クリックでリセットできます。
ステレオで使うときに引っかかるのがここです。ガイドには注意書きがあり、HLS Stereo コンポーネントのメーターは L/R 両方のチャンネルの合計を表示するため、同じ信号が両方のチャンネルに送られている場合は6 dB 増えた状態で表示されます。問題であれば VU キャリブレーション機能で補正してください、とあります。
その VU Calibrate が、パネル上でいちばん見つけにくいコントロールです。ガイド自身が「VU メーター表示下の小さなネジ頭で表示されています。目に見えるラベルはありません」と書いています。ほとんどのユーザーには18 dB の初期ヘッドルームが最良だが、使用中のアウトボード機器や VU メーターが14 dB ヘッドルームにキャリブレートされている場合は HLS 側も合わせられる、という位置づけです。
Trim は、出力信号の最大ピークレベルと0 dBFS からの差を表示します。範囲は -12〜+12 dB、初期値0。動作が独特で、トリムの値を表示しているボタンをクリックすると0にリセットされ、その差分が出力トリムに適用されます。一度に最大12 dB まで、という制限つきです。Preamp で色を決めたあとに出力の余白を詰め直す作業が、ボタン1回で済みます。
Phase Invert:版によって記載が違う1項目
英語版 p.7/日本語版 p.10 のインターフェイス図には Phase Inversion のラベルがあります。ところが同梱版では、コントロールを1つずつ説明する章(英語版3.2/日本語版4.2)にこの項目が立てられていません。範囲も初期値も書かれていません。
一方、現行版のガイドには p.11 に Phase Invert の項があります。EQ Cut と Analog のあいだに、ø 記号の入ったトグルの図とともに置かれ、「Phase Invert はプラグイン内で信号の位相を反転させる」/範囲は Invert off・on/初期値は Off と書かれています。
ただし、これを「現行版で追加された機能」と読むことはできません。同梱版でもインターフェイス図には Phase Inversion のラベルがあり、スイッチ自体は当時から画面にあったからです。増えたのはコントロール章の記載のほうで、両版の全文を突き合わせても、コントロール章で増えているのはこの3行だけです。ガイドはそれが仕様の変更なのか記載の補いなのかを書いていないので、本稿もそこは決めません。範囲と初期値は現行版の記載に従い、後述のパラメーター表に入れています。
全パラメーター
公式ユーザーガイド記載の範囲と初期値です。Meter と Clip LED には初期値の記載がないため「—」としています。
| コントロール | 範囲 | 初期値 | 役割 |
|---|---|---|---|
| Source Select | Mic / Line | Line | Mic と Line のレベルを切り替える |
| Preamp | 20〜70(10 dB 単位) | 20 | プリアンプの色合いの量(歪み・ノイズ・ハム) |
| High Frequency Gain | -16 dB〜+12 dB(-16、-12、-8、-4、0、4、8、12) | 0 | 10 kHz のハイシェルフゲイン |
| Mid Gain | 0〜15(0.1単位で15 dB) | 0dB | 中域ベルフィルターのゲイン量 |
| Mid Frequency | 700 Hz〜6 kHz(700、1、1.4、2、2.8、3.5、4.5、6) | 2.8 | 中域ベルフィルターの周波数 |
| Mid Mode | PK (boost) / TR (cut) | PK | 中域の向き(ブーストかカットか) |
| Low Band Freq/Cut(上半分) | 0 (Off)〜400(60、120、250、400 Hz) | 0 (Off) | 低域ブースト周波数の選択 |
| Low Band Freq/Cut(下半分) | 0 (Off)〜15(-3、-6、-9、-12、-15 dB) | 0 (Off) | 50 Hz ローシェルフの減衰量 |
| Low Band Boost | 0〜15(0.1 dB 単位で15 dB ブースト) | 0 | 選択した周波数のブースト量 |
| EQ Cut | In / Cut | In | アナログ・プリアンプ特性を維持したまま EQ を on/off |
| Phase Invert | Invert off / on | Off | プラグイン内で信号の位相を反転させる(現行版 p.11 の記載。同梱版のコントロール章には項目が無い) |
| Analog | 50 Hz / 60 Hz / On-Off | 60 Hz | ノイズとハムのモデリングとハムのピッチ |
| Noise | Original / Low | Original | Low でノイズとハムを20 dB 下げる |
| Meter | 入力 / 出力 | — | メーター表示の切り替え |
| VU Meter(ヘッドルーム) | 24〜8 dB | 18 dB(0 dBVU = -18 dBFS) | dBVU 単位で入出力レベルを表示 |
| Clip LED | 0 dBFS 超で点灯 | — | クリックでリセット |
| Trim | -12〜+12 dB | 0 | 最大ピークと 0 dBFS の差の表示・適用 |
| Input | -18 dB〜+18 dB(0.1dB 単位) | 0dB | 入力レベル |
| Output | -18 dB〜+18 dB(0.1dB 単位) | 0dB | 出力レベル |
Phase Invert の行だけは出どころが違います。前述のとおり、同梱版のコントロール章にはこの項目が無く、範囲と初期値は現行版 p.11 の記載によるものです。それ以外の行は、現行版と同梱版のどちらを見ても同じ数値です。
用途別・設定の始点
初期値の状態を確認しておきます。High Frequency Gain が0、Mid Gain が0dB、Low Band Freq/Cut が Off、Low Band Boost が0、EQ Cut は In、Preamp は範囲の下端である20、Analog は60 Hz、Noise は Original、Input と Output は0dB。つまり何も触らない状態は「EQ はフラット、色は最小、ノイズとハムは減衰なしで有効」です。そこからどちらへ動かすかを、ガイドに書かれた仕組みに沿って整理します。
| 目的 | 最初に触るところ | 公式ガイドの根拠 |
|---|---|---|
| EQ は使わず色だけ足したい | EQ Cut を Cut にして Preamp を上げる | EQ Cut は「アナログおよびプリアンプの特性を維持しながら」EQ を off にする |
| 歪みは欲しいがノイズ・ハムは要らない | Analog を Off | 「モデリングされた高周波歪み(英語版 harmonic distortion)のみ維持したい場合は、Analog を Off に設定してノイズとハムをバイパスします」 |
| 雰囲気は残したいがノイズが多い | Noise を Low | Noise はモデリングされたノイズとハムを20 dB 下げる |
| ハムの高さを合わせたい/変えたい | Analog を 50 Hz または 60 Hz | ヨーロッパとアメリカの電流にマッチさせるようハムのピッチを設定する |
| 中域を整えたい | Mid Frequency → Mid Mode → Mid Gain の順 | Mid Gain は符号を持たず、向きは Mid Mode(PK/TR)が決める |
| 低域を持ち上げたい | 下のノブ上半分で60/120/250/400 Hz を選び、上のノブで量 | Low Band Boost は「Low Band Freq/Cut を使用して選択された周波数のブースト量」 |
| 低域を整理したい | 下のノブ下半分で -3〜-15 dB | このモードでは上側の bass ノブは無効になる |
| 10 kHz 以上が落ちて聞こえる | まずモデリングされたトランスを疑う | 「10kHz 以上をロスする局面があったとしても、それはモデリングされたトランスによるもの」 |
| 出力の余白を詰めたい | Trim の値ボタンをクリック | 0 にリセットし、その差分を出力トリムに適用(一度に最大12 dB まで) |
| ステレオでメーターが高く出る | VU Calibration で補正 | Stereo コンポーネントのメーターは両チャンネルの合計。同じ信号なら6 dB 増えて表示される |
触る順番としては、Source Select → Preamp → EQ → Trim が素直です。Preamp がレベルをほとんど変えない設計なので、先に色を決めてもゲイン構成が崩れません。逆に EQ でブーストを作ったあとに Preamp を上げても、その分の音量が積み上がるわけではない、ということでもあります。レベルの帳尻は最後に Trim か Output で合わせる、という組み立てになります。
似た製品との使い分け
まず、この製品には明確な兄弟がいます。Waves Kramer Master Tape の公式ユーザーガイド(p.3・p.19・p.27)は、Eddie Kramer の Olympic Studios での録音チェーンを、Helios コンソール(Kramer HLS Channel としてモデリング)→ PYE コンプレッサー(Kramer PIE Compressor としてモデリング)→ ¼インチ真空管式リール・トゥ・リール機(Kramer Master Tape)という順で説明しています。同ガイドは、テープが典型的にはそのチェーンの最終段だったこと、そして3本を組み合わせて初めてオリジナルの Kramer/Olympic 録音チェーンが完成する、と明記しています(英語版のみ・日本語版は未確認)。
この並びの中で HLS が担当しているのは入口です。Kramer PIE Compressor がダイナミクス、Kramer Master Tape が最終段。3本とも同じ現場・同じ時期の機材をモデリング元にしているので、狙いが「あの時代のチェーンの再現」であれば、順番も含めて並べる意味があります。
もうひとつの比較軸が、同社のヴィンテージ卓系 EQ です。Waves V-Series のユーザーガイド(p.1〜2)は、V-EQ3 と V-EQ4 について、V-EQ3 は1073 および1066 の EQ プロセッサーを、V-EQ4 は1081 の EQ プロセッサーをモデリングしたものだと説明しています。バンド数は V-EQ3 が3バンド、V-EQ4 が4バンド。そのうえで、V-EQ4 は高 Q のベルと多数のカットオフ点を備えるため V-EQ3 よりミックス向きだ、とも書かれています(同ガイドは英語版のみを参照)。
これに対して Kramer HLS Channel は3バンドで、ハイシェルフは10 kHz 固定、中域のベルは700 Hz〜6 kHz の列挙値から、低域のブーストは60・120・250・400 Hz から選び、カットは50 Hz 固定。帯域の数も、選べる点の数も違います。細かく追い込む作業を EQ 側に期待するなら V-EQ4 の側に分がありますし、逆に「この卓の色ごと乗せる」用途なら、選択肢が少ないことは欠点になりません。加えて HLS には EQ Cut と Preamp があるため、EQ を使わずプリアンプの色だけを取り出すという使い方が最初から想定されています。
よくある質問
Preampを上げても音量が上がらないのですが
仕様です。公式ガイドは Preamp の説明で「全体のレベルはさほど変わりません。HLS は色合いのみを再現し、アンプ自体は再現していないからです」と明記しています。またモデリングの節では、THD が出力ゲインのピークに与える影響は最大でも ±0.2〜0.3 dB 程度だと書かれています。レベルを動かしたいときは Input と Output(それぞれ -18 dB〜+18 dB、0.1dB 単位、初期値 0dB)を使ってください。
10 kHzより上が落ちて聞こえます。不具合ですか?
公式ガイドは、オリジナルチャンネルには高域のロールオフを引き起こすトランスが搭載されているため、10 kHz 以上をロスする局面があったとしても、それはモデリングされたトランスによるものだと説明しています。かつてのトランスはフラットな周波数特性を持たず、低域と超高域でロールオフが生じていた、というのがその前提です。意図された挙動です。
低域のブーストが効きません
下側のノブ(Low Band Freq/Cut)がカット側に入っていないか確認してください。クイックスタートガイドは、このモードでは上側の bass ノブが無効になると書いています。ブーストしたい場合は下側ノブを上半分に戻し、60・120・250・400 Hz のいずれかを選んでから、上側の Low Band Boost で量を決めます。
ノイズとハムを止めるにはどうすればいいですか
2通りあります。完全に外したい場合は Analog を Off にします。ガイドの説明どおり、これでノイズとハムがバイパスされ、モデリングされた歪みだけが残ります。量を減らすだけでよければ Noise を Low にすると、モデリングされたノイズとハムが20 dB 下がります。初期値は Analog が60 Hz、Noise が Original です。
まとめ
- Preamp は増幅ではなく色の量。レベルは Input/Output で別に取る。THD による出力ピークの変化は最大でも ±0.2〜0.3 dB。
- ハイシェルフは10 kHz 固定で -16〜+12 dB の飛び飛び、中域と低域のブースト量は0〜15 の連続。刻みの違いがそのまま操作の意味の違いになっている。
- 低域はブーストと50 Hz カットが排他。ノイズは Noise を Low にして20 dB 下げるか、Analog を Off にして丸ごと外すかの2択。



選択肢が少ない機材は、迷いが少ないぶん、仕様の把握が結果に直結します。どのつまみが連続で、どれが段で、どれが排他なのか。それだけ分かっていれば、この卓は速いです。
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