Waves Magma Tube Channel Stripのコンプレッサー部には、スレッショルドとメイクアップゲインを別々に設定するつまみがありません。1本のCompノブが、スレッショルド(0〜−35 dB)とメイクアップゲイン(0〜+15 dB)を同時に動かします。この記事では、この「1ノブ圧縮」を含めて、本機がなぜここまでコントロールを絞り込んだのかを、公式ユーザーガイドの記載に沿って解剖します。
想定読者は、この製品を持っていて各つまみの中身を数字で押さえたい人と、チャンネルストリップ系を1つ選ぼうとしている中〜上級者です。EQの帯域設計、Expandつまみの2つの顔、VUメーターの校正まで、仕様の出どころを明示しながら見ていきます。
仕様・数値はWaves公式ユーザーガイド(表題は「Magma Channel Strip User Guide」、英語版・全7ページ)に基づきます。編集部はこの製品を所有していないため使用感の描写はせず、ガイドで裏が取れない数値は書きません。
カホつまみを減らすことと、できることを減らすことは別です。何が1本にまとめられたのかを見れば、この機種の狙いが読めます。
この記事でわかること
- Compノブ1本がスレッショルドとメイクアップを同時に動かす仕組みと、Smashスイッチの中身
- Driveが「倍音を増やしながらピークを減らす」と定義されている意味
- 3バンドEQの帯域設計(2.5 kHzシェルフ・100 Hz〜5 kHz可変ベル・ローシェルフ)
- VUメーター(−20〜+3 dBVU)とDAW基準の橋渡しのしかた
Magma Tube Channel Stripとは|何を解決する製品か
Magma Tube Channel Stripは、EQ・エキスパンダー/ゲート・コンプレッサーを1つのプラグインにまとめたチャンネルストリップです。ユーザーガイドは「シンプルなインターフェースで、チャンネルを素早く正確に彫刻(sculpt)しながら、Waves Magmaファミリーを定義する本物の温かいクラシックな真空管サウンドを届ける」と説明しています。真空管のモデリングには同社のTrue Valve Modeling技術が使われています。
信号の流れはガイドの図解に明記されており、Input → EQ → Dynamics → 出力フェーダー → メーターの順です。コンポーネントはモノとステレオの2種類。なお参照したガイドの表題は「Magma Channel Strip」で、パネル上の表記は「TUBE CHANNEL STRIP」、製品ページなどの流通名は「Magma Tube Channel Strip」と、名前の表記が3通りありますが、いずれも同じ製品を指します。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
圧縮はつまみ1本+性格スイッチ1つ
Compノブはスレッショルドとメイクアップゲインを同時にコントロールします。スレッショルドの可動範囲は0〜−35 dB、メイクアップは0〜+15 dBで、ノブ自体の表示レンジは0〜100。どちらの範囲も0を起点に書かれているので、深く潰すほど持ち上げも進む連動が1本に焼き込まれている、と読めます。
では、レシオやアタック、リリースはどこにあるのか。本稿が参照した版のコントロール一覧に、これらの個別つまみは出てきません。代わりにあるのがSmashスイッチです。ガイドによれば、Smashはコンプレッサーのモードを切り替え、レシオ・アタックタイム・リリースタイムに影響します。オンで「より高いレシオ、速いアタック、速いリリース」、オフで「より低いレシオ、遅いアタック、遅いリリース」。時定数の設計を2つのプリセットに畳み込み、選択だけをユーザーに残した格好です。具体的なレシオ比やミリ秒値は公式に書かれていません。



スレッショルドとメイクアップが1本で連動。効きの深さと音量感が一緒に動くので、比較試聴のときはそのぶん耳を疑ってかかります。
Driveは「歪ませるつまみ」であり「ピークを抑えるつまみ」でもある
入力部のDrive(Input gain、0〜100)について、ガイドは「入力ゲインを上げるほどハーモニックディストーションが増え、ピークが減る」と定義しています。真空管サチュレーションが音色付けと同時にピークコントロールとして働く、という真空管系らしい二重の役割が、この1行に集約されています。ダイナミクスセクションに入る前に、Driveの段階ですでに山が削れている——という前提で全体を読むと、このストリップの構成が腑に落ちます。
その手前のSensitivity(−12〜+12 dB、スクリュー型のコントロール)はヘッドルームを制御し、ドライブセクションの挙動に影響します。ここも「調整はチェインの最後で補正されるため、出力ゲインは変わらない」と明記されています。音量を固定したまま、歪みの乗り方だけを事前に決めるための隠しつまみです。入力部にはほかに、位相を反転するPhase Reverseスイッチと、ランブル(低域の暗騒音)除去用のハイパスフィルター(Off/60 Hz/110 Hzの3段)があります。
EQは3バンドとも「広め」に設計されている
EQセクションはHigh・Mid・Bassの3バンドです。Highは2.5 kHzから始まるワイドなシェルフで±14 dB。Bassはローシェルフで±14 dB。Midはワイドなベル型で、中心周波数を100 Hz〜5 kHzの範囲でスイープできます(初期値は中央の1.6 kHz)。
Midには面白い仕様が明記されています。「同じQ設定において、正のゲイン値は負のゲイン値よりも広いベルになる」。つまりブーストは広く音楽的に、カットは相対的に狭く、という非対称です。ブースト時の不自然さを抑えつつ、カット時には狙いを外しにくくする——ビンテージEQでよく語られる思想を、仕様として明文化した形です。なおMidのゲイン可動範囲そのものは、参照した版には数値の記載がありません。
Expandつまみは2つの顔を持つ
ダイナミクス部のExpand(0〜100)は、ゲートの開閉をコントロールします。「値を上げるほど、大きいピークと小さいピークの差が広がる(通常はノイズが減る)」というのがガイドの説明です。そしてGate/Expandスイッチが、このつまみの機能そのものを切り替えます。1つの物理コントロールに2つの処理モードを割り当てる設計は、Compノブ+Smashの関係と同じ文法です。
効き具合の確認用に、エキスパンダー(左)とコンプレッサー(右)で独立したゲインリダクションLEDメーターがあります。無点灯=リダクションなし、黄=中程度、赤=大きなゲインリダクションです。
出口はVUの世界とdBFSの世界の橋渡し
出力フェーダーは−48〜+12 dB。メーターはVUスケールで−20〜+3 dBVUを振れ、0 dBFSのクリップは赤LEDで別立てに知らせます(赤LEDはクリックでリセット)。さらにスクリューヘッドで、メーターを自分のDAWリファレンスに合わせて±12 dBの範囲で校正できます。アナログ流のVU表示を使いながら、デジタルのクリップ検出と基準合わせを両立させる出口設計です。
全パラメーター
| コントロール | 役割 | 範囲 |
|---|---|---|
| Phase Reverse | 入力信号の位相反転 | On/Off |
| HP Filter | 入力のハイパス。ランブル除去、低域要素の明瞭化 | Off/60 Hz/110 Hz |
| Sensitivity | ヘッドルーム調整(ドライブ段の挙動に影響)。出力は終段補正で不変 | −12〜+12 dB |
| Drive(Input gain) | 入力ゲイン。上げると倍音が増え、ピークが減る | 0〜100 |
| High | 2.5 kHzから始まるワイドシェルフ | −14〜+14 dB |
| Mid | ワイドベル。同じQなら正ゲインのほうが負ゲインより広い | ゲイン範囲の記載なし |
| Mid Frequency | Midベルの中心周波数 | 100 Hz〜5 kHz(初期値1.6 kHz) |
| Bass | ローシェルフ | −14〜+14 dB |
| Expand | ゲート開閉/エキスパンション量。上げるほど大小差が開く | 0〜100 |
| Gate/Expand | Expandつまみの機能切り替え | Gate/Expand |
| Comp | スレッショルド(0〜−35 dB)とメイクアップ(0〜+15 dB)を同時制御 | 0〜100 |
| Smash | コンプのモード切替(レシオ・アタック・リリースに影響) | On/Off |
| GRメーター | 左=エキスパンダー/右=コンプ。黄=中程度、赤=大 | — |
| Output Fader | プラグインの出力レベル | −48〜+12 dB |
| VUメーター | 出力レベル表示(VUスケール)。赤LED=0 dBFSクリップ | −20〜+3 dBVU |
| メーター校正 | スクリューヘッドでDAWリファレンスに合わせる | −12〜+12 dB |
Mid Frequency以外の初期値は、参照した版のガイドに記載がありません。またSmashの2モードの具体的なレシオ・時定数も非公開です。
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 触るコントロール | 根拠になっている記載 |
|---|---|---|
| 足元の低域ノイズを切りたい | HP Filterを60または110 Hzへ | 「ランブルを除去し、低域要素の明瞭度を上げる」 |
| 真空管の質感を足しつつピークを整えたい | Driveを上げる | 「倍音が増え、ピークが減る」 |
| 無音部分のノイズ床を下げたい | Expandを上げる(スイッチで Gate/Expand を選択) | 「大小の差が広がる(通常はノイズが減る)」 |
| 前に出る強い圧縮にしたい | Comp+Smashオン | 「高レシオ・速いアタック・速いリリース」 |
| 目立たせない自然な圧縮にしたい | Comp+Smashオフ | 「低レシオ・遅いアタック・遅いリリース」 |
| 音量を変えずに歪みの乗り方を変えたい | Sensitivity | 終段補正で出力ゲイン不変 |
| 中域だけ狙って動かしたい | Mid+Mid Frequency(100 Hz〜5 kHz) | スイープ可能なワイドベル |
楽器別の推奨値(ボーカルはDrive◯◯、など)を載せていないのは、参照した版のガイドにその種の記載が無いためです。効き量は2本のGRメーターとVUメーターを見ながら決める前提で読んでください。



「とりあえず全部盛り」をやると、DriveとCompの両方でピークを潰して二重に効かせがちです。どちらの段で潰したいのか、先に決めましょう。
似た製品との使い分け
同じMagmaファミリーの真空管サチュレーターBB Tubesは、歪みだけを専門に扱う製品です。あちらはBeauty(主に偶数次倍音)とBeast(主に奇数次倍音)の2つのサチュレーターを直列に持ち、トーン調整は10 kHzシェルフ2つと低域用のBass Reliefという構成です。ゲートやコンプレッサーにあたるコントロールは、BB Tubes側のガイドの一覧には出てきません。色付けを深く作り込みたいときはBB Tubes、1本のチャンネルを録りからミックスまで1画面で整えたいときはMagma Tube Channel Strip、という分担が両ガイドの構成から導けます。
また、コンプ・ゲート・EQ入りのチャンネルストリップという括りでは、同社の古参AudioTrackがあります。あちらは入門記事があるので、フル機能のパラメーターを個別に触る方式と、本機のような「まとめて1本」方式の違いを見比べてみてください。
よくある質問
アタックタイムやレシオはどこで設定するのですか
個別のつまみは、本稿が参照した版のコントロール一覧には出てきません。Smashスイッチがレシオ・アタック・リリースをまとめて切り替えます(オン=高レシオで速く、オフ=低レシオで遅く)。具体的な数値は公式に書かれていません。
DriveとSensitivityは何が違うのですか
Driveは入力ゲインそのもので、上げると倍音が増えピークが減ります。Sensitivityはその手前でヘッドルームを決めるコントロールで、ドライブ段の挙動に影響しますが、出力ゲインは終段で補正され変わりません。
VUメーターの0とDAWの0 dBFSは同じですか
別物です。メーターは−20〜+3 dBVUのVUスケールで、0 dBFSのクリップは独立した赤LEDが知らせます(クリックでリセット)。スクリューヘッドの校正(±12 dB)で、自分のDAWリファレンスにメーターを合わせられます。
モノとステレオで使えますか
使えます。ガイドにコンポーネントはモノとステレオの2種類と明記されています。
まとめ
- EQ・エキスパンダー/ゲート・コンプを1画面に積んだMagmaファミリーのチャンネルストリップ。信号はInput → EQ → Dynamics → 出力の固定順
- 圧縮はCompノブ1本がスレッショルド(0〜−35 dB)とメイクアップ(0〜+15 dB)を同時に動かし、性格はSmashスイッチで一括切替
- Driveは倍音を足しながらピークを減らす二役。SensitivityとあわせてEQ前の「歪み設計」が入口に置かれている



選択肢を絞ってあるストリップは、絞られた中身を知っているかどうかで結果が変わります。Smashの中身、覚えて帰ってください。




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