Manny Marroquin Signature総覧|6本の設計思想

この記事では、Waves の Manny Marroquin Signature Series 6本が、なぜ他のシグネチャー・シリーズと手ざわりが違うのかを、公式ユーザーガイドの記載だけで分解します。6本が「担当楽器」ではなく「📖エフェクトの種類」で切られている理由、Tone Shaper の1帯域が3段構成になっている根拠、そして英語版ガイドと日本語版ガイドで数値が食い違っている2か所までを扱います。

本稿が参照したのは、英語版の製品別ユーザーガイド6冊(📖Delay 10ページ/📖Distortion 8ページ/📖EQ 8ページ/📖Reverb 9ページ/Tone Shaper 9ページ/Triple D 8ページ、合計52ページ)と、日本語版の合本『Manny Marroquin Signature Collection Native ソフトウェアユーザーガイド』31ページです。英語版6冊は、Waves の配信サーバー(assets.wavescdn.com)が同じ名前で現在配信しているファイルと、バイト数も sha256 も一致することを確認しています。いずれも作成日は2013年3月13日です。

先に、この6冊のいちばん大きな特徴をひとつ。本稿が確認した6冊に、コントロールの初期値が1行も書かれていません。6冊を3系統のテキスト抽出(pypdf/pdfminer.six/PyMuPDF)にかけて突き合わせたところ、Default: の行は全52ページで0件、3系統とも0件でした。いっぽう範囲(Range: または Ranges:)で始まる行は86行あり、こちらも3系統で数が一致します。範囲の行は86行、初期値の行は0行。ですから本記事も初期値には触れません。以下の範囲は公式ガイドの記載であり、編集部の実測値ではありません。

カホ

シグネチャー・シリーズなのに、📖フェーダーに形容詞の名前が付いていない。数値の範囲がきちんと書いてある。この6本は、同じ看板の中でかなり異質です。理由は構成の切り方にあります。

目次

この記事でわかること

  • 6本が「楽器別」ではなく「エフェクト別」に切られていることが、操作にどう出るか
  • Reverb の Size が「同じ部屋の大小」ではない理由と、それが📖オートメーション制限につながる仕組み
  • Delay の Dry/Wet と Distortion の Distortion Level が、どちらも「歪みや効果の量」を変えないこと
  • 英語版ガイドと日本語版ガイドで数値が食い違う2か所と、どちらが正しいと判断できるか

Manny Marroquin Signature Seriesとは|何を解決する製品か

Manny Marroquin は、公式ガイドが「4度のグラミー賞を受賞した📖ミキシング・エンジニア」と紹介している人物です。本シリーズは彼との共同開発による6本組で、ガイドの製品概要はこれを「6つの📖ハイブリッド・プラグイン」と呼んでいます。ハイブリッドという言い方が指しているのは、1本のプラグインの中に複数種類の処理が同居している構造のことです。

6本の内訳は、6冊すべての第1章に同じ一覧として載っています。EQ(4バンド、各📖カットオフが別々のハードウェア由来)、Reverb(18種類のリバーブに EQ・📖コンプ・📖フェイザー・ディストーションを追加)、Delay(フェイザー・リバーブ・ディストーション・📖ハーモナイザーを内蔵したディレイ)、Distortion(クランチ系のディストーション)、Triple D(🎛️DeEsser・DeHarsher・DeBoxy の3つの「D」)、Tone Shaper(4帯域のパラレル・コンプレッションに EQ と「秘密の材料」を足したもの)です。

このシリーズが解決するのは「1つの効果を作るのに複数のプラグインを並べる手間」です。Delay の章に置かれた本人のコメントがそれを直接言っています。曰く、狙ったディレイの音を出すのに普段は5〜6本のプラグインが必要で、それを1本にまとめたかった、と。だから Delay にはリバーブとディストーションとダブラーとフェイザーが入っており、Reverb には EQ とコンプとフェイザーとディストーションが入っています。1本の中に、彼が実際に組んでいたチェーンがそのまま畳み込まれているという構造です。

価格は wavesjapan.jp の製品ページで、6本とも各17,380円、6本セットの Manny Marroquin Signature Series が70,400円と表示されています(2026年9月時点の定価表示)。購入前に必ず公式ページで現在の価格を確認してください。

設計思想:なぜこの効き方をするのか

「担当楽器」ではなく「エフェクトの種類」で切ってある

Waves のシグネチャー・シリーズは、ふつう楽器別に切られています。ボーカル用、ドラム用、ベース用、ギター用、という具合です。ところが Manny Marroquin の6本は、EQ・Reverb・Delay・Distortion・Triple D・Tone Shaper というエフェクトの種類で切られています。これは看板が同じでも中身の設計思想がまるで違うということで、操作系にもはっきり出ています。

いちばん分かりやすい差が、入力の校正まわりです。楽器別に切られたシリーズは、まず入力レベルを合わせる Sensitivity のコントロールを持つのが定番になっています。本稿で実際に開いて数えたかぎりでは、🎛️CLA Vocals(11件)・🎛️CLA Bass(11件)・🎛️CLA Drums(11件)・🎛️CLA Guitars(11件)・🎛️JJP Vocals(9件)・🎛️JJP Drums(9件)・🎛️Eddie Kramer Vocal Channel(16件)・🎛️Eddie Kramer Drum Channel(25件)・🎛️Greg Wells MixCentric(2件)・🎛️Greg Wells ToneCentric(2件)の各ガイドに Sensitivity の語が出てきます。ところがManny Marroquin の6冊には、Sensitivity という語が1件もありません(6冊×3系統の抽出で、いずれも0件)。校正の手順そのものが存在しないのです。

代わりにあるのが、全機種共通の INPUT と OUTPUT です。6本とも第2章の先頭が INPUT、末尾が OUTPUT で、範囲はどちらも −18〜18 dB。校正LEDに合わせるのではなく、自分でレベルを決めて入れる設計になっています。そのぶん、つまみ1本ごとに何が起きるかを把握していないと当てずっぽうになります。この記事が「範囲と信号経路」に紙幅を割いているのはそのためです。

EQ:カットオフ1点ごとに別の実機。ズレは仕様として書かれている

🎛️Manny Marroquin EQ の第1章は、彼が常用する6台のイコライザーを名指しします。Quad 8、🎛️Neve 1073、🎵Motown、🎛️API 550、Avalon 2055、SSL 9080 XL K。このプラグインの発想は、この6台のパレットを1枚に再現することでした。

面白いのは、由来がバンド単位ではなくカットオフ1点単位だという点です。ガイドはこう内訳を書いています。Band 1 の 50 Hz・140 Hz・250 Hz は Quad 8 から、110 Hz・220 Hz は 1073 から。しかも Quad 8 の 50 Hz と 140 Hz は幅の広いベルなのに、同じ Quad 8 の 250 Hz はもっと狭い。110 Hz と 220 Hz は📖シェルフ型。つまり1本のつまみを回すと、カーブの形そのものが切り替わります。

その結果として何が起きるかも、ガイド自身が正直に書いています。カットオフを移すと各カーブのあいだにわずかな不整合と📖ゲイン変化が生じる、あるバンドで 4.5 dB のブーストが別のバンドでは 4.9 になることがある、と。数値の一貫性を捨てて実機ごとの個性を採ったという宣言です。GAIN 1〜4 はどれも −10〜10 dB と書かれていますが、その目盛りは帯域間で厳密には一致しない、と製品側が先に言っている。ここを知らずに「4.5 dB 上げたのに音量の増え方が違う」と悩むのは、時間の無駄になります。

もうひとつ、意図された重複があります。Band 1 と Band 2 はどちらも 250 Hz を持ち、Band 2 と Band 3 はどちらも 800 Hz を持っています。ガイドはこれを「重なっているので、250 Hz をカットしながら別の低域をブーストできる」「800 Hz をカット/ブーストしながら Band 2 で別の低中域をブースト/カットできる」と説明しています。同じ📖周波数に対して2つのバンドから同時に触れるための設計で、偶然の重複ではありません。

Band 4 だけは由来が1台に絞られています。Avalon 2055 です。ガイドは「高域があまりに滑らかなので、彼はこの帯域で他をほとんど使わない」と書いており、カットオフは 10 kHz から 25 kHz。この帯域だけ、シェルフとベルを選べる FREQ 4 TYPE が付いています。

Reverb:Size は「同じ部屋の大小」ではなく、別のリバーブ

🎛️Manny Marroquin Reverb でいちばん誤解されやすいのが SIZE です。ガイドは明確にこう書いています。「それぞれのサイズは別のリバーブを読み込む。たとえば Small Room と Medium Room は違うリバーブであって、同じ空間のサイズ違いではない」。選択したリバーブの空間サイズを変えたいときは、SIZE ではなく TIME を使え、と続きます。

TYPE は Hall / Room / Chamber / Plate / Space / 📖Ambience の6種、SIZE は Small / Medium / Large の3種。本人のコメントが「6つの異なるリバーブ、それぞれに3つのルームサイズ、合計18個」と自分で数えているとおり、6×3=18が製品名にある「18種類」の中身です。

そしてこの構造がそのままオートメーション制限に直結します。TYPE・SIZE・TIME・PREDELAY の4つには、いずれも「切り替えにおよそ1秒かかる。このコントロールはオートメーションできない」という注記が付いています。別のリバーブを読み込み直しているのだから、1秒かかるのも、途中の値を連続的に動かせないのも当然です。逆にいえば、曲中でリバーブの種類を動かす演出はこのプラグインではできません。そこは設計上の割り切りです。

TIME の目盛りには注意が要ります。範囲は 50〜200%、ガイドは括弧で「100%=オリジナルの📖リバーブタイム」と明記しています。基準は両端ではなく、真ん中の100%です。しかも TYPE か SIZE を変えると TIME は100%にリセットされる。「最大まで上げれば長い残響」ではなく「100%が素の長さで、上下に伸縮させる」と読むのが正しい操作の向きになります。

📖信号の流れも独特です。ガイドの信号図は Input → Reverb → EQ+Comp → Phaser と直列に進み、Phaser の出力が出力段へ向かうと同時に Distortion へも分岐して、そちらも出力段で合流する形になっています。EQ にあたる LOWS(60 Hz 付近のシェルフ状)・MIDS(2 kHz 付近の広いベル)・HIGHS(8 kHz 付近の広いシェルフ)は、いずれも −50〜50 で、原音ではなくリバーブ音に効きます。COMP も同じくリバーブ経路上のコンプで、ガイドは「遅めの📖アタックと速い📖リリース」と書くだけで、アタックとリリースを設定するコントロールは第2章の一覧に置かれていません。0〜100 の1本だけです。

REVERB AMOUNT を 0 にしたときの挙動も、ガイドが名指ししています。「リバーブは聞こえなくなるが、EQ・コンプ・フェイザー・ディストーションは聞こえる」。つまりこのプラグインはリバーブを切った状態で、色付け専用機として使えるということです。

カホ

Size を回すと1秒待たされるのは不具合ではなく、別のリバーブを読み込んでいるからです。仕様として書かれている挙動を不具合と思い込むと、無駄なトラブルシューティングに時間を使います。

Delay:Dry/Wet はディレイ音にしか効かない

🎛️Manny Marroquin Delay の信号図は、入力が2つに分かれるところから始まります。片方はそのまま Direct として出力へ。もう片方が Delay → LP/HP と進み、その出口から Reverb・Distortion・🎛️Doubler・Phaser の4つが並列に枝分かれして、それぞれ出力へ合流します。

ここで重要なのが DRY/WET の効く範囲です。ガイドは「ダイレクト音と Delay + HP/LP 経路の📖バランスを取る。Reverb・Distortion・Doubler・Phaser は影響を受けないので、望むならディレイ無しでそれらを使える」と書いています。つまり Dry/Wet を 0 にしてもエフェクト4種は出力に残る。ディレイそのものを鳴らさずに、ダブラーやフェイザーだけを使うという運用が想定されています。

HP/LP も同じ理由で経路が限定されています。ガイドは「この処理はディレイ経路上にあるので、HP や LP をかけて Dry/Wet を 0 にしても、ドライ信号には HP/LP は効かない」と明記します。📖フィルターは原音を触らない、と読めばよいことになります。

HP/LP LINK は、少し変わった挙動をします。HP と LP を逆向きにリンクさせる機能で、ガイドの例では LP を 8 kHz、HP を 150 Hz にした状態でリンクをオンにし、HP を 600 Hz へ動かすと LP が同時に 1990 Hz へ移動します。開いていた窓が両側から同時に閉じる動きです。そして注記に「両者が同じ周波数(HP=1 kHz、LP=1 kHz)に達すると、コントロールはロックされ、前方へは動かせず後方へしか動かせない」とあります。閉じ切ったら開く方向にしか戻れない、という設計です。

📖ディレイタイムの上限にも根拠が書かれています。📖MS モードの範囲は 0〜2000 ミリ秒(4 ms 刻み)、Host モードは 1/64 の3連符から全音符まで。そのうえで「ディレイは2秒に制限されているため、120 📖BPM を下回る📖テンポでは全音符が選べない」と注記されます。120 📖BPM なら1拍 0.5 秒、全音符は4拍で 2.0 秒。上限とちょうど同じ値です。テンポがそれより遅くなれば全音符は2秒を超えるので選べなくなる、という単純な算数がそのまま仕様になっています。

もうひとつ、LINK には片道の性質があります。「一度リンクすると、リンクを外しても以前の右チャンネルの設定は復元されない」。左右で別々の値を作り込んでから何気なくリンクをオンにすると、右の設定は戻ってこないということです。

Distortion:EQ は歪みの「量」を決める。信号図にはコンプもある

🎛️Manny Marroquin Distortion の EQ セクションは、出音を整えるためのものではありません。第1章が「EQ セクションは、ディストーションに到達する前の信号を整形する」と位置づけ、第2章の各項目も一貫して「ディストーション・エンジンに到達する低域/中域/高域の量を決める」と書いています。BASS は 100 Hz 付近の広いシェルフ、MID は可変周波数(150 Hz〜5 kHz)のベル、TREBLE は 9 kHz 付近の広いベル。いずれも −50〜50 で、括弧に「0=処理なし」と添えられています。値を下げればその帯域の歪みが減り、上げれば増える。トーン・コントロールではなく、歪みの帯域配分を決めるプリエンファシスだと理解するのが正確です。

信号図には、第2章のコントロール一覧に対応するつまみが無いブロックが1つ描かれています。Input から分岐した処理経路の先頭に置かれた Compression です。図の並びは Input →(Direct はそのまま出力へ)/ Compression → EQ → Distortion → 出力、となっています。第1章が「実際の歪み、ドライブ量、📖エンベロープに対するある程度のコントロール、そして原音と歪み音のバランス」をこのセクションの内容として挙げていることと合わせると、ATTACK(0.1〜500 ms)と RELEASE(5〜5000 ms)はこのエンベロープ段のパラメーターだと読めます。だから ATTACK の説明が「高い値では音の出だしの歪みが減る」という書き方になるわけです。

2つの LEVEL には、それぞれ間違えやすい注記が付いています。DRIVE は 0〜100 ですが、「Distortion Level がゼロより上のとき、0 は歪みが皆無という意味ではなく、ドライブが最小という意味になる」。ゼロにしても完全なクリーンにはなりません。そして DISTORTION LEVEL のほうは「出力はダイレクト・レベルとディストーション・レベルの合計。Distortion Level は Drive の後段のレベルを制御するので、これを上げても信号に加わる歪みが増えるわけではなく、歪んだ信号のレベルが上がるだけ。Aux の📖リターン・レベルのようなもの」と説明されます。歪みの量は DRIVE、混ぜる量は DISTORTION LEVEL。この2本を混同すると、狙いと逆の操作になります。

Tone Shaper:1帯域あたり Dynamics → XOver EQ → Dynamics

Tone Shaper は、本人のコメントによれば「パラレル・コンプレッションはミキシング技法の大部分を占める」という考えを製品にしたものです。ミックスが8割方できあがった段階で、EQ でも音量でもなく Tone Shaper を足すと、空間を犠牲にせずに要素を前に出せる、と説明されています。

信号図が構造を全部見せてくれます。入力は Direct として出力へ抜ける経路と、Low / Low Mid / Hi Mid / High の4帯域へ分かれる並列経路に分かれます。そして各帯域の中身は Dynamics → XOver EQ → Dynamics の3段です。ダイナミクス処理がクロスオーバーEQ を挟んで前後に2つ置かれている。「秘密の材料(secret ingredients)」とだけ書かれている部分の正体が、この3段構成だと図から読み取れます。

各帯域のコントロールは LEVEL(0〜100)、IN/OUT、TYPE(1・2・3)の3つ。TYPE についてガイドは「1が最も低く、3が最も高い」「タイプごとに形が異なり、それぞれ独自のキャラクターを持つ」と書いています。量ではなく、その帯域が担当する周波数レンジと形を選ぶセレクターです。DIRECT は −50〜50 で、しかも「パラレル処理へ送った後の」ダイレクト信号のレベルだと明記されています。DIRECT IN/OUT を Out にすれば、処理された信号だけが聞こえます。

WIDTH には2つの限定が付いています。ひとつは「📖ステレオ・コンポーネントのみ」。もうひとつが接続元で、ガイドは「Low Mid・Hi Mid・High の各パラレル経路からプリフェーダーで入力を受け取る」と書いています。Low が入っていません。信号図でも Width のブロックは下3帯域にだけ描かれ、Low の行には存在しません。日本語版はここをさらにはっきり「Low バンドはこのパラメーターの影響を受けません」と書いています。低域を広げてしまう事故を構造として防いでいる、というのがこの設計の狙いだと読めます。

Triple D:3つは直列。しきい値は上げるほど深く効く

Triple D の信号図は、6本の中で最もシンプルです。Input → DeBoxy → DeHarsher → DeEsser → Out。並列ではなく完全な直列で、順序も固定されています。DeEsser は前2段を通った後の信号を見ている、ということです。

3セクションの構成は同一で、THRESHOLD・FREQUENCY・LISTEN・BYPASS・ATTENUATION METER の5点です。担当帯域だけが違い、FREQUENCY の 0〜100 は次の中心周波数に対応します。DeBoxy が 0=200 Hz 中心/100=1 kHz 中心、DeHarsher が 0=1.2 kHz 中心/100=3 kHz 中心、DeEsser が 0=3.5 kHz 中心/100=12 kHz 中心。周波数を Hz で直接入力するのではなく、0〜100 の位置で指定するという目盛りです。

THRESHOLD の向きには注意が要ります。英語版の記載は Range: 0 – 100 (0 = no attenuation, 100 = maximum threshold/maximum attenuation)。0 が減衰なし、100 が最大減衰です。ふつうのしきい値は下げるほど強くかかりますが、このつまみは上げるほど強くかかります。しかもガイド自身の括弧書きが「最大しきい値/最大減衰」と、通常なら逆向きになるはずの2つを並べています。名前から動作を推測すると逆に操作することになるので、この行の記載どおり「上げれば深く効く」と覚えるのが安全です。

LISTEN と ATTENUATION METER の関係も、ガイドが具体的に書いています。LISTEN はそのセクションのフィルターを通した音だけを再生するもので、「耳障りな帯域を追い込むときに役立つ」。BYPASS の側には「LISTEN が選択されているとき、処理はバイパスされるが、その帯域のフィルターされていない信号は聞こえる」という但し書きが付きます。メーターのほうは、上から下まで完全に振り切った状態が「12 dB を超える減衰」を意味します。THRESHOLD も FREQUENCY も 0〜100 という相対的な目盛りなので、減衰量を dB で把握する手がかりは、3セクションともこのメーターに集約されています。

全パラメーター

以下の範囲は、英語版公式ユーザーガイド第2章の記載をそのまま写したものです。前述のとおり本稿が確認した6冊に初期値の記載が0行だったため、初期値の列は設けていません。6本とも INPUT と OUTPUT が −18〜18 dB で共通しています。

Manny Marroquin EQ

コントロール範囲役割
INPUT−18 〜 18 dBプラグインへの入力レベル
HPOff、16 Hz 〜 750 Hzハイパスフィルター(SSL 9080 XL K 由来・連続可変)
GAIN 1−10 〜 10 dB低域のゲイン
FREQ 150 Hz / 110 Hz / 140 Hz / 220 Hz / 250 Hz低域のカットオフ選択
GAIN 2−10 〜 10 dB低中域のゲイン
FREQ 2250 Hz / 320 Hz / 400 Hz / 800 Hz / 1.5 kHz低中域のカットオフ選択
GAIN 3−10 〜 10 dB高中域のゲイン
FREQ 3800 Hz / 1.6 kHz / 3.2 kHz / 5 kHz / 8 kHz高中域のカットオフ選択。英語版第2章の記載は1つ目が「8 kHz」だが誤植(後述)
GAIN 4−10 〜 10 dB高域のゲイン
FREQ 410 kHz / 12.5 kHz / 15 kHz / 20 kHz / 25 kHz高域のカットオフ選択(Avalon 2055 由来)
FREQ 4 TYPEShelf / Bell高域バンドのフィルタータイプ
LP1.8 kHz 〜 21 kHz、Offローパスフィルター(連続可変)
PHASE INVERTIn / Out出力信号の位相反転
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

Manny Marroquin Reverb

コントロール範囲役割・注記
INPUT−18 〜 18 dB入力レベル
TYPEHall / Room / Chamber / Plate / Space / Ambience切り替えに約1秒・オートメーション不可
SIZESmall / Medium / Largeサイズごとに別のリバーブを読み込む・約1秒・オートメーション不可
TIME50 〜 200%(100%=オリジナルのリバーブタイム)RT60。TYPE・SIZE 変更で100%にリセット・オートメーション不可
PREDELAY0 〜 500 ミリ秒リバーブが始まるまでの時間・オートメーション不可
REVERB AMOUNT0 〜 100(0=リバーブなし、100=最大)0でもEQ・コンプ・フェイザー・ディストーションは聞こえる
LOWS−50 〜 5060 Hz 付近を中心とするシェルフ状のEQ
MIDS−50 〜 502 kHz 付近を中心とする広いベルEQ
HIGHS−50 〜 508 kHz 付近を中心とする広いシェルフEQ
COMP0 〜 100(0=圧縮なし、100=最大)リバーブ経路上のコンプ。遅めのアタック・速いリリース
RATE0.00 Hz 〜 20 Hzフェイザーのレート
PHASER0 〜 100フェイザー効果の全体レベル
DISTORTION0 〜 100ディストーション効果の全体レベル
WET/DRY0 〜 100(0=原音のみ、100=処理音のみ)センド/リターンではなくインサート時に使う
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

Manny Marroquin Delay

コントロール範囲役割・注記
INPUT−18 〜 18 dB入力レベル
MODEMS / Hostディレイタイムをミリ秒で指定するかホストテンポに同期するか
DELAY L / DELAY RMS:0 〜 2000 ミリ秒(4 ms 刻み)/ Host:1/64の3連 〜 全音符2秒上限のため120 BPM 未満では全音符が選べない
FDBK L / FDBK R0 〜 100%チャンネルごとのフィードバック量
LINKOn / OffOnで左の設定が右にも適用。解除しても右の旧設定は戻らない
DRY/WET0 〜 100%原音とディレイ+HP/LP 経路のバランス。4種のエフェクトには効かない
HP / LPHP:16 Hz 〜 21357 Hz、Off / LP:21357 Hz 〜 16 Hz、Offディレイ経路上のフィルター。原音には効かない
HP/LP LINK—(範囲の記載なし)HPとLPを逆向きに連動。同じ周波数に達するとロック
VERB SIZE / VERB LEVEL各 0 〜 100内蔵リバーブのサイズとレベル
VERB ON/OFFOn / Off内蔵リバーブのオン・オフ
DISTORTION SEND0 〜 100ディストーションへ送るレベル。高いほど歪む
DISTORTION WIDTH0 〜 100(0=モノ、100=フルステレオ)ディストーションのステレオ位置
DISTORTION LEVEL0 〜 100歪み音の出力レベル(歪みの量ではない)
DISTORTION ON/OFFOn / Offディストーションのオン・オフ
DOUBLER DETUNE−100 〜 100(セント)デチューン量
DOUBLER LEVEL0 〜 100ダブラーのレベル
DOUBLER ON/OFFOn / Offダブラーのオン・オフ
PHASER RATE0 Hz 〜 20 Hzフェイザーのモジュレーション・レート
PHASER LEVEL0 〜 100フェイザーのレベル
PHASER ON/OFFOn / Offフェイザーのオン・オフ
MONITORLeft Side Only / Stereo / Right Side Only出力モニターの構成
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

Manny Marroquin Distortion

コントロール範囲役割・注記
INPUT−18 〜 18 dB入力レベル
DIRECT LEVEL0 〜 100(0=原音なし、100=入力とユニティゲイン)出力に含まれる原音のレベル
DRIVE0 〜 100ディストーションへ送る量。Distortion Level が0より上のとき、0は「最小のドライブ」であって無歪ではない
DISTORTION LEVEL0 〜 100歪み後の信号のレベル。上げても歪み自体は増えない(Auxのリターンに相当)
ATTACK0.1 〜 500 ミリ秒高い値ほど音の出だしの歪みが減る
RELEASE5 〜 5000 ミリ秒高い値ほど音の減衰部に歪みが残る
BASS−50 〜 50(0=処理なし)歪みエンジンへ到達する低域の量(100 Hz 付近の広いシェルフ)
MID−50 〜 50(0=処理なし)歪みエンジンへ到達する中域の量(周波数可変のベル)
MID FREQUENCY150 Hz 〜 5 kHz中域のカットオフ位置
TREBLE−50 〜 50(0=処理なし)歪みエンジンへ到達する高域の量(9 kHz 付近の広いベル)
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

Manny Marroquin Tone Shaper

コントロール範囲役割・注記
INPUT−18 〜 18 dB入力レベル
DIRECT−50 〜 50パラレル処理へ送った後の原音のレベル
DIRECT IN/OUTIn / OutOutにすると処理音だけが聞こえる
LOW / LO MID / HI MID / HIGH各 0 〜 100各帯域のパラレル処理のレベル
各帯域の IN/OUTIn / Outその帯域の経路を出力から外す
各帯域の TYPE1 / 2 / 3(1=最も低い、3=最も高い)その帯域が担当する周波数レンジと形を選択
WIDTH0 〜 100Lo Mid・Hi Mid・High の各経路からプリフェーダーで受け取り広げる(ステレオ・コンポーネントのみ)
WIDTH IN/OUTIn / OutWidth 効果のバイパス
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

Manny Marroquin Triple D

コントロール範囲役割・注記
INPUT−18 〜 18 dB入力レベル
DeBOXY THRESHOLD0 〜 100(0=減衰なし、100=最大しきい値/最大減衰)上げるほど深く効く
DeBOXY FREQUENCY0 〜 100(0=200 Hz 中心、100=1 kHz 中心)減衰させる帯域
DeHARSHER THRESHOLD0 〜 100(0=減衰なし、100=最大しきい値/最大減衰)上げるほど深く効く
DeHARSHER FREQUENCY0 〜 100(0=1.2 kHz 中心、100=3 kHz 中心)減衰させる帯域
DeESSER THRESHOLD0 〜 100(0=減衰なし、100=最大しきい値/最大減衰)上げるほど深く効く
DeESSER FREQUENCY0 〜 100(0=3.5 kHz 中心、100=12 kHz 中心)減衰させる帯域(日本語版と食い違い・後述)
各セクションの LISTEN—(範囲の記載なし)そのフィルターを通した音だけを再生
各セクションの BYPASS—(範囲の記載なし)その処理をバイパス
各セクションの ATTENUATION METER—(表示のみ)振り切った状態=12 dB を超える減衰
OUTPUT−18 〜 18 dB出力レベル

コンポーネント構成は、6本で3通りに分かれます。EQ・Distortion・Tone Shaper・Triple D が Mono と Stereo の2種類。Delay だけは Mono ではなく Mono-to-Stereo と Stereoで、モノ出力のコンポーネントがありません。ステレオの広がりを前提にした設計だということが、コンポーネントの構成に出ています。

そして Reverb だけが3種類です。公式製品ページの Channel Components の技術表(2026年9月時点)は、Manny Marroquin Reverb に Mono・Stereo・Mono-to-Stereo の3つを立てています。ここはガイドと技術表が食い違う箇所です。ユーザーガイドの §1.5 Components は「The Waves MannyM Reverb plugin has two components: MannyM Reverb – Mono/MannyM Reverb – Stereo」と、2つしか挙げていません。しかもこれは古い版が残っているという話ではなく、製品ページが現在配っているPDFそのもの(PDF作成2013-03-13/更新2021-05-16・全9ページ)がそう書いています。同じ表で他の5本を引くと、EQ・Distortion・Tone Shaper・Triple D が Mono+Stereo、Delay が Stereo+Mono-to-Stereo で、ガイドの記載と一致します。ずれているのは Reverb の行だけです。モノ素材をステレオのリバーブへ送りたいときは、Mono-to-Stereo のコンポーネントを選べます。

用途別・設定の始点

このシリーズのガイドには推奨値の記載がありません。そのかわり、「こう使える」とガイド自身が名指ししている運用がいくつもあります。以下はすべてその出どころがある操作だけを並べたものです。

やりたいこと始点ガイド上の根拠
ディレイは鳴らさず、ダブラーやフェイザーだけ使うDelay の DRY/WET を 0 側へReverb・Distortion・Doubler・Phaser は Dry/Wet の影響を受けない
リバーブは要らないが、あの色付けだけ欲しいReverb の REVERB AMOUNT を 0 に0でもEQ・コンプ・フェイザー・ディストーションは聞こえる
リバーブをインサートで使うWET/DRY で原音とのバランスを取るセンド/リターンではなくインサート時に使う、と明記
同じ周波数をカットしつつ、隣を持ち上げるEQ の 250 Hz(Band 1・2)か 800 Hz(Band 2・3)を使う重複は意図的で、この用途のためと明記
高域だけベルとシェルフを使い分けるEQ の FREQ 4 TYPE を切り替えるタイプ選択があるのは Band 4 のみ
歪みの「量」を増やすDistortion の DRIVE を上げるDISTORTION LEVEL を上げても歪みは増えない
低域だけ歪ませたくないDistortion の BASS を下げるBASS は歪みエンジンへ到達する低域の量を決める
パラレル圧縮の音だけを確認するTone Shaper の DIRECT IN/OUT を Out にダイレクトをミュートすると処理音だけが聞こえる
低域を広げずに上だけ広げるTone Shaper の WIDTH を使うWidth は Lo Mid・Hi Mid・High からのみ入力を受ける
耳障りな帯域を正確に狙うTriple D の該当セクションの LISTEN をオン帯域を追い込むときに役立つ、と明記
削りすぎていないか確かめるTriple D の ATTENUATION METER を見る振り切り=12 dB を超える減衰

Reverb を曲中で切り替える演出だけは、最初から諦めておくのが早道です。TYPE・SIZE・TIME・PREDELAY の4つはオートメーションできないと明記されているので、場面ごとに設定を変えたいならインスタンスを分けることになります。

カホ

推奨値が書かれていない製品では、ガイドが「こう使える」と名指しした運用を拾い集めるのがいちばん確実です。推測で埋めた数字より、出どころのある1行のほうが役に立ちます。

英語版と日本語版で食い違っている箇所

この製品には、英語版の製品別ガイド6冊とは別に、日本語版の合本『Manny Marroquin Signature Collection Native ソフトウェアユーザーガイド』(31ページ、2013年4月24日作成)があります。両方を1行ずつ突き合わせたところ、数値が食い違う箇所が2つ見つかりました。しかも、正しいほうが1つずつ入れ違っています。

EQ の FREQ 3:英語版が誤植

英語版 EQ ガイドの FREQ 3 の行は Range: 8 kHz, 1.6 kHz, 3.2 kHz, 5 kHz, 8 kHz です。8 kHz が2回出てきます。1つ目が誤りで、正しくは 800 Hz です。根拠は3つあります。

  • 同じ英語版ガイドの第1章「Band 3」の説明が「800 Hz と 5 kHz は Motown、1.6 kHz と 3.2 kHz は 1073、8 kHz は API 550B に由来する」と書いており、800 Hz を明示している
  • 同じ英語版ガイドが第2章の扉に載せている画面図で、FREQ 3 のつまみの目盛りが 800 / 1.6k / 3.2k / 5k / 8k と読める
  • 日本語版合本の該当行が「範囲: 800Hz、1.6kHz、3.2kHz、5kHz、8kHz」と正しく書いている

抽出ミスの可能性も潰してあります。pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統すべてが英語版を「8 kHz, 1.6 kHz, 3.2 kHz, 5 kHz, 8 kHz」と読み、日本語版を「800Hz、1.6kHz…」と読みました。誌面を画像化して目視でも確認しています。新しいほう・原語のほうが常に正しいとは限らないという一例です。

Triple D の DeEsser 帯域:日本語版が誤植

逆のパターンが Triple D にあります。DeESSER FREQUENCY の範囲を、英語版は「0=3.5 kHz 中心、100=12 kHz 中心」と書いています。ところが日本語版合本は「0=1.2kHz 中心、100=3kHz 中心」。これは同じページの DeHARSHER FREQUENCY とまったく同じ値で、直前の項目からのコピーが残ったものと考えられます。歯擦音を扱うディエッサーの担当帯域が 1.2〜3 kHz というのは、DeHarsher(中域〜高中域のキツさ担当)と役割が完全に重なってしまい、製品の説明とも噛み合いません。英語版の 3.5〜12 kHz を採るのが妥当です。

そのほかの差

数値以外にも差があります。日本語版の Delay の DOUBLER DETUNE は「0 〜100(セント)」で、英語版の「−100 〜 100(セント)」から負側が落ちています。日本語版の Delay の MS 範囲は「1-2000 ミリセカンド」で、英語版の「0 – 2000」と下限が違います。Distortion の DRIVE の注記は、英語版が「Distortion Level が0より上のとき」という条件を付けているのに対し、日本語版は条件なしで「0 に設定した場合でも、ドライブはわずかにかかります」と書いています。

英語版だけを見ていると気づけない誤りもあります。Tone Shaper の英語版は「HI MID IN/OUT は Hi セクションの経路をミュートする」「HIGH IN/OUT は Hi Mid セクションの経路をミュートする」と、2つの説明が入れ違っています。日本語版はここを「ハイ・ミッド・セクション」「ハイ・セクション」と正しく書き分けています。信号図と照らしても日本語版のほうが整合します。

両版そろって怪しいのが EQ の LP の説明です。英語版は「LP は SSL 9080 XL K のローパスフィルターに着想を得ている」と正しく始めたあと、「コントロール周囲に示された周波数の目印は Manny が選んだHP のカットオフ点である」と続けます。直前の HP の段落と同じ文が残ったものでしょう。日本語版はさらに一歩進んで、LP の見出しの下で「SSL 9080 XL K のハイパスフィルターを元に再現」と書いてしまっています。範囲(英語版 21 kHz〜1.8 kHz、日本語版 1.8kHz-21kHz)と第2章の記載は一致しているので、ローパスであること自体は動きません。

カホ

片方だけ読んでいたら、どちらかの誤植をそのまま信じていました。2つの版を並べる価値は、正解が分かることより「ここは疑うべきだ」と分かることのほうにあります。

似た製品との使い分け

同じ Waves の Signature Series でも、Manny Marroquin の6本は他とかなり性格が違います。ガイドの書式そのものに差が出ているので、そこから整理します。

楽器別に切られたシリーズのいくつかは、ガイドに Default: の行を持っています。本稿で数えた範囲では、CLA Vocals が15行、CLA Bass が15行、CLA Drums が16行、CLA Guitars が17行、Eddie Kramer Vocal Channel が17行、Eddie Kramer Drum Channel が32行、Greg Wells MixCentric が3行、Greg Wells ToneCentric が4行でした。「本人が最適化した初期値」が製品の中身なので、初期値を書く必要があるという設計です。対して Manny Marroquin の6冊は Default: が全52ページで0件。書く必要がないほど、初期値が製品の主張になっていないということです。

ただし「シグネチャー・シリーズなら必ず初期値を書く」わけではありません。同じ数え方で JJP Vocals と JJP Drums はどちらも0行でした。初期値の記載はシリーズ単位ではなく、製品ごとに違います。線がきれいに引けるのは Sensitivity のほうで、前章で挙げた10冊すべてに出てくる語が、Manny Marroquin の6冊にだけ1件も出てきません。まとめると、入力を規定レベルに合わせてから決め打ちのチェーンを通す設計に対して、Manny Marroquin の6本は「本人の道具立て」をそのまま渡す設計だと言えます。前者は素材が合えば速く、後者は自分で判断する余地が広い。どちらが欲しいかで選ぶことになります。

汎用ツールとの関係でいえば、Q10 Equalizer のようなパラメトリックEQ は周波数もQも自由に決められますが、Manny Marroquin EQ は選べる位置が20ポジション(4バンド×5点)に固定され、そのかわり1点ごとに別の実機のカーブが割り当てられているという作りです(250 Hz と 800 Hz は2つのバンドに重複して置かれているので、周波数の種類としては18になります)。細かく追い込む道具ではなく、決められた場所に決められた形で置く道具だと考えると噛み合います。コンプレッションの考え方そのものを整理したい場合は、先にコンプレッサーの基礎を読んでおくと、Tone Shaper のパラレル構成が理解しやすくなります。

よくある質問

初期値の一覧はありますか?

本稿が確認した公式ガイドには載っていませんでした。英語版6冊(全52ページ)を pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で抽出して調べたところ、Default という語は3系統とも0件。日本語版合本31ページ側にも初期値の記載は見当たりませんでした。範囲の行が86行あるのに対して、初期値の行は0行という構成です。初期状態を知りたい場合は、プラグインを開いてファクトリー・プリセットの Full Reset を読み込んで確認することになります。

Reverb に Spring モードが見当たりません

Manny Marroquin Reverb の TYPE に Spring はありません。英語版・日本語版とも記載は Hall / Room / Chamber / Plate / Space / Ambience の6種です(日本語版はここで Room を「Rom」と誤植しています)。第6のタイプを Spring と紹介している解説を見かけたら、TYPE の一覧と照らして確認してください。「スプリング・リバーブのモードを使って…」という手順は、このプラグインでは実行できません。

Reverb の Decay を秒で設定したいのですが

時間軸のコントロールは TIME で、単位は秒ではなくパーセントです。範囲は 50〜200% で、100% が選択中のリバーブ本来の長さにあたります。「2.5秒に設定する」という操作はこのプラグインではできず、選んだリバーブの素の長さを基準に伸縮させる、という考え方になります。PREDELAY のほうは 0〜500 ミリ秒で、こちらはミリ秒指定です。

Distortion の Drive を 0 にすれば原音のままですか?

いいえ。英語版ガイドの注記は「Distortion Level がゼロより上のとき、0 は歪みが皆無という意味ではなく、ドライブが最小という意味になる」です。完全に歪みを外したいなら Distortion Level 側を 0 にします。出力は Direct Level と Distortion Level の合計なので、Distortion Level を 0 にすれば Direct だけが残ります。

Tone Shaper の Width で低域が広がりません

仕様どおりです。WIDTH は Lo Mid・Hi Mid・High の3経路からのみプリフェーダーで入力を受け取ると英語版ガイドが明記しており、日本語版も「Low バンドはこのパラメーターの影響を受けません」と書いています。信号図でも Width のブロックは下3帯域にしか描かれていません。加えて WIDTH はステレオ・コンポーネント専用なので、Mono コンポーネントでは働きません。

まとめ

  • 6本はエフェクトの種類で切られている。本稿が確認した6冊のガイドには、Sensitivity の語も初期値の行も出てこない。本人の「手順」ではなく「道具立て」を渡す設計になっている。
  • 効きの向きを間違えやすい箇所が3つある。Reverb の TIME は100%が基準、Triple D の Threshold は上げるほど深く効く、Distortion の Distortion Level は歪みの量を変えない。
  • 英語版と日本語版に誤植が1つずつある。EQ の FREQ 3 は日本語版(800 Hz)が正しく、Triple D の DeEsser 帯域は英語版(3.5〜12 kHz)が正しい。
カホ

初期値が書かれていない製品は、範囲と信号図を読むしかありません。逆にいえば、その2つを押さえれば迷う場所はほとんど残らない、ということでもあります。

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