ねこみこドールズのメンバーが、自分の担当パートのミックスを困った場面から順番に片づけていく連載です。第3回はベースとビートメイク担当のミオ。テーマは「低音が団子になる」です。
ミオ低音がもごもごする。ベースを上げたらキックが消えて、キックを上げたらベースが消える。……そのくせスマホで聴くと、どっちも聞こえへん。
低音は、ミックスでいちばん取り合いが起きる場所です。ベースとキックは主成分の帯域がほぼ重なっているので、両方を強くすれば必ず団子になります。解決策は、どちらかを我慢させることではなく、住み分けさせることです。
この記事では、低音が濁る2つの原因・住み分けの3手順・スマホで低音を聞かせる考え方までをまとめます。
なぜ低音は団子になるのか
原因1:同じ帯域で殴り合っている
キックもベースも、エネルギーの大半が50〜100Hzに集中している。ここを両方とも譲らないまま音量を上げると、輪郭が溶けて一塊の低い唸りになる。
原因2:鳴らない帯域にエネルギーを使っている
30Hz以下は、一般的なスピーカーやイヤホンではほとんど再生されない。それでもメーターは振れるので、聞こえない音のせいで音量の天井だけが下がっている。
方法1:どちらが土台かを先に決める
技術的な処理の前に、決めることがあります。この曲の低音の主役はキックか、ベースか。ここが決まらないまま両方を立てようとするのが、団子のいちばんの原因です。
- ジャンルから逆算します。ロックやポップスはベースが土台でキックが句読点、ダンス系やヒップホップはキックが主役でベースが supporting、という配分が一般的です。
- 主役を決めたら、相手側で主役の帯域を譲ります。キックが主役なら、ベースの60〜80Hzあたりをイコライザーで1〜3dB削ります。
- ベースが主役なら逆に、キックの同じ帯域を削り、キックはアタック(3〜5kHz付近)で存在を主張させます。
- 削ったほうの音量は触らずに確認します。削るだけで通ることが多く、そこで上げてしまうと元の木阿弥です。
方法2:要らない低域を全部落とす
ここが今回いちばん効きます。低音がすっきりしない原因の多くは、実はベースでもキックでもないトラックが低域を溜め込んでいることだからです。
- ベースに30〜40Hzのハイパスフィルターを入れます。音程感は失われず、濁りだけが減ります。
- キックにも20〜30Hzのハイパスを入れます。ここは再生されないうえ、リミッターだけを反応させる無駄なエネルギーです。
- 低音の仕事がない全トラックに100〜150Hzのハイパスを入れます。ギター、キーボード、ボーカル、シンバル。これが最大の効き所です。
- 入れ終わったら全体を聴きます。「痩せた」と感じても、低音の輪郭は確実にはっきりしているはずです。



……書と一緒やな。全部の線を太く書いたら、何も読めへん。余白を作るから、字が立つ。
方法3:帯域で分けきれないなら、時間で譲り合う
EQで削っても両立しない場合、同時に鳴らさないという手があります。サイドチェインを使って、キックが鳴った瞬間だけベースを一時的に下げる方法です。
- ベースにコンプレッサーを挿し、サイドチェイン入力にキックを送ります。
- 下げ幅は1〜3dBから。ロックやポップスでは「言われないと気づかない」量が正解です。
- リリースはキックの余韻に合わせます。長すぎるとベースが遅れて戻り、ポンピングとして目立ちます。
- ダンス系ではこれを効果として深くかけ、あえて聞かせる使い方もあります。ジャンルで正解が変わる数少ない処理です。
スマホで低音を聞かせるには「倍音」を足す
スマホやノートPCのスピーカーは、そもそも100Hz以下をほとんど鳴らせません。ここで低音を上げても解決しないのは、再生できない音を大きくしているだけだからです。
対処は、低音そのものではなくその上に乗る倍音を足すことです。人間の耳は、倍音の並びから元の低い音程を脳内で補って聞く性質があります。ベースにサチュレーションを薄くかけると、低音が鳴らない環境でもベースラインの動きが聞き取れるようになります。かけすぎると歪みとして聞こえるので、ごく薄くが基本です。
症状別・最初に試すことの早見表
| 症状 | まず試すこと | 目安 |
|---|---|---|
| 低音がもごもごする | 方法2(全トラックのハイパス) | 低音の仕事がないトラックに100〜150Hz |
| ベースを上げるとキックが消える | 方法1(役割分担)+方法3 | 主役でないほうを1〜3dB削る |
| 音圧が上がらない | 30Hz以下のカット | ベース30〜40Hz/キック20〜30Hz |
| スマホでベースが聞こえない | 倍音を足す | サチュレーションをごく薄く |
| ポンピングが目立つ | サイドチェインのリリース調整 | 下げ幅を1〜3dBまで戻す |
使う道具(DAW付属でどこまでできるか)
今回の3手順は、専用プラグインを一つも買わずに全部できます。低音処理は道具より順番で決まる領域です。
| やること | DAW付属での代替 | 専用機を使うなら |
|---|---|---|
| 不要な低域を落とす | 付属EQのハイパスで完結 | 特になし。ここは付属で十分 |
| 役割分担のカット | 付属EQで足りる | 周波数を目で確認できるアナライザー付きEQ |
| サイドチェイン | 主要DAWの付属コンプはサイドチェイン入力に対応 | 掛かり方を細かく作れる専用コンプ |
| 倍音を足す | 付属のサチュレーターやテープ系エフェクト | Vitaminのような帯域別エンハンサー |
よくある質問
Q. ハイパスを入れると音が痩せませんか?
単体で聴くと確かに痩せて感じます。しかしオケの中では逆に輪郭がはっきりして、前に出ます。判断はソロではなく必ず全体で行ってください。ソロで気持ちよく残した低域が、全部合わさって団子になります。
Q. サイドチェインはロックでも使いますか?
使います。ただしダンス系のように聞こえる量ではなく、1〜3dBほどの「気づかれない」深さです。キックの一瞬だけベースが道を空けるので、両方の輪郭が保たれます。効果として聞かせたいのか、整理として使うのかで深さが変わります。
Q. サブベースは入れたほうがいいですか?
ジャンル次第です。入れる場合も、鳴らない30Hz以下まで伸ばす必要はありません。多くの環境で体感できるのは40〜60Hzあたりなので、そこを狙って作り、それより下はカットするほうが実用的です。



ふふ、ミオさんの言うとおりですね。文章も同じで、全部の文を強調すると、どれも強調にならないんです。何を主役にするか決める。それは技術ではなく、書き手が何を伝えたいかという話なんですよ。
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