Waves CLA EchoSphereの公式ユーザーガイドは全9ページで、初期値を書いた行が1行もありません。「Default:」という語が全文で0件です。代わりに範囲を示した行が6行あり、そのうち2行は同じ倍率の3値。この記事は、その薄いガイドから読み取れることだけで、この製品の設計を組み立て直します。
想定読者は、CLA Epicを持っていてその中のEchoSphereをまだ使いこなせていない人と、導入を検討している人です。この製品は公式ページが「単体では販売していない」と明記しているので、実質的にCLA Epicの一部として手に入ります。扱うのは、スラップディレイとプレートリバーブを直列にも並列にもできるルーティングの中身、テープ速度の選択がEQを連れてくる仕組み、そしてこのガイドの一部の文がどこから来たのかです。なお、同じ Chris Lord-Alge の名を冠する製品群の入り口として、Signature 系の CLA シリーズ6本(Vocals・Guitars・Bass・Drums・Unplugged・Effects)の概要と使用場面をまとめた入門側の記事 【Wavesプラグイン】「CLAシリーズ」の概要と使用場面、使い方を解説 があります。
参照した一次資料は、Waves公式のCLA EchoSphereユーザーガイド(英語・全9ページ)、公式製品ページのTech Specsタブ、日本の公式代理店ページ、そして比較のために全文を突き合わせたCLA Epicのユーザーガイド2版です。数値はすべてこれらの公式資料の記載に由来し、裏が取れない項目は書きません。編集部は本製品を所有していないため、使用感の描写はしません。
カホ初期値が書いていないガイドは珍しくありませんが、範囲まで6行しか無いとなると別の話です。書かれていない場所を数えるところから始めます。
この記事でわかること
- PlateとOutputという2つのスイッチが直列・並列・両方を決める仕組みと、ガイドが説明していない4つ目の組み合わせ
- VSOでテープ速度を選ぶとEQカーブも一緒に載り、そのあとディレイタイムを動かしてもEQは動かないこと
- このガイドの一部の文が、CLA Epicのガイドと一字一句同じで、EchoSphereに無いコントロールを指していること
- ガイドが書いている6つの範囲と、ガイドが黙っている項目のうち公式技術表で埋まるもの
CLA EchoSphereとは|何を解決する製品か
ガイド p.2 の定義はこうです。EchoSphereはミックスに空間を足し、楽器に生気を与え、全体の奥行きを増す。古典的なスラップディレイにプレートリバーブを足して、より太く豊かな音を作る。処理は並列にも直列にもできる。そしてシンプルで汎用性のあるモジュレーターが、楽器がミックスの中で埋もれないよう手助けする——。公式製品ページのタグラインはもっと端的で、「スラップバックエコー付きのプレートリバーブ、リードボーカル向けに最適化」です。
設計の由来もガイドが書いています。ミックスエンジニアのChris Lord-Algeが「ディレイを、ちょうどよいリバーブに繋いで、それを変調させると、豊かで刺激的なトラックになる」と早くから見つけていた、という説明です。続けて「プラグインの設計はChrisのロックサウンドが出発点であって、後から足した調整ではない。すべてのフェーダーをゼロにしても、彼の音は働いている」と書かれています。
単体では売られていない。だから記事の前提が変わる
waves.comの製品ページのデータには、Included in CLA Epic and other select bundles. という注記が入っています。日本の公式代理店ページはもっとはっきり書いていて、「CLA EchoSphereは CLA Epic に含まれています。単体では販売しておりません。」です(2026年9月時点)。
価格の扱いもこれに従います。wavesjapan.jpのCLA EchoSphereのページには、他製品のページにある定価の表示そのものがありません。同じ手順で開いたCLA Effectsのページには定価が出るので、取得に失敗したのではなく、このページには最初から価格が置かれていない、と読めます。したがってこの記事は価格を書きません。公式製品ページの「Included In」タブが挙げているのは、CLA Epic、Waves Essential/Waves Ultimateの各サブスクリプション、そしてMercuryなど複数のバンドルです。収録構成は改編されうるので、現在の内容は公式ページで確認してください。
ガイドが黙っている項目を、公式の技術表が埋める
このガイドには、同じCLAシリーズの他のガイド(CLA Effectsなど)が持っている「Components」の節がありません。component という語が全9ページで0件です。同じく mono も stereo も本文に出てきません。つまりガイドだけを読んでいると、モノラルのトラックに挿せるのかどうかが分かりません。
そこは公式製品ページのTech Specsタブが埋めています。チャンネル構成の欄はStereoとMono-to-Stereoの2つが有効で、Mono(モノ入力・モノ出力)は無効。対応サンプルレートの欄は96 kHzで、全製品共通の注記として「Wavesの全プラグインは44.1 kHzと48 kHzに対応し、多くはそれ以上にも対応する」が添えられています。収録バージョンの欄はV12からV17までです。
レイテンシーも同じ形です。ガイド9ページには latency という語が1件も出てきませんが、公式製品ページのLatencyタブには値が載っています。44.1 kHzと48 kHzが0サンプル、88.2 kHzと96 kHzが99サンプル。表には「各プラグインが生むレイテンシーをサンプル数で示す」という単位の断りが添えられています。
ガイドは1版だけ。同梱ファイルと配布中のファイルが同一だった
版の確認結果も書いておきます。手元の同梱PDFと、WavesのCDNが配布しているPDFは、sha256が完全に一致しました(どちらも 5e995720c1e0ec…)。公式製品ページのJSONに埋まっている manualPDF フィールドもこのファイルを指しています。接尾辞 -v1 / -v2 / -v3 / -v16-update / -1 / -2 はすべて403でした。取得手順が働いていることの対照実験として、別版があると分かっているV-Compを同じ手順に通し、v-comp-v16-update.pdf が10,214,848バイトで返ることを確認しています。つまりこの製品については、参照できる版が1つしかありません。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
2つのスイッチ、3つの説明、そして4つ目の空白
この製品の中心はルーティングパネルです。Slapのコントロールパネルにだけ付いていて(Plate側には無い)、PlateとOutputという2つのオン/オフスイッチと、それぞれの送りの数値が並びます。ガイド p.6 の説明を並べます。
| Plate | Output | ガイドの記述 |
|---|---|---|
| オン | オフ | Slapの出力がPlateリバーブの入力へ送られる。これが直列処理 |
| オフ | オン | Slapの信号がプラグインのwet/dryミキサーへ直接送られる。これが並列処理。このときPlateプロセッサーの入力はプラグイン入力であって、Slapではない |
| オン | オン | Slapの出力はPlateにも、プラグイン出力にも送られる |
| オフ | オフ | ガイドに記述が無い |
スイッチが2つある以上、組み合わせは4通りあります。ガイドが説明しているのはそのうち3通りで、両方オフの状態については何も書いていません。
ここで効いてくるのが、クイックスタート(p.3)の一文です。「Slapがミュートされていて、しかもPlateにだけルーティングされているときは、ウェット信号が出ない」。もしPlateが常にプラグイン入力を受けているのなら、Slapをミュートしてもプレートリバーブは鳴るはずです。鳴らないと書いてあるということは、Plateの入力は固定ではなく、ルーティングスイッチによって切り替わっていると読むのが自然です。並列側の説明にある「Plateの入力はプラグイン入力であって、Slapではない」という但し書きは、並列の配線を説明した文であって、常時そうだという宣言ではない、ということになります。
ただし本稿が参照した全9ページのガイドに、信号の流れを示すブロック図はありません(diagram という語も0件です)。上の読み方は、p.6の3つの記述とp.3のミュートの注意書きを重ねて出したものです。ガイドが図で示しているわけではない、という但し書きを付けておきます。
もう1つ、方向についての明言があります。「Plateの出力は常にプラグイン出力へ送られる。Slapへ戻すことはできない」。リバーブの残響をディレイに食わせて延ばす、という配線はこの製品では作れません。信号はSlap→Plateの一方通行です。
送りの数値については、クイックスタートが「PlateへとOutputへの送りは上下の矢印で調整する」と書いているだけで、範囲も単位も書かれていません。誌面のスクリーンショットには 4.92 / 4.24 / 2.20 / −0.34 という値が写っていて、マイナスの値も取ることが分かりますが、これは図から読めることであって、ガイドが範囲として明示しているわけではありません。
VSOは「テープ速度」を選ぶ。EQカーブがくっついてくる
Slapのディレイタイムは、数値で入れることも、テープ速度で選ぶこともできます。後者がVSOで、ガイドの定義は「レコーダーの録音ヘッドと再生ヘッドの間をテープが通るときに生じる遅れをシミュレートする」。対応表はこうです。
| テープ速度 | ディレイタイム |
|---|---|
| 7.5 ips | 332 ms |
| 15 ips | 166 ms |
| 30 ips | 83 ms |
速度が倍になれば時間は半分。ヘッド間の距離が一定なら当然そうなる、という数字が並んでいます(この対応表は2段組で組まれているため、抽出テキストだけで判断せず、該当ページを画像化して行の対応を目視で確認しました)。
ここからが、この製品でいちばん見落とされやすい仕様です。ガイド p.5 はこう書いています。
テープ速度(VSO)を選ぶと、対応するEQカーブがバックグラウンドで読み込まれる。このディレイとEQの組み合わせが、独特のCLAサウンドを作っているものの一部だ。ディレイは手で調整してもよいし、Syncをオンにしてホストテンポの音価を割り当ててもよい。EQカーブは、新しいテープ速度が選ばれるまで変わらない。
つまりEQカーブが追いかけているのはディレイタイムではなく、VSOの選択そのものです。7.5 ipsを選んでから、ディレイタイムを手で83 msに書き換えても、乗っているEQは7.5 ips用のまま。逆に、30 ipsを選んでからSyncで4分音符に切り替えても、EQは30 ips用のままです。時間だけを動かしても音色は動かない——ここが「テープ速度で選ぶ」という言い方の実質的な中身です。
ガイドは、このEQカーブが何Hzをどう動かすものなのかを一切書いていません。EQ という語はこの製品のガイド全体で3件しか出てこず、3件ともこの段落の中にあります。カーブの中身は公式資料から書けないので、この記事にも書きません。
なお、テープの速度変化を扱うWaves製品としてはH-Delayもありますが、あちらのガイド(p.4)が説明しているのは別の現象です。H-Delayは「モーターの速度を変えるとすでに録音された部分が違う速度で再生されるのでピッチが変わり、新しい速度で録音された部分が再生ヘッドに達すると元に戻る」という過渡的な挙動をディレイタイムコントロールで再現しています。EchoSphereのVSOは3つの固定速度を選ぶスイッチで、選択のたびにEQカーブが差し替わる。同じ「テープ速度」でも、モデル化している対象が違います。
このガイドの一部は、CLA Epicのガイドと同じ文でできている
VSOの真下にSyncの説明があります。原文を訳すとこうです。「Syncは各Tapのディレイタイム値を設定する。EchoSphereは常にホストと同期している。ドロップダウンメニューで音価を設定する。ホストから独立したディレイ値を入れたい場合はSyncをオフにする」。
4つの文のうち、2文目と4文目が正面からぶつかっています。常に同期しているのに、オフにできる。さらにクイックスタート(p.3)は「EchoSphereをDAWとどう同期させたいかを設定する」と書き、誌面のスクリーンショットではSyncの脇に OFF のバッジが点いた状態で1/16トリプレットが選ばれています。sync という語を大文字小文字を無視して全9ページから拾うと5か所で、そのうち3か所は「切り替えられる」前提の書き方、1か所がコントロールの定義文、そして1か所だけが「常にホストと同期している」と言っています。
もう一つ引っかかるのが「各Tap」という言い方です。EchoSphereのSlapパネルにあるのはDelay Timeが1つで、コントロール一覧(p.4の13項目)にもSlapパネルの解説(p.5)にも、Tapという名前のコントロールは出てきません。ところがこのガイドは tap / taps という語を全9ページで4回使っていて、そのうち3回は「タップが複数ある」前提の書き方です——「for each Tap」、そしてp.8の「Modulating the taps produces variation in the delay times, which changes the pitch of each tap(タップを変調するとディレイタイムに変動が生まれ、各タップのピッチが変わる)」。残る1回はフィードバックの説明にある「the tap signal」で、これは単数です。
出どころは、姉妹製品のガイドを開くと分かります。CLA Epicのユーザーガイドには、まったく同じ構文の文が2か所あります。「SYNC sets the delay time value for each Tap. Epic is always synced with the host. Use the drop-down menu to set musical subdivision. Turn Sync off to enter delay values that are independent of the host.」——製品名の部分だけが違い、あとは一字一句同じです。そしてCLA EpicにはTap 1とTap 2という2本のタップが実在し、それぞれ左右のチャンネルに割り当てられています。「各Tap」という言い方は、Epic側では正しく、EchoSphere側では指すものがありません。



矛盾している文を見つけたとき、まず疑うのは「その文が本当にこの製品のために書かれたのか」です。今回は隣の製品のガイドに元の文がありました。
共有されている文はほかにもあります。出力段のWet/Dry Mixの注記——「Chrisのシグネチャーサウンドを実現するために、ウェット信号は処理のために内部で44.1に落とされ、その後セッションのサンプルレートに戻される」——も、両ガイドに一字一句同じ形で載っています(この文には単位の誤植があり、原文は 44.1 Hz と印字されています。サンプルレートの文脈なのでkHzの誤りと読むのが自然ですが、こちらで書き換えず原文のまま扱います)。この記事にとって意味があるのは単位よりも中身のほうで、ウェット側だけがセッションのサンプルレートから切り離されて、固定のレートで処理されると公式が明言している点です。公式技術表がこの製品の対応レートを96 kHzまでとしていることと合わせて読むと、96 kHzのセッションでもウェット側は同じレートでは走っていない、ということになります。
2つのガイドの近さは、PDFのタイムスタンプにも出ています。EchoSphereのガイドは作成日時が2020年10月28日 15:09:29、CLA Epicの旧版ガイドは同じ日の13:44:38。1時間25分違いで打ち出されています。さらに、いま配布されている両者の版は更新日時が2022年6月19日 16:57:13(EchoSphere)と16:57:16(Epic)で、3秒違いです。同じ日に続けて作られ、その後も同じ作業でまとめて触られている、という並びになっています。
もっとも、2つのガイドが同じ形をしているわけではありません。現行のCLA Epicガイドは全20ページで、目次と、Wavesアカウントやサポートページを案内するあいさつのページを持っています(2020年10月版にあった「Waves Artist Signature Series」の節のほうは、現行版では見当たりません)。EchoSphereのガイドは全9ページで、目次もあいさつ文もサポート案内もありません。並んでいる見出しは EchoSphere(導入)/Quick Start/Controls/Slap Delay/Plate Reverb/Modulator/Output Section/WaveSystem Toolbar だけです。
Modulateは1つのノブで2つの軸を動かす
クイックスタートがModulationを「EchoSphereの秘密兵器」と呼び、「変調させたくないトラックでも、少し変調をかけたほうが良く聞こえる」と書いています。そのノブの読み方が、この製品でいちばん独特です。
ノブの外周は4つの区画に分かれていて、時計回りに進むほど各区画の変調の深さが大きくなります。そして区画の中での位置が、変調の速さです。表示は1〜100の通し番号で、ガイドの対応表はこうです。
| 表示値 | 深さ | その区画内での速さ |
|---|---|---|
| 1〜25 | 低 | 1〜100 |
| 26〜50 | やや低 | 1〜100 |
| 51〜75 | やや高 | 1〜100 |
| 76〜100 | 高 | 1〜100 |
方向を取り違えないよう、ガイドが挙げている2つの例をそのまま置きます。「第1区画の上のほうに合わせると、浅い変調で速いレートになる」「マーカーが最上位区画の下のほうにあると、深くて遅い変調になる」。区画をまたぐと深さが変わり、区画の中で上に行くほど速くなる、という読み方です。この2つの例は表示値でいうと25付近(速い)と76付近(遅い)にあたるので、ノブを右に回していけば深さは段階的に増える一方、速さは区画を越えるたびに下端へ戻ってまた上がっていくことになります。
ここには1つ、ガイド内で揃っていない箇所があります。本文は「変調のレートは各区画の中で0〜100」と書き、直後の対応表は4行とも「rate: 1〜100」と書いています。下限が0か1かは決められないので、上の表は対応表の値を採り、下限がどちらかには踏み込みません。
もう1点、ガイドの中で読み方が定まらない箇所があります。Modulatorの節の書き出しは「モジュレーターはプラグインの出力に動きを足す」で、プラグイン全体に1つあるように読めます。ところが同じ節の中ほどは「1つのロータリーコントロールが1つのプロセッサーに対して変調のレートと深さを設定する」と書いていて、こちらはプロセッサーごとに1つあるように読めます。誌面ではSlapのパネルにもPlateのパネルにもMOD値が表示されており、コントロール一覧のほうは「Modulation control」と単数で1項目です。SlapとPlateが別々の変調を持つのかどうかを、ガイドは明言していません。
Plateだけが数値で書かれている。ただし誌面と本文が合っていない
ガイドが範囲を書いている6行のうち、4行がプレートリバーブに集中しています(RT LowとRT Highが同じ倍率なので、値としては3種類)。プリディレイが 0 ms〜1000 ms、リバーブタイム(RT)が 0.1秒〜20.0秒、そしてRT LowとRT Highが倍率で x0.25 / x1 / x4。リバーブタイムの定義も明示されていて、「音圧が60 dB下がるまでの時間で、これが実質的に残響の終わり」です。dB という単位がこのガイドに出てくるのは全9ページで2か所しかなく、そのうち1つがこの60 dBです(もう1つは出力メーターの範囲)。
RT LowとRT Highは、リバーブタイムに対する相対倍率です。RT Lowを高くすると低域の減衰が遅くなり、ガイドの言葉では「より温かく、より部屋らしい空間」になる。低くすると「粒立ちがはっきりした空間」の方向。RT Highは高くするほどテールが明るくなります。
ここで注意が必要です。本文が挙げている3値と、同じページの誌面に写っている値が一致していません。ガイド p.7 のプレートパネルのスクリーンショットには RT LOW: X 1.5、RT HIGH: X 2 と表示されています(該当箇所を700dpiで拡大して目視しました。LED風の書体で消灯した桁が薄く残るため、RT High側は小数点以下まで読み切れません)。1.5も2も、本文の x0.25 / x1 / x4 には含まれていません。画面図は初期値の証拠になりませんし、「本文に無い=そういう値を取れない」とも言えないので、この記事では本文の3値をガイドの記載として引き、図とは食い違っているという事実だけを併記します。



本文と図が食い違ったとき、どちらかに寄せて書くのがいちばんまずい対応です。両方見せて、判断材料を残すほうが役に立ちます。
もう1つ、細かい表記のずれがあります。RT Lowの説明は「Reverb Timeの値に対して相対的に」と書いているのに、RT Highの説明だけが「Decay Timeの値に対して相対的に」となっています。decay という語はこのガイドに3回出てきますが、そのうち2回は「decay time of low / high frequencies」という小文字の説明で、コントロール名のように大文字で始まる「Decay Time」はこの1か所だけです。この製品のコントロール一覧に載っている名前はReverb Time(RT)のほうで、同じ倍率の対を説明する2文で基準の呼び方が揃っていません。
全パラメーター
以下はすべて公式ユーザーガイド(全9ページ)の記載です。このガイドには「Default:」で始まる行が1行もありません。pypdf・pdfminer.six・PyMuPDFの3系統で抽出して数え、3系統とも0件でした。したがって初期値の列は作れません。「範囲の記載なし」と書いた行は、ガイドがその項目の範囲を書いていないという意味です。
| コントロール | 役割 | ガイドが書いている範囲 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 入力フェーダー(+LED) | 入力ゲイン。LEDが緑(たまに赤)=良好、赤が居座る=過大 | 範囲の記載なし(誌面の目盛りは +12〜−12) | p.3・p.4 |
| Muteパネル | SlapとPlateのミュート状態の表示 | — | p.3・p.4 |
| Solo/Mute(各FX) | ロック式のソロとミュート | — | p.3・p.4 |
| HP/LP(各FX出力) | ノイズを削るためのハイパス/ローパス。値は触れたときだけ表示 | 範囲の記載なし | p.3・p.4 |
| Delay Time(Slap) | スラップが立ち上がるまでの時間 | 0 ms 〜 5000 ms | p.5 |
| VSO(Slap) | テープ速度でディレイタイムを選ぶ。EQカーブが連動 | 7.5 ips=332 ms/15 ips=166 ms/30 ips=83 ms | p.5 |
| Sync(Slap) | ホストテンポの音価でディレイタイムを指定 | ドロップダウンで音価を選ぶ(選択肢の一覧は記載なし) | p.5 |
| Feedback(Slap) | タップ信号を入力へ戻す量。繰り返して減衰するエコーになる | 範囲の記載なし(誌面の表示は%) | p.5 |
| Routing:Plate(Slap) | Slapの出力をPlateの入力へ送る=直列 | オン/オフ(送りの数値は上下矢印で調整・範囲の記載なし) | p.3・p.6 |
| Routing:Output(Slap) | Slapをwet/dryミキサーへ直接送る=並列 | オン/オフ(同上) | p.3・p.6 |
| Slap出力フェーダー | Slapの出力レベル | 範囲の記載なし(誌面の目盛りが2枚で食い違う。後述) | p.4・p.6 |
| Pre-Delay(Plate) | 原音と残響の立ち上がりの時間差。長すぎると不自然になるとガイドが注記 | 0 ms 〜 1000 ms | p.7 |
| Reverb Time/RT(Plate) | 音圧が60 dB下がるまでの時間 | 0.1秒 〜 20.0秒 | p.7 |
| RT Low(Plate) | 低域の減衰時間。RTに対する倍率。高いほど温かく広い | x0.25/x1/x4 | p.7 |
| RT High(Plate) | 高域の減衰時間。RTに対する倍率。高いほどテールが明るい | x0.25/x1/x4 | p.8 |
| Plate出力フェーダー | Plateの出力レベル | 範囲の記載なし | p.3・p.4 |
| Modulate | 1つのノブで深さと速さ。区画=深さ、区画内の位置=速さ | 表示1〜100(4区画。本文は速さを0〜100、表は1〜100と表記) | p.3・p.8 |
| Wet/Dry Mix | 処理側と原音側の比率。ウェット側は内部で一度固定レートに落ちて戻る | 範囲の記載なし | p.3・p.9 |
| 出力フェーダー | プラグインの出力レベル | 範囲の記載なし(誌面の目盛りは +12〜−12) | p.4・p.9 |
| 出力メーター | 出力レベルの表示。赤が居座るなら下げる | −infinity 〜 +12 dB | p.9 |
コントロール一覧のページ(p.4)は、番号を振って13項目を挙げています。上の表と項目が一致しないのは、一覧が「Slap or Plate control panel」とひとまとめにしている中身(Delay Time・VSO・Sync・Feedback/Pre-Delay・RT・RT Low・RT High)を別行に開き、逆に「Active control panel select」「Fader value indicator」のような表示・切り替えの項目を上の表から落としているためです。
Slap出力フェーダーの「誌面の目盛りが2枚で食い違う」について補足します。プラグイン全景を写したp.4の図では、SlapとPlateの出力フェーダーの目盛りが 10/5/0/−5/−10/−20/−30/−40/−Inf というdBらしい並びで、値表示は −18.7(Slap)と −3.35(Plate)。ところがSlapチャンネルだけを拡大したp.6の図では、同じフェーダーの目盛りが 10/8/6/4/2/0/−2/−4/−6/−8/−10 という等間隔の並びで、値表示は 6.29 です。同じガイドの中で、同じフェーダーが2種類の目盛りで描かれています。本文はこのフェーダーの範囲を書いていないので、どちらが現行の仕様なのかを公式資料から確定することはできません。
公式製品ページのTech Specsタブから取れる情報も、あわせて置いておきます(2026年9月時点)。
| 項目 | 公式技術表の記載 |
|---|---|
| チャンネル構成 | Stereo と Mono-to-Stereo(Monoは無効) |
| 対応サンプルレート | 96 kHz(全製品共通の注記として44.1 kHzと48 kHzへの対応) |
| 収録バージョン | V12〜V17 |
| 単体販売 | 無し。CLA Epicほかに収録と明記 |
| レイテンシー | 44.1 kHz/48 kHz=0サンプル、88.2 kHz/96 kHz=99サンプル(Latencyタブ・単位はサンプル) |
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 触るコントロール | 起点と注意 |
|---|---|---|
| ディレイをリバーブに通す(直列) | RoutingのPlateをオン、Outputをオフ | クイックスタートがこの組み合わせを「直列」と定義 |
| ディレイとリバーブを並べる(並列) | Plateをオフ、Outputをオン | このときPlateの入力はプラグイン入力だとガイドが明記 |
| 両方同時に出す | PlateとOutputを両方オン | Slapは出力にもPlateにも送られる |
| 入力を合わせる | 入力フェーダー | LEDが緑、たまに赤が入る程度。赤が居座るなら大きすぎ |
| テープらしい間にする | VSOで 7.5/15/30 ips | EQカーブも同時に載る。以後ディレイタイムを動かしてもEQは変わらない |
| 曲のテンポに合わせる | Syncをオンにして音価を選ぶ | VSOを選び直さないかぎりEQカーブは前のまま |
| ホストから切り離した時間にする | Syncをオフにして時間を直接入力 | 0〜5000 ms。ただし「常に同期している」という記述もある(本文参照) |
| 繰り返しを増やす | Feedback | 範囲の記載なし。繰り返して減衰するエコーになる、とだけ定義 |
| 残響の前に間を作る | Pre-Delay | 0〜1000 ms。長すぎると不自然になるとガイドが注記 |
| 残響の長さを決める | Reverb Time | 0.1〜20.0秒。60 dB減衰までの時間という定義 |
| 温かく・部屋らしくする | RT Lowを上げる | 下げると粒立ちがはっきりする方向。RTに対する倍率 |
| テールを明るくする | RT Highを上げる | 高いほどリバーブテールが明るい。RTに対する倍率 |
| 浅く速い揺れ | Modulateを第1区画の上のほうへ | ガイドが例として挙げている位置 |
| 深く遅い揺れ | Modulateを第4区画の下のほうへ | 同じくガイドの例 |
| ノイズを削る | 各FXのHP/LP | 範囲の記載なし。値は触れているあいだだけ表示される |
| 片方だけ聴く | 各FXのS(ソロ)/M(ミュート) | ロック式。ミュート状態は横のMuteパネルに出る |
| ウェットが出ない | SlapのミュートとRoutingを確認 | SlapがミュートかつPlateにだけ送られていると、ウェット信号が出ない |
| 出力が赤い | 出力フェーダーを下げる | 入力が大きすぎないか、SlapとPlateで大きく増幅していないかも確認せよ、とガイドが指示 |
この表に「ボーカルならPre-Delayを30 ms」のような具体値が無いのは、ガイドにその記載が無いからです。公式が手順として指定しているのは、入力を合わせること、Slapを調整すること、信号をルーティングすること、Plateを調整すること、変調すること、そして試聴して詰めること——クイックスタートの6項目までです。数値の正解を出さない代わりに、公式製品ページは90を超えるプリセットが収録されていることを掲げています。
似た製品との使い分け
まず親にあたるCLA Epicとの関係です。Epicのガイド(全20ページ)が説明しているのは、4つのディレイ(Tape/Throw/Slap/Crowd)と4つのリバーブ(Plate/Room/Hall/Space)を、ルーティングパネルで組み合わせる構成。EchoSphereはスラップ1つとプレート1つで、組み合わせの自由度をルーティングの2スイッチまで削ってあります。広さのEpic、集中のEchoSphereという分担で、しかも後者は前者に収録されているので、どちらかを選ぶ関係ではありません。Epicを持っているなら、迷ったときに開くのがEchoSphereだ、という位置づけになります。
同じCLAの名前が付いていても、2010年のCLA Artist Collection(CLA VocalsやCLA Effectsなど)とは操作の考え方がまったく違います。あちらは各フェーダーが ±10 という無単位の目盛りで、隣のColorセレクターで中身を切り替える方式。EchoSphereのガイドは Color という語を全9ページで1回しか使っておらず、それも「プレートリバーブは色と明るさを足すのに使われてきた」という一般論の中の色です。セレクターで色を選ぶ製品から、ミリ秒と秒と倍率で書く製品へ——同じエンジニアの名前を冠していても、10年の間に設計の言語が入れ替わっています。
ディレイ単体としての性格も比べておきます。H-Delayのガイドはディレイタイムの範囲を 1〜3500 ms とし、MS/Host/BPMの3つのSyncモードを持ちます。EchoSphereのSlapは 0〜5000 ms とより長く取れる一方で、モードは音価か直接入力かの2択で、しかもテープ速度を選ぶと音色まで一緒に決まる。時間を細かく詰めたいならH-Delay、CLAの組み合わせをそのまま借りたいならEchoSphere、という分かれ方です。
リバーブ側も同じ構図です。Renaissance Reverbのガイドはリバーブタイプの一覧にPlate 1とPlate 2を並べていて、プリディレイには負の値まで用意されています(原音側を遅らせる作りだと書かれています)。EchoSphereのプレートは1つで、触れるのはプリディレイ・リバーブタイム・低域と高域のダンピング。空間そのものを設計したいならR-Verb、決まった1つのプレートを速く出したいならEchoSphere、という使い分けになります。
よくある質問
初期値がどこにも書いていないのですが
ガイドに書かれていません。全9ページを3系統のPDF抽出で調べて、「Default:」で始まる行は0件でした。範囲を書いている行も6行しかありません。公式が用意している出発点はプリセットのほうで、製品ページは90を超えるプリセットが収録されていると書いています。ガイドが数値の正解を示していない以上、この記事も初期値を書きません。
単体で買えますか
公式の記載では買えません。waves.comの製品ページには「Included in CLA Epic and other select bundles.」という注記があり、日本の公式代理店ページは「CLA EchoSphereは CLA Epic に含まれています。単体では販売しておりません。」と書いています(いずれも2026年9月時点)。収録構成は改編されうるので、最新の状況は公式ページで確認してください。
Slapのフェーダーを上げてもウェットが聞こえません
ミュートとルーティングの組み合わせを確認してください。ガイドは「SlapがミュートされていてPlateにだけルーティングされているときは、ウェット信号が出ない」と明記しています。ミュートとソロはロック式で、状態は横のMuteパネルに表示されます。Wet/Dryの位置も同時に確認してください。
ディレイタイムを変えたら音色も変わりますか
変わりません。ガイドは「EQカーブは、新しいテープ速度が選ばれるまで変わらない」と書いています。時間だけを手で変えても、Syncで音価に切り替えても、乗っているEQカーブは最後に選んだVSOのものです。音色ごと変えたいなら、VSOを選び直してください。
まとめ
- PlateとOutputの2スイッチが直列・並列・両方を決める。ガイドは3通りを説明し、両方オフには触れていない。信号はSlap→Plateの一方通行で、逆流はできないと明記されている
- VSOはディレイタイムだけでなくEQカーブも切り替える。EQが動くのはVSOを選んだときだけで、時間を手で動かしても音色は動かない
- 全9ページのガイドを3系統のPDF抽出で数えると、「Default:」で始まる行は0件。範囲を書いている行は6行で、そのうち4行がプレートリバーブに集中している



配線を決めて、テープ速度を選ぶ。この2つで音の骨格は決まります。あとはModulateをほんの少し足すだけです。





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