Waves MDMX Distortion Modules は1本のプラグインではありません。公式ユーザーガイド p.4 が「MDMX は Screamer・Overdrive・Fuzz という3つの別々のプラグインを含むツールキットだ」と定義しており、全30ページのガイドは3本それぞれに章を割いています。ところがその3章は、同じ機構を説明しながら文言が揃っていません。たとえば同じ Punch コンプレッサーを、p.13 は「ニー・アタック・リリースの設定からなる3段のプリセット」と書き、p.28 は「調整可能なニーとリリースタイムを持つ」と書きます。アタックが片方にしか出てきません。この記事では、その30ページと公式Tech Specs を突き合わせて、3本の設計と食い違いを解剖します。
想定読者は、すでに MDMX を持っていて「どれをどう使い分けるか」で止まっている人と、Waves の歪み系を買う前に中身を知っておきたい中〜上級者です。操作チュートリアルではなく、3本の機能差がどこで生まれているかと、公式資料のどこが割れているかを扱います。
数値と仕様は Waves 公式ユーザーガイド(MDMX Distortion Modules / User Guide・英語・全30ページ)に基づきます。同梱PDFと Waves の CDN が配信するPDFは sha256 が一致し、製品ページ内の manualPDF フィールドも同じファイルを指していました(2026年9月5日確認)。加えて公式製品ページ(英語・日本語)と Tech Specs、比較のために Berzerk・BB Tubes・Magma Channel Strip の公式ガイドを、出どころを明示して使います。編集部はこの製品を所有していないため使用感の描写はせず、公式資料で裏が取れない数値は書きません。
カホ3本セットの製品は、章ごとに書いた人が違うことがあります。同じつまみの説明を横に並べて初めて、どちらが省略なのかが見えます。
この記事でわかること
- Fuzz・Screamer・Overdrive の機能差が、ガイドのどこに根拠を持つか
- Dynamics セクションが出力に音を出さず、歪みの「手前」を作る回路であること
- HD(x8 アップサンプリング)の遅延が、ガイドではなく公式の遅延表にだけ書かれていること
- 同じガイドの中で説明が割れている4か所(Blend の位置/Punch/EQ の A・B・C/Low Cut)
MDMX Distortion Modulesとは|何を解決する製品か
ガイド p.4 の定義は明快です。「Waves Modern Distortion Modules(MDMX)は、Screamer・Overdrive・Fuzz という3つの別々のプラグインを含むツールキットである。楽器やミックスバスに一級のディストーション/オーバードライブ効果を必要とするミュージシャン、エンジニア、プロデューサーのために設計された。この3本のプラグインは、控えめなものから焦げつくようなものまで、ディストーション効果の全域をカバーする」。表紙(p.1)のサブタイトルも「Modern Distortion Modules / Screamer, Overdrive, Fuzz」です。
同じ p.4 が、3本を1文ずつで性格づけています。
- MDMX Fuzz:MDMX でもっともアグレッシブ。歪んだ信号をオクターブで追従させ、ダイナミクスとオクターブをディストーション処理の手前に掛け、歪んだ信号に色を付けられる。「大きく、顔面に迫るディストーション効果」
- MDMX Overdrive:Fuzz に似ているが色付けが少ない。Fuzz と同じく楽器をがらりと変えられるが、Overdrive は概してやや穏やか
- MDMX Screamer:まっすぐなオーバードライブ生成器。控えめから強めまでのオーバードライブを作りつつ、楽器やトラックの音を保持する
ガイド p.5 は、3本に共通する武器としてステレオ処理を挙げます。「MDMX のステレオコンポーネントは、ステレオ信号全体・センター・サイドのどれを歪ませるかを選べる。これはミックスに楽器を収めるうえで大きなコントロールになり、音がまわりの空間とどう関係するかを変えられる」。歪みをミックス上の定位ツールとして使う、という立て付けです。
ガイドが自分から他社ならぬ自社の別製品を勧めているのも、この p.5 です。「ディストーションを創造的なツールとして、あるいは音をミックスに織り込むために使う Waves のプラグインは他にもある」として Berzerk と Abbey Road Saturator の2本を挙げています(後者については本稿はガイドを読んでいないため、名前が挙がっている事実だけを記します)。
公式Tech Specs によれば、コンポーネントはモノとステレオの2つ、対応サンプルレートは 192 kHz まで、対応バージョンは V17・V16・V15・V14・V13・V12・V11、リリース日は 2019年12月9日です。公式英語ページはこの製品を「象徴的なギター用ストンプボックスに着想を得た」と紹介し、プリセットを「アーティストによる112種と、ファクトリー23種」と数え、「ほぼすべてのパラメーターに MIDI Learn がある」「HD モードはオーバーサンプリングしてエイリアシングの可能性を最小化する」と書いています。これら4つはいずれもガイド本文には出てこない情報です(stompbox・pedal・MIDI・aliasing・oversampling の各語は、全30ページで3系統の抽出とも0件でした)。
価格については、公式日本語ページの表示で定価 17,380 円(公式英語ページの希望小売価格は 99 米ドル)です。Waves はセールが非常に多く実売は定価を下回るのが通例ですが、本稿の観測は2026年9月5日の1回ぶんしかないため、幅を名乗らず単発のセール価格も載せません。現在の価格は 公式製品ページ で確認してください。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
3本は「同じ機械の3つの切り方」——Screamerだけが別の作りになっている
章ごとのコントロール一覧と、p.9・p.18・p.28 のパネル図版を突き合わせると、3本の関係が見えます。
| セクション/機能 | Fuzz(p.6〜14) | Screamer(p.15〜20) | Overdrive(p.21〜30) |
|---|---|---|---|
| Input Gain | −24〜+24 dB/初期値 0 dB | −24〜+24 dB/初期値 0 dB | −24〜+24 dB/初期値 0 dB |
| Low Cut | Off/−12/−24 dB(初期値 Off) | 該当する記述なし | off/−12/−24 dB(初期値 Off) |
| ステレオモード(ST/M/S) | あり(ステレオ版のみ) | あり(初期値 ST) | あり(ステレオ版のみ) |
| M/S 用の入力レベル | −24〜+24 dB/初期値 0 dB | −24〜+24 dB/初期値 0 dB | −24〜+24 dB/初期値 0 dB |
| 歪みの量(Gain) | −24〜+16 dB | 0〜+16 dB | 0〜16 dB |
| 波形の型(Type A/B) | あり(Range: A or B) | 該当する記述なし | あり(範囲の行なし) |
| Octave(1オクターブ上下の生成) | あり | 該当する記述なし | 該当する記述なし |
| Boost | 該当する記述なし | あり(6 dB+中域 6 dB/初期値 off) | 該当する記述なし |
| Tone | 該当する記述なし | あり(0〜100/初期値 50) | 該当する記述なし |
| Dynamics(Punch/Rider) | あり | 該当する記述なし | あり |
| EQ | 4バンド(±12 dB/初期値 0 dB) | 該当する記述なし | 4バンド(±12 dB/初期値 0 dB) |
| HD(x8 アップサンプリング) | あり(範囲の行なし) | あり(Range: On or Off) | あり(範囲の行なし) |
| Temperature | 0〜100/初期値 50 | 0〜100/初期値 50 | 0〜100/初期値 50 |
| Mix | 0〜100/初期値 0(両端のラベルなし) | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み)/初期値 100 | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み)/初期値の記載なし |
| Output | −24〜24 dB/初期値 0 dB | 範囲・初期値の記載なし(−0.9 dB のリミッターの記述あり) | 範囲・初期値の記載なし |
「該当する記述なし」は、ホワイトスペースを詰めて正規化した全文検索と、パネル図版の目視の両方で確認しています。たとえば low cut のヒットは p.10(Fuzz)・p.22・p.23(Overdrive のプリセット解説)・p.26(Overdrive のコントロール)だけで、Screamer の章 p.15〜20 には0件。punch と rider、four-band、waveform、octave も同様に Screamer の章では0件で、p.18 のパネル図版にもそれらのセクションは写っていません。逆に boost と tone をコントロール名として扱っているのは Screamer の章だけです。
整理するとこうなります。Fuzz と Overdrive は同じ骨格(Input+Low Cut/Gain+Type/Dynamics/4バンドEQ/Output)を共有しており、セクションの顔ぶれで違うのは Octave の有無だけです(範囲や初期値の書き方には別の違いがあり、次の段落で扱います)。ガイド p.4 の「Overdrive は Fuzz に似ているが色付けが少ない」という一文と、この構成差は一致します。Screamer だけは別の作りで、Dynamics も EQ も Low Cut も章にもパネルにも出てこない代わりに、他の2本には出てこない Boost と Tone を持ちます。「まっすぐなオーバードライブ生成器」という p.4 の性格づけが、そのまま構成に出ています。
もうひとつ、見落としやすい非対称があります。Gain の下限です。Screamer と Overdrive は 0 dB からですが、Fuzz だけ −24 dB まで下げられます。3本のうち Fuzz だけが「生成器に入る量をユニティより大きく下げる」余地を持っている、ということになります。
Dynamicsは出力に音を出さない——歪みの「手前」を作る回路
Fuzz と Overdrive にある Dynamics セクションは、いわゆる「歪ませたあとにコンプを掛ける」ものではありません。ガイド p.28 が明言しています。「このセクションは、ディストーション生成のために Shaper へ送られる信号にダイナミクス処理を適用する。出力の音にはっきり影響するものの、このダイナミクス処理はオーディオ経路の直接の一部ではない」。p.13 も「ダイナミクスセクションは Gain セクションへ送られる信号のダイナミクス特性をコントロールする」と書きます。
信号の流れは p.6 に1行だけ書かれています。「一般に、信号の流れは Input→Dynamics→Gain→EQ→Output。Dynamics セクションは Gain セクションへループバックする」。つまり Dynamics は歪みの材料を作る係で、その材料をどれだけ生成器に送るかを決めるのが Blend です。
ただし、その Blend の説明がガイドの中で2通りあります。
- p.8(Fuzz の入門)/p.24(Overdrive の入門):「Blend は、入力信号と、ディストーション生成器へ向かう処理済みダイナミクス信号との間のミックス」——生成器の手前での混合
- p.13(Fuzz のコントロール)/p.28(Overdrive のコントロール):「これはダイナミクスセクションと、オーバードライブ生成器の出力との間のバランス」——生成器のあととも読める
入門ページと仕様ページで、混合の位置が入れ替わって読めます。どちらが誤りとは本稿では断定しません。ただし4か所すべてが一致している点が1つあります——Blend が動かしているのは「歪みの材料」であって、歪んだ音そのものではないという枠組みです。Fuzz の Blend は Range: 0(ダイナミクスなし)to 100(フルにダイナミクス)/Default: 0、Overdrive の Blend は範囲も初期値も書かれていませんが「Blend を反時計回りに回し切るとダイナミクスセクションはバイパスされる」と p.28 が書いています。
この構造は Waves の Berzerk と同じ思想です(同社の別ガイドを実際に読んで確認)。Berzerk のガイド p.13 も「Dynamics セクションは Drive セクションへ供給される信号のダイナミクス特性をコントロールする。出力へ送られるオーディオ信号のダイナミクスには影響しない」と書いています。MDMX と Berzerk は、歪みの手前を作り替えるという同じ設計を共有しています。
【公式どうしが割れている】同じPunchの説明が、p.13とp.28で違う
Punch は Fuzz にも Overdrive にもある同じ名前のモードで、選択肢も Mild / Moderate / Extreme、初期値も Mild で一致しています。ところが中身の説明が違います。
| ページ | 原文の訳 | アタック | 調整可能か |
|---|---|---|---|
| p.13(Fuzz) | Punch モードは、ニー・アタック・リリースの設定からなる、3段階で攻撃的になっていくプリセットを持つ固定レシオのコンプレッサー | あり | 「プリセット」 |
| p.28(Overdrive) | Punch モードは、調整可能なニーとリリースタイムを持つ固定レシオのコンプレッサー | 記述なし | 「調整可能」 |
attack という語は、全30ページで p.13 の1件だけです(3系統の抽出でいずれも1件)。p.13 と p.28 はどちらも誌面を画像化して目視し、抽出器の読み順ミスではないことを確認しました。読者にとっての実害は「アタックタイムをどこかで選べるのか」という点ですが、どちらのページも、ユーザーが個別に触れるのは Mild/Moderate/Extreme の3択だけだと書いている点では一致しています。p.28 の「調整可能」は、この3択によって値が変わる、という意味に読むのが自然ですが、そう明記されてはいません。



3択スイッチの中身を、片方の章だけが3項目、もう片方が2項目と書いている。どちらが正しいかは決められません。決められるのは「触れるのは3択だけ」という共通部分のほうです。
Riderのしきい値は初期値が上端の100——下げるほど小さい音まで歪む
もうひとつのダイナミクスモードが Rider です。ガイド p.24 は「Rider はゲートのように働くが、もっと繊細だ」と説明します。方向は p.13 と p.28 で一致しています。
- p.13(Fuzz):「しきい値が高い設定では、いちばん大きなピークだけが送られる。しきい値を下げると、より低いレベルの信号が歪み生成器へ送られる」
- p.28(Overdrive):「非常に高いしきい値設定では、オーバードライブ信号の低レベルの素材のほとんどが減衰される。しきい値を下げると低レベルの素材が強まる。しきい値の近くでは、フル信号と低レベル要素の間に繊細なバランスがある」
ここで基準点に注意が要ります。Threshold の範囲は 0〜100 で、初期値は 100。つまり初期状態は範囲の上端で、「いちばん大きなピークだけが歪み生成器に送られる」側に振り切っています。真ん中ではありません。したがって Rider を使うときの操作は下げる方向だけになります。上げようとしても余地がない、というのが公表値からの帰結です。
さらに Fuzz では Blend の初期値が 0(=ダイナミクスなし) です。Threshold 100・Blend 0 という初期状態は、ダイナミクスセクションが実質的に効いていない状態を意味します。Fuzz でダイナミクスを使いたいなら、まず Blend を上げるところから始める必要がある、という順序がここから読み取れます。
HDは無料ではない——遅延は公式の遅延表にだけ書かれている
3本とも HD というオン/オフのスイッチを持ち、ガイドは「x8 アップサンプリングを有効にする」と説明します。効能も書かれています。「低解像度のファイルでは、信号の低域と高域の部分が潰れがちで、効果がエッジが立って狭いと感じられることがある。アップサンプリングは処理に余裕を与え、より心地よく広い音になりうる」「HD が Off のときは、たいていザラついた音になる」。
ここまでがガイドの記述です。遅延については、全30ページのどこにも書かれていません(latency の語は3系統の抽出とも0件)。CPU にだけは触れていて、p.6 が Fuzz について「両コンポーネントとも、アップサンプリング時でさえ CPU 消費は非常に小さい」と書いています。数字は公式製品ページの Tech Specs 側にあります。単位はサンプルです。
| サンプルレート | 44.1 kHz | 48 kHz | 88.2 kHz | 96 kHz | 176.4 kHz | 192 kHz |
|---|---|---|---|---|---|---|
| HD Off | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| HD On | 147 | 147 | 98 | 98 | 49 | 49 |
HD を切っている限り、全レートで0サンプル。入れると 44.1/48 kHz で147サンプルの遅延が付きます。公表値を並べると 147 : 98 : 49 = 3 : 2 : 1 という関係で、レートを上げるほどサンプル数が減ります。サンプル数も減りレートも上がるので、時間としての遅延はさらに短くなる計算です(公式が公表しているのはサンプル数のみなので、本稿はミリ秒への換算をしていません)。トラッキング中のモニターに挟むかどうかを決める材料は、ガイドではなくこの表の側にしかありません。なおこの遅延表は「MDMX Distortion Modules」という1行だけで公表されており、3本それぞれの値は分かれていません。
同じ Waves でも、遅延まで書いているガイドはあります。BB Tubes のガイド p.5 は、ツールバーの UpSampling メニューについて「プラグイン内部の処理サンプルレートを最大8倍にできる。アップサンプリングはより高い解像度をもたらしうるが、より高いレイテンシーとCPU負荷になる」と、効能と代償を同じ一文に並べています。MDMX のガイドは CPU には触れつつ、遅延には触れていません。同社の中でも、書く範囲が章によって違います。なお Berzerk の公表遅延表を別途取得したところ、値は MDMX と完全に同じ(HD Off が全レート0、HD On が 147・147・98・98・49・49)でした。両製品の同梱ガイドPDFの作成日はどちらも 2019年11月21日で、同じ時期の同じ仕組みだと考えると整合します。
HD の説明には章ごとの差もあります。Fuzz p.12 は「ディストーション信号の x8 アップサンプリングを有効にする」と書き、Screamer p.20 と Overdrive p.27 は「出力信号の x8 アップサンプリング」と書きます。対象が違います。加えて Overdrive p.27 は同じ段落の末尾で「HQ が Off のとき」と別名で呼んでおり、これは誤植と読めます(このスイッチをガイドが HQ と呼ぶのは、本稿が確認したかぎりこの1か所だけです)。
【公式どうしが割れている】EQのA・B・Cは「周波数」か「Q」か
Fuzz と Overdrive の EQ は4バンドで、ガイドのコントロール解説(p.14・p.29)はこう定義します。
- Low:ローシェルフ(固定周波数)
- Low Mid:ベルフィルター。3つの周波数設定(A・B・C)
- High Mid:ベルフィルター。3つの周波数設定(A・B・C)
- High:ハイシェルフ(固定周波数)
- 全バンドのゲイン範囲:−12 dB 〜 +12 dB/全バンドの初期ゲイン:0 dB
ところが同じガイドのプリセット解説(p.22・p.23)は、この A・B・C を「Q」として説明します。「low-mid をもっとも広い Q に設定」「high mid をもっとも広い Q に」「low-mid をもっとも狭い Q に」。周波数の選択肢なのか、帯域幅(Q)の選択肢なのかで、公式の中が割れています。
さらに p.24(Overdrive の入門)は「Low と mid のバンドが、それぞれ3つの周波数オプションを持つ」と書きます。これは p.29 と食い違います——p.29 の定義では Low は選択肢のないローシェルフで、A・B・C を持つのは Low Mid と High Mid です。p.28 のパネル図版を目視したところ、A/B/C の3点セレクターが付いているのは LOW MID と HIGH MID の2バンドだけで、LOW と HIGH にはゲインつまみしかありませんでした。図版はコントロールの構成を示すもので、初期値の証拠ではありませんが、「どのバンドに選択肢が付いているか」については p.29 の側を支持しています。
同じ p.22・p.23 は EQ のバンドを「low pass」「high pass」とも呼んでいます(「moderate low pass and high pass filters」「low pass to max」)。p.14・p.29 の定義はシェルフとベルなので、ここも呼び方が揃っていません。操作の指針としては、コントロール解説(p.14・p.29)とパネル図版が一致している側——4バンド・固定周波数・中2つに A/B/C セレクター・各バンドはゲインのみ——を基準にするのが安全です。
【公式どうしが割れている】Low Cutは「減衰量」か「スロープ」か
Fuzz と Overdrive の入力にある Low Cut は、選択肢が Off / −12 dB / −24 dB、初期値が Off で一致しています。説明が違います。
- p.10(Fuzz):「信号がディストーション生成器へ送られる前のローシェルフ減衰の量をコントロールする」
- p.26(Overdrive):「オーバードライブ生成器へ送られる前の低域のロールオフの量をコントロールする。この3ポジションのスイッチはシェルフのスロープをコントロールする」
−12 dB/−24 dB という表示は減衰量の単位に見えますが、p.26 はそれをスロープだと書いています。どちらが正しいかは本稿では決めません。ただし効果の向きについては、p.10 の Tip が実務的な決着を付けてくれます。
低域のパワーを失わずに、低域が歪むのをおおむね防ぐことができる。−24 dB のローカットを選び、そのうえで EQ セクションのローシェルフで低域を戻す。Input はディストーションの手前、EQ は後ろなので、低域は処理の前に取り除かれ、あとで足し戻される。これは入力信号のいちばん下の帯域がディストーションを濁らせるのを防ぐし、そのうえで別の音になる。
この Tip は、そのまま手順として使えます。入力側のローカットと出力側の EQ ローシェルフを対で使う——歪みに低域を食わせないまま、低域そのものは残す。Fuzz と Overdrive が入力にローカットを持ち、出力に4バンドEQを持つのは、この組み合わせを成立させるための構成だと読めます。なお p.10 は「高い設定はより明瞭さをもたらし、低い設定はより暖かい音になる」とも書きますが、−12 と −24 のどちらが「高い設定」かは書かれていません。上の Tip が −24 dB を明瞭さの側に置いているので、そちらで読むのが整合します。
FuzzのMixだけ両端のラベルが無く、しかも初期値が0
3本とも Mix を持ちますが、書き方が揃っていません。
| プラグイン | ガイドの Mix の記述 | 両端のラベル | 初期値 |
|---|---|---|---|
| Screamer(p.20) | オーバードライブ処理とドライ信号の間のバランス | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み) | 100 |
| Overdrive(p.30) | オーバードライブ処理とドライ信号の間のバランス | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み) | 記載なし |
| Fuzz(p.14) | 処理済み信号とドライ信号の間のバランス | 0〜100(ラベルなし) | 0 |
Fuzz だけ両端に注釈がありません。そして初期値が 0 です。Screamer と Overdrive の書き方(0=すべてドライ)をそのまま当てはめると、Fuzz のファクトリーリセット状態は「完全にドライ」になります。一方、Fuzz の説明文は「処理済み信号とドライ信号の間」と、処理済みのほうを先に置いた語順です。この語順どおりに 0 を処理済み側と読めば、初期値 0 は「完全にウェット」になります。ガイドはこの点を決めていません。本稿も決めません。Fuzz を「Fuzz Full Reset」で初期化したあと Mix を動かすときは、どちらへ回すと処理音が増えるかを最初に耳で確かめてください。
Temperature は3本とも 0〜100/初期値 50 で揃っており、基準点が真ん中にあります。方向も3章で一致していて、上げるほど暗くなります(Fuzz p.14「より暗く太く、より遠くに感じられる」/Screamer p.20「より部屋鳴りがして暗く、滑らか」/Overdrive p.30「より箱鳴りがして暗く、滑らか」)。形容詞は章ごとに違いますが、明暗の向きは3章とも同じです。低い側は3章とも「present」「articulation」「sparkle」といった、前に出る側の語で説明されています。
全パラメーター
ガイド全30ページで Range: が書かれているのは27本、Default: は22本です(pdfminer.six と PyMuPDF で同数。pypdf のみ26/22)。EQ の範囲は Gain range for all bands: という別の書式なのでこの本数には含まれません。以下、3本ぶんを章ごとに分けます。書かれていないものは「記載なし」と明示します。
MDMX Fuzz(ガイド p.6〜p.14)
| セクション | コントロール | ガイドの説明 | 範囲・初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | Input Gain | プラグインの入力レベル。入力レベルは挙動に劇的な影響を与えうる。隣の小ランプが入力ピークを示し、緑が健全、常時赤なら下げる | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Input | Low Cut | ディストーション生成器へ送る前のローシェルフ減衰の量 | Off/−12 dB/−24 dB/初期値 Off |
| Input | Mode(ST/M/S) | Stereo=中央もサイドも同じに処理/M=中央だけ歪む/S=サイドだけ歪む | 3択/初期値の記載なし |
| Input | M/S 入力レベル | Mid または Side に設定したとき、その信号の入力レベルをプラグイン入力とは独立に操作。Stereo 時はグレーアウト | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Gain | Gain | ファズ歪みの量 | −24 dB 〜 +16 dB/初期値の記載なし |
| Gain | Octave | 生成器が入力の1オクターブ上と1オクターブ下の信号を作る。アナログのオクターブ機器を模しており、設計上ピッチを正確に追わない。左のパッドの銀球を左右で上下オクターブの比率、上下でオクターブ信号の総量 | 範囲・初期値の記載なし |
| Gain | Type | 異なる波形の形を土台にした2つのファズ生成モデル。多くの場合、基本の音を強く左右する | A または B/初期値の記載なし |
| Gain | Waveform Display | 右側の表示が Type に応じた波形を示す。Gain を動かすと変化するが基本形は保つ。Dynamics セクションの動きにも影響される | 表示のみ |
| Gain | HD On/Off | ディストーション信号の x8 アップサンプリングを有効にする。Off ではザラついた音になりやすい。プログラム依存が強く、差が聞こえない場合もある | 範囲・初期値の記載なし |
| Dynamics | Punch | ニー・アタック・リリースの設定からなる、3段階で攻撃的になっていくプリセットを持つ固定レシオのコンプレッサー | Mild/Moderate/Extreme/初期値 Mild |
| Dynamics | Threshold(Rider 時のみ) | 高いしきい値ではいちばん大きなピークだけが Gain セクションへ送られる。下げるほど低レベルの信号も送られる | 0 〜 100/初期値 100 |
| Dynamics | Blend | ダイナミクスセクションと、オーバードライブ生成器の出力との間のバランス(p.8 では「入力信号と、生成器へ向かう処理済みダイナミクス信号との間のミックス」) | 0(ダイナミクスなし)〜100(フル)/初期値 0 |
| EQ | Low/Low Mid/High Mid/High | ディストーション生成器とダイナミクス処理のあとに掛かる4バンド。Low=固定周波数のローシェルフ、Low Mid・High Mid=3つの周波数設定(A・B・C)を持つベル、High=固定周波数のハイシェルフ | 全バンド −12 dB 〜 +12 dB/全バンド初期値 0 dB |
| Output | Temperature | 出力信号の暖かさ。高いほど暗く太く、遠く感じられる。低いほど前に出て「きらめき」が増す。EQ とは効き方が違う | 0 〜 100/初期値 50 |
| Output | Mix | 処理済み信号とドライ信号の間のバランス | 0 〜 100(両端のラベルなし)/初期値 0 |
| Output | Output | プラグインの出力レベル | −24 dB 〜 24 dB/初期値 0 dB |
MDMX Screamer(ガイド p.15〜p.20)
| セクション | コントロール | ガイドの説明 | 範囲・初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | Input | 入力ゲイン。DAW から送るレベルも合わせて試すこと | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Input | Mode(M/S/ST) | Stereo=画像全体を処理/M=中央だけ歪む/S=サイドだけ歪む。S か M だけの処理は、過剰なEQやダイナミクス処理なしに楽器を「前に出す」「収める」のを助ける | 3択/初期値 ST |
| Input | M/S 入力レベル | M または S 用の専用入力レベル。ST 選択時は無効 | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Shaper | Gain | プロセッサーが生成するオーバードライブの量 | 0 dB 〜 +16 dB/初期値の記載なし |
| Shaper | Boost | 全体で 6 dB のゲインに加え、中域で 6 dB のゲインを足す。信号にサチュレーションを加える | on/off/初期値 off |
| Shaper | Tone | 処理される最中のオーバードライブ信号のトレブル/ベースの色を変える。ディストーションそのものの色を変えるので「コアの音」への影響が大きい | 0 〜 100/初期値 50 |
| Shaper | HD On/Off | 出力信号の x8 アップサンプリングを有効にする。Off ではザラついた音になりやすい | On/Off/初期値の記載なし |
| Output | Temperature | 出力の全体的な色と感触。高いほど部屋鳴りがして暗く滑らか。低いほど present で明瞭。Tone とは別物で、音のまわりの「空気」への影響が大きい | 0 〜 100/初期値 50 |
| Output | Mix | オーバードライブ処理とドライ信号の間のバランス | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み)/初期値 100 |
| Output | Output | 出力ゲイン。LEDが出力ピークを示す。赤は −0.9 dB の出力リミッターが動作している合図で、常時赤なら出力を下げる。過度のリミッティングはテクスチャーを変える | 範囲・初期値の記載なし |
MDMX Overdrive(ガイド p.21〜p.30)
| セクション | コントロール | ガイドの説明 | 範囲・初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | Input | DAW からの入力レベル。緑が健全、常時赤なら下げる。DAW 側で絞るか内部で絞るかで挙動が変わる | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Input | Low Cut | オーバードライブ生成器へ送る前の低域ロールオフの量。重い低域が歪みを不明瞭・ねばついた感じにするのを防ぐ。失われた低域はポストディストーションの EQ で大部分取り戻せる。3ポジションのスイッチがシェルフのスロープをコントロールする | off/−12 dB/−24 dB/初期値 Off |
| Input | Stereo Mode(ステレオ版のみ) | Stereo=中央もサイドも同じに処理/M=中央だけ/S=サイドだけ。ステレオ画像の一部だけを処理すると、全体の処理量を減らして狙いの音に届く | 3択/初期値の記載なし |
| Input | M/S 入力レベル | Mid または Side に設定したとき、その信号の入力レベルを独立に操作。Stereo 時はグレーアウト | −24 dB 〜 +24 dB/初期値 0 dB |
| Shaper | Gain | 信号に与えるオーバードライブの量 | 0 dB 〜 16 dB/初期値の記載なし |
| Shaper | Type | 異なる波形の形を土台にした2つのオーバードライブ生成モデル | 2択/範囲・初期値の記載なし |
| Shaper | Waveform | Gain つまみの隣の表示が、選んだ Type に対応する波形を示す | 表示のみ |
| Shaper | HD On/Off | 出力信号の x8 アップサンプリングを有効にする(同じ段落の末尾は「HQ が Off のとき」と表記) | 範囲・初期値の記載なし |
| Dynamics | Punch | 調整可能なニーとリリースタイムを持つ固定レシオのコンプレッサー | Mild/Moderate/Extreme/初期値 Mild |
| Dynamics | Rider・Threshold | ゲートに似ているがより滑らかで洗練されたゲインライダー。非常に高いしきい値では低レベル素材のほとんどが減衰。下げると低レベル素材が強まる | 0 〜 100/初期値 100 |
| Dynamics | Blend | ダイナミクスセクションとオーバードライブ生成器の出力との間のバランス。反時計回りに回し切るとダイナミクスセクションはバイパス | 範囲・初期値の記載なし |
| EQ | Low/Low Mid/High Mid/High | オーバードライブ生成器とダイナミクス処理のあと、出力セクションの前に掛かる4バンド。Low=ローシェルフ、Low Mid・High Mid=3つの周波数設定(A・B・C)を持つベル、High=ハイシェルフ。各バンドにゲインつまみ | 全バンド −12 dB 〜 +12 dB/全バンド初期値 0 dB |
| Output | Temperature | 出力の全体的な色と感触。高い(時計回り)ほど箱鳴りがして暗く滑らか。低いほど present で高域の明瞭さが増す | 0 〜 100/初期値 50 |
| Output | Mix | オーバードライブ処理とドライ信号の間のバランス | 0(すべてドライ)〜100(すべて処理済み)/初期値の記載なし |
| Output | Output | 出力レベル。ランプは出力のクリップを示す。たまの赤点滅は問題になりにくいが、常時赤なら下げる | 範囲・初期値の記載なし |
用途別・設定の始点
下の表は、ガイドのプリセット解説(p.7・p.16・p.22〜23)と操作手順(p.8・p.17・p.24)、および公式製品ページの記述だけで組み立てています。編集部が試した設定値ではありません。
| やりたいこと | 資料から言えること |
|---|---|
| 楽器の輪郭を保ったまま歪ませたい | Screamer。ガイド p.4 が「楽器やトラックの音を保持する」と性格づけている。p.15 は「とてもファットで丸く、それほどトゲトゲしくない」 |
| 音を作り変えるほど歪ませたい | Fuzz。p.6 が「驚くほどのコントロール性を伴った大量のディストーション」、p.4 が「顔面に迫る」と書いている |
| その中間で幅を持たせたい | Overdrive。p.21 が「ソフトクリッパーであり、楽器をまるで別物にするのではなく増強する」「強く使えば顕著なオーバードライブ効果」 |
| 低域を濁らせずに歪ませたい | p.10 の Tip。Low Cut を −24 dB にして歪ませ、ポストディストーションの EQ ローシェルフで低域を戻す |
| センターにある要素だけ歪ませたい | Mode を M に。p.11・p.19・p.26 が「M モードでは中央が歪み、サイドは処理されない」と定義。公式英語ページも「ドラムでは Side オプションを見落とすな」と書いている |
| 暗い歪みに明るさを足したい | Fuzz の p.7。「ディストーション信号が暗すぎるときは、(歪みのあとにある)EQ ではなくディストーションの一部として Octave で輝きを足す。両方試すと結果はかなり違う」 |
| 透明感を保ったまま太くしたい | Fuzz の p.7。「Octave Down を混ぜて重心を足す。あるいは EQ のローシェルフを上げる。この2つはまったく違う効果」 |
| 細く鋭い音を太くしたい | Screamer の p.16(プリセット FAT)。「Tone は最低付近に保つ。時計回りに回すと音は細くなる。Gain をほんの少し戻すと胴が増えやすい」 |
| ゲインが足りない | Screamer の p.16(プリセット MORE!)。Boost を入れる。「Boost は中域のブーストの上に全体で 6 dB のブーストを与える」 |
| 歪みにダイナミクスを持たせたい | Overdrive の p.23(プリセット COMPRESSOR)。Punch を使い、Blend を最大にして Punch のダイナミクスを全部聴かせる |
| トラッキング中にモニターへ挟みたい | HD を Off。公式Tech Specs では HD Off が全レート0サンプル、HD On が 44.1/48 kHz で147サンプル |
| やり直したい | Load メニューの「Fuzz Full Reset」「Screamer Full Reset」。p.8・p.17 が「直しの直しを重ねるより最初からやり直すほうがよい」と書いている。Full Reset の語は全30ページで p.8 と p.17 の2件のみで(3系統の抽出とも)、Overdrive の章には出てこない |
似た製品との使い分け
以下の比較は、いずれも比較先の公式ユーザーガイドを実際に読んで書いています。
| 比べる点 | MDMX | Berzerk | BB Tubes |
|---|---|---|---|
| ガイドのページ数 | 30 | 15 | 5 |
| プラグインの本数 | 3本(Fuzz/Screamer/Overdrive) | 1本 | 1本 |
| 歪みの型の選び方 | Type A/B の2択(Screamer は該当なし) | Character をメニューから選び、Go! ボタンで毎回ちがう変種を生成する(同じものは二度と出ない、とガイドが明記) | Beauty(主に偶数次・0〜10)と Beast(主に奇数次・0〜10)の2段。Beast 側に Tube Type A/B |
| EQ/トーン | 4バンド固定周波数(中2バンドに A・B・C)。ゲインのみ可変 | 3バンド。Q 0.5〜100・ゲイン ±12 dB・周波数も可変(低 60〜550 Hz/中 800〜2500 Hz/高 3000〜11,000 Hz) | Tone Pre と Tone Post の2本。どちらも 10 kHz シェルフ・±9 dB(真空管エンジンの前と後) |
| Dynamics | Punch/Rider の2モード。出力の音には直接乗らない | Rider/Dyn と Up/Down の2軸。同じく出力の音には乗らない | 該当する記述なし |
| フィードバック発振 | 該当する記述なし | あり(サイン波を作るオシレーター。出力オーディオの一部ではない) | 該当する記述なし |
| ステレオ M/S 処理 | あり(ST/M/S) | あり(ST/M/S) | 該当する記述なし |
| アップサンプリング | HD スイッチ=x8 | HD(HQ)スイッチ=x8 | WaveSystem ツールバーの UpSampling メニュー=最大 x8 |
| アップサンプリングの遅延をガイドが書いているか | 書いていない(全30ページで latency は0件。CPU については p.6 が「非常に小さい」と書く) | 本稿は該当箇所を確認していない | 書いている(「より高いレイテンシーとCPU負荷になる」と明記) |
| 公表された遅延(サンプル) | HD Off 全レート0/HD On 147・147・98・98・49・49 | 同じ値(HD Off 全レート0/HD On 147・147・98・98・49・49) | —(本稿は取得していない) |
| 対応サンプルレート/バージョン | 192 kHz まで/V17〜V11 | 192 kHz まで/V17〜V11 | —(本稿は取得していない) |
選び分けは、「決め打ちできるか、偶然が欲しいか」で分かれます。MDMX は Type A/B の2択と固定周波数EQで、同じ設定なら同じ音が返る方向に振った設計です。Berzerk は Go! ボタンで波形の変種を作り直す仕組みを持ち、ガイド自身が「気に入ったらプリセットに保存すること。二度と同じものは出ない」と書いています。EQ も Berzerk のほうが自由度が高い(周波数と Q が可変)一方、MDMX は触れる場所を絞ったぶん、3本の性格差で選ばせる構成になっています。BB Tubes は歪みというより真空管のサチュレーションで、そもそも役割が違います。



MDMX を選ぶ理由は「3本あること」そのものではありません。Fuzz と Overdrive は、Low Cut と Dynamics で歪ませる前の信号を作り替えてから生成器に入れる構造を持っています。Gain だけを回していると、その2セクションはガイドが書いている初期状態のまま動きません。Screamer にはそもそもその2つが無く、Input と Mode で入口を決めてから Gain・Boost・Tone で作る——という別の手順になります。
よくある質問
MDMXは1本のプラグインですか?
いいえ。ガイド p.4 が「Screamer・Overdrive・Fuzz という3つの別々のプラグインを含むツールキット」と定義し、p.5 が「この3本のプラグインはそれぞれ、このユーザーガイドの独立した章で説明される」と書いています。実際、全30ページのうち p.6〜14 が Fuzz、p.15〜20 が Screamer、p.21〜30 が Overdrive です。公式Tech Specs は3本まとめて1つの製品として仕様を公表しており、遅延表も「MDMX Distortion Modules」の1行だけです。
Dynamicsセクションは歪んだ音を圧縮しますか?
ガイドの説明はその逆です。p.28 が「このダイナミクス処理はオーディオ経路の直接の一部ではない」、p.13 が「Gain セクションへ送られる信号のダイナミクス特性をコントロールする」と書いています。つまり歪ませる前の材料を作り替える回路で、Blend はその材料をどれだけ生成器へ回すかを決めます。Fuzz の初期状態は Threshold 100・Blend 0 なので、リセット直後はこのセクションが実質的に効いていません。
HDは常に入れておけばいいですか?
ガイドは音質面の利点を書き、CPU については p.6 が「非常に小さい」と書きますが、遅延には触れていません(全30ページで latency は0件)。公式Tech Specs の遅延表では、HD Off が全レート0サンプル、HD On が 44.1/48 kHz で147サンプル、88.2/96 kHz で98サンプル、176.4/192 kHz で49サンプルです。ガイド自身も「この効果はプログラム依存が強いので、差が聞こえない場合もある」(p.12)と書いています。常に入れる/常に切る、のどちらかに決める材料は資料からは出てきません。遅延を許容できる工程かどうかで決めるのが、公表されている情報に沿った判断です。
EQのA・B・Cは何を切り替えるのですか?
ここは同じガイドの中で説明が割れています。コントロール解説(p.14・p.29)は「3つの周波数設定(A・B・C)」、プリセット解説(p.22・p.23)は「もっとも広い/狭い Q」と書きます。本稿はどちらとも断定しません。ただし、A・B・C のセレクターが付いているのは Low Mid と High Mid の2バンドだけという点は、p.14・p.29 の記述と p.28 のパネル図版の両方が一致しています(p.24 は「Low と mid のバンドが」と書いており、この点では他と食い違います)。具体的な周波数の数値は、ガイドにも公式ページにも記載がありません。
まとめ
- Fuzz と Overdrive は同じ骨格で、セクションの違いは Octave の有無だけ。Screamer の章とパネルには Dynamics・EQ・Low Cut が出てこず、代わりに Boost と Tone がある別の作りになっている
- Dynamics は出力に音を出さない。歪みの材料を作り替える回路で、Fuzz の初期状態(Threshold 100・Blend 0)では効いていない
- HD の遅延は公式の Tech Specs にだけ書かれている。Off なら全レート0サンプル、On なら 44.1/48 kHz で147サンプル。ガイド本文に
latencyの語は0件



30ページのガイドで説明が割れている場所を4か所見つけました。割れているという事実がわかっていれば、迷ったときに何を確かめればいいかも決まります。読めない資料より、割れている資料のほうが扱えます。




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