Waves MultiMod Rackの設計思想|音を出さないラック

この記事では、Waves MultiMod Rack が「何をするプラグインではないか」から入って、3枠のラックと5基のモジュレーターがどう組み合わさっているのかを、公式ユーザーガイドと公式の技術表だけで分解します。買う前に知っておくべき前提(このラックを買っても中身のプラグインは付いてこない)と、公式ガイドの図が同じページの中で食い違っている箇所まで扱います。

先に、いちばん効いてくる一文を引きます。公式ユーザーガイド(What is MultiMod? の節・誌面 p.2)は、この製品をこう定義しています——「MultiMod は処理のフレームワークであり、それ自体が音を生み出すことはない」。3つのプラグイン枠、位相補償されたクロスオーバー、4バンド📖EQ、5基のモジュレーター。並んでいるのは全部「他人の音を割って、動かして、混ぜ直す」ための道具です。

以下の範囲・単位は公式ユーザーガイド(英語・全18ページ/誌面ノンブルは1〜17)と公式製品ページの技術表の記載で、編集部の実測値ではありません(📖サンプル数からミリ秒への換算だけは本稿の計算で、その旨を本文に明記しています)。比較の節では 🎛️StudioRack・MDMX 📖Distortion Modules・Berzerk の各公式ガイドと、StudioRack の現行公式製品ページも参照しています。ページ番号は誌面のノンブルで示します。同梱PDFと公式CDNの現行PDFは sha256 が一致したので(2,814,981バイト・2026年9月5日確認)、本稿が読んだものが現行版です。

カホ

音を出さない製品の設計思想を読むのは、案外いちばん勉強になります。何を足すかではなく、何を分けて何を残すかだけで作られているので。

目次

この記事でわかること

  • MultiMod Rack を買っても 🎛️Abbey Road Saturator・Berzerk・MDMX は付いてこない、という公式の但し書き
  • 帯域を割る Triple/Dual/Wide の使い分けと、Wide だけで生きるコントロール
  • 「帯域をバイパスしても、その帯域の処理は完全には切れない」とガイド自身が書いている理由
  • 公式の遅延表が3行に分かれている意味と、📖サンプルレートを上げるほど遅延が減る挙動

MultiMod Rackとは|何を解決する製品か

MultiMod は、Waves のディストーション系プラグインを1つのインスタンスの中に最大3本まで立ち上げて、まとめて扱うためのラックです(誌面 p.2)。3つの枠のそれぞれに、コントロール可能な位相補償クロスオーバーが紐づいていて、どの枠がどの周波数帯を受け持つかを決められます。ガイドは、このクロスオーバーを「📖位相が完全に揃った📖ミックス・コントロールを備えた位相補償クロスオーバー」と説明しています。枠の順番はその場で入れ替えでき、入れ替えると全体の効果が大きく変わる、とも書かれています。

3つのプラグイン枠に加えて、モジュレーター枠があります。ここに置いた5基のモジュレーターが、ホストされたプラグインのコントロールの大半と、MultiMod のフレーム自身のコントロールに効きます。「Waves のディストーション・プラグインをすでに使っているなら、ここで新しく覚えることはほとんどない。プラグインは同じものだからだ。新しいのはクロスオーバーとEQ、そしてモジュレーターだけ」というのがガイドの立て付けです(誌面 p.2)。

ここで、購入前にいちばん重要な但し書きを確認しておきます。ガイド p.3 の枠囲みは「Waves のディストーション・プラグインは MultiMod とは別に📖ライセンスされる。ライセンスの無いプラグインはドロップダウンのプラグイン一覧に表示されない」と明記しています。公式英語製品ページにも「ご注意:MultiMod Rack のご購入には Abbey Road Saturator・Berzerk・MDMX の各プラグインは含まれません」という同趣旨の注記が出ています(2026年9月5日時点)。枠だけを買っても、入れる中身は別売です。

カホ

ラックを買ったのに一覧が空だった、という事故はここです。ガイドが「ライセンスの無いプラグインは一覧に出ない」と書いているので、空っぽに見えても不具合ではありません。

入れられる中身のうち、ディストーション側はガイド p.3 が5本を名前を挙げて紹介しています。MDMX Fuzz(MDMX のなかで最も攻撃的。歪み信号を📖オクターブで追い、歪みの前段にダイナミクスとオクターブをかけ、歪んだ信号に色を付けられる)、MDMX 📖Overdrive(Fuzz に似ているが色付けは控えめ。Fuzz より穏やかにもできるが強い効果も作れる)、MDMX Screamer(素直なオーバードライブ生成器。楽器や📖トラックの音を保ったまま、控えめから強めまで)、Berzerk(歪み・ダイナミクス・📖フィードバック・歪みのキャラクター制御をランダム生成器と組み合わせた、ゼロから効果を組む道具)、Abbey Road Saturator(「きれいすぎる」トラックに精密な歪みを少し足す。気づかれないこともあるが、楽器はきらめきを増してミックスに収まりやすくなる)。

もうひとつ、ディストーション枠には📖エフェクトも差し替えて入れられます。ここはガイドと現行の公式ページで内容が違います。本稿が読んだガイド(PDFの作成日 2020年3月15日/更新日 2021年5月30日)の Effects の節(誌面 p.7)は「ディストーションの音を補うために使えるエフェクト・プロセッサーが3つある」と書いており、p.5・p.7 の図に写っているドロップダウンにも 📖Chorus/📖Delay/📖Reverb の3つしか並んでいません。いっぽう公式英語製品ページ(2026年9月5日時点)は「3つのディストーション・エフェクトを補う6つの追加エフェクト」と書き、本文では「オートパン、📖コーラス、📖コンプレッサー、ディレイ、ディストーション、リバーブのいずれかに差し替えられる」と列挙しています。現行版で増えていると読むのが自然ですが、本稿はガイド側の記述と図しか確認できていないので、実際に並ぶ項目数は手元の環境で確かめてください。

エフェクトの作りはシンプルです。ガイドは「各エフェクトはコントロールを3つ持ち、Mix コントロールには常にモジュレーターを割り当てられる」と書いています(誌面 p.7)。実際、p.7 の図に写っている Reverb モジュールは Pre Delay/Time/Mix の3つで、Mix の下にモジュレーター・スロットが2つ点灯しています。エフェクトにもそれぞれ専用の📖プリセット一覧があり、図の Reverb では Plate/Hall/Dark/Room/📖Bright/Gated が並んでいます。

設計思想:なぜこの効き方をするのか

帯域は「割る」のではなく「重ねて渡す」

Plugin Placement の節(誌面 p.6)は、帯域の割り当てをこう説明します。「クロスオーバーが各プラグインに低域・中域・高域という📖周波数レンジを割り当てる。クロスオーバーどうしには重なりがあるが、おおむね左のプラグインが低域、中央が中域、右が高域を処理する」。この「重なりがある」という一文が、後の節で効いてきます。

帯域構成は3択です(誌面 p.8)。Triple はすべてのクロスオーバー帯域とそれぞれのプロセッサーが有効。Dual は低域と高域のあいだにクロスオーバーが1つ。Wide はクロスオーバー無し・位相シフト無し。Wide は「帯域を割らない」ためのモードで、位相をいっさい動かさずに3枠を全帯域へ通したいときの選択肢になります。クロスオーバーの急峻さ(Crossover Sharpness)は Triple と Dual のときだけ有効で、図では Gradual と Steep の2択として描かれています。ガイドの手順側は同じコントロールを Crossover 📖Slope と呼んでおり、用語が節をまたいで揺れていますが、指しているものは同じで「Steep にすると帯域の境界が鋭くなり、重なりが減る」(誌面 p.9)と説明されています。

帯域のバイパスは「その帯域を無音にする」ことではない

ここがこの製品でいちばん誤解されやすいところだと思います。ガイドの Band Bypass/Solo/Mute の項(誌面 p.9)は、こう釘を刺しています——「プラグインをバイパスしても、その帯域の処理が完全にバイパスされるわけではない。クロスオーバー付近では帯域どうしが一部の周波数を共有しているためだ」。

つまり、A/B比較の道具としてバイパスを使うときに、「切ったのにまだ効いている」と感じるのは仕様です。重なりを減らしたいなら、まず Crossover Sharpness を Steep 側にする。それがガイドの手順2で先に置かれている理由でもあります。そのうえでガイドは「帯域とそのプラグインがクロスオーバーとどう相互作用しているかを理解するために、バイパス・📖ソロ・📖ミュートをこまめに使うべき」とも書いています(誌面 p.10)。切って確かめる操作を否定しているのではなく、切っても残るという前提で聴けということです。

低域の倍音だけ、別の原理で作られている

各帯域には 📖Harmonic というコントロールがあり、その帯域で生成する倍音の量を決めます(誌面 p.9)。ただし低域と、中域・高域では、やっていることが違います。ガイドの説明(誌面 p.9)はこうです。

低域——入力信号から元の📖基音を取り去り、それを使って「失われた基音(missing fundamental)」を作る。これは 🎛️MaxxBass で使われているのと同じ処理で、低域の📖ゲインを上げずに低音の知覚量を増やせる。中域・高域——Harmonic の値を上げると、信号に奇数次と偶数次の倍音が加わる。温かみ、まとまり、奥行きが出る。

低域だけ Mono スイッチが用意されているのも、ここと地続きです。ガイドは「低域は📖モノに切り替えて低域の安定を増し、MaxxBass 効果を助けられる」と書いています(誌面 p.9)。基音を取り去って倍音から低音を再構成する処理は、左右がばらけていると効きが鈍る。だから低域だけモノにできる、という筋が通っています。

同じガイドの中で、低域の図が2通りある

本稿がガイドを読んでいて引っかかった点を、隠さずに書いておきます。Process Panel の低域まわりのラベルが、図によって2通りあります。

誌面 p.4(インターフェイス全景)・p.5・p.17 の図では、低域の並びは Mono / 📖Cutoff(灰色=無効)/ Harmonic / Spatial / Gain です。いっぽう同じ p.4 の下段にある処理パネルの拡大図と、p.8 の図では、同じ位置が Mono / Harmonic というくくりの下に Freq と Intensity の2つ / Spatial / Gain になっています。どちらの図も帯域構成は Triple です。

本文の記述は前者に対応していて、Cutoff は「倍音生成器が焦点を合わせる周波数を決める(Wide 構成のときのみ)」、Harmonic は「選択した帯域で生成される倍音の量を決める」と別々の項目として書かれています(誌面 p.9)。そして Intensity という語は、本文には1度も出てきません——pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で全文を検索して、いずれも0件でした。図のラベルだけに存在する語です。

読者にとって実用上の意味はこうなります。手元の画面がどちらのラベルでも、機能の対応は「周波数を決めるつまみ」と「量を決めるつまみ」の2つだと考えて差し支えありません。ただし、本文が Cutoff に付けた「Wide 構成のときのみ」という限定が Freq/Intensity 表記の版にもそのまま当てはまるかどうかは、ガイドからは決められませんでした。p.8 の図では帯域構成が Triple なのに Freq が灰色になっていないからです。実際に効くかどうかは、画面のグレーアウト状態で判断してください。

カホ

公式資料どうしが食い違うのは珍しくありません。片方を「間違い」と切り捨てるより、両方あることを知っておくほうが実戦では役に立ちます。

モジュレーターは、モジュレーター自身にもかけられる

Using Modulators の節(誌面 p.12)は、割り当ての範囲をこう書いています。「ホストされたプラグインのコントロール、エフェクト・プロセッサー、クロスオーバー部、そしてEQの多くのコントロールに、モジュレーターを割り当てられる。モジュレーターをモジュレートすることもできる。実のところ、モジュレーターは自分自身のコントロールをモジュレートできる」。

操作はドラッグ&📖ドロップです。モジュレーターのラベルをつかんで動かすと、割り当て可能なコントロールがハイライトされる。落とすと、そのコントロールの下にあるスロットにIDが表示される。1つのコントロールにつき最大4基まで割り当てられ、1基のモジュレーターは好きなだけ多くのコントロールへ割り当てられます。スロットの上を縦にドラッグすると変調の深さが変わり、つまみの内側の小さな弧が各モジュレーターの深さを、つまみの外の点が変調中の実際の位置(全モジュレーターの合計)をリアルタイムに示します(誌面 p.13)。解除はスロットを右クリックして「None」を選ぶ、という順番です。

モジュレーターは4基の LFO/Sync 型(M1〜M4)と1基の 📖AM 型の計5基(誌面 p.14)。M1〜M4 は同一の作りで、📖LFO とシーケンサーを切り替えられます。ここに1か所、読み落とすと挙動が理解できなくなる差があります——Rate の意味が Type によって変わるのです。LFO では「1周期を終えるのにかかる時間」、シーケンサーでは「1ステップを終えるのにかかる時間」(誌面 p.14)。同じ数値でも、ステップ数が16なら実際の周回は16倍かかります。

📖AM モジュレーターは毛色が違います。「声の信号の振幅📖エンベロープを使って、プラグインの他のコントロールを操作する。エンベロープ・フォロワーとよく似た働きをする」(誌面 p.17)。M1〜M4 が時間で回るのに対し、AM だけは入っている音そのものが変調源です。Level の上限も違って、M1〜M4 が 0〜1 なのに対し AM は 0〜+2。素材の振幅に対して2倍まで振れる余地が用意されています。

全パラメーター

ガイドが範囲を明記しているものだけ数値を入れています。数値の初期値は書かれていません(「default」の語が3系統の全文検索で0件)。初期状態にふれた記述としては「MultiMod を初めて開くと Berzerk が3つ立ち上がっている」(誌面 p.5)があります。

セクションコントロールガイド記載の範囲・選択肢働き
クロスオーバー
(誌面 p.8〜9)
Band ConfigurationTriple / Dual / WideTriple=全帯域とプロセッサーが有効/Dual=低と高のあいだに1つ/Wide=クロスオーバー無し・位相シフト無し
Crossover Sharpness記載なし(図では Gradual / Steep)クロスオーバーの急峻さ。Triple・Dual のときのみ。手順側では Crossover Slope と呼ばれている
Crossover Point / Frequency記載なし帯域の境界周波数。グラフの📖マーカーをドラッグするか Freq つまみで設定
Cutoff記載なし倍音生成器が焦点を合わせる周波数。Wide 構成のときのみ
Harmonic記載なしその帯域で生成する倍音の量。低域=失われた基音の生成(MaxxBass と同じ処理)/中高域=奇数次と偶数次の付加
Mono記載なし(オン/オフ)低域のみ。低域の安定を増し MaxxBass 効果を助ける
Band Spatial記載なし📖ステレオ像のパンと回転。中央の 📖Balance つまみ、左右独立のパンナー、その間の帯をドラッグして像ごと回転
Band Gain−24 dB 〜 +24 dB選択した帯域のゲイン
Bypass / S / M—帯域ごとのバイパス・ソロ・ミュート。バイパスしてもその帯域の処理は完全には切れない
EQ
(誌面 p.11)
Band on/off—バンドのオン/オフ(📖マーカーをダブルクリック)
Filter Typebell / low shelf / high shelf / high pass / low passバンドごとに切り替え(Mac は CMD+クリック、📖PC は Win+クリック)
Band Gain−30 dB 〜 +30 dBバンドのゲイン
Band Frequency20 Hz 〜 20,000 Hz(全バンド)バンドの周波数
Band Q0.26 〜 13バンドのQ
モジュレーター M1〜M4
(誌面 p.14〜16)
TypeLFO / SEQLFO とシーケンサーの切り替え
シーケンサーの値−24 〜 +24 の整数Tune または Frequency に割り当てて変調深度100%のとき、半音を表す
Steps(SEQ のみ)2 〜 16 ステップシーケンサーのステップ数
Rate0.06 Hz 〜 30 Hz / 1/64 小節 〜 8 小節表示単位と範囲は Rate 📖Sync の状態で変わる。LFO では1周期、SEQ では1ステップの時間
TriggerSync / FreeSync=ホストの📖BPMと再生位置に同期/Free=リセットされず走り続ける
Play ModeOne Shot / 📖Loop / Seesaw / Hold1周で停止/連続ループ/往復/その場で停止(Phase で相対位置を変えられる)
Phase記載なしモジュレーターの開始位置
Warp0.1 〜 100(1 が線形)周期全体の長さは保ったまま速度を歪ませる。1未満で遅く始まり終盤に加速、1超で速く始まり終盤に減速
📖Smooth / LevelLevel は 0 〜 1Smooth=変調カーブの平滑化(低いとオンセットが目立ちクリックが出ることがある)/Level が 0 だと変調は起きない
AM モジュレーター
(誌面 p.17)
📖Attack0.1 ms 〜 1000 ms正のレベル変化を検出したときに立ち上がる時間
📖Release0.1 ms 〜 1000 ms減衰を検出してから最小値へ戻る時間
Level0 〜 +20 だと変調は起きない。M1〜M4 の上限1より広い
出力
(誌面 p.9・p.17)
Mix記載なしドライ入力と処理後信号のミックス
Out−30 dB 〜 +6 dBプラグイン出力ゲイン
Peak−∞ 〜 0.0 📖dBFSピーク表示。クリックでリセット(オーバーは赤のクリップランプ)

プラグイン枠の上部にある小さなパネルは、その枠のプラグインの📖アンドゥ/📖リドゥ(16ステップ)、プリセットのロードとセーブ、バイパスに使います(誌面 p.6)。枠の移動は上部の黒いバーをつかんでスライド。Triple/Dual で作業しているときは、枠を移すだけで同じ設定のプラグインの鳴りが大きく変わる、とガイドは注意しています。

公式技術表(Tech Specs/2026年9月5日時点)の数値も並べておきます。コンポーネントはモノ/ステレオ/モノ→ステレオの3種、対応サンプルレートは192 kHz まで、提供バージョンは V17・V16・V15・V14・V13・V12・V11。遅延の欄は3行に分かれていて、44.1 kHz と 48 kHz で「No Inserts: 0/No HD: 0/HD: 147」、88.2 kHz と 96 kHz で「No Inserts: 0/No HD: 0/HD: 98」、176.4 kHz と 192 kHz で「No Inserts: 0/No HD: 0/HD: 49」(単位はサンプル)です。HD は、MDMX 側の公式ガイドが「歪み信号の8倍アップサンプリングを有効にする」と定義しているスイッチと同じ名前です。時間に換算すると(本稿の計算)、147サンプルは 44.1 kHz で約3.33 ms・48 kHz で約3.06 ms、98サンプルは 88.2 kHz で約1.11 ms・96 kHz で約1.02 ms、49サンプルは 176.4 kHz で約0.28 ms・192 kHz で約0.26 ms。サンプル数も時間も、セッションのレートを上げるほど小さくなります。

ガイド本文には latency という語が1度も出てきません(3系統の全文検索で0件)。遅延の数字はガイドではなく公式技術表にしか無い、ということです。

用途別・設定の始点

下の順番は、ガイドの「CONTROLLING CROSSOVERS」(誌面 p.9〜10)が示している手順そのものです。数値の推奨はガイドに無いので、置いていません。

順やることガイドの記述
1Band Configuration を選ぶ選び分けると、どのプラグインが処理に使われるかが見える
2Crossover Slope を選ぶSteep にすると帯域の境界が鋭くなり、重なりが減る
3クロスオーバー周波数を決めるグラフのマーカーをドラッグするか、その帯域の Freq つまみで。Freq を使うと Hz の値がバリューボックスに出る
4帯域のゲインを調整する範囲は −24 dB 〜 +24 dB
5加える倍音を調整するHarmonic は各帯域に加える倍音強調の量を決める。処理の中身は帯域ごとに違う(低域=失われた基音/中高域=奇数次と偶数次)
6パン/回転を調整するステレオ・コンポーネントのみ。Spatial で従来型のパンとステレオ回転ができる
随時帯域をバイパス/ソロ/ミュートする帯域とプラグインがクロスオーバーとどう相互作用しているかを理解するために、こまめに行うべき

Spatial の使い方は、公式ガイドが3つの操作に分けて説明しています(誌面 p.10)。中央の Balance つまみを回すと音源が左右へ寄り、片チャンネルが大きく片チャンネルが小さくなる——ハイファイ機器のバランス・コントロールと同じ挙動です。青い弧の両端にある2本の細い線が左右独立のパンナーで、片方だけ動かすとステレオ像が非対称に広がったり狭まったりします。2本を近づければほぼモノラルの像。そして2本のあいだの青い領域をドラッグすると、像と幅を保ったままステレオ像ごと回転します。ガイドはこれを「モノラルのパンにおけるステレオ版と考えればいい」と説明しています。パンナーは、そのすぐ下の空間をクリックするとつかみやすい、という操作上の注記まで付いています。

プリセットについては、ガイド p.2 が「各プラグインがそれぞれファクトリー・プリセットとアーティスト・プリセットのライブラリを持ち、MultiMod プラグイン全体としても、処理のフレームワークを丸ごと組み上げるためのプリセットを持つ」と書いています。数については公式英語製品ページ(2026年9月5日時点)が「受賞歴のあるアーティストによる 170 のプリセット、221 のファクトリー・プリセット」と表示しています。

価格については、公式英語ページの希望小売価格が 99 米ドルです(2026年9月5日時点)。日本語公式サイト(wavesjapan.jp)については、製品ページのサイトマップに載っている248本のプラグインページを確認しましたが、MultiMod Rack のページは見つからず、wavesjapan.jp/plugins/multimod-rack/ も 404 を返しました。日本円の定価は本稿では確認できていません。同じ日の公式ページには割引後の価格も出ていましたが、観測が1時点しかないため本記事には書きません。現在の価格は 公式製品ページ で確認してください。公式の機械可読フィードによると発売日は2020年3月17日、カテゴリーは Saturation & Distortion Plugins です。

収録バンドルについては、公式製品ページの Included In タブが Waves Ultimate/Cloud MX Audio Mixer Premium/Mercury/Pro Show/SD7 Pro Show を挙げています(2026年9月5日時点)。構成は改編されるので、最新の収録状況は公式ページで確認してください。

似た製品との使い分け

まず、同じ Waves の「ラック」である StudioRack との違いです。StudioRack は DAW のチャンネル・インサートとして最大8本のプラグインを連結し、コントロールし、外部コントローラーへ割り当て、プリセットごと管理する道具です(StudioRack ユーザーガイド 誌面 p.5)。現行の公式製品ページ(2026年9月5日時点)はさらに「Waves プラグインに加えて他社の VST3 プラグインもホストする」「マルチバンド・スプリット・ラックで、どんなプラグインでもマルチバンド化できる」「パラレル・スプリット・ラックで並列処理が簡単に」と書いています。帯域分割そのものは、いまや StudioRack にもあります。

では MultiMod は何が違うのか。3点あります。ひとつ、入れられる中身が「ディストーション・プラグインと FX モジュールだけ」に限定されていること(誌面 p.5)。ふたつ、帯域ごとに倍音生成(Harmonic)とステレオ空間(Spatial)とゲインが最初から付いていること。みっつ、ホストしたプラグインのつまみそのものに LFO/シーケンサー/エンベロープ・フォロワーを割り当てられること。StudioRack の公式製品ページが挙げている特徴の一覧に、ホストしたプラグインのつまみへ LFO を割り当てるという項目は出てきません。汎用のラックが「並べて運ぶ」ための道具だとすれば、MultiMod は「歪みを帯域で割って、動かす」ことに特化した専用フレームです。

次に、中身側との関係です。MDMX Distortion Modules(Fuzz/Overdrive/Screamer の3本)と Berzerk と Abbey Road Saturator は、それぞれ単独でも動くプラグインです。MultiMod はそれらを置き換えるものではなく、3本ぶんの枠と、帯域分割と、変調を足すものです。ガイドが「Waves のディストーション・プラグインをすでに使っているなら新しく覚えることはほとんどない」と書いているのは、この関係を指しています。逆に言えば、1本もディストーション・プラグインを持っていない状態で MultiMod だけを買うと、できるのはエフェクト・モジュール(ガイドの記述では3種、現行の公式ページの記述では6種)を帯域で割って変調することに絞られます。

帯域ごとに倍音を足すという発想だけを取り出すなら、単体のVitamin(マルチバンドのハーモニック・エンハンサー)のほうが目的に対して直接的です。ステレオ像の回転と幅だけが欲しいなら S1 Stereo Imager。MultiMod の Harmonic と Spatial は、あくまで歪みを帯域で割った結果を整えるために同じ画面に置かれているもので、それ単体を目的に選ぶ製品ではありません。

よくある質問

MultiMod Rack だけを買えば、Berzerk や MDMX も使えますか?

いいえ。ガイド p.3 に「Waves のディストーション・プラグインは MultiMod とは別にライセンスされる。ライセンスの無いプラグインはドロップダウンのプラグイン一覧に表示されない」と明記されています。公式英語製品ページにも「MultiMod Rack のご購入には Abbey Road Saturator・Berzerk・MDMX の各プラグインは含まれません」という注記があります(2026年9月5日時点)。ライセンスを持っているプラグインだけが一覧に出る仕様なので、一覧が短くても不具合ではありません。

帯域をバイパスしたのに音が変わりません

ガイド自身が想定している挙動です。誌面 p.9 に「プラグインをバイパスしても、その帯域の処理が完全にバイパスされるわけではない。クロスオーバー付近では帯域どうしが一部の周波数を共有しているためだ」と書かれています。境界の重なりを減らしたいなら、Crossover Sharpness を Steep 側にしてから聴き直してください。

位相を動かしたくないときは?

帯域構成を Wide にしてください。ガイドは Wide を「クロスオーバー無し、位相シフト無し」と定義しています(誌面 p.8)。なお Triple・Dual のクロスオーバー自体も、ガイドは「位相補償された(phase-compensated)」ものと説明しており、ミックス・コントロールは位相が完全に一致したものだと書いています(誌面 p.2)。それでも、位相シフトが無いと明記されている構成は Wide です。ただし Wide ではクロスオーバーが無くなるので、帯域ごとに別の処理を割り当てるという前提自体が成り立ちません。ガイドは「Band Configuration を選び分けると、どのプラグインが処理に使われるかが見える」(誌面 p.9)とだけ書いており、Wide でいくつの枠が動くのかは本稿が読んだ範囲では明記されていませんでした。なお Cutoff は「Wide 構成のときのみ」有効というのがガイドの記述です。

シーケンサーの Rate を LFO と同じ値にしたのに、速さが違います

Rate の意味が Type で変わるためです。誌面 p.14 に「LFO を選んでいるとき Rate は1周期を終えるのにかかる時間を決めるが、シーケンサーでは1ステップを終えるのにかかる時間を決める」と書かれています。ステップ数(2〜16)を増やすほど、同じ Rate でも1周にかかる時間は長くなります。

まとめ

MultiMod Rack は、公式ガイドが自ら「それ自体が音を生み出すことはない」と書く処理フレームです。買う前に確認すべきは価格より先に、入れる中身(Abbey Road Saturator・Berzerk・MDMX)を持っているかどうか。

設計の要点は、帯域を割るという発想そのものではなく、割った境界に重なりが残ることを前提に組まれているところにあります。だからバイパスしても切れないし、だから Steep という選択肢が手順の2番目に置かれている。

そして5基のモジュレーター。1つのつまみに最大4基、モジュレーター自身にもかけられる。歪みを「作る」道具ではなく、すでにある歪みを帯域と時間の2軸で動かすための道具だと考えると、置き場所が決まりやすくなります。

カホ

枠だけの製品は、持っている中身の数だけ価値が変わります。所有プラグインを数えてから判断するのが、いちばん外さない順番です。

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