この記事では、Waves UltraPitch が単音(モノフォニック)の入力しか受け付けない理由を、公式ユーザーガイドが書いている因果関係から確認します。「対応していない」のではなく、フォルマント補正という機能を成立させた代償として単音に限定されている——という筋道です。そのうえで、画面の半分を占めるピッチ検出セクションが何のためにあるのか、Link のフォルマント補正カーブがなぜ楽器別なのか、Delay と Animate という2つの「ズレ」のコントロールが何を模しているのかを整理します。
この製品については、実際より広い性能を書いた解説が出回っています。ピッチ範囲を±2オクターブとするもの、キーとスケールを設定すれば音楽的に正しいハーモニーが自動生成されるとするもの、6声のポリフォニック・ピッチシフターだとするもの。公式ユーザーガイドの記載はいずれとも異なります。範囲は1オクターブ上から1オクターブ下まで、ハーモニーは各ボイスに度数を手で指定するもので、ポリフォニックには明確に対応していないと書かれています。
本文の仕様と数値は、Waves が配布している UltraPitch のユーザーガイド(全31ページ)に記載がある範囲に限定しました。比較のために Waves Harmony、SoundShifter、Doubler の各ユーザーガイドも参照していますが、どの製品の話かは都度明示します。編集部はこの製品を所有していないため、音の印象や使用感は書きません。
カホ「和音を入れたら変な音になった」は、使い方の失敗ではありません。このプラグインは構造上、単音しか追えません。理由はマニュアルにはっきり書いてあります。
この記事でわかること
- フォルマント補正と単音限定が、なぜセットになっているのか
- ピッチ検出(Mode・Min・Max・Speed)が独立したセクションになっている理由
- 公式ガイドに書かれている全パラメーターの範囲と、そこから外れる俗説
- Waves Harmony/SoundShifter/Doubler との役割の違い
UltraPitchとは|何を解決する製品か
UltraPitch は、ピッチシフトと、声を増やしてハーモニーを作ること、そして特殊効果の3つを担うプラグインです。公式製品ページは「ステレオコーラス、ダブリング、パラレルハーモニー、ボーカルスラップとスプレッド効果のための」プロセッサーだと紹介し、要約では「モノフォニックオーディオのためのハーモニーとフォルマントシフト」と書いています。
ユーザーガイドが挙げているコンポーネントは3種類です。ピッチシフトのための Shift、3声を追加する 3-Voice harmony maker、6声を追加する 6-Voice harmony maker。ガイドはそれぞれに「(mono and stereo)」と付記しており、いずれもモノ版とステレオ版があります。ガイドはこの3つをまとめて「フォルマント補正された(formant-corrected)コンポーネント」と呼んでいます。
入出力の扱いには前提があります。ガイドは「UltraPitch はモノ、ステレオ、そしてモノからステレオへのサウンドトラックに適用できるプロセッサー」としつつ、「ステレオ入力の場合、UltraPitch はピッチ検出とシフトのために左チャンネルを参照する。処理は本質的にモノフォニックだからだ(追跡できる入力ピッチは1つだけ)」と書いています。ステレオで挿しても、音程を見ているのは左だけです。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
和音が通らないのは、フォルマント補正の代償
ユーザーガイド第2章に、この製品の性格を決めている一文があります。「UltraPitch はフォルマント補正されたピッチシフターであり、ポリフォニックなピッチシフトには対応していない。フォルマントを補正するにはピッチが確定していなければならず、そのためには単音(monotonic)の入力が必要だからだ」。



制限が先にあって機能が削られたのではなく、機能を成立させた結果が制限です。この向きを取り違えると、代わりに何を選べばいいかも見えません。
フォルマントについて、ガイドはこう説明しています。口から出る音のような共鳴周波数をフォルマント周波数、あるいは単にフォルマントと呼ぶ。フォルマントは、音を出す源(話者、歌手、ギター、トランペットなど)の形・構造・寸法に依存する。そしてフォルマント補正とは、音の音色(キャラクター)を変えることだ、と。
ガイドが用意している実演も分かりやすいものです。鼻をつまんで音を出し、そのまま鼻を放す(歌い続けたまま)。このとき変わった音が、鼻腔の寸法と形を変えたことによるフォルマント補正の結果だ、という説明で、「お子さんが家でやっても大丈夫です」と添えられています。
つまりフォルマント補正は、音源の「体の大きさ」を保ったまま音程だけ動かす処理です。そのためには元の音程が分かっていなければならず、複数の音が同時に鳴っていると音程が確定しない。ガイドは「モノフォニックな音源も、深いリバーブがかかるとポリフォニックになりうる」とまで注意しています。ギターの開放弦を含むコードのように複数のピッチを持つ入力は検出できない、というのが第3章の言い切りです。
検出が先、シフトが後 ── 画面の半分が検出用である理由
ガイドは第3章の冒頭で「以下に述べるピッチ検出のプロセスは、ピッチシフト、ハーモナイゼーションなど、UltraPitch のあらゆる用途における最初の段階です」と宣言します。検出が失敗すれば、その後の処理はすべて失敗する。だから Mode、Min-pitch、Max-pitch、Speed という検出専用のコントロール群が独立したセクションを占めています。
ピッチ検出グラフの読み方も定義されています。青い線が検出中のピッチを追跡する。無音のあいだ表示は黒。検出可能なピッチが無いとき、表示はグレー。グレーは「unvoiced(無声音)」——衝突音、「シャー」という音、銃声のように認識可能なピッチを持たない音——を意味し、追跡できません。無声音が多すぎると「Incompatible input or settings」というメッセージが出ます。



「Incompatible input or settings」が出たとき、ガイドが挙げている原因は4つです。まずどれに当たるかを切り分けてください。設定の問題とは限りません。
FAQ が挙げているこのメッセージの原因は4つです。入力トラックがポリフォニックである。Min と Max のピッチマーカーがピッチを「捕まえる」位置に置かれていない。不適切な Mode を使っている。そしてもうひとつ、トラックはモノフォニックだがピッチが不明瞭な場合——打楽器的な音など。最後の1つに対するガイドの答えは端的で、「別のトラックを使ってください」です。
Min と Max の置き方も具体的に書かれています。Max-pitch は歌われた/話された最高音の少し上、Min-pitch は最低音の少し下。音域が分からない場合は Min を 50 Hz、Max を 1000 Hz に。話し声なら 50〜800 Hz に。高すぎる Max-pitch もグリッチの原因になる、とも書かれています。
Min/Max は音質だけでなく CPU の制御弁でもある
この2つのコントロールには、もう一つ役割があります。FAQ の「なぜ UltraPitch を使うと CPU がオーバーロードするのか」への回答がそれです。ガイドによれば、ベース音のように処理により多くの電力を必要とする音があり、低い周波数へのピッチシフトは高い周波数へのシフトより多くの電力を必要とする。そして「最小・最大のピッチリミッターは、CPU のオーバーロードを避けるのを助けるために設計されている」と明記されています。
推奨手順も具体的です。最小と最大を、予想される入力の周波数レンジに非常に近づけて設定し、そこから最大ピッチリミッターが最高音の約1/2オクターブ上、最小ピッチリミッターが最低音の約1/2オクターブ下になるまで、ゆっくりとスライダーを開いていく。検出精度の調整と負荷の調整が、同じつまみで同時に行われる設計です。
逆に、この検出をわざと壊す使い方もガイドは紹介しています。「場合によっては、Max と Min のピッチコントロールを、特定の効果を生むためにあえて悪い検出になるよう設定します。試したければ、両者を同じ値にして何が起きるか見てください。いくつかのプリセットにはそうした設定が含まれています」。第8章で解説されている Mangler というプリセットについても、「ピッチ検出のレンジがプロセッサーに入力を見失わせ、それが激しいピッチの歪みにつながる」と説明されています。
Link ── フォルマント補正カーブが楽器別にある理由
Link は、ピッチを動かしたときフォルマントをどう追従させるかを決めるコントロールです。Free(リンクなし)に加えて、Voice、Song、Brass、Woods、Strings、Linear、Inverted の7つが選べます。
ガイドの説明はこうです。「それぞれの Link プリセットは、理想的なフォルマント補正カーブを含んでいる。ピッチを変えると、フォルマントはこのカーブに従う。各カーブは、列挙された実際の音楽的状況におけるピッチシフト時の、理想的に響くフォルマント補正に従って開発されている」。そして注記に「異なる楽器は異なるフォルマント補正を必要とする。UltraPitch は、ピッチシフトの各度合いに対して理想的なフォルマントを得るのを助けるため、プリセットのピッチ/フォルマントのリンクカーブ一式を持っている」とあります。
フォルマントが音源の形・構造・寸法に依存する以上、ピッチを1音上げたときに「自然に聞こえる」フォルマントの動き方は、声と金管と木管と弦で違う。その差を数式ではなくカーブの引き出しとして持たせた、というのがこの設計です。Linear と Inverted だけは性格が違い、ガイドは「特殊効果のための、より変わったピッチ/フォルマント関係を提供する」としています。
なお、リンクされたプリセットを使っているあいだ、フォルマントは固定のカーブに従い、変更できません。フォルマントを自分で動かしたいときは Link を Free に戻す必要があります。
フォルマント軸に u・o・a・e・i と書いてある理由
Voice character graph のフォルマント軸の下には、u、o、a、e、i の5文字が並んでいます。ガイドはこれを「フォルマントパラメーターの軸にまたがる振動モードによって生み出される音のタイプに対応する」と説明しています。
基準点はゼロです。「フォルマント値がゼロに設定されているとき、UltraPitch は歌手の口と肺の『サイズ』と位置を一貫して保ちながら、完全にフォルマント補正されたピッチシフトを行う」。そこから両側に意味があります。負の値は口の形の変化に対応し、高周波の口腔振動と倍音が減る(‘u’ 母音の方向へ)。ガイドは、声の性別をより男性的に聞かせるために負のフォルマントを使える、と書いています。正の値はより高周波の振動モードを与える(‘i’ 母音の方向へ)。フォルマント値はピッチをシフトせずに変えられるので、歌手の声そのものを変えられる。女性的な響きには正のフォルマントを、というのがガイドの説明です。
つまりこの軸は「高域を足す/引く」ではなく、母音の並びそのものです。数値の代わりに文字を刻んであるのは、耳が判断する対象が音量ではなく音色だから、と読めます。
±1オクターブという範囲と、約5セントの分解能
ピッチシフトの範囲は、元の音のピッチを基準に1オクターブ上から1オクターブ下まで。ガイドは第2章とFAQの両方で同じ範囲を書いています。半音単位で数値入力でき、Pitch のプルダウンからは音程を直接選べます。開いた直後の初期値は「Unison」です。
表示は独特です。ガイドの例では −2.3 と入力すると、表示が「−2nd M, −30」になります。これは長2度下げたうえで、次のピッチレベル(短3度)に向かってさらに30セント動かす、という意味です。セントの定義もその場で書かれています。「1セントは半音の1/100であり、したがってオクターブは1200セントである」。
分解能は、タイムストレッチの手順の中で明かされます。ガイドは 80% への時間伸長を例に、必要なシフト量を log(100/80)÷log(1.0595) = 3.86 半音と計算したうえで、「UltraPitch はおよそ5セントの分解能を持つので、最も近い5に丸める必要がある」として、3半音(短3度)+85セント、という値に落としています。この製品が扱う最小単位は約5セントです。
ちなみに、そのタイムストレッチ手順自体がこの製品の年代を物語ります。ガイドは、サウンドファイルのヘッダに書かれたサンプルレート(実際のものではなく、定義されたほう)を 44.1 kHz から 35.28 kHz(44.1 × 80%)に書き換え、そのうえで 44.1 kHz に変換し直せ、と指示します。Sound Designer II のファイルなら Apple の ResEdit で “STR”(1001) リソースの値を変えればよい、とまで書かれています。SoundForge、TDM、WaveConvert Pro といった名前が並ぶ、DAW内で完結する以前のワークフローです。
Delay と Animate ── 「人は完璧に揃わない」を設計に入れる
3声・6声のコンポーネントでは、各ボイスに On/Off、Gain、Pan、Delay の4つのコントロールが付きます。このうち Delay は、ダイレクト音を含む各ボイスに 0〜100 ms のディレイを加えるものです。ガイドの表現では「あなたの声(あるいはカズー、トランペット等)の合唱に、生きているような感じを加える」ためのもの。
理由も書かれています。「小さなタイムディレイは、この音響効果にいくらかのリアリティを加える。人間は決して完璧なタイミングでは歌わないからだ(そうした小さなディレイのほうが良く聞こえる。だからこのコントロールがある)。実際、人間の不完全さがあるからこそ、ディレイを創造的に使うとシーケンスされたトラックがより人間らしく聞こえるのだ」。



ズレを消す道具が並ぶ中で、この製品はズレを足す側に2つもコントロールを割いています。Delay が固定のズレ、Animate がランダムなズレ。役割が分かれています。
もう一つが Animate です。ボイス間に 0〜100 ms のランダムな非同期を加えるもので、ガイドはシーケンサーの「Humanize」機能に似ていると説明しています。Delay がボイスごとに固定量をずらすのに対し、Animate はずれ方自体を揺らします。合唱の作り方を説明する章では、「アニメーションはボイス間にランダムなタイムディレイを導入し、それらをより本物らしく、異なる物理的な音源/歌手から来ているかのように聞かせる」と書かれています。
Live モード ── 0.2秒のルックアヘッドと折り合う
FAQ には、レイテンシーについての明確な記述があります。「UltraPitch は非常に長いルックアヘッドを使用しており、そのため 0.2 秒のオーダーの長いレイテンシーを生じます」。ホストアプリケーションがディレイコンペンセーションに対応していない場合、処理結果の最後の部分が欠けることがある。さらに、対応している場合でも、3声・6声のコンポーネントで高い Animate 設定と長いボイスディレイを使っていると、0.05 秒のオーダーで音の一部を取りこぼす可能性がある、と書かれています。
ここに関係するのが Live モードです。ダイレクトボイスには追加のディレイ設定があり、ガイドによれば「ダイレクトボイスのディレイ値を 100 ms より大きくすると、UltraPitch は Live モードに切り替わる」。ディレイコントロールをクリックして上まで一気にドラッグするだけです。Live モードでは、ダイレクトボイスが入力音と同期し、TDM アプリケーションと組み合わせてライブショーのようなリアルタイムの状況で機能できるようになる、とされています。
ディレイのつまみが 100 ms を超えたところでモードスイッチを兼ねる、という作りは今の設計では珍しいものです。ダイレクト音とシフト音のタイミング関係が、この製品では単なるエフェクトのパラメーターではなく動作モードそのものだった、ということです。
和音は「度数の手指定」で作る
ハーモニーの作り方についても、ガイドの記述は具体的です。各ボイスに必要な和声の度数を設定する。そのうえで「使うのに最も良い和声の度数は、5度上、4度下、オクターブ上、オクターブ下」と書かれています。さらに「人の声でより現実的な効果を得るには、通常の平均律より完全な響きになるよう音程を調律すること(純正律)」とし、「収録されているプリセットのほとんどは、この方法で作られています」と続きます。
キーやスケールを設定して、入力の音程に応じてハーモニーがダイアトニックに追従する——という機能は、ユーザーガイドには記載がありません。各ボイスのピッチは固定の度数として指定するものです。だからこそ「どの度数が使いやすいか」「純正律に寄せるとどうなるか」といった、演奏側の知恵が説明として必要になります。キーとスケールに追従させたい場合は、後述する Waves Harmony が別に用意されています。
全パラメーター
公式ユーザーガイド第6章「Controls & displays」の記載を整理したものです。範囲が明記されていないものは空欄にしてあり、推測で埋めていません。
全コンポーネント共通
| コントロール | 範囲・選択肢 | ガイドの記載 |
|---|---|---|
| ピッチ検出グラフ | — | ピッチシフト前の現在のピッチをリアルタイム表示。青い線が検出したピッチを追跡。無音時は黒、検出可能なピッチが無いときはグレー |
| Speed(モニタースクロール速度) | — | 使用中のコンピューターに合わせて調整し、ピッチ検出とMin/Maxのしきい値調整が見やすい速度にする |
| Min-pitch | — | 下向き矢印のコントロール。最低音(例:ベースライン)のすぐ下に置くと検出が最も良い |
| Max-pitch | — | 上向き矢印のコントロール。ソースの最高音のすぐ上に置くと検出が最も正確になる |
| Mode | 7種類 | 検出タイプを設定。Default(汎用)/Voice Steady(速いピッチ変化のない声)/Voice Jumpy(速いピッチ変化のある声)/Voice Opera(非常に明瞭な声)/Music Steady(明確な音程を持つ楽器。フルート、ピアノ等)/Clear tones(非常に明瞭な音。ヴィブラフォン、シンセ等)/Bass(低域の信号。ベースギター等) |
| キーボードディスプレイ | — | ピッチ検出グラフの右側。検出中の曲の音を表示する |
| Voice character graph | — | ボイスのピッチとフォルマントの設定を表示。オンになっている各ボイスにマーカーが出る(元のピッチを除く)。上下でピッチ、左右でフォルマント |
| Pitch | 1オクターブ上 〜 1オクターブ下 | 半音単位で数値入力、プルダウンからの選択、グラフ内のマーカードラッグのいずれでも設定できる。初期値は Unison |
| Formant | −12.0 〜 +12.0 | 相当する半音数で較正されている。リンクされたプリセットの使用中は固定カーブに従い変更できない |
| Link | Free + 7種類 | Free(制約なし)のほか Voice / Song / Brass / Woods / Strings / Linear / Inverted。各プリセットは理想的なフォルマント補正カーブを含む。Linear と Inverted は特殊効果向け |
| Direct Level | 0.0 〜 −24.0 dB | 元のトラックの入力ゲインレベルを調整するスライダー |
ひとつ注意があります。Mode の3番目について、ガイド内で名称が2通り出てきます。第3章(クイックスタート)では「Voice Stressed」、第6章(コントロール)では「Voice Jumpy」。説明はどちらも「速いピッチ変化のある声」で一致しているため、同じモードを指していると考えられますが、公式資料の中で表記が割れている点はそのまま記しておきます。
3声・6声コンポーネントのボイス別コントロール
| コントロール | 範囲・選択肢 | ガイドの記載 |
|---|---|---|
| On/Off | オン/オフ | クリックでボイスを有効化。有効になると点灯し、Mix と Voice character の両グラフに同色のマーカーが出る |
| Gain | 0.0 〜 −24.0 dB | ボイスのゲインレベル。Mixグラフのマーカーを上下にドラッグしても調整できる |
| Pan | −45.0 〜 +45.0 度 | ボイスのパンニング角度。Mixグラフのマーカーを左右にドラッグしても調整できる |
| Delay | 0 〜 100 ms | ボイスにタイムディレイを加える。ダイレクトを含む各ボイスに設定できる |
| Live モード | ダイレクトのディレイを100 ms超に | ダイレクトボイスのディレイ値を100 msより大きくすると Live モードに切り替わる(TDMアプリケーション向け)。ダイレクトボイスが入力音と同期する |
| Animate | 0 〜 100 ms | ボイス間にランダムな非同期を加える。シーケンサーの「Humanize」に似た機能 |
| Mixグラフ | — | ステレオフィールド内でのボイスの広がりを表示。上下でMix、左右でPanを調整できる |
| ボイスの色 | 3声:白+緑・オレンジ・赤/6声:緑・オレンジ・赤・紫・青・ターコイズ | 3声では元のピッチが白のインジケーター。開いた直後は元のピッチだけがオンで、他はオフ |
| ピッチ/フォルマント | ボイスごとに独立 | マーカーごとに専用のPitch/Formantコントロールがある。6声なら6組 |
CPUについてガイドが書いているのは、3声のコンポーネントのほうが必要な処理能力が少ないということ、そして音が歪んだりクリックが出る場合はアクティブなボイスを減らすこと、の2点です。ボイス1つあたりの負荷率のような数値は記載されていません。
用途別・設定の始点
以下はすべて、公式ユーザーガイドに具体的な数値付きで書かれている手順です。ガイドが「レシピ」として明示している数値だけを載せています。
| 目的 | ガイドが示す始点 |
|---|---|
| まず何よりも先に | Mode を選び、Min/Max を青いピッチ追跡線のすぐ上・すぐ下に合わせる。音域が不明なら Min 50 Hz/Max 1000 Hz、話し声なら 50〜800 Hz |
| 声の音程を変える | Link を Free にしてシフト量を決める。自動でフォルマント補正させたいなら Link を Voice に。4度より大きく動かすなら、フォルマント補正が追加で要るか耳で確認する |
| 楽器の音程を変える | Mode を素材に合わせ、Link のプルダウンで演奏している楽器か、それに近い音響特性の楽器を選ぶ |
| 1オクターブ下のハモリを足す | 3声コンポーネントで Direct を最大(0 dB)にし、第1ボイスをオンにして Pitch を −12.0(−Octave)に設定する |
| 合唱にする | Direct を −3 dB のヘッドルームに。全ボイスを −3 dB に。各ボイスのピッチとフォルマントは0に近い値に。Animate を足し、パンを1つずつ別の角度に振る |
| 和音を作る | 合唱の設定から、ピッチだけを必要な度数に。使いやすいのは5度上・4度下・オクターブ上・オクターブ下。人の声では純正律寄りに調律する |
| 太いコーラス効果 | 全ボイスをオン。ミックスレベルは全て −6 dB。ピッチシフトは 1〜10 セントの範囲でバラす。フォルマントは全て0。パンは −45〜+45 度でバラす。ディレイは 1〜3 ms、Animate も 1〜3 ms |
| より変化のあるコーラス | 同じく全ボイスをオン、ミックス −6 dB。ピッチシフトは 5〜20 セント。フォルマントは −0.2〜+0.2 でバラす。パンは −45〜+45 度。ディレイは 10〜30 ms、Animate も 10〜30 ms |
| 言葉の切れ目でグリッチが出る | Mode を別のものに変える。Max-pitch を最も低い値まで下げる(ただしソースの最高音より上を保つ)。低音域で出るなら Min-pitch を最小まで下げる |
| CPUが厳しい | アクティブなボイスを減らす。Mode を変える。Min-pitch をソースの最低音のすぐ下まで上げる |
| 2〜3音の和音でフェイジングが出る | パン、ボイスごとに異なるディレイ、Animate でボイスをより効果的に分離する。各ボイスのピッチ/フォルマントを微調整する |
第8章では、プリセットが1つずつ解説されています。数えると21個。Small Group、VeryStereo、Doubler、Tripler、Quadrupler といった実用寄りのものから、Mangler、Screaming Mangler、Bizarre resonator のように検出をわざと破綻させるものまで幅があります。ガイドの説明文は率直で、Stereo+OctaveDown については「チューバッカがハン・ソロと一緒に歌おうとしているように聞こえます。とかなんとか」と書かれています。
似た製品との使い分け
Waves のピッチ系プラグインは、それぞれ別の制約を選んでいます。各製品の公式ユーザーガイドの記載だけで並べると、次のようになります。
| 製品 | 入力の前提 | ハーモニーの決め方 | フォルマントの扱い |
|---|---|---|---|
| UltraPitch | モノフォニックのみ(ステレオ入力では左chを参照) | 各ボイスに度数を手で指定する | ピッチと独立した軸。−12.0〜+12.0、Linkで楽器別カーブに追従 |
| Waves Harmony | ボーカルトラック | キーとスケールを設定。入力ボーカルのピッチに基づく自動コード生成、MIDI演奏、グラフ描画の3通り | ボイスごとにピッチとフォルマントをシフト |
| SoundShifter | 任意のオーディオ信号 | ハーモニー機能ではない(時間と音程の比率を指定する) | ガイドは「フォルマントはピッチと一緒に動く」と明記 |
| Doubler | 任意のオーディオ信号 | 2声または4声に複製し、各ボイスの Tune(ピッチ)を微調整する | ガイドにフォルマント制御の記載なし |
Waves Harmony のユーザーガイドは、この製品を「ボーカルハーモニー・ジェネレーター、レイヤリングツール、そしてクリエイティブなFXプラグイン」と説明し、機能の筆頭に「8ボイスのボーカルハーモニーエンジン」「音楽的スケールへのピッチ補正とハーモニー生成」を挙げています。キーとスケールを先に決めれば全体が調に収まる、という設計です。UltraPitch にその仕組みは記載がなく、度数を手で置いていく。同じ「ハモリを作る」でも、任せる範囲がまるで違います。
SoundShifter との差は、もっと分かりやすい。SoundShifter のガイドは、時間と音程を切り離して個別に操作できることを製品の核に据え、シフト・ストレッチ・コンプレッションの範囲を「最大で2倍の速さ・遅さ・高さ・低さまで、つまりどの方向にも最大2または0.5の比率」と書いています。ピッチについては1オクターブ上下という点で UltraPitch と同じ幅ですが、決定的なのは「フォルマントはピッチとともにシフトし、すべての要素の長さがかなり変わる」という一文です。和音でも通るかわりにフォルマントは動く。単音しか通らないかわりにフォルマントを別軸で持つ。トレードオフが正反対です。
ダブリングが目的なら Doubler が近道です。Doubler のガイドは、入力されたオーディオ信号をさらに2声または4声に複製し、各ボイスの Gain・Pan・Delay・Tune(ピッチ)を変えられると説明しており、「Doubler と他のピッチモジュレーションやディレイ系エフェクトとの本質的な違いは、オーディオの長さを保ったままデチューンできる点にある」としています。UltraPitch の3声・6声コンポーネントでも同じことはできますが、そちらはピッチ検出とフォルマント補正を通る分、入力を選びます。
なお、UltraPitch で作ったハーモニーをステレオに広げる段階は、パンだけで足りないこともあります。定位そのものを整える工程は S1 Stereo Imager のようなイメージング系の道具の担当で、声の帯域を整えるのは Q10 Equalizer、トラックとして成立させるのは AudioTrack のようなチャンネルストリップ、と工程が分かれます。
よくある質問
ギターのコードに使えますか?
ユーザーガイドは、開放弦のギターコードのような複数のピッチを持つ入力は UltraPitch では検出できない、と明記しています。フォルマント補正のためにピッチを確定する必要があり、それには単音の入力が要るためです。和音を含む素材の音程を動かしたい場合は、フォルマントがピッチと一緒に動くことを許容したうえで SoundShifter のような別系統の製品を検討する、という切り分けになります。
ピッチの範囲は±2オクターブですか?
いいえ。ユーザーガイドは第2章とFAQの2箇所で、範囲は元の音を基準に1オクターブ上から1オクターブ下までだと書いています。±2オクターブという記述は公式資料に見当たりません。
キーを設定すれば自動でハモってくれますか?
ユーザーガイドに、キーやスケールを設定してハーモニーを追従させる機能の記載はありません。各ボイスのピッチは度数として指定します。ガイドが推奨する使いやすい度数は、5度上・4度下・オクターブ上・オクターブ下です。キーとスケールに基づく自動生成が要る場合、Waves にはそれを機能の筆頭に挙げている Waves Harmony という別製品があります。
書き出すと最後が切れます
FAQ に該当項目があります。UltraPitch は非常に長いルックアヘッドを使うため 0.2 秒のオーダーのレイテンシーが生じ、ホストがディレイコンペンセーションに対応していないと問題が出ることがある、という説明です。対応していても、3声・6声で高い Animate 設定と長いボイスディレイを併用していると 0.05 秒のオーダーで取りこぼす可能性がある、とも書かれています。



検出を合わせてから音程を触る。この順番さえ守れば、グリッチもCPUも同じつまみで片が付きます。
まとめ
- 単音限定は制約ではなく代償。フォルマントを補正するにはピッチの確定が要り、それには単音入力が要る、とガイドが因果を明記している。
- Mode・Min・Max は音質と CPU の両方を握る。公式の目安は、最高音の約1/2オクターブ上と最低音の約1/2オクターブ下。
- ピッチは±1オクターブ、フォルマントは−12.0〜+12.0、分解能は約5セント。キーやスケールに追従する機能はガイドに記載がない。
最新の仕様と現在の価格は、Waves公式のUltraPitch製品ページで確認してください。






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