ねこみこドールズのメンバーがパートごとのミックスを片づけてきた連載も、今回で最終回です。締めくくりは顧問のアヤノ先生。テーマは「ミックスが終わったあとに何をするのか」です。
ミイみぃたちのミックス、だいぶ良くなったの。でもね、書き出してプロの曲と並べて聴くと、なんだかちっちゃいんだぁ。音圧、上げたほうがいいのかなぁ。



ふふ、そこが最後の関門ですね。ただ、音圧を上げれば解決するとは限らないんですよ。まず「上げる前に確かめること」から始めましょうか。
個人制作でマスタリングにつまずく理由は、ほぼ2つに絞られます。ミックスの問題をマスタリングで直そうとしていることと、配信のラウドネス正規化を知らないまま音圧を追いかけていることです。
この記事では、マスタリング前のチェック・最小構成の3段階・ラウドネスの目標の決め方までをまとめます。
マスタリングは何をする工程なのか
個人制作の範囲では、マスタリングは仕上げの微調整と、再生環境を揃えるための最終処理だと考えてください。魔法をかける工程ではありません。
できること
全体の音色バランスの微調整、音量の統一、ピークの制御、曲間の整理。いずれも「小さく動かす」処理。
できないこと
埋もれたボーカルを引き出す、団子になった低音をほどく、機械っぽいドラムを生々しくする。これらは全部ミックスの仕事で、2mixになってからでは手遅れ。
方法1:書き出す前のチェックリスト
この連載で扱ってきた項目が、そのままチェックリストになります。ここで引っかかったら、マスタリングに進まずミックスに戻ってください。
- ボーカルは埋もれていないか。上げてもうるさくなるだけなら、帯域の奪い合いが残っています(第1回)。
- ギターが中央を塞いでいないか。ダブリングは左右に全振りできているか(第2回)。
- 低音は団子になっていないか。低音の仕事がないトラックにハイパスが入っているか(第3回)。
- ドラムのアタックは立っているか。音量ではなく立ち上がりで抜けているか(第4回)。
- モノラルで再生して破綻しないか。上物を広げすぎていないか(第5回)。
- 2mixのピークに余裕があるか。マスターのフェーダーが赤く点灯しない状態、目安として-6dBFS前後まで下げて書き出します。
方法2:最小構成はEQ・コンプ・リミッターの3つだけ
マスタリングチェーンは複雑にするほど良くなるものではありません。個人制作なら、この3つで十分に形になります。
- EQ:全体の傾向だけを整えます。動かす量は1〜2dB。低域が重いなら少し削り、高域が曇るなら少し足す、その程度です。ここで大きく動かしたくなったらミックスに戻ります。
- コンプ:全体をわずかにまとめます。ゲインリダクションは1〜2dB程度で、曲によっては不要です。「かけないと不安だから」でかけるものではありません。
- リミッター:最後にピークを抑えて音量を持ち上げます。ここだけが音圧を上げる担当です。
- 各段階でバイパスと音量を揃えて比較します。処理後は音量が上がるので、揃えずに比べると必ず「処理後のほうが良い」と錯覚します。
音量を揃えずに比較することは、マスタリングで最も多い失敗です。人の耳は大きい音を「良い音」と判断してしまうため、これを避けないと際限なく上げ続けることになります。
方法3:ラウドネスの目標を先に決める
ここを知らないまま音圧を追うと、労力が無駄になります。主要な配信サービスは、再生時に曲の音量を自動で揃えます(ラウドネス正規化)。つまり、大きく作った曲は再生時に下げられます。
- 目標値の目安は-14 LUFS前後です。サービスによって基準は異なり(-14〜-16 LUFS程度の幅があります)、変更されることもあるため、実際の値は配信先の資料で確認してください。
- 目標より大きく作っても、再生時に下げられるだけです。しかも潰してダイナミクスを失った状態で下げられるので、音圧競争で最も損をするのがこのパターンです。
- DAW付属のラウドネスメーターで、書き出し前の値を確認します。多くのDAWに標準搭載されています。
- 最後にリファレンス曲と比べます。同じジャンルのプロの音源をDAWに読み込み、音量を揃えたうえで切り替えて聴きます。揃えた状態でまだ貧弱に聞こえるなら、それは音圧ではなくミックスの問題です。



……音量を揃えて比べたら、うちの曲、小さいんやなくて低音が濁ってただけやった。上げる話ちゃうかったんや。
症状別・最初に試すことの早見表
| 症状 | まず試すこと | 目安 |
|---|---|---|
| プロの音源より貧弱に聞こえる | 音量を揃えて比較し直す | 揃えても差が残るならミックスの問題 |
| 音圧を上げると音が潰れる | リミッターの前段を見直す | 低域の整理で上げ幅が稼げる |
| 配信すると小さくなる | ラウドネスの目標値を確認 | -14 LUFS前後(配信先の資料で要確認) |
| マスタリングでEQを大きく動かしたい | ミックスに戻る | マスタリングでの補正は1〜2dB |
| 何をしても良くならない | チェックリストの6項目に戻る | 原因は2mixより手前にある |
使う道具(DAW付属でどこまでできるか)
マスタリングは道具の差が出にくく、付属プラグインだけで最後まで到達できます。判断の順番のほうがはるかに重要です。
| やること | DAW付属での代替 | 専用機を使うなら |
|---|---|---|
| 全体の音色補正 | 付属EQ。動かす量が小さいので十分 | アナログ的なカーブを持つマスタリングEQ |
| 全体をまとめる | 付属コンプを浅くかける | マスターバス向けの穏やかなコンプ |
| 音圧を上げる | 付属リミッターで到達可能 | L1 Ultramaximizerのような定番マキシマイザー |
| ラウドネス確認 | 付属のラウドネスメーター | 詳細な解析ができる測定ツール |
| 中央と左右を分けて処理 | 付属のユーティリティで代用可 | ミッドサイドマスタリング対応の専用機 |
よくある質問
Q. 音圧はどこまで上げるべきですか?
配信が主戦場なら、正規化の基準を大きく超えて上げる意味はありません。超えた分は再生時に下げられ、失ったダイナミクスだけが残ります。かつてのラウドネスウォーが落ち着いたのは、この仕組みが広まったためです。
Q. マスタリングは外注すべきですか?
作品の性質と予算次第です。ただしどちらを選ぶにせよ、渡すミックスの質が結果を決めます。埋もれたボーカルや団子の低音は、外注しても直りません。まず自分でチェックリストを通すことが、外注する場合でも最善の準備になります。
Q. マスタリング用のプリセットを使ってもいいですか?
出発点としては構いません。ただしプリセットはあなたの曲を聴いていないので、必ずバイパスと音量を揃えて比較し、要らない処理は外してください。マスタリングは足すより外すほうが効くことが多い工程です。



ふふ、6回を通して同じことばかり言っていたのに気づきましたか。上げるのではなく削る、足すのではなく決める。文章を直すときも同じなんです。書き足して良くなることは滅多になくて、たいていは削ったときに、いちばん言いたかった一行が立ち上がる。みなさんの曲も、きっとそうですよ。
この記事に出てきた用語
関連記事
・【DTMマスターコース】エンジニアリング①「ミックスとマスタリング概要」
・【DTM中級コース】エフェクトの基礎②リミッターについて学ぶ
・【企画】やっぱりプロは違う!エンジニアによるマスタリング音源と比較!
・【Waves】L1 Ultramaximizerの使い方徹底解説|音圧を上げる定番マキシマイザー
全6回、おつかれさまでした。困ったときは、それぞれのパートの回に戻ってきてください。



コメント