ねこみこドールズのメンバーが、自分の担当パートのミックスを困った場面から順番に片づけていく連載です。第4回はドラム担当のヒバリ。テーマは「打ち込みドラムが機械っぽい」です。
ヒバリ……あたしが叩くと、こう、もっと前に出る。でも打ち込むと、のっぺりする。スネアも抜けない。音源が安いから、なのかな……。
結論から言うと、音源の値段はほとんど関係ありません。打ち込みが機械っぽく聞こえる原因は、音色ではなく「揺れがないこと」にあります。そして抜けないスネアの原因は、音量ではなくアタックの扱いです。
この記事では、のっぺりする2つの原因・生っぽさと抜けを作る3手順・DAW付属プラグインでの代替までをまとめます。
なぜ打ち込みドラムは機械っぽくなるのか
原因1:強弱と位置が均一
人間はまったく同じ強さでは叩けないし、グリッドにぴったりも打てない。全部のベロシティが同じで全部が拍の真上にあると、耳は「機械が鳴らしている」と判断する。
原因2:アタックが埋もれている
ドラムの抜けを決めているのは音量ではなく、音の立ち上がり(トランジェント)。ここが他の音に覆われていると、フェーダーを上げても「大きいだけで抜けない」状態になる。
方法1:強弱と位置に「幅」を作る
音源を買い替える前に、ここを試してください。同じ音源でも別物になります。
- ハイハットの表拍と裏拍でベロシティに20〜30の差をつけます。全部同じ強さのハイハットが、のっぺり感の最大の犯人です。
- スネアの合間にゴーストノートを小さく置きます。ベロシティ20〜40程度の、はっきり聞こえない打点です。これがあるだけで人が叩いている密度が出ます。
- クオンタイズを100%から80〜90%程度に緩めます。完全にグリッドへ吸着させず、演奏のズレをわずかに残します。
- ジャンルによっては、スネアを数ミリ秒だけ後ろにずらすと重心が下がって聞こえます。前にずらせば前のめりになります。曲の性格に合わせて選びます。
ポイントはランダムにばらけさせないことです。人間の演奏は、でたらめに揺れているのではなく「強い拍と弱い拍が決まっている」から気持ちよく聞こえます。ベロシティをランダマイズする機能で一括処理すると、機械っぽさが「下手っぽさ」に変わるだけのことがあります。
方法2:音量を上げずにアタックを立てる
ここが今回いちばん伝えたいところです。抜けを作っているのはアタックであって、音量ではありません。
- トランジェントシェイパーでアタックだけを持ち上げます。全体の音量は変わらないのに、抜けだけが増えます。
- コンプレッサーを使う場合、アタックを遅めに設定します。速くするとアタックそのものを潰してしまい、抜けが失われます。「コンプで元気にする」つもりが逆効果になる典型がここです。
- スネアの抜けは2か所で決まります。胴の鳴りである200Hz前後と、スティックが当たる音である3〜5kHz付近。前者を削ると輪郭が出て、後者を少し足すと抜けます。
- キックは50〜80Hz(体で感じる重さ)と3〜5kHz(アタック)が別の仕事をしています。スマホで聞こえないと感じるときは、後者が足りていません。



……あ、わかった。あたしがスネアを強く叩くとき、大きく叩いてるんじゃなくて、速く叩いてるんだ。当たる瞬間の話なんだ。それ、そのまま同じだ。
方法3:部屋の響きで奥行きを足す
打ち込みドラムは、多くの場合パーツごとに完全なドライ音として鳴っています。生ドラムは同じ部屋で同時に鳴っているので、そこに差が出ます。
- ドラム全体をまとめたバスに、短いルームリバーブを薄くかけます。長い残響ではなく、部屋の狭い反射を足す感覚です。
- リバーブの低域は削ります。ここを残すとキックが濁ります。
- 迫力が欲しいときはパラレルコンプレッションを使います。原音はそのままに、深く潰した複製を薄く混ぜる方法です。アタックを保ったまま密度だけを足せます。
- ジャンルによってはゲートリバーブで残響を強制的に断ち切る演出も有効です。
症状別・最初に試すことの早見表
| 症状 | まず試すこと | 目安 |
|---|---|---|
| のっぺりして退屈 | 方法1(ハイハットの強弱) | 表拍と裏拍で20〜30差+ゴーストノート |
| スネアが抜けない | 方法2(アタックと2つの帯域) | 200Hzを削り3〜5kHzを少し足す |
| コンプをかけたら元気がなくなった | アタックタイムを遅くする | 速いアタックは立ち上がりを潰す |
| ドラムだけ浮いて聞こえる | 方法3(ルームリバーブ) | 短い残響を薄く/低域はカット |
| スマホでキックが聞こえない | アタック帯域を足す | 3〜5kHz付近を確認 |
使う道具(DAW付属でどこまでできるか)
方法1はプラグインを一切使いません。打ち込みの作り方だけで解決します。方法2以降も付属で足ります。
| やること | DAW付属での代替 | 専用機を使うなら |
|---|---|---|
| 強弱と位置の調整 | DAWのピアノロールだけで完結。追加投資ゼロ | 不要 |
| アタックを立てる | 主要DAWにトランジェント系の処理が標準搭載 | Smack Attackのようなトランジェントシェイパー |
| 不要な鳴りを止める | 付属のノイズゲート | 反応の細かい専用ゲート |
| 密度を足す | 付属コンプでパラレル処理(センドで複製) | パラレル前提のコンプ |
| 部屋の響き | 付属リバーブのルーム系プリセット | 実在の部屋を収録したコンボリューション系 |
よくある質問
Q. 高いドラム音源に買い替えれば解決しますか?
音色は良くなりますが、のっぺり感は解決しません。強弱と位置が均一なら、どんな高級音源でも機械っぽく鳴ります。逆に付属音源でも方法1を丁寧にやれば、驚くほど生々しくなります。買い替えは、その後で検討しても遅くありません。
Q. ベロシティのランダマイズ機能を使えばいいのでは?
一括ランダマイズは「揺れ」ではなく「ばらつき」を作ります。人の演奏は強い拍と弱い拍が決まっているから気持ちよく聞こえるので、ランダムに散らすと下手な演奏に近づくことがあります。手で強弱をつけるほうが結果は良くなります。
Q. コンプのアタックは速いほうがパンチが出ませんか?
ドラムでは逆になることが多いです。アタックを速くすると立ち上がりそのものを圧縮してしまい、パンチが削れます。アタックを通過させてから圧縮を効かせるほうが、粒立ちを保ったまま密度が上がります。



ふふ、ヒバリさんがこんなに喋るのは珍しいですね。今の話、朗読とまったく同じですよ。棒読みが平坦に聞こえるのは声が小さいからではなく、どの言葉も同じ長さ・同じ強さだからなんです。強弱の設計が、生きているかどうかを決めます。
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