Waves CLA-76でRatioを20:1にすると、4:1のときより圧縮は浅くなります。公式マニュアルにそう書かれています。この記事では、なぜレシオを上げると効きが浅くなるのか、Attack/Releaseの目盛りはどちらが速いのか、圧縮せずに歪みだけを取り出すComp Offが何をしているのかを、マニュアルの記載に沿って解剖します。
想定読者は、すでにCLA-76を挿したことがある人と、1176系を1つ買うか迷っている人です。操作手順ではなく「なぜその値なのか」を扱います。なお、同じ Chris Lord-Alge の名を冠する製品群の入り口として、Signature 系の CLA シリーズ6本(Vocals・Guitars・Bass・Drums・Unplugged・Effects)の概要と使用場面をまとめた入門側の記事 【Wavesプラグイン】「CLAシリーズ」の概要と使用場面、使い方を解説 があります。
仕様・数値はWaves公式のCLA-76単体ユーザーガイド(英語版)と、バンドル同梱のCLA Classic Compressor Collection 日本語版マニュアルに基づきます。編集部はこの製品を所有していないため使用感の描写はせず、マニュアルで裏が取れない項目は書きません。
カホレシオを上げるほど浅くなる。CLA-76でいちばん誤解されている仕様で、しかもマニュアルに明記されています。
この記事でわかること
- レシオを上げるとスレッショルドも上がり、圧縮が浅くなる仕組み
- Attack/Releaseの目盛りの向きと、公式に示された実時間
- Comp Offが何をバイパスして、何を残すのか
- BlueyとBlackyがどのリビジョンで、公式には何が違うとされているか
CLA-76とは|何を解決する製品か
CLA-76は、FET(フィールドエフェクト・トランジスタ)をゲインコントローラーに使ったソリッドステート・コンプレッサー/リミッターのモデリングです。オリジナルは約8,000台が生産され、少なくとも13のリビジョンがありました。Wavesはそのうち評価の高い2台をモデリングし、Bluey/Blackyとして切り替えられるようにしています。
コントロールはInput、Output、Attack、Release、Ratio、Comp On/Off、Revision、Analog、Mix、Trim、メーター表示です。Thresholdつまみはありません。ステレオ版とモノ版があり、ステレオ版は左右のチャンネルパスに1つの検出器を使います。
モデリングの基準レベルは −18 dBFS = +4 dBu。DAWから −18 dBFS を送るとメーターが 0 VU を指します。ゲインステージを組むときの起点になる数字です。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
レシオを上げるとスレッショルドも上がる
CLA-76でいちばん誤解されやすいのがRatioです。レシオが大きくなるほどスレッショルドも高くなり、マニュアルには具体的な値まで書かれています。20:1のときスレッショルドは −12 dBFS、4:1のとき −18 dBFS。
つまり4:1のほうが6 dB低いところから圧縮が始まります。マニュアルはこれを「レシオが低いほど『深く』コンプレッションがかかる」と明言しています。Ratioの数字を圧縮の強さだと読むと、20:1にしたのに効きが浅くなって混乱します。
読み替えはシンプルです。全体をならすならレシオを下げる、飛び出るピークだけ叩くならレシオを上げる。数字の大小は強さではなく、どこから掛けるかの指定です。
InputとOutputはアッテネーター
Thresholdつまみが無いので、圧縮量はInputで決めます。範囲は −Inf から 0、初期値 −30。名称のとおり入力レベルのアッテネーション(減衰)で、0に近づけるほど信号が深く押し込まれ、圧縮が強くなります。
Outputも同じく −Inf から 0 のアッテネーターで、初期値 −18。圧縮で下がったぶんを補正します。比較時にバイパスと音量を揃えておかないと、音量差を音質差と取り違えます。メーターはIn/GR/Outを切り替えられ、初期値はGR。Inputを決めるときはGR表示にします。
Attack/Releaseは1が最も遅く、7が最も速い
目盛りの向きは公式に定義されています。1がslowest、7がfastest。実時間も記載があり、Attackは1で1ミリ秒・7で50マイクロ秒未満(初期値3)、Releaseは1で1秒・7で50ミリ秒(初期値4)です。
効いてくるのは、Attackの最も遅い側でも1ミリ秒しかない点です。「アタックを遅くして立ち上がりを丸ごと通す」という一般的な使い方はここでは成立しません。Attackは通すか潰すかのスイッチではなく、打点の先端をどれだけ残すかの微調整になります。
All——「すべてのレシオボタンを押す」モードの再現
RatioにはAllという位置があります。オリジナルで全部のレシオボタンを同時に押す使い方の再現で、マニュアルの説明は「ほどよい歪みと非常にアグレッシブなコンプレッション」。実効レシオが何対1になるかは公式に示されていません。
裏を返せば、Allは「圧縮比を最大にする設定」としては説明されていません。歪みと圧縮がセットで来るので、原音を別に残せる経路——ドラムバスやパラレル処理——で使うほうが扱いやすくなります。



Allの実効レシオを数字で語る解説をよく見ますが、公式マニュアルには書かれていません。数字が要るならGRメーターを読むほうが確かです。
Comp Off——圧縮せずに歪みだけを使う
見落とされがちですが、CLA-76にはComp Offがあります。コンプレッション機能をバイパスしつつ、信号がFETのゲインリダクション回路をトリガーする際の挙動を再現するモードで、マニュアルによればハードウェアのプリアンプによる「心地よい」歪み感が得られます。
つまりCLA-76は、ダイナミクス処理をやめても色付けの装置として成立します。圧縮は要らないと判断したとき、プラグインごと外すのではなくComp Offにするという手があります。



圧縮が要らないと思ったら外す。その前にComp Off。歪みだけ置いていけます。
BlueyとBlacky——モデリングされた2つのリビジョン
- Bluey:Revision B。Silverface Bluestripe として知られるリビジョンで、モデリング元は Chris Lord-Alge 個人の愛用ユニット
- Blacky:Revision D-LN(Low Noise)。Blackface として知られ、プラグインの初期値はこちら
マニュアルが挙げる違いは、わずかに異なるゲインステージと時定数、THD、ノイズレベルです。どちらが暖かい・明るいといった音色の性格づけは公式に書かれていないため、本記事でも断定しません。オリジナルのプリアンプノイズまでモデリングされているので、切り替えて比べるのが確実です。
MixとTrim——原音を残す、出力を合わせる
Mixは圧縮音と原音のバランスで、範囲0〜100%(0.1%単位)、初期値100%。パラレルコンプレッションがプラグイン内で完結します。TrimはOutputとは別に用意された出力レベルで、範囲 −18〜+18 dB(0.1 dB単位)、初期値0。Outputが実機どおりの非リニアなアッテネーターなのに対し、Trimはリニアな dB 表示で最終的な音量を合わせられます。
この2つは、バンドル同梱の日本語版マニュアル(CLA Classic Compressor Collection)には載っていません。同梱ガイドは版が古く、Mix/Trimの記載があるのはCLA-76単体のユーザーガイドのほうです。同じ2つはCLA-2A・CLA-3Aの単体ユーザーガイドにも載っています。画面と資料が食い違う場合はプラグインのバージョンを確認してください。
全パラメーター
| コントロール | 役割 | 範囲 | 初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | 入力レベルのアッテネーション(実質の圧縮量) | −Inf 〜 0(0.1 dB単位) | −30 |
| Output | 出力レベルのアッテネーション | −Inf 〜 0(0.1単位) | −18 |
| Attack | アタックタイム | 1(最も遅い=1ミリ秒)〜 7(最も速い=50マイクロ秒未満) | 3 |
| Release | リリースタイム | 1(最も遅い=1秒)〜 7(最も速い=50ミリ秒) | 4 |
| Ratio | 圧縮比とスレッショルド | 4:1/8:1/12:1/20:1/All | 4:1 |
| Comp On/Off | 圧縮のバイパス(プリアンプ由来の歪みは残る) | Comp On/Comp Off | Comp On |
| Revision | モデリング元の切り替え | Bluey/Blacky | Blacky |
| Analog | 電源由来のノイズフロアとハムの再現 | Off/50Hz/60Hz | 60Hz |
| Mix | 圧縮音と原音のバランス | 0〜100%(0.1%単位) | 100% |
| Trim | 出力レベル | −18 〜 +18 dB(0.1 dB単位) | 0 |
| Meter | メーター表示の切り替え | In/GR/Out | GR |
※注記:MixとTrimはCLA-76単体のユーザーガイドに記載があります。バンドル同梱の日本語版マニュアル(CLA Classic Compressor Collection)は版が古く、この2つは載っていません。画面と食い違う場合はバージョンを確認してください。
スレッショルドの位置はRatioが決めるため、独立したつまみはありません。またマニュアルは、コンプレッションのスケールがリニアではなく実機のスケーリングに合わせてあると注意しています。あるステップで想像以上に強く掛かるのは仕様です。
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 触るコントロール | 起点 |
|---|---|---|
| 全体をならす | Ratioを下げる | 4:1(スレッショルド −18 dBFS) |
| 飛び出るピークだけ叩く | Ratioを上げる | 20:1(スレッショルド −12 dBFS) |
| 圧縮量を増やす | Inputを0に近づける | 初期値 −30/メーターはGR表示に |
| 打点の先端を残す | Attackを遅い側(1寄り)へ | 初期値 3 |
| 歪みごと押し潰す | Ratio=All | 原音を残せる経路で使う |
| 圧縮せず色だけ足す | Comp Off | プリアンプ由来の歪みのみ残る |
| 原音を残す(パラレル) | Mixを下げる | 初期値 100% |
| 音量を合わせる | Output → Trim の順 | Trimは初期値 0(±18 dB) |
ゲインリダクションの目標量を書いていないのは、公式マニュアルに記載が無いためです。素材とジャンルで変わる値なので、メーターをGRにして耳で決める前提で読んでください。
似た製品との使い分け
CLA-76が含まれるコレクションには、光学式のCLA-2AとCLA-3Aも入っています。この2つはT4光学アッテネーターでゲインリダクションを行い、Comp(およそ3:1)とLimiter(およそ100:1)の切り替え、Peak Reduction、Gainという構成で、AttackとReleaseのつまみはありません。
つまり3機種のうち、時定数を自分で決められるのはCLA-76だけです。速い素材の頭を狙って止めたいならCLA-76、持続音のレベルをならしたいなら光学式、という分け方が公式仕様から素直に導けます。
よくある質問
Ratioを上げたのに圧縮が浅くなります
仕様です。レシオが高いほどスレッショルドも高くなり、20:1で −12 dBFS、4:1で −18 dBFS。深く掛けたいならレシオを下げます。
AttackとReleaseは、どちらの数字が速いのですか
1がslowest、7がfastestです。Attackは1で1ミリ秒・7で50マイクロ秒未満、Releaseは1で1秒・7で50ミリ秒。初期値はAttackが3、Releaseが4です。
BlueyとBlackyはどちらを選べばいいですか
公式に示された違いはゲインステージ・時定数・THD・ノイズレベルで、音色の性格づけは書かれていません。切り替えて選ぶのが確実です。
ステレオトラックで使えますか
使えます。ステレオ版は両方のチャンネルパスで1つの検出器を使う2チャンネル・コンプレッサーで、モノ版も別コンポーネントとして用意されています。
まとめ
- Ratioは強さではなくスレッショルドの指定。低いほど深く掛かる(4:1で −18 dBFS、20:1で −12 dBFS)
- Attack/Releaseは1がslowest、7がfastest。Attackは最も遅くても1ミリ秒
- Comp Offにすれば、圧縮を切ってプリアンプ由来の歪みだけを色付けに使える



マニュアルに書いてある仕様は、耳で当てにいく前に読む。それだけで遠回りが1つ減ります。





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