Waves LoAirの設計思想|LFEを作るための1オクターブ下

この記事では、Waves 🎛️LoAir の「1📖オクターブ下を作る」という一行の裏側が、実際にはどういう構造になっているのかを公式ユーザーガイドの記載から分解します。📖サラウンドのコンポーネントでは 5.0 のベッドがブロック図に「pass through」と書かれて素通りし、書き込まれるのは LFE チャンネルだけであること。LoAIR と LO が、名前は似ているのにまったく別の信号のレベルを受け持っていること。Feed セクションの初期値が −3 / −6 / −9 dB という段になっていること。そして、出力段で音量を上げられるつまみが何であるか。ここまでを扱います。

先に製品の定義をひとつ。ガイドは冒頭で「LoAir は、📖モノ・📖ステレオ・5.0 の素材から LFE コンテンツを作るために、また 5.1 素材の既存の LFE コンテンツを強化・充実させるために使えるプラグインである」「LoAir は、指定したオーディオ・コンテンツを1オクターブ下げてフィルタリングすることでサブハーモニック成分を生成する」と書いています(p.3)。1オクターブ下、それだけです。現行ガイド全16ページを3系統のテキスト抽出で照合したところ、octave の語は4回だけ出てきて、内訳は本文の “by one octave” が1回と、LoAIR と ALIGN の説明に付く “(lowered octave)” が3回。二オクターブ下を指す表現は、3系統のどれでも見つかりませんでした。低域系プラグインを何本か持っている人ほど、この一点の確認から入ったほうが早いはずです。

以下に出てくる範囲・初期値・単位は、公式ユーザーガイド『Waves LoAir User Guide』全16ページ(PDF 作成日 2009年11月10日/最終更新 2022年6月19日)の記載であり、編集部の実測値ではありません。版の確認は waves.com の製品ページを開いて manualPDF フィールドを読む方法で行い、そこに書かれていた assets.wavescdn.com/pdf/plugins/loair.pdf が本稿の読んだファイルと同一であることを確かめています(2026年9月5日)。同梱の日本語版『Waves LoAir Native ソフトウェアユーザーガイド』全14ページ(PDF 作成日 2010年1月22日)も併読し、範囲と初期値はすべての行で一致しました。テキスト抽出は pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で突き合わせています。価格・対応形式・製品の位置づけは Waves / Waves Japan の公式製品ページを出典とし、ガイド以外を根拠にする箇所はその都度どちらの資料かを明記します。

カホ

この製品を「低音を太くするプラグイン」の棚に置くと、つまみの意味が半分ずれます。LoAir が持っている出力は、原則として LFE チャンネルです。そこを先に置いてから読んでください。

目次

この記事でわかること

  • サラウンドの2コンポーネントで、5.0 のベッドがブロック図上「pass through」と書かれている意味と、それが📖ミックスへの介入の仕方をどう変えるか
  • LoAIR・LO・DIRECT の3つが、それぞれどの信号のレベルつまみなのか(ドライ/ウェットの比率つまみではない)
  • Feed セクションの初期値が L/R −6 dB・C −3 dB・Ls/Rs −9 dB・LFE 0 dB と段になっていること、そのうち何がガイドに説明されていないか
  • OUTPUT / LFE OUTPUT が −60〜0 dB=減衰専用であり、出力段でプラス側を持つのが TRIM だけであること

LoAirとは|何を解決する製品か

Waves Japan の製品ページは LoAir を「サブ・ハーモニック生成プラグイン」と呼び、「多くのサウンド・デザイナー、ポスト・プロダクション関係者からのリクエストに応えて開発された、Waves Post Production シリーズの第二弾」と紹介しています(2026年9月5日閲覧)。この出自はプラグインの画面にも残っていて、現行ガイド p.9 の画面図・日本語版 p.10 の画面図のどちらにも、パネル左下に「WAVES POST PRODUCTION」のロゴが写っています。英語版の製品ページも製品カテゴリを Surround に置き、キャッチコピーは「ステレオとサラウンド素材のためのサブハーモニック・ジェネレーター」です。

解決する課題は、公式の言葉ではこうなります。英語版の製品ページは「映画館に行けば低域の力を体験できる。巨大な恐竜が地面を踏み鳴らすときも、宇宙船が爆発するときも、強烈な低域が映像にドラマを足し、話を前に進める」と書いたあと、「今やこの秘密は知られてしまった。このポスト・プロダクション定番ツールは音楽にも効く」と続けます。挙げている用途は、ドラムとベースをより力強くする/薄いボーカルに体を与える/マスターに深さを足す/ライブでパワーを押し出す、の4つ。箇条書きでは「📖シンセ・📖キック・ベースにサブを足す」「フィールド・📖レコーディングで失われがちな低域を取り戻す」も並んでいます。Waves Japan 側の特徴欄も「重み、深みを与えたい場面に重低音を付加」「すでに存在する低域を強化」「既存の📖トラックから、LFE 信号を簡単に生成」「📖ポリフォニック素材も処理可能」と、ほぼ同じ内容です。

そして構成。ガイドは「Waves LoAir は4つのコンポーネントを含む」と自分で数え、Mono-to-Mono / Stereo-to-Stereo / 5.0-to-5.1 / 5.1-to-5.1 を並べています(p.5)。日本語版は同じ4つを「LoAir 1.0 コンポーネント(Mono-to-Mono)」「LoAir 2.0 コンポーネント(Stereo-to-Stereo)」「LoAir 5.0>5.1 コンポーネント」「LoAir 5.1>5.1 コンポーネント」と、📖DAW のプラグインメニューに並ぶ名前で書いています(日本語版 p.7)。Waves Japan の製品ページはさらに用途を1行ずつ添えていて、Mono は「LFE トラックにてサブ・ハーモニックを生成して、低域を強化」、Stereo は「ステレオ・トラックから LFE 信号を生成し、LFE または Stereo + LFE に出力」、5.0 to 5.1 は「5.0 の音声から LFE 信号を生成」、5.1 to 5.1 は「LFE トラックからサブ・ハーモニックを生成して、低域を強化」となっています。

ここで押さえておきたいのは、ガイドが §1.3「Concepts and Terminology」で「LoAir 独自の用語」として並べているのが RANGE / LoAIR / LO / DIRECT / LFE OUTPUT / ALIGN の6項目だということです(p.4。日本語版 p.7 も同じ6項目)。TRIM と Feed セクションはこの6項目には入っておらず、§3.2 のコントロール解説で初めて登場します。製品の説明に必要な語彙は6つで足りるという設計者側の整理が、そのまま章立てに出ています。

なお §1.3 にはもうひとつ、サラウンドのチャンネル配列表が載っています。5.0 Film が L, C, R, Ls, Rs、5.1 Film が L, C, R, Ls, Rs, LFE、5.0 SMPTE/AES/ITU が L, R, C, Ls, Rs、5.1 SMPTE/AES/ITU が L, R, C, LFE, Ls, Rs、5.0 DTS が L, R, Ls, Rs, C、5.1 DTS が L, R, Ls, Rs, C, LFE(p.4)。プラグインの操作説明とは直接関係のないこの表が製品マニュアルの冒頭に置かれていること自体が、この製品が想定している現場を示しています。

設計思想:なぜこの効き方をするのか

サラウンド版が書き込むのは LFE チャンネルだけ

この製品の性格がいちばんはっきり出ているのは、p.6 のブロック図です。4つのコンポーネントが上から順に描かれていて、上2つと下2つで絵の形が違います。

Mono-to-Mono は「1.0 input」が1本入って「1.0 Output」が1本出るだけ。Stereo-to-Stereo は「2.0 input」が2本入って「2.0 Output」が2本出るだけ。ところが 5.0-to-5.1 では、入力の5本がそのまま右へ抜けて「5.0 (pass through)」と注記され、その5本から下向きにタップが降りて、箱の中で新しい6本目——オレンジで描かれた「LFE channel」——が生まれます。5.1-to-5.1 も同じ形で、入力6本のうち上5本が「5.0 (pass through)」として素通りし、6本目の LFE ラインが出力側の「LFE channel」になり、そこへ上5本からのタップが合流します。

この構造は本文の記述とも合っています。5.0 / 5.1 コンポーネントの出力レベルを受け持つのは「LFE OUTPUT」で、その説明は「LFE の出力レベルをコントロールする」と対象が限定されています(p.12)。メーターも「OUTPUT METER はLFE 出力レベルを表示する」(p.13)。📖クリップ表示にいたっては注記まで付いていて、「サラウンド・コンポーネントでは、Clip LED は LFE チャンネルのみを示す」(p.13)。出力のつまみ(LFE OUTPUT)も、メーター(OUTPUT METER)も、📖クリップ表示(CLIP LED)も、行き先として名指ししているのは LFE です。

実務上の意味は単純です。5.1 の📖バスに LoAir を挿しても、ベッド5chの音は理屈のうえでは動きません。センターに乗ったセリフの帯域が濁る、といった心配をしなくてよい代わりに、増えるのは LFE 側なので、判断材料は LFE のメーターと、LFE を再生している系統の音になります。逆に Mono / Stereo コンポーネントには DIRECT(未処理のダイレクト信号のレベル)と OUTPUT(出力レベル全体)があり、こちらは通っている音そのものを触ります。同じプラグイン名でも、コンポーネントによって信号への介入の仕方が違う——これが LoAir の一番大きな設計上の分岐です。

クイックスタートの書き方もこの分岐に沿っています。Mono / Stereo の項は「入力ソースと望む出力タイプを選ぶ。入力も出力も、LFE のみかフルレンジのどちらにもできる」から始まり、「LFE のみの入力ソースなら、LoAir はその音を強化するために使う。フルレンジの入力ソースなら、出力は LFE のみかフルレンジのどちらでもよい」と続きます(p.7)。一方 5.0>5.1 と 5.1 の項は、いきなり「Feed セクションの📖フェーダーを使って、ピッチ・エンジンに送るチャンネル・コンテンツの量を設定する」から始まります(p.7〜8)。前者は出力の性格を決める話から、後者は材料を集める話から始まっている。

LoAIR と LO は、別々の信号のレベルつまみ

名前が似ているせいで取り違えやすいのですが、ガイドの定義はきれいに分かれています。

  • RANGE:📖ローパスフィルターの📖カットオフ周波数をコントロールし、LFE コンテンツを作るために使う周波数帯域を決める(p.10)
  • LoAIR:生成された(1オクターブ下げた)信号のレベルをコントロールする(p.10)
  • LO:📖フィルターされた信号のレベルをコントロールする(p.11)
  • DIRECT:未処理のダイレクト信号のレベルをコントロールする(Mono と Stereo コンポーネントのみ・p.11)

本稿が参照した2つの版のコントロール一覧に、ドライとウェットの比率を1本で決めるつまみは出てきません。あるのは3系統それぞれに独立したレベルつまみで、出口で足し算されます。ローパスを通しただけの原音(LO)と、それを1オクターブ下げたもの(LoAIR)と、何もしていない原音(DIRECT)。英語版の製品ページが「フィルターする帯域、フィルターされたオーディオのレベル、サブオクターブのレベル、そしてドライと生成されたサブオクターブの📖バランスを選べる」と書いているのも、この並びと同じ順番です。

ここが効いてくるのは、「サブは足したいが原音の低域は増やしたくない」場面です。LO を下げて LoAIR を上げれば、材料として通した帯域そのものは出力に足さず、1オクターブ下だけを足せる。逆に LO を上げれば、ローパス後の原音をもう一度重ねることになります。RANGE の設定は両方に効きます。ガイドが RANGE を「LFE コンテンツを作るために使う周波数帯域を決める」と定義していて、その LFE コンテンツの材料が LO 側と LoAIR 側の両方だからです。RANGE を上げるとローパスのカットオフが上がり、生成に使われる帯域が広がる——この向きは「ローパスフィルターのカットオフ📖周波数をコントロールする」という定義から素直に読めます。

初期値の 3 は、ガイドが「サチュレーションする」と書いた範囲の中にある

LoAIR と LO の記述には、範囲と初期値のほかにもう一文が付いています。現行の英語版ガイドはこう書いています——「0 から 30dB の間の設定では信号に📖サチュレーションが起き、これはクリエイティブな効果として使える。これがデジタル出力をクリップさせることはない」(LoAIR は p.10、LO は p.11。文言はほぼ同じ)。

そして両方の初期値は 3 です。範囲は −inf 〜 30、0.1 dB 刻み。3 は 0 と 30 の間にあります。つまりデフォルトのまま立ち上げた時点で、ガイドがサチュレーションすると書いた領域に入っていることになります。負の側にも 0 にも下げられるつまみなのに、初期位置が 0 より上の 3 に置かれている。この製品が「きれいに足す」ためではなく「太らせる」ために作られていることが、初期値の置き方に出ています。

ただし断りが要ります。「0 から 30dB の間」という限定は現行の英語版にしか書かれていません。同梱の日本語版は同じ箇所を「設定によって信号がサチュレーションを起こすことがありますが、デジタル出力がクリップすることはないため、クリエイティブな📖エフェクトとして使用することもできます」と訳していて、どの範囲でそうなるかを書いていません(日本語版 p.11)。上の読み方は現行英語版の記述に依存しています。またサチュレーションの量・種類・次数について、どちらの版にも数値の記載はありません。

カホ

もうひとつ、画面図の話を。現行ガイド p.9 の画面図(5.1 コンポーネント)では、LoAIR と LO の数値窓がどちらも 0 を表示しています。本文の Default はどちらも 3 なので、この図は初期状態を写したものではありません。スクリーンショットから初期値を読み取ってはいけない、という実例です。

Feed の初期値は −3 / −6 / −9 dB の段になっている

5.0 / 5.1 コンポーネントにだけある Feed セクションは、各チャンネルの内容をピッチ・エンジンへ送る量を決めるフェーダー群です(p.14〜16)。範囲は L/R・C・Ls/Rs の3本が −inf 〜 0 dB、LFE(5.1 コンポーネントのみ)が −inf 〜 0 📖dBFS。前者の3行にはガイドが括弧書きで意味まで添えていて——「−inf = 📖センドなし、0 dB = ユニティ・センド」——ユニティより上へは送れないという設計です。

面白いのは初期値です。C が −3 dB、L/R が −6 dB、Ls/Rs が −9 dB。ちょうど 3 dB ずつの段になっていて、センターがいちばん多く、サラウンドがいちばん少ない。そして 5.1 コンポーネントにだけある LFE フェーダーは初期値 0 dB、つまりユニティです。初期状態では、既にある LFE だけが減衰なしでピッチ・エンジンに入り、ベッドの3系統は段階的に絞られた状態から始まります。

この段の理由をガイドは説明していません。本稿も、そこに踏み込むことはしません。書けるのは並んでいる数字と、その順番までです。ただ設定を触るときの意味は明確で、たとえば📖効果音のサラウンド成分から低域を集めたければ Ls/Rs を上げる、セリフ帯域を巻き込みたくなければ C を下げる、という判断がそのままフェーダーの操作になります。

もう1点、資料の細かい非対称を挙げておきます。4本の Feed のうち、刻みの記載(0.1 dB 単位)が添えられているのは LFE の行だけで、L/R・C・Ls/Rs の3行には刻みが書かれていません。逆に「−inf = センドなし」の括弧書きは3行のほうに付いていて、LFE の行には付いていません。英語版・日本語版の両方で同じ形です。実際の分解能が違うのか、単に記述が揃っていないだけなのかは、どちらの版からも判断できませんでした。

出力段でプラス側を持つのは TRIM だけ

出力段は3つのコントロールに分かれています。Mono / Stereo コンポーネントの OUTPUT(−60 〜 0 dB・0.1 dB 刻み・初期値 0)、5.0 / 5.1 コンポーネントの LFE OUTPUT(−60 〜 0 dB・0.1 dB 刻み・初期値 0)、そして TRIM(−12 dB 〜 +12 dB)です(p.12)。

ここで注意すべきは基準点です。OUTPUT も LFE OUTPUT も上限が 0 dB で、初期値がその 0 dB。つまりこの2つは減衰専用で、初期状態がすでに上限に張り付いています。「LFE OUTPUT を回して LFE を持ち上げよう」としても、ノブは下方向にしか動きません。出力段の3つのうちプラス側を持っているのは TRIM で、ガイドの説明も「出力レベルの微調整を最大 ±12 dB まで可能にする」となっています。量そのものを増やしたいなら、その手前の LoAIR と LO(どちらも上端 30)を使うことになります。

TRIM の行にはもうひとつ癖があります。現行の英語版ガイドは、TRIM の範囲を書く行のラベルを他のコントロールと同じ Range: ではなく Alignment: にしています(p.12)。3系統の抽出のすべてで同じ表記でした。日本語版は同じ行を「調整範囲:−12dB から +12dB」と訳しているので、意味としては調整幅のことで間違いありません。ただしこの行には Default: が付いておらず、TRIM の初期値は本稿が読んだ2つの版のどちらにも書かれていませんでした。§3.2 の Range: と Default: の行を1行ずつ数えると、Default: が付いているのは11項目。付いていないのは TRIM・OUTPUT METER・CLIP LED の3つで、このうち CLIP LED は範囲の行も持ちません。

ALIGN が名前だけ出す「Direct Signal Filter」

ALIGN はスイッチで、範囲は On / Off、初期値は Off です(p.13)。役割は「ダイレクト信号を遅らせて、生成された信号と📖同期させる」。1オクターブ下を作る処理には時間がかかるので、原音側を待たせて📖位相の足並みを揃える、という趣旨です。

その説明の後半に、ガイド全体でここにしか出てこない語が置かれています——「Direct Signal Filter が有効なとき、📖レイテンシーが無いためこのコントロールは無効になる」。英語版・日本語版の両方、3系統の抽出のすべてで、「Direct Signal Filter」の出現はこの1回だけでした。§3.2 のコントロール解説にこの名前の項目は立てられておらず、画面図の引き出し線にもこの名前は出てきません。

ここで「そんなものは無い」と書くのは行き過ぎです。ガイドが名前を出している以上、何らかの形で存在すると読むほうが自然で、本稿が確認できたのは「その名前の説明項目が、参照した2つの版の §3.2/§4.2 に見当たらない」ところまでです。実務上の読み方としては、ALIGN がグレーアウトして押せない状態になったら、それは故障ではなくガイドが書いているこの条件に当たっている可能性がある、と覚えておけば足ります。なおレイテンシーの実測値は、どちらの版にも数字では書かれていません。

全パラメーター

現行の英語版ガイド §3.2(p.10〜16)の記載をそのまま表にしたものです。日本語版 §4.2(p.11〜14)とすべての行で一致しました。「有効なコンポーネント」の欄は、ガイドが括弧書きで限定を明記している場合だけ書いています。

コントロール範囲初期値有効なコンポーネント役割
RANGE20 Hz 〜 120 Hz(1 Hz 刻み)80 Hz限定の記載なしローパスフィルターのカットオフ。LFE コンテンツを作る帯域を決める
LoAIR−inf 〜 30(0.1 dB 刻み)3限定の記載なし生成された(1オクターブ下げた)信号のレベル。0〜30dB でサチュレーション
LO−inf 〜 30(0.1 dB 刻み)3限定の記載なしフィルターされた信号のレベル。0〜30dB でサチュレーション
DIRECT−inf 〜 0 dB(0.1 dB 刻み)0Mono / Stereo のみ未処理のダイレクト信号のレベル
OUTPUT−60 〜 0 dB(0.1 dB 刻み)0Mono / Stereo のみ出力レベル全体(減衰のみ)
LFE OUTPUT−60 〜 0 dB(0.1 dB 刻み)05.0 / 5.1 のみLFE の出力レベル(減衰のみ)
TRIM−12 dB 〜 +12 dB記載なし限定の記載なし出力レベルの微調整(±12 dB まで)
ALIGNOn / OffOff限定の記載なしダイレクト信号を遅らせて生成信号と同期させる
CLIP LED——限定の記載なしクリップの表示。サラウンド版では LFE チャンネルのみを示す
OUTPUT METER−50 〜 0 dB—限定の記載なしLFE 出力レベルの表示
Feed L/R−inf 〜 0 dB(−inf=センドなし/0 dB=ユニティ)−6 dB5.0 / 5.1 のみL・R をピッチ・エンジンへ送る量
Feed C−inf 〜 0 dB(同上)−3 dB5.0 / 5.1 のみC をピッチ・エンジンへ送る量
Feed Ls/Rs−inf 〜 0 dB(同上)−9 dB5.0 / 5.1 のみLs・Rs をピッチ・エンジンへ送る量
Feed LFE−inf 〜 0 dBFS(0.1 dB 刻み)0 dB5.1 のみLFE をピッチ・エンジンへ送る量

表を横に見ていくと、この製品の重心が読めます。レベルを扱う行のうち上端が 0 を超えているのは LoAIR(30)・LO(30)・TRIM(+12 dB)の3本。DIRECT・OUTPUT・LFE OUTPUT・Feed 4本はいずれも上端が 0 です。そのうち DIRECT・OUTPUT・LFE OUTPUT・Feed LFE は初期値がその上端 0 に置かれ、Feed の L/R・C・Ls/Rs だけが上端より下(−6/−3/−9 dB)から始まります。Mono / Stereo コンポーネントに限れば、初期状態は「原音側はユニティ、生成側の2本だけが 0 より上の 3」という置き方で、そこから引き算していく前提の設計になっています。

画面の読み方でひとつ注意を。5.1 コンポーネントの画面で「DIRECT」という見出しの下にあるのは Align ボタンで、レベルつまみではありません(DIRECT のレベルつまみは Mono / Stereo コンポーネントのみ、と本文が明記しています)。英語版はこの位置の引き出し線に「Direct Align」と書いていますが、日本語版は同じ位置に「Direct Amount」と書いています(日本語版 p.10)。日本語版の図で操作を覚えると本文と食い違うので、ここは英語版の呼び名のほうが正確です。同じ日本語版 p.10 の図には、左端の引き出し線に「Frequency Renge」という綴りの誤りも残っています(Range が正しい綴り)。念のため書き添えると、これは日本語版だけの誤りです。現行の英語版 p.9 の同じ位置は「Frequency Range」で正しく綴られています(この図はページに貼られた画像なので、原寸 438×650 で取り出して4倍に拡大したうえで目視しました)。Renge という綴りは、英語版16ページのテキスト抽出でも PyMuPDF・pdfminer.six の2系統とも0件で、引き出し線つきの画面図が載っているページ自体が p.9 の1枚です(p.6 の図はブロックダイアグラム、p.10〜16 に載っている図はつまみやフェーダーを1つずつ拡大したもので、どれにも注釈の引き出し線は付いていません)。

用途別・設定の始点

ガイドの第2章「Quick Start Guide」(p.7〜8)は、素材ごとに触る順番を指定しています。値の推奨は書かれていないので、以下は「順番」と「初期値」だけをまとめたものです。

素材コンポーネントガイドが指定する順番出発点になる初期値
モノ素材Mono-to-Mono① 入力ソースと出力タイプ(LFE のみ/フルレンジ)を決める → ② RANGE → ③ LO と LoAIRRANGE 80 Hz/LoAIR 3/LO 3/DIRECT 0 dB/OUTPUT 0 dB/ALIGN Off
ステレオ素材Stereo-to-Stereo同上。Waves Japan の製品ページは、このコンポーネントの出力先を「LFE または Stereo + LFE」と説明している同上
5.0 から LFE を作る5.0-to-5.1① Feed(L/R・C・Ls/Rs)→ ② RANGE → ③ LO と LoAIRFeed L/R −6 dB/C −3 dB/Ls/Rs −9 dB/RANGE 80 Hz/LoAIR 3/LO 3/LFE OUTPUT 0 dB
5.1 の既存 LFE を補強5.1-to-5.1① Feed(L/R・C・Ls/Rs・LFE)→ ② RANGE → ③ LO と LoAIR上に加えて Feed LFE 0 dB

順番の意味は、📖信号の流れを追えばそのまま分かります。サラウンドの2つは材料集め(Feed)が先で、そのあとに帯域(RANGE)、最後に量(LO・LoAIR)。何を材料にするかを決めないうちにカットオフをいじっても、判断ができないからです。モノ・ステレオの2つには Feed が無いので、代わりに「入出力をフルレンジにするか LFE だけにするか」という運用の決定が先頭に来ています。

RANGE の初期値 80 Hz は、範囲 20〜120 Hz のちょうど中央より少し上です。ここを上げれば材料の帯域が広がり、下げれば絞られる。1 Hz 刻みという細かさは、素材ごとに📖基音の位置を追い込むことを想定した分解能だと読めます(ガイドはその意図を明示していません)。

音楽制作で使う場合の当たりどころは、英語版の製品ページが挙げている用途がそのまま目安になります。シンセ・キック・ベースにサブを足す、薄いボーカルに体を与える、マスターに深さを足す、フィールド・レコーディングで失われた低域を取り戻す、ライブでパワーを押し出す。Waves Japan 側は「重み、深みを与えたい場面」「すでに存在する低域を強化」と書いています。いずれも公式ページの記述です。なお本稿が読んだ範囲——ユーザーガイド2版と公式製品ページ2ページ——には、素材別に推奨する dB 値の表は含まれていませんでした。

カホ

「LFE OUTPUT が上がらない」で止まる人がいます。上限が 0 dB で、初期値がその 0 dB です。回しても下がるだけ。上げたいときは TRIM か、その前段の LoAIR / LO です。

似た製品との使い分け

先に資料の状況を書いておきます。LoAir のユーザーガイド全16ページには、他の Waves 製品の名前は3系統の抽出のいずれでも出てきませんでした(🎛️MaxxBass / 🎛️Renaissance Bass / 🎛️Submarine のいずれも0件)。したがって以下の比較は、比較先それぞれの公式ユーザーガイドを本稿が別途読んだうえで書いています。

分かれ目は2つあります。ひとつは成分を作る方向、もうひとつはどこへ書き込むかです。

製品作るもの方向書き込む先コンポーネント
MaxxBass基音の📖倍音上通っている信号そのもの—
Renaissance Bass基音の倍音(MaxxBass と同じ特許技術)上通っている信号そのもの—
LoAir1オクターブ下のサブハーモニクス下(1オクターブ)サラウンド版は LFE チャンネルのみ/モノ・ステレオ版は出力そのもの4種(Mono / Stereo / 5.0>5.1 / 5.1>5.1)
Submarine1オクターブ下と2オクターブ下の成分下(2段)原音とミックスするか、LFE バスへ送るか2種(mono / stereo)

MaxxBass の現行ユーザーガイド(全13ページ・2025年版)は、この製品を心理音響のツールと定義し、スピーカーの再生範囲より下の低域を一部そぎ落として基音の倍音を足す、人の耳は最低域より中高域に敏感なので脳がその倍音から「失われた基音」を知覚する、と説明しています(MaxxBass User Guide p.3)。Renaissance Bass も同じ「missing fundamental」の説明を持ち、耳が倍音を聴き、脳が逆算して基音を作り直す、という書き方をしています(Renaissance Bass User Guide p.2)。この2製品が作るのは基音より上の成分で、LoAir が作るのは1オクターブ下の実成分です。方向が逆なので、両者は排他というより役割が違います。

下に作る方式どうしの比較になるのが Submarine です。Submarine のガイドは「入力信号より1オクターブ低いものと2オクターブ低いものを生成する」「生成されたサブは、原音とミックスされる前にさらにコントロールできるほか、LFE バスへ直送することもできる」と書き、コンポーネントは mono と stereo の2つだと明記しています(Submarine User Guide p.2)。つまり Submarine でも LFE を作れます。違うのは、LFE がプラグインの外にあるか、中にあるかです。Submarine の LFE 用途は DAW 側のルーティングで作るもので、LoAir の 5.0-to-5.1 / 5.1-to-5.1 は 5.1 の出力そのものを持ち、ベッド5chを「pass through」させながら6本目を書きます。段数も違い、LoAir は1オクターブ下だけ、Submarine は −1 と −2 の2段です。

選び方をひとことでまとめるなら、英語版の製品ページが自分で書いている一行が一番早い——「LoAir was born for surround(LoAir はサラウンドのために生まれた)」。同じ段落は「5.0 から 5.1 へ行きたいときも、5.1 のまま進めたいときも、LoAir は高品位なサラウンド・📖ポストプロダクションに必要なフィードを一式そろえている」と続きます。5.1 以上の📖セッションを扱っていて LFE トラックの中身に責任を持つなら LoAir、ステレオのミックスで低域そのものを太らせたいなら別の選択肢がある、という住み分けです。もっとも同じページは「このポスト・プロダクション定番ツールは音楽にも効く」とも書いているので、ステレオ用途を否定しているわけではありません。

📖EQ との線引きも一応書いておきます。LoAir のコントロール一覧に出てくるフィルターはローパスで、その役割は「LFE コンテンツを作るために使う周波数帯域を決める」こと(p.10)。既存の帯域の📖ゲインを動かすつまみは、本稿が参照した版のコントロール一覧には出てきません。低域のバランスそのものが崩れている場面は、EQ の仕事のままです。

よくある質問

初期値のまま挿すと、何が起きている状態ですか

Mono / Stereo コンポーネントなら、RANGE 80 Hz でローパスした信号が LO = 3 で、それを1オクターブ下げたものが LoAIR = 3 で、そこへ未処理の原音が DIRECT = 0 dB(ユニティ)で加わり、OUTPUT 0 dB・ALIGN Off で出ていきます。原音は減っていないのに、下に2系統ぶんが足されている状態です。5.0 / 5.1 コンポーネントなら、DIRECT と OUTPUT の代わりに LFE OUTPUT 0 dB で、材料は Feed(C −3 dB/L/R −6 dB/Ls/Rs −9 dB/5.1 なら LFE 0 dB)から集められます。いずれの場合も LoAIR と LO の初期値 3 は、現行の英語版ガイドが「サチュレーションが起きる」と書いた 0〜30dB の範囲の中にあります。

LFE OUTPUT を上げたいのに上がりません

仕様どおりです。LFE OUTPUT の範囲は −60 〜 0 dB、初期値は 0 dB。上限が初期値なので、動かせるのは下方向だけです。Mono / Stereo コンポーネントの OUTPUT も同じ −60 〜 0 dB・初期値 0 dB です(p.12)。出力段でプラス側を持つのは TRIM(±12 dB まで)で、それより手前で量を作るなら LoAIR と LO(どちらも上端 30)です。ただし LoAIR と LO を上げるとガイドが言うサチュレーション領域を深く使うことになるので、単純な音量調整の代わりに使うつまみではありません。

ALIGN は On にしておくべきですか

ガイドは推奨を書いていません。ALIGN の項にあるのは、役割(「ダイレクト信号を遅らせて生成信号と同期させる」)、範囲(On / Off)、初期値(Off)、そして「Direct Signal Filter が有効なときはレイテンシーが無いためこのコントロールは無効になる」という注意書きです(p.13)。ダイレクト信号を混ぜている状態、つまり DIRECT を上げて使う Mono / Stereo コンポーネントでこそ意味を持つスイッチだ、という位置づけは読み取れます。なお DIRECT のレベルつまみは「Mono と Stereo コンポーネントのみ」と明記されている一方、ALIGN にはコンポーネントの限定が書かれていません。サラウンドのコンポーネントで ALIGN が何を遅らせるのかについては、どちらの版にも説明が加えられていませんでした。オンオフで低域の出方が変わるかどうかは素材によるとしか言えないので、切り替えて確かめるのが確実です。

ステレオのミックスしか作りません。それでも使えますか

使えます。4つのコンポーネントのうち2つ(Mono-to-Mono / Stereo-to-Stereo)はサラウンドを必要としません(p.5)。英語版の製品ページのキャッチコピー自体が「ステレオとサラウンド素材のためのサブハーモニック・ジェネレーター」であり、用途として「シンセ・キック・ベースにサブを足す」「薄いボーカルに体を与える」を挙げています。Waves Japan の製品ページも Stereo コンポーネントを「ステレオ・トラックから LFE 信号を生成し、LFE または Stereo + LFE に出力」と説明しています。ただし、RANGE の説明(「LFE コンテンツを作るために使う周波数帯域を決める」)も、メーターとクリップ表示が名指しする対象も、§1.3 の用語集に LFE OUTPUT が並んでいることも、すべて LFE を中心に書かれています。ステレオ用途で使うときは、その語彙のずれを頭の中で読み替えることになります。

まとめ

  • LoAir が作るのは1オクターブ下だけ(p.3)。サラウンドの2コンポーネントでは 5.0 のベッドがブロック図に「pass through」と書かれて素通りし、LFE OUTPUT もメーターも Clip LED も、名指ししている対象は LFE チャンネル(p.6・p.12・p.13)。ミックスの通り道を汚さずに6本目だけを増やす、という構造。
  • LoAIR は生成した1オクターブ下、LO はローパス後の原音、DIRECT は未処理の原音。ドライ/ウェットの比率つまみではなく、3系統の独立したレベルつまみで、出口で足される(p.10〜11)。初期値は LoAIR 3/LO 3/DIRECT 0 dB。
  • Feed の初期値は C −3/L/R −6/Ls/Rs −9 dB の段で、5.1 の LFE だけがユニティ(p.14〜16)。出力段は OUTPUT・LFE OUTPUT ともに −60〜0 dB=減衰専用で、プラス側を持つのは TRIM の ±12 dB だけ(p.12)。
カホ

「下に成分を作る」までは Submarine と同じ。違うのはそれをどのチャンネルに置くかです。LoAir は、それを LFE に置く前提でつまみもメーターも章立ても組まれています。ここさえ掴めば、名前の付け方がひとつずつ意味を持って見えてきます。

価格について。Waves Japan の製品ページに表示されている永続📖ライセンスの定価は13,860円です(2026年9月5日時点)。購入前に公式ページで現在の価格を確認してください。対応形式は同ページによると SoundGrid・📖AAX Native・Audiosuite・📖Audio Units・📖VST3 で、macOS / Windows の両対応です。バンドルへの収録状況は改編されるため、公式ページで確認してください。

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