Renaissance Equalizerのベルフィルターは、ブーストとカットで形が違います。同じQ設定でも、正のゲインのほうが負のゲインより広くなる——これは推測ではなく、現行の公式ユーザーガイドが明記している仕様です。どのくらい違うかまで書いていたのは2000年版のマニュアルで、そこには「対称型のベルEQでいえば、およそ2倍のQに相当する」とありました。この記事では、その非対称ベル、Qで傾きが変わる共鳴シェルフ、そして「入力ゲインのつまみが無い」理由を、Waves公式マニュアルに沿って解剖します。
想定読者は、すでにR-EQを挿したことがある人と、Wavesの古いEQを1つ手元に置くか迷っている人です。操作手順ではなく、なぜこの形のカーブになっているのかを扱います。
仕様・数値の第一根拠はWavesが現在配布している公式ユーザーガイド(英語・全14ページ/2019年9月版)です。コントロールの可変範囲・名称・配置は、すべてこの現行版で取り直しました。本稿はもともと、製品に同梱されている2000年版のマニュアル(本文34ページ)を下敷きにしています。ページ数は減りましたが、これは Craig Hutchinson の寄稿章・FAQ章・ファクトリープリセット解説章といった読み物部分が落ちたためで、仕様の数値はむしろ現行版のほうが多く載っています。現行版で確認できた記述は現在形で、2000年版にしか無い記述は「2000年版マニュアルでは」と断って書き分けます。旧版にしか無い話——非対称ベルの定量表現、Gerzonシェルフの具体値、プリセットの数値——は、いまのガイドがどこにも書いていない情報なので消さずに残しました。編集部は本製品を所有していないため使用感の描写はせず、公式資料で裏が取れない項目は書きません(価格だけは公式製品ページの表示によります)。
カホEQの性格はカーブの形で決まります。R-EQは「ブーストとカットで形を変える」という判断をしているEQ。ここを知らずに数字だけ合わせても、狙いどおりにはなりません。
この記事でわかること
- 非対称ベルの正体——カット側のほうが狭い(現行ガイド記載)。「対称型のおよそ2倍のQ相当」という定量表現は2000年版マニュアルのもの
- Qの実数値——ベル 0.26〜6.50/シェルフ 0.71〜1.41/カット・パス 0.71〜1.41。定番の「Gerzonシェルフ」Q=0.99・250Hz/4kHz は2000年版由来
- バンド1・6のカットは3次フィルター。Q=1.0で18dB/oct、最小0.71で約10dB/oct
- 入力ゲインが無い理由と、Trim/Linkの正確な挙動。現行版で足されたRTA(リアルタイムアナライザー)とカーソル周波数表示
Renaissance Equalizerとは|何を解決する製品か
現行ガイドの冒頭は、Renaissance Equalizer(R-EQ)を「プロオーディオ制作向けの6バンド・パラグラフィックEQ」と定義しています。パラグラフィックとは「パラメトリックのつまみでも、グラフの操作でも同じように追い込める」という意味で、ガイド自身がそう説明しています(2000年版は同じ位置で「オーディオファイルEQ」と名乗っていました。audiophile という語は現行版から消えています)。この記事の主題であるグラフとパラメトリックの往復は、まさにこの語が指しているところです。
開発の動機は2000年版マニュアルの第1章に書かれていました。原文は「1993年にWavesがQ10を開発して以降、高品位で“甘い”EQへの需要が増していった」。それに応えて作られたのがR-EQだ、と。ただしQ10の発売年は、一般資料ではWaves設立と同じ1992年とされており、1年ずれます。ここではマニュアルの記述であることを明示したうえで、両方を残します。現行ガイドには開発経緯も年号もQ10への言及も一切ありませんので、この段落はまるごと旧版の話として読んでください。
操作の基本は、グラフ上のドット(バンドマーカー)をドラッグして周波数とゲインを動かし、グラフの下のパラメトリック部でGain/Freq/Qを直接指定する、というものです。2000年版マニュアルはこの画面構成を「Q10の設計を直接の下敷きにしている」と説明していましたが、現行版にQ10への言及はありません。実際いまのGUIはLight/Dark/Legacyの3スキンから選べるようになり、後述するRTA(リアルタイムアナライザー)とカーソル周波数表示も加わっているので、当時の画面写真とはかなり見た目が違います。この記事が説明している配置はLight/Dark Viewのほうです——現行ガイドの呼び出し図もこのクリーム色の見た目で、Gain/Freq/Qはノブ(グラフ右上に「View」セレクターがありますが、何が切り替わるかは現行ガイドの本文に説明がないため、本稿では断定しません)、L/Rのリンクは「L」「鎖のアイコン」「R」という小さな並び、そしてTrimはメーターの下にあります。Legacy Viewは2000年版マニュアルの画面写真と同じ並びを保っています(ただしRTAとカーソル周波数表示はLegacyにも付いているので、当時そのままではありません)。Gain/Frq/Qは6バンド分の数値マトリクスが常時並び(Viewセレクターそのものがありません)、リンクは「Left/Link/Right」という文字ボタン、そしてTrimはメーターの上(クリップランプのすぐ上)にあります。この記事で「メーターの下」と書いているのはLight/Dark Viewの話なので、Legacyで使っている人は読み替えてください。違うのは見た目と並びだけで、3スキンとも中身のフィルターは共通です。そこがこの製品の全部だと言っていい。
もうひとつ、多くのEQと決定的に違う点があります。ふつうのパラメトリックEQは全バンドが同じ仕様ですが、R-EQはバンドごとに持っているフィルターの種類が違う。現行ガイドが挙げている理由は「EQのバンドを音楽的かつ常識にかなったやり方で扱えるようにするため」と「すべてのコンポーネントのあいだでスケーラビリティを成り立たせるため」の2つです。いちばん外側のバンド(最も高い側と最も低い側)はどの規模にも共通で、たとえば2バンド版を選ぶと、その2バンドは6バンド版のバンド1・6と同じフィルターの選択肢を持ちます——プリセットを別の規模のコンポーネントへ持っていったときも同じ振る舞いになります。2000年版マニュアルはこの設計を「できるだけ多くのプロユーザー(と、そのユーザーが使うプラットフォーム)に合わせて処理の要求を最適化するため」と説明し、さらに「4バンド版はバンド2と5を、6バンド版はさらにバンド3と4を足す」という内訳まで書いていました。中間のバンド2〜5をどの規模が足すのかという内訳は、現行ガイドには書かれていません(外側のバンド1・6がどの規模にも共通であることと、各バンドが持つフィルタータイプは、上のとおり現行ガイドにも書かれています)。
ここでコンポーネントの数え方が版で変わっているので、先に整理しておきます。2000年版マニュアルは「6バンド/4バンド/2バンドの3つのコンポーネント」と数えていましたが、現行ガイドは「コンポーネントは2つ——REQ mono と REQ stereo」と数え、バンド数のほうをそれぞれの中の選択肢として扱います(REQ mono も REQ stereo も、2バンド・4バンド・6バンドが用意されている)。現行ガイドの言い方では「チャンネル数以外、2つのコンポーネントは同一」です。バンド数が3種類あること自体は、どちらの版でも変わりません。
| バンド | 選べるフィルタータイプ | 入っているバンド数構成 |
|---|---|---|
| 1 | ローカット/ローシェルフ/ベル | 2・4・6バンド(現行ガイドにも記載) |
| 2 | ローシェルフ/ベル | 4・6バンド(2000年版マニュアル) |
| 3 | ローシェルフ/ベル | 6バンドのみ(2000年版マニュアル) |
| 4 | ハイシェルフ/ベル | 6バンドのみ(2000年版マニュアル) |
| 5 | ハイシェルフ/ベル | 4・6バンド(2000年版マニュアル) |
| 6 | ハイカット/ハイシェルフ/ベル | 2・4・6バンド(現行ガイドにも記載) |
つまり2バンド版は「ローカット/ローシェルフ/ベル」と「ハイカット/ハイシェルフ/ベル」の組み合わせで、機能が削られた廉価版ではありません。上下の端を1本ずつ持った構成です。カット系フィルターはバンド1と6にしか無いので、そこは押さえておく必要があります。
価格は、日本公式サイト(wavesjapan.jp)の表示で定価17,380円です(2026年8月時点)。本稿が価格を見たのは1時点だけなので、実売の幅は書きません。現在の価格は公式ページで確認してください。Wavesの主要バンドルにも含まれていますが、構成は改編されるので収録状況も公式で確認を。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
非対称ベル——カットのほうが狭い、を仕様として持っている
世の中のパラメトリックEQは、ほぼ例外なくベルが対称です。同じQ・同じ周波数なら、+6dBのブーストと−6dBのカットは鏡像になる。R-EQはここを崩しています。現行ガイドの表現は「同じQ設定でも、R-EQのベルフィルターはゲインが正のときのほうが負のときより広い」。ここは現行版にもはっきり書かれている仕様です。
どのくらい違うのかまで書いていたのは2000年版マニュアルのほうです。R-EQのQ値は正のゲインのときだけ従来どおりの“エンジニアリングQ”で、負のゲインでは非対称性のぶんだけ対称型より狭くなる。旧版はこれを「対称型ベルEQでいえば、およそ2倍のQに相当する」と表現していました。Q=1.0でカットすれば、体感としてはQ=2.0前後の細さになる、という意味です。この「およそ2倍」という定量表現は現行ガイドには載っていません(現行が書くのは「正のほうが広い」という向きだけ)。数字が独り歩きしないよう、旧版由来であることを明記したうえで残しておきます。
この設計の理由は現行版にも書かれています。EQでブーストするのはほとんどが音色補正——「もっと良く聞かせる」ため——で、カットするのはノイズや邪魔な成分の除去。目的が違うのだから形も同じである必要はない、という立場です。2000年版マニュアルはさらに、開発時にフィールドテスターへ「従来型のベル/非対称ベル/両方」の選択肢を出したところ、圧倒的多数が非対称ベルだけを選んだ、という逸話も載せていました(現行版では開発経緯の記述が全面的に削られています)。
実務的な注意点はひとつ。カットで狙った幅にするなら、対称型EQで慣れた数字より低いQから入るということです。対称型と同じ数字を入れると、想定より細い切り方になります。



「カットが効きすぎる」と感じたことがあるなら、腕の問題ではなく仕様です。旧版のマニュアルが「対称型のおよそ倍のQ相当」と書いていたくらいですから。
共鳴シェルフ——Pultecの二つ折り操作を、1本のフィルターにした
R-EQのシェルフは、いわゆる「レゾナント・シェルフ(共鳴シェルフ)」です。現行ガイドの定義は「カットとブーストを同時に使ってカットオフ点の共鳴を増やすフィルター」で、その挙動が一部の人気あるアナログフィルター、とりわけPultecに見られるものだ、と書いています。Pultecでカットとブーストのつまみを同時に使うあの操作を、1本のフィルターにしたもの——という理解で合っています。
出どころまで書いていたのは2000年版マニュアルです。1994年、Michael Gerzon がWavesに宛てた非公開の論文でこのアイデアを提案した。アナログでは既に同種の挙動が得られていたが、Gerzonはそれを単一のフィルタータイプとして実現する方法を定義した、と。旧版はさらに「実装はGerzonの提案そのものではない」とも断っています。彼のアイデアとPultec系フィルターの鳴りの折衷であり、Craig “Hutch” Hutchinson の助言が入っている。プリセット名に彼の名を冠しているのは敬意によるもので、Gerzon本人は実装を見ることなく世を去った、と。現行ガイドにGerzonの名もHutchinsonの名も1回も出てきません——残ったのはPultecへの言及だけです。共鳴シェルフの由来を書いた資料はもう公式には出回っていないので、ここは旧版の記述として残します。
従来型シェルフとの違いは2点、と現行ガイドも書いています。ひとつは、シェルフの肩の部分に見た目にはっきり分かる山と谷(オーバーシュート/アンダーシュート)ができること。もうひとつが本題で、シェルフなのにQが効くことです。Qを変えるとシェルフへ向かう傾きの角度が変わり、あの特徴的な「バンプ」が出る。この行き過ぎ/行き足りない量がシェルフの音にとって非常に重要だ、というのがガイドの言い分です。2000年版マニュアルはこれを「パラメトリック・シェルフのようなもの」と呼んでいましたが、この言い回しは現行版にはありません。
数値も現行ガイドにそのまま書かれています。シェルフで使えるQは0.71〜1.41。 1.41では傾きが最も急になり“共鳴”部分が最も極端になります。ここから先——0.71がQ10のシェルフの緩やかさに近いこと、Gerzon自身が「1.00をわずかに下回るあたりが多くの用途で心地よい」と示唆していたこと、その定番がQ=0.99・低域250Hz/高域4kHzであること——は、すべて2000年版マニュアルの記述です。旧版はこの組を「クラシックなGerzonシェルフの設定」と呼んでいました。現行ガイドはプリセットの具体的な数値を一切載せない方針に変わったので、この1組はもう公式資料からは拾えません。だから残します。
この傾きの差がどれくらい実務に効くか。2000年版マニュアルの第8章(Manley Laboratories の設計者 Craig “Hutch” Hutchinson による寄稿)に比較の数字があります。一般的な1極(シングルポール)のシェルフEQは、最も直線的で急なところでも約4.5dB/オクターブで、そこから緩くなっていく。対してR-EQのシェルフはQ次第で10〜18dB/オクターブ。ハイシェルフで高域を持ち上げたときにサ行や中域まで一緒に上がってしまう、という定番の副作用が起きにくいのはこのためだ、という説明です。同章は「肩の谷は珍しいもので、ディエッサーの売上を減らすだろう」と冗談めかして書いています。
この寄稿章は現行ガイドには収録されておらず、シェルフの傾きをdB/オクターブで示す記述も現行版にはありません。 ひとつ紛らわしいのは、現行ガイドにも「約10dB/octから18dB/oct」という数字が出てくることです。ただしそれはカットフィルターのQの説明であって、シェルフの数字ではありません(次の見出しで扱います)。同じ数字が別の項目に付いているので、引用元を取り違えないでください。
カットフィルターは3次。Qで「切り方の性格」を選ぶ
バンド1と6のカットフィルターは3次フィルター(=18dB/オクターブ)です。Qが1.0のとき、山も谷も付かないきれいな18dB/オクターブになります。
現行ガイドはカットフィルターのQを「約10dB/octから18dB/octまでの傾きを制御し、あわせて肩の“バンプ”も制御するもの」と定義し、可変範囲を0.71〜1.41と明記しています。Qを最小の0.71にすれば傾きは2次よりやや緩い約10dB/オクターブ、1.0で18dB/オクターブ、そこから上げるほど急になる、という並びです。2000年版マニュアルはここをもう少し詳しく書いていて、Qを1.0より上げると肩に谷と山が現れて実効的な傾きは3次より急になるが、高次の倍音は大幅に減衰しつつも通過する、としていました(この挙動の説明は現行版では一般論に均されています)。
なぜ切れ味の鋭いブリックウォールにしなかったのか。2000年版マニュアルの説明は明快でした。非常に急峻なフィルターで切り落とすと、ハイカットの場合に音が非常に鈍く聞こえるという心理音響的な効果がある。少し残すほうが結果は甘く、鈍くならない。ただし「マルチメディア用途やデジタル変換など、帯域制限が要件になる場面には当てはまらない。R-EQのフィルターはプロオーディオで最も音楽的な結果を出すための設計だ」と、適用範囲まで自分で限定していました。この設計思想の説明は現行ガイドには残っていませんが、フィルターの次数と傾きの数値は現行版と一致しているので、いまのR-EQにもそのまま当てはまる話として読めます。
なお2000年版マニュアルは、第8章で同じフィルターの傾きを「約12dB/octから18dB/oct超」と書いており、第4章・第5章・第6章の「約10〜18dB/oct」と数字が食い違っていました。本文では、仕様として繰り返し出てくる後者を採っています。現行ガイドは第8章にあたる寄稿章ごと落としたので、この矛盾は解消されました——いま残っているのは「約10dB/octから18dB/oct」のほうだけです。
入力ゲインが無いのは、バンドごとにクリップを潰しているから
R-EQには入力ゲインのつまみがありません。これは省略ではなく、必要が無いからだと説明されています。
現行ガイドの説明はこうです。内部処理は48ビットで行われ、これによって各バンドでの内部クリップを完全に避けられるだけのヘッドルームが確保されている。同じヘッドルームのおかげで、信号が0 dBFSをどれだけ超えたかを正確に計算でき、それをきっちり補正できる——ここまでが現行版の記述です。
2000年版マニュアルはここをもっと踏み込んで書いていました。R-EQは倍精度(dual-precision)処理で、固定小数点DSP上では48ビット、ネイティブ処理では64ビット浮動小数点で内部計算する。この余裕を使って各バンドで発生しうるクリップを自動的に取り除いており、それは「Q10や他のEQでは起こり得た」種類のクリップで、しかも入力メーターにも出力メーターにも表示されないので厄介だ、と。そして「だから入力ゲインのコントロールは不要で、必要なのは出力ゲインだけだ」と結論づけています。現行ガイドには「48ビット」より先の記述——64ビット浮動小数点も、Q10との比較も、「入力ゲインは不要」という結論の一文も——が残っていません。つまみが無いという事実は変わりませんが、その理由づけを公式の言葉で読めるのは旧版だけ、ということです。
出力は別問題で、既に大きい信号をEQでブーストすればクリップします。そこで用意されているのがTrimです。表示はメーターの下にあり、dB表示(これはLight/Dark Viewでの位置で、現行ガイドの本文も「メーターの下」と書いています。2000年版マニュアルの「メーターのすぐ上」という配置は、いまもLegacy Viewにそのまま残っています)。プラスの値なら、その分だけまだヘッドルームが残っている(=フェーダーをその値ぶん上げてもクリップしない)という意味。マイナスの値なら出力がクリップしていて、その分だけ下げるべきだという意味になります。他機種で「マージン」と呼ばれるものにあたります。
Trimボタンを1回クリックすると、表示されている値のぶんだけ出力フェーダーが自動で動きます。動かしたあとTrimの表示は12.0にリセットされる。これがR-EQで許される最大のプラス側ゲインです。フェーダーを動かさずに表示だけ戻したいときは、メーターの中のどこか、あるいはメーターとメーターの間をクリックします。なおフェーダーの上にはクリップを示すランプがあり、こちらはランプをクリックするとリセットされます。



入力つまみが無いEQを「不便」と言う人がいますが、逆です。入力で持ち上げないと歪むEQのほうが、内部の作りを外に押し付けている。
全パラメーター
以下はすべて現行ガイドの数値です。2000年版マニュアルに載っていなかったのは、Freqの上下限・ベルのQの範囲・カット(パス)のQの上限——この3つでした。シェルフのQは2000年版も「使えるいちばん高いQが1.41」「いちばん低いQは0.71」と上下そろえて書いており、カットのQも「いちばん小さい0.71のとき傾きは約10dB/oct」と下限は示しています(カット側にQ=1.41の作図例も載っていますが、それが上限だとは書かれていません)。現行ガイドはこれを1行にまとめ、シェルフ0.71〜1.41/パス0.71〜1.41/ベル0.26〜6.50と3種類を並べたうえ、Freqも16 Hz〜21,357 Hzと数値で明記しています——版が新しくなって仕様の記述はむしろ増えた、という珍しい例です。
| コントロール | 役割 | 範囲・刻み | 備考 |
|---|---|---|---|
| Gain(各バンド) | ブースト/カット量 | −18.0 〜 +18.0 dB(0.1 dB刻み) | 数値窓への直接入力はノブのダブルクリックから |
| Freq(各バンド) | ベルは中心周波数/カット・シェルフは肩の周波数 | 16 Hz 〜 21,357 Hz/1/16音刻み(1オクターブ96分割)・整数に丸め | 左右の矢印キーで1/16音ずつ送れる |
| Q(ベル) | 帯域幅 | 0.26 〜 6.50 | 同じQでも正ゲインのほうが広い(非対称) |
| Q(シェルフ) | 肩の傾きと、共鳴の山/谷の量 | 0.71 〜 1.41 | 0.99が「Gerzonシェルフ」の定番値(2000年版マニュアル) |
| Q(カット・パス/バンド1・6のみ) | 傾きと肩のバンプ | 0.71 〜 1.41 | Q=0.71で約10dB/oct、Q=1.0で18dB/oct(3次) |
| Band On/Off | バンドのオン・オフ | バンド番号ボタンをクリック | グラフ側ではバンドマーカーのダブルクリックでも同じ |
| Filter Type | フィルタータイプの切替 | クリックで順送り、またはドロップダウンから選択 | 選べるタイプはバンドごとに違う。グラフ側はマーカーを Cmd+クリック(Mac) |
| 出力フェーダー | 出力レベル | −∞ 〜 +12 dB | 値はメーター上部に表示。フェーダー上のランプがクリップを示す(クリックでリセット) |
| 出力メーター | 出力レベルの表示 | −60 dBFS 〜 0 dBFS(対数表示) | 各メーター下部にピークホールド値。クリックでリセット |
| Trim | ヘッドルーム表示+出力フェーダーの一括補正 | クリックで補正、その後 12.0 にリセット | 表示位置はLight/Dark Viewではメーターの下、Legacy Viewではメーターの上。12.0が許容される最大プラスゲイン |
| Link/Left/Right | L/Rの連動と、片チャンネルの選択 | Link オン/オフ | 連動するのは Gain・Freq・Q・Filter Type・In/Out の5つ。出力フェーダーは含まれない。Light/Dark Viewでは「L・鎖アイコン・R」、Legacy Viewでは「Left/Link/Right」の文字ボタン |
| Analyzer on/off | リアルタイムアナライザー(RTA)の表示切替 | オン/オフ(グラフ右上) | RTAはpost-EQ=EQの結果が反映された波形が出る。ピンクカーブに校正されている。使わないときは切るとCPUを節約できる |
| Cursor frequency | カーソル位置の周波数表示 | グラフ上をホバー | グラフ左上に周波数が出る(画面写真では音名とセントまで表示) |
下2つ、RTAとカーソル周波数表示は現行版で追加されたものです。2000年版のGUIにはどちらもありません。RTAがpost-EQだという点は実務上けっこう効いて、「いま自分がやったEQが波形をどう変えたか」がそのまま見える代わりに、素の入力信号を見ることはできないということでもあります。校正がピンクカーブ基準である点も、目盛りを読むときに効いてきます(生のFFTをそのまま出しているわけではない、ということです)。
Qの3つの数字は混同しやすいので、もう一度並べておきます。ベルだけが 0.26〜6.50 と大きく広く、シェルフとカット・パスはどちらも 0.71〜1.41。後で出てくる用途別表に Q=0.29/0.34 という数字が出てきますが、あれはベル(マニュアルの表記で「Baxandall bell filters」)なので、シェルフの下限0.71とは矛盾しません。2000年版マニュアルはシェルフの節でしか上下限をセットで書いておらず、カット側は下限しか確定できませんでしたが、現行ガイドは同じ1行に3種類を並べて書いており、シェルフとパスは同じ範囲だとはっきりします。ベルの範囲が広いのは、帯域幅を決めるつまみとして働くから。シェルフとカットのQは「傾き」を決めるつまみなので、動く幅が狭くて足ります。
グラフの表示範囲についても一言。現行ガイドはグラフの縦軸レンジを文章で規定していません(画面写真のY軸目盛は ±12 と読めますが、その目盛が固定なのか可変なのかはガイドに書かれていないため、本稿では判断しません)。Gainの可変範囲 ±18 dB とは別の話なので、混ぜないでください。
それからFlatボタンについて。これはいまも残っています。現行ガイドの本文に「Flat」という語は1回も出てこず、GUIの呼び出し15項目にも入っていませんが、同じガイドの画面写真を拡大すると、プラグイン上部のWaveSystem Toolbar、Saveと「?」のあいだにFlatボタンが写っています——Light・Dark・Legacyの3枚とも同じ位置です。呼び出しに含まれないのは、Flatがプラグイン本体のGUIではなくツールバー側のボタンだからで、実際、同じツールバーを持つRenaissance DeEsserにはこのボタンがなく、Saveの右がすぐ「?」になっています。ツールバーの並びは製品ごとに違うということで、R-EQ固有という意味ではありません——現行のQ10 Equalizerのユーザーガイドの画面写真にも、同じくSaveと「?」のあいだにFlatボタンが写っています。挙動を説明していたのは2000年版マニュアルのほうで、全バンドを Out にして全バンドのGainを0.0 dBにする、出力フェーダー・Freq・Q・Typeは変えない、と書かれていました。ゲインを0にするだけでなくバンドをOutにするのは、カットフィルターはGainの値の影響を受けないため——ゲインを0にしただけではフラットにならないからです。
Linkにも仕様上の穴があります。Linkボタンはオートメーションの対象外で、その状態はセットアップの一部としても保存されません。おかげで片チャンネルだけにセットアップを読み込むデュアルモノ運用ができる反面、リンクを外したステレオ1本の中で真のデュアルモノ・オートメーションは書けません。マニュアルの指示は明確で、L/Rを完全に独立してオートメーションしたいならモノ版のR-EQを2つ立てて別々に書くこと、となっています。
用途別・設定の始点
以下はすべて、2000年版マニュアルの第6章(ファクトリープリセット解説)と第8章に実際の数値として載っているものです。現行ガイドはプリセットの具体値を一切載せない方針に変わり、この2章は丸ごと削除されています——つまりこの表の数字は、いまの公式資料をいくら探しても出てきません。だからこそ残します。楽器別の「推奨dB値」は当時から公式に無いので書いていません。周波数とQだけを起点として示します。
| やりたいこと | 起点になる設定 | 出どころ |
|---|---|---|
| 6バンドで汎用に組む | 50Hzカット(初期状態はOut)/92・351・2890・7885Hzベル Q=0.80/10992Hzハイシェルフ | 6バンドの初期設定 |
| 低音・高音の2点だけで整える | 60Hz(Q=0.29)と約12kHz(Q=0.34)のBaxandall。これはシェルフではなくベル(マニュアルの表記は「Baxandall bell filters」) | Baxandall系プリセット |
| Gerzonシェルフの定番 | 250Hzローシェルフ/4kHzハイシェルフ、Q=0.99 | 第4章・第6章 |
| 見慣れた周波数で組む | 80Hzローシェルフ・12kHzハイシェルフ(Q=1.25)+125・500・2.5k・7.5kのベル(Q=1.3) | Gerzon shelves, 4 medium bells |
| エアー帯を足す | ハイシェルフ・Q=0.9・13500Hz以上 | 第6章の追記 |
| ミックス用のベル4本 | 200・452・1756・5496Hz、Q=1.0 | Baxandall, 4 bells “mix” |
| キック | 60Hzをブースト/200Hzをカット/5496Hzをブースト | 同上の解説 |
| ボーカルの明瞭度 | 1756Hzと5496Hzをブースト | 同上の解説 |
| ギター(スタジオで明るくなりすぎたアンプ) | 200Hzおよび/または452Hzをブースト | 同上の解説 |
| ピアノ | 200〜500Hzを浅くディップ | 第8章 |
| 低域を締めつつ大きく聞かせる | 25〜50Hzにカットフィルター+おおよそ100〜200Hzにシェルフブースト | 第8章 |
最後の1行は、2000年版マニュアルの第8章が「標準的なベルブーストにほぼ近い結果になるが、より乾いてタイトで、それでいて大きく聞こえる」と説明している組み合わせです。シェルフはベルより余韻が短く、フィルターが下を抑えるので暴れない、という理屈になっています。
ベルのQについての目安も2000年版マニュアルの第6章にあります。初期設定のベルはQ=0.80。非常に広い音色調整なら0.3まで下げ、より“focusrite”や“pultec”に寄せたいなら1.3、という書き方です。現行ガイドで確定したベルのQ範囲は 0.26〜6.50 なので、ここに出てくる 0.3〜1.3 はその中のかなり控えめな一帯にあたります。
似た製品との使い分け
Q10との違いは「対称か非対称か」
2000年版マニュアルは、章をまたいで何度もQ10を引き合いに出していました(現行ガイドにQ10への言及は1回もありません)。整理すると違いは3つです。この3点自体は、非対称ベル・シェルフのQ・バンドごとに違うフィルター構成として現行ガイドでも裏が取れます——Q10という比較相手の名前だけが、公式資料から消えたという状態です。
- ベルの対称性:Q10は対称、R-EQは非対称。2000年版マニュアルは「元のEQを取り消すボタンのように使える」のは対称型(Q10)の利点だと認めていました
- シェルフのQ:Q10のシェルフは緩やかな固定形状。R-EQは0.71〜1.41で傾きと共鳴量が変わる
- バンドの均質性:Q10は全バンド同一仕様。R-EQはバンドごとにタイプが違う
やり過ぎたEQを打ち消す方向で使うならQ10、音色を作る方向ならR-EQ、という切り分けは2000年版マニュアル自身の言い分に沿っています。同じ版には「1インスタンスあたりステレオ6バンドまで」という上限も明記されていました(この上限は現行ガイドには書かれていません)。いずれにせよバンド数が6で頭打ちであることは現行の構成からも変わらないので、バンド数で勝負する用途はQ10側になります。
マニュアルが名指ししている組み合わせ
この節の内容は、すべて2000年版マニュアルの第8章によります。現行ガイドには他製品とのチェイン例が一切ありませんので、公式の推奨として読むなら「当時の推奨」と受け取ってください。ドラムなら「ゲート(C1)→ R-EQ → MaxxBass → Renaissance Compressor →(必要なら)L1」の順。ゲートを先頭に置く理由は、ここが最も誤爆しにくいからだと書かれています。
ギターアンプ的な歪みを作る例もあります。R-EQ → Renaissance Compressor → L1 → もう1台のR-EQ、と並べ、1台目で3〜4kHzのベルをブーストして300〜400Hzをディップ、最後のR-EQで1台目とほぼ逆のカーブを作ったうえで8〜10kHz以上を落として安価な12インチスピーカーを模す、という手順です。
もうひとつ、EQとコンプの順序について。同じ第8章の答えは「どちらもあり」で、理由が付いています。先にコンプすればクリップさせずにEQでブーストしやすくなる。先にEQすれば、新しい音色に基づいて均される。 ディエスは最終段かその手前、リミッティングとディザは最後、という順番だけは固定です。
よくある質問
Q. ベルのブーストとカットで幅が変わるのは不具合では?
仕様です。現行ガイドは「同じQ設定なら、R-EQのベルフィルターはゲインが正のときのほうが負のときより広い」と明記しています。2000年版マニュアルのFAQはさらに踏み込んで「アナログのフィルターとして最も自然な挙動であり、一定のQに対してブーストとカットは見た目も音も違う」と答えていました(現行版にFAQ章はありません)。世の中のほとんどのEQが対称であることのほうが、R-EQから見れば例外扱いです。
Q. 6バンド版を開くとバンド1だけオフなのはなぜ?
バンド1がローカット(ハイパス)だからです。2000年版マニュアルの説明は「ローカットは最もよく使うカットなので初期設定に含めた。ただし、あなたが常に使いたがっていると決めつけたくはなかった」。ほかのバンドは最初からIn(オン)になっている、とも書かれていました。現行ガイドには初期状態についての記述が無いので、いまのバージョンでも同じ初期状態かどうかは、この資料では確認できません。
Q. 48ビット処理とは具体的に何をしている?
現行ガイドが書いているのは1行だけです——「内部処理は48ビットで行われる」。そのヘッドルームで各バンドの内部クリップを完全に避け、0 dBFSをどれだけ超えたかを正確に計算できるようにしている、と続きます。2000年版マニュアルはここを倍精度(dual-precision)処理として説明していて、固定小数点DSP上では内部計算をすべて48ビット値で行い、ネイティブ処理では64ビット浮動小数点で行う。この倍精度のデータパスが縮められるのは出力の直前だけで、そこでディザをかけて目的のフォーマットに落とす(ネイティブの64ビット内部処理なら32ビット浮動小数点出力へ)、としていました。64ビットもディザも現行ガイドには残っていません——TDM世代の記述がまとめて落ちたためです。48ビットという数字だけが、両方の版で一致しています。
Q. ステレオで左右を別々にオートメーションできる?
できません。Linkの状態そのものがオートメーションされず、セットアップにも保存されないためです。マニュアルは、L/Rそれぞれに完全なオートメーションが必要ならモノ版を2つ立てて独立に書くよう指示しています。なお、リンクを外して左右に違う設定を入れてから再びリンクすると、その差(オフセット)を保ったまま両方が動きます。ただしゲイン値をキーボードで直接入力すると両チャンネルに同じ値が入り、オフセットは消えます。ドラッグなら保たれる、という非対称があるので注意してください。
まとめ
- ベルは非対称で、正ゲインのほうが広い。旧版マニュアルの表現では「カットは対称型のおよそ2倍のQ相当」——切るときはQを低めから入る
- Qの範囲はベル0.26〜6.50/シェルフ0.71〜1.41/カット・パス0.71〜1.41。Freqは16 Hz〜21,357 Hz。いずれも現行ガイドに明記されている
- 入力ゲインが無いのは48ビット内部処理でバンド内クリップを避けているから。出力側の管理はTrim(Light/Dark Viewではメーターの下・クリック後は12.0にリセット)で行う
- 現行版ではRTA(post-EQ・ピンクカーブ校正)とカーソル周波数表示が加わっている。旧版のGUIには無い機能



旧版のマニュアルが「クラシックなGerzonシェルフ」と呼んでいた設定——Q=0.99で250Hzと4kHz。迷ったらこの1組から始めて、Qを0.71側と1.41側に振ってみてください。このEQの性格はそこに全部出ます。






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