Waves Retro Fi は、内部処理を 16 bit・44.1 kHz で行い、出力で元のフォーマットに戻します。公式ユーザーガイド p.6 の囲みに書かれている仕様です。公式Tech Specs の対応サンプルレートも 96 kHz までで、同社の他の歪み系(192 kHz まで対応)とは態度が違います。解像度を上げて綺麗に歪ませるのではなく、解像度を落とすことが目的の機械だということが、この1行から読み取れます。この記事では、5つのセクションそれぞれが何を担当し、どこが基準点になっているのかを、公式資料だけを根拠に解剖します。
想定読者は、すでに Retro Fi を持っていてプリセットの外へ出たい人と、ローファイ系プラグインを1本選ぼうとしている中〜上級者です。操作チュートリアルではなく、「どのつまみのどこが中立で、どちら向きに動かすと何が起きるのか」を扱います。
数値と仕様は Waves 公式ユーザーガイド(Retro Fi / User Guide・英語・全14ページ)に基づきます。バンドルされている PDF と Waves の CDN が配信している PDF は sha256 が一致し、製品ページ内の manualPDF フィールドも同じファイルを指していました(2026年9月5日確認)。加えて公式製品ページ(英語・日本語)と Tech Specs、日本代理店ページの定価表示を、出どころを明示して併用します。編集部はこの製品を所有していないため使用感の描写はせず、公式資料で裏が取れない数値は書きません。
カホローファイ系は「なんとなく汚す」で終わりがちです。でもこの製品は、どこを基準にどちらへ動かすかがガイドに書いてあります。読んだ人と読まない人で、出せる音が変わります。
この記事でわかること
- 内部処理が 16 bit・44.1 kHz 固定であることと、それが対応サンプルレートに表れていること
- Squash が「12時=中立、マイナス側=ダウンワードコンプ、プラス側=アップワードエキスパンション」の1本のつまみであること
- Noise の Threshold は中点が推奨開始点で、−60 dB がダイナミクス処理オフであること
- Master の LED で緑が意味しているもの(同社 Berzerk と逆であること)
Retro Fiとは|何を解決する製品か
ガイド p.3 の導入は、この製品の狙いをはっきり書いています。「どの世代の音楽にも独特の音がある。その時代の録音の慣習と、その時代のオーディオ技術の組み合わせだ」。そのうえで Retro Fi の仕事を、「あなたのトラックを、はるか昔の録音のように——それを今日聴いたときにそう聞こえるように——鳴らす」ことだと定義します。挙げられているアーティファクトは、カセットのコピーのコピー、いかがわしいターンテーブル、「アースなんて要るのか?」という配線。そして締めの一文が「Retro Fi はオーディオのノスタルジーの話ではない。古く聞かせることで、音楽をモダンに聞かせるための道具だ」。
コンポーネントは3つ——モノ、モノ→ステレオ、ステレオ(p.5)。公式Tech Specs のチャンネル構成表でも Mono・Stereo・Mono-to-Stereo の3欄が有効になっていて、数はガイドの記載と一致します。インターフェイスは5つのセクションで構成され(p.5)、ガイドは「通常、単一のモジュールがエフェクト全体を作るのではない。Retro Fi をこれほど有効にしているのは、これらのまったく異なる道具どうしの相互作用だ」と書いています。p.5 の図版では、5つのセクションにそれぞれ役割の見出しが付いています——Device「性格を作る」、Space「場所に置く」、Noise「本物らしくする」、Mechanics「録音の一生を物語る」、Master「入るものと出るものを管理する」。
なお日本語の公式ページは「Retro Fi は4つのモジュールを搭載」「4つのエフェクトセクションは直列にルーティングされている」と書いています。ガイドの「5つのセクション」と数が違いますが、これは Master を数に入れるかどうかの差で、日本語ページが挙げている4つ(Device・Space・Noise・Mechanics)はガイドの5つから Master を除いたものと一致します。数を引用するときは、どちらの数え方かを添えるのが安全です。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
内部は 16 bit・44.1 kHz。落とすことが目的だから、上限も 96 kHz
ガイド p.6 の囲みは1文だけです。「内部処理は 16 bit・44.1 kHz サンプリングで行われる。信号はプラグインの出力で、元のフォーマットに再サンプリングされる」。96 kHz のセッションに挿しても、Retro Fi の中を通る間は 44.1 kHz・16 bit を通過する、ということです。
この設計は公式Tech Specs の数字にもそのまま出ています。対応サンプルレートの上限は 96 kHz。同社の Berzerk と Magma Lil Tube はどちらも 192 kHz まで対応しているので、この3本の中では Retro Fi だけが上で止まっていることになります。遅延も大きく、公表値は 44.1 kHz で 704 サンプル、48 kHz で 750、88.2 kHz で 1507、96 kHz で 1599 サンプルです(176.4 kHz と 192 kHz の欄は表にありません)。掛け録りやモニターしながらの演奏には向かない代わりに、内部で一度落として戻す処理を許容できる場所——ミックス段のインサート——に置くための製品だ、と読めます。



ハイレゾのセッションで使っても、この区間だけは 44.1 kHz・16 bit を通ります。避けるべき副作用ではなく、それが商品です。
Deviceは4ポジション。最後の1つだけが「色を付けないためのポジション」
Device は音のモデルを選ぶ4ポジションのつまみです。ガイド p.7 の説明が丁寧で、「この4ポジションつまみの各ステップは、インパルスレスポンス(IR)の組み合わせ——低域用に1つ、高域用に1つ——を有効にし、それがソースの音を定義する」。左いっぱいに回すと「典型的には明るく風通しの良い」音、中央位置とその先へ回すと「より深く、鈍く」なります。
そして4つ目のステップだけ性格が違います。「最後のステップはフラットな IR だ。これによって、最初の3つの IR がもたらす強い色付けを含めずに、Squash と Ringer のコントロールを使えるようになる」。つまり Device の4番目は「機種を選ばない」ためのポジションで、ダイナミクス(Squash)とリングモジュレーター(Ringer)だけを取り出して使うための逃げ道です。
この節にはもう1つ、性格を決める但し書きがあります。「これらのコントロールはシェルフでもローパス/ハイパスフィルターでもない。入力信号との異なる音響的相互作用のスナップショットだ。だから、悪い音がするとしても、それは上品に悪い音がする」。EQ で真似できる類の色付けではない、という宣言です。Tone はその2つの IR の間の「位相を揃えたミックス」で、ガイドは「これはあなたが思うより重要なので、このコントロールには時間をかけてほしい」と付け加えています。
Squashは「12時が中立」。マイナスがコンプ、プラスがアップワードエキスパンション
この製品でいちばん取り違えやすいのが Squash です。ガイド p.7 の記載はこうです。
- 「1本のつまみがコンプレッサーとエキスパンダーをコントロールする。Squash LED がモードを示す」
- オレンジ LED:0 から −10 の値はダウンワードコンプレッションになる
- 緑 LED:0 から +10 の値はアップワードエキスパンションになる
- 「12時(値0)が中立位置で、コンプレッションもエキスパンションも起きない」
基準は左端でも右端でもなく真ん中です。「Squash を上げれば潰れる」と思って右へ回すと、圧縮ではなくエキスパンションの側へ動きます。ガイドはこれを upward expansion と呼ぶだけで、どのように動作するかまでは説明していないので、本稿もそれ以上は書きません。日本語の公式ページはこのつまみを「カラフルなコンプレッションを実現する Squash コントロール」と紹介していますが、ガイドの記載を見るかぎり、コンプレッションになるのは0からマイナス側です。潰したいならマイナス側、と覚えるのが安全です。
隣の Ringer は「デジタルクリッピング歪みを作るリングモジュレーター。値が高いほどクリッピングが増え、クリップした部分により多くの高域が乗る」。青い LED が点灯していれば動作中です。Device の4番目(フラット IR)と組み合わせれば、年代の色付け抜きでこの2つだけを使えます。



両端ではなく「どこが基準か」を先に読む。これはローファイ系に限らず、範囲が対称に書かれているつまみ全部に効く読み方です。
Noiseの基準点も真ん中。−60 dBはダイナミクス処理のオフ
Noise モジュールは、ノイズを鳴らすだけの装置ではありません。ガイド p.10 は「ノイズは Retro Fi の効果の重要な一部だ。録音の出自と履歴を定義する助けになり、Retro Fi と Space の各モジュールで行われた処理を聴き手がどう知覚するかにも影響する」と位置づけています。
ノイズ素材は「64種類のフレーバー」が複数のカテゴリーに分かれて収録されており、「ノイズファイルは最長2秒で、繰り返し感が出ない鳴らし方をする」(p.11)。p.11 の図版に写っているメニューには Cassette/Digital/Electric/FX/Mechanics/Synth/Vinyl が並んでいます。日本語ページは「60種以上」と書いており、ガイドの64と矛盾しません。
そのノイズを入力信号で動かすのが Ducker/Gate の2択です。Ducker は「入力信号が大きくなるとノイズのレベルが下がる。入力がほとんど無いか皆無のとき、ノイズは最大になる」。Gate は「入力信号が大きくなるとノイズのレベルも上がる。入力が大きいとき、ノイズは最大になる」。そして重要なのが Threshold の基準です。
- 「ノイズ信号にダイナミクス処理を掛けたくないなら、Threshold コントロールを −60 dB に設定する」
- 「つまみが中点位置に設定されているとき、Ducker または Gate は、選択された各ノイズプロファイルの既定モードで振る舞う——ここから始めることを推奨する」
つまり Threshold も、下端が「素の状態」ではありません。下端(−60 dB)=処理オフ、中点=プロファイルごとの既定=推奨開始点という二段構えです。赤い LED は「メーターが動かない=ゲーティングもダッキングも起きていない。ゲインリダクションが始まると点滅し、速い点滅か点灯しっぱなしなら定常的にゲート/ダックしている」と読みます。
Space Pre/Post——ノイズを「プリアンプ由来」にするか「後付け」にするか
Noise モジュールの出力をどこに挿すかを決めるスイッチです。ガイド p.12 の説明が、この製品の考え方をよく表しています。「古いマイクプリアンプは、現代の同等品より多くのノイズを出す傾向がある。つまりノイズは録音チェインのいちばん最初から存在しており、その先で掛けたエコーやリバーブは、信号だけでなくノイズにも掛かることになる」。
- Pre:Noise セクションの出力が Space モジュールの前に挿入される。プリアンプからノイズを足すのに近い。ノイズはエコーとリバーブのチェインの一部になり、Device と Space の両モジュールの影響を受ける
- Post:エコーとリバーブの後に挿入される。リバーブ/エコーの処理の一部ではないので、それらの計算に影響を与えず、エコーやリバーブの中に現れることもない
Level つまみの意味もこの切替で変わります。ガイドいわく「Pre では Space セクションへ送られるノイズの出力を、Post ではプラグイン出力を制御する」。ノイズの量を決めるつまみが、送り先ごと切り替わる設計です。
MechanicsのAとB——「同一の2組」だが担当が違う
Mechanics には Wow・Wobble・Speed が2組あります。定義はガイド p.13 のとおりです。Wow は音程の揺れ(「通常は不規則な再生速度によって生じるピッチの変動」)、Wobble は音量の揺れ(「振幅の変動:信号が大きくなったり小さくなったりする。通常は予測可能なレートで」)、Speed は Wow と Wobble の変調速度です。名前が似ているので、揺れる対象がピッチか音量かを取り違えないようにしてください。
A と B の関係については、ガイド自身が2通りの書き方をしています。節の冒頭は「同一の2組のコントロールがある(two identical sets of controls)」。そのすぐ下の「Controls A and B」の項は「Mechanics モジュールの2組のコントロールは同じだが、その機能はいくらか異なる。Wow A・Wobble A・Speed A はカセットテープによく伴うアーティファクトを扱い、Wow B・Wobble B・Speed B はビニール(レコード)の録音に見られる種類の問題に焦点を当てる」。そのうえで「これは一方をこの効果、もう一方をあの効果、と決めて使うべきという意味ではない。混ぜて、組み合わせて、自分に効く組み合わせを使ってほしい。カセット/ビニールという一般化は、始めるための手がかりにすぎない」と締めています。
UI 上は同じ形のつまみが6本並んでいるだけなので、A がカセット、B がビニールという役割の違いは、ガイドを読まないと分かりません。ここは覚えておく価値があります。
【向きに注意】MasterのLEDは、緑が「足りない」
ガイド p.14 の Level Indicators は、入力と出力の両方の LED についてこう定義しています。
| 色 | ガイドの記載 |
|---|---|
| 緑 | 信号は来ているが、レベルはもっと高いほうがよい |
| 黄 | 望ましい信号レベル |
| 赤 | クリッピング |
緑が安全圏ではなく「まだ足りない」を意味します。狙いは黄色です。ガイドは続けて「たまに赤が点くのは必ずしも問題ではない。赤が点きっぱなしなら信号が大きすぎ、クリッピングが可聴になることがある。その場合はレベルを下げること」とも書いています。
ここは同社製品どうしでも読み方が揃っていません。Berzerk のガイド p.9 は入力 LED について「一般に緑のピークは適切な入力レベルを示す」と書いており、緑の意味が逆です。一方、Magma ファミリーの BB Tubes は「消灯=ごく小さいか無信号/緑=安全で控えめ/黄=理想的(ideal)/赤=非常に高い」で、Retro Fi と同じく黄色が目標。Waves の中でも LED の色の意味は製品ごとに違うので、その製品のガイドを読むまで色で判断しないのが正解です。



「緑だから大丈夫」で入力を決めていると、この製品では小さすぎる信号を送り続けることになります。色の意味は製品ごとに確認してください。
【ガイド内の写し間違い】Space の Mix の説明が、Device の Mix と同じ文になっている
ひとつ、資料の側の注意点があります。Device モジュールの Mix(p.8)と、Echo パネルの Mix(p.9)の説明が、ほぼ同一の文になっています。
- p.8(Device の Mix):「これはドライなプラグイン入力と Device モジュールの出力とのミックスである。Device モジュールがバイパスされている場合、これはプラグイン入力と Space モジュール出力とのミックスを制御する」
- p.9(Echo パネルの Mix):「これはドライなプラグイン入力と Device モジュールの出力とのミックスである。Device モジュールがバイパスされている場合、このつまみはプラグイン入力と Space モジュール出力とのミックスを制御する」
違いは英語原文の knob の1語だけ(this controls と this knob controls)です。p.5 と p.8 の UI 図版を見ると、Space セクションの Mix つまみはリバーブ側の下に1つあり、これが Space モジュール全体のミックスにあたります。そして同じガイドの p.4 のクイックスタート表には、Space モジュールの Mix について別の説明が書かれています——「エコーとリバーブのモジュールとドライ信号とのウェット/ドライ・ミックスを調整する」。
p.4 の説明のほうが、図版上の配置とも役割とも整合します。p.9 の記述は Device セクションの文が持ち込まれたもの、と読むのが自然です。Space の Mix が何をするかを知りたい場合は、p.9 ではなく p.4 の表を見てください。ページ番号まで添えて書いているのは、この種の重複が実際に起きるからです。
全パラメーター
ガイドが見出しを立てているコントロールを、セクション順に並べます。このガイドで Range: という形の記載があるのは Echo の Time の1か所だけで、Default: と Options: の行は0件です(pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で抽出し、いずれも同じ結果)。マスターの HP/LP だけが Range— という別の書き方で範囲を持っています。それ以外の範囲・初期値は、資料に無いので書けません。
| セクション | コントロール | ガイドの説明 | 範囲・初期値 |
|---|---|---|---|
| 共通 | Module On/Off | 各モジュール上部の小さなスイッチ。緑のLEDが点灯=そのモジュールは動作中 | — |
| Device | Device | 4ポジション。各ステップが低域用と高域用のIRの組み合わせを有効にする。左端は明るく風通しよく、中央以降は深く鈍く。最後のステップはフラットIR | 4ポジション |
| Device | Tone | 選択中のDevice設定の、高域IRと低域IRの位相を揃えたミックス | 記載なし |
| Device | Squash | 1本でコンプとエキスパンダー。0〜−10=ダウンワードコンプ(オレンジLED)、0〜+10=アップワードエキスパンション(緑LED) | −10〜+10/12時(値0)が中立 |
| Device | Ringer | デジタルクリッピング歪みを作るリングモジュレーター。高いほどクリップが増え、クリップ部の高域が増える。点灯した青LED=動作中 | 記載なし |
| Device | Styler | 過去の年代の録音・再生の質感を選ぶ。80年代/70年代/60年代/50年代。各設定が周波数の制限、ダイナミクスの制限、その年代らしい歪みを再現する | 4つの年代 |
| Device | Mix | ドライなプラグイン入力とDeviceモジュール出力のミックス。Deviceがバイパスされている場合はプラグイン入力とSpaceモジュール出力のミックス | 記載なし |
| Space/Echo | Time | ディレイタイム。MSモードではミリ秒、HostとBPMモードでは音符単位で表示。マウスとキーボードの上下矢印で設定できる | 1〜3500 ms または BPM の音符単位(1/4、1/8、1/16 など) |
| Space/Echo | タイムモード切替 | 3ポジション。BPM=手動のBPM設定に同期/Host=ホストのBPM設定に同期(このときBPMコントロールは無効)/MS=ミリ秒で手動設定 | BPM/Host/MS |
| Space/Echo | Echo Level | 最初のエコーのレベル。Feedbackを使うと各エコーのレベルは時間とともに減衰する | 記載なし |
| Space/Echo | Ping Pong | On=エコーが左右に動く/Off=エコーは画像の中央に留まる | On/Off |
| Space/Echo | FDBK(Feedback) | エコーをエコーモジュールへ戻して繰り返し回数を制御する。1周ごとに音量が下がる | 値100で無限フィードバック |
| Space/Reverb | Reverb Level | リバーブテイルのレベル | 記載なし |
| Space/Reverb | Reverb Length | リバーブテイルの長さ | 記載なし |
| Space/Reverb | Spring/Plate | 2種類のリバーブの選択。Springは一般により打楽器的で、ブリキ缶に音を入れたような響き。Plateは通常より密度が高く、空の倉庫に近い響き | Spring/Plate |
| Space | Mix | p.4のクイックスタート表の記載は「エコーとリバーブのモジュールとドライ信号とのウェット/ドライ・ミックス」。p.9の記述はDeviceのMixと同一文(本文で詳述) | 記載なし |
| Noise | Noise Type | ドロップダウン。64種類のノイズのフレーバーが複数カテゴリーに。ノイズファイルは最長2秒で、繰り返し感が出ない鳴らし方をする | 64種類 |
| Noise | Ducker/Gate | Ducker=入力が大きくなるとノイズが下がる(入力がほぼ無いときノイズ最大)/Gate=入力が大きくなるとノイズも上がる(入力が大きいときノイズ最大) | 2ポジション |
| Noise | Threshold | 入力信号をサイドチェインとしてDucker/Gateを動かす、そのしきい値。中点=各ノイズプロファイルの既定モード(推奨開始点)。−60 dBでダイナミクス処理オフ | −60 dB でオフ/中点が推奨開始点 |
| Noise | Space Pre/Post | Noiseモジュール出力の挿入位置。Pre=Spaceの前(ノイズもエコー・リバーブの対象になる)/Post=エコー・リバーブの後 | Pre/Post |
| Noise | Level | Preのときは Space セクションへ送るノイズの出力、Postのときはプラグイン出力を制御 | 記載なし |
| Mechanics | Wow A/Wow B | ピッチの変動。通常は不規則な再生速度によって生じる。Aはカセットテープ、Bはビニール由来の問題を担当 | 記載なし |
| Mechanics | Wobble A/Wobble B | 振幅の変動。信号が大きくなったり小さくなったりする。通常は予測可能なレートで | 記載なし |
| Mechanics | Speed A/Speed B | WowとWobbleの変調速度 | 記載なし |
| Master | Input/Output | Input=プラグイン入力のレベル(DAWから適切なレベルを送ること)/Output=DAWへ返す信号のレベル | 記載なし |
| Master | HP/LP | プラグイン出力の周波数レンジを狭めるフィルター | HP:30 Hz〜1500 Hz/LP:15,000 Hz〜21,000 Hz |
| Master | Mono | ステレオ画像の幅を狭める | 10=元のステレオ画像/0=モノまで幅を縮小 |
| Master | Level Indicators | 入力・出力の隣のLED。緑=信号はあるがレベルはもっと高いほうがよい/黄=望ましいレベル/赤=クリッピング | — |
用途別・設定の始点
ガイド p.4 のクイックスタートは、「プリセットをほどかずにエフェクトの魂を素早く調整できるコントロール」として4つを名指ししています。ガイド自身が「これら4つのコントロール」と数えている組み合わせなので、そのまま引用します。
| モジュール | 最初に触るコントロール | ガイドが書いている効果 |
|---|---|---|
| Device | Tone | 高域IRと低域IRのバランス |
| Space | Mix | エコーとリバーブのモジュールとドライ信号とのウェット/ドライ・ミックスを調整する |
| Noise | ドロップダウンメニュー | ノイズタイプを選ぶ——この選択がエフェクトを大きく左右する |
| Mechanics | Wow・Wobble・Speed | 機械的な再生の不規則さを作る |
手順としてガイドが書いているのは、①プリセットを選ぶ ②気に入らなければつまみを回す前に別のプリセットを試す ③そのうえで上の4つから調整する、という順です。さらに「気に入った音が見つかったら、すぐにユーザープリセットとして保存することを強く勧める。史上最高のエフェクトは、保存しなかったやつだ」という警句も添えられています。
そのほか、ガイドの記載から言える出発点をいくつか挙げます。ノイズにダイナミクス処理を掛けたくないなら Threshold を −60 dB、掛けるなら中点から(p.11)。年代の色付けを避けて Squash と Ringer だけを使いたいなら Device を最後のポジション=フラット IR に(p.7)。ノイズをリバーブやエコーの中に入れたくないなら Space Pre/Post を Post に(p.12)。いずれも編集部が試した値ではなく、ガイドが名指ししている設定です。
似た製品との使い分け
以下の比較は、いずれも比較先の公式ユーザーガイドを実際に読んで書いています。
Berzerk(クリエイティブ・ディストーション)との違いは、解像度に対する態度です。Berzerk は対応サンプルレートが 192 kHz まであり、HD スイッチをオンにすると x8 アップサンプリングまで行います(遅延はオフで0サンプル、オンで 44.1/48 kHz のとき147サンプル)。Retro Fi は逆に内部を 16 bit・44.1 kHz へ落とし、対応上限も 96 kHz、遅延は 44.1 kHz で 704 サンプルです。同じ「汚す」でも、片方は解像度を足して汚し、もう片方は解像度を削って汚す。狙いが「年代物の再生系を再現する」なら Retro Fi、「新しい音を作る」なら Berzerk です。
Magma Lil Tube・Magma BB Tubes(真空管サチュレーター)との違いは、担当する層です。あちらは球に信号を通したときの倍音と圧縮を中心に据えた道具で、BB Tubes は Beauty/Beast(各0〜10)で主に偶数次と主に奇数次を出し分け、Lil Tube は Drive 1本に畳んでいます。Retro Fi はそれに加えて、空間(スプリング/プレートのリバーブとエコー)、素材由来のノイズ、機械的な揺れまで持っています。ガイドが「単一のモジュールがエフェクト全体を作るのではない」と書いているとおり、チェイン全体で1つの年代を作る製品です。真空管の色だけが欲しい場面に Retro Fi を出すのは大げさで、逆に「古い再生系を通した感じ」が欲しい場面をサチュレーターだけで作るのは難しい、という住み分けになります。
価格については、日本代理店のページ(wavesjapan.jp)に表示されている定価が 26,180円です(2026年9月5日時点)。Waves はセールが非常に多く、実売価格は時期によって大きく動きます。本記事では観測した実売価格が1時点しかないため、実売のレンジは書きません。現在の価格は公式ページで確認してください。
よくある質問
96 kHzのセッションで使っても大丈夫ですか?
公式Tech Specs は対応サンプルレートを 96 kHz までと公表しており、96 kHz の遅延(1599サンプル)も表に載っています。ただしガイド p.6 が明記しているとおり、内部処理は 16 bit・44.1 kHz で行われ、出力で元のフォーマットに再サンプリングされます。セッションのレートが高くても、この区間だけは 44.1 kHz を通ります。それが避けたい処理なのか、狙っている処理なのかで判断してください。
Squashは右に回すほど潰れますか?
いいえ。ガイド p.7 によれば、0 から −10 がダウンワードコンプレッション(オレンジ LED)、0 から +10 がアップワードエキスパンション(緑 LED)、12時=値0が中立です。潰したいならマイナス側へ動かします。プラス側は圧縮ではなくエキスパンション(ガイドの語は upward expansion)で、ダイナミクスを広げる方向です。
ノイズだけを聴きたいのですが、ソロできますか?
本稿が参照した全14ページのガイドに、ノイズのソロにあたるコントロールは出てきません(solo の語は3系統の抽出とも0件)。ガイドが挙げている切り分けの手段は、各モジュール上部の On/Off スイッチです(p.6・「これはあなたがやっていることを切り分けるのに役立つ」)。Device・Space・Mechanics をオフにして Noise だけを残す、という手順ならガイドの記載の範囲で説明できます。
プリセットは何種類ありますか?
ガイドは数を書いていません。日本語の公式製品ページは「250種類のアーティストプリセット搭載」と書き、監修者としてヒップホップ・エレクトロニック・ロックのトッププロデューサーの名を挙げています。数を引用するなら、出どころは公式製品ページであってユーザーガイドではない、と添えるのが正確です。
まとめ
- 内部処理は 16 bit・44.1 kHz 固定で、出力で元のフォーマットに戻る。対応サンプルレートが 96 kHz 止まりなのも、遅延が 44.1 kHz で 704 サンプルあるのも、この設計の帰結として読める。
- 基準点が真ん中にあるつまみが2つある。Squash は12時が中立で、コンプになるのはマイナス側。Noise の Threshold は中点が各プロファイルの既定=推奨開始点で、−60 dB がダイナミクス処理オフ。
- Master の LED は緑が「レベルが足りない」、黄が「望ましい」。同社 Berzerk のガイドとは緑の意味が逆なので、色で判断せずその製品のガイドを読む。



古く聞かせるために解像度を落とす。理屈が通っているので、狙いが決まっていれば迷いません。プリセットから入って、この記事で挙げた基準点だけ押さえてください。





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