Waves Berzerk の Feedback セクションと Dynamics セクションは、出力に音を出しません。どちらも公式ユーザーガイドが明言しています——Feedback は「オーディオチェインの一部ではない」、Dynamics は「出力へ送られるオーディオ信号のダイナミクスには影響しない」。この2つは、歪みを作る Drive セクションに入る前の信号を作り替える機械です。この記事では、その分岐点の設計と、各コントロールに公式が明記している範囲・初期値を解剖します。
想定読者は、すでに Berzerk を持っていてつまみの意味を数字で押さえ直したい人と、クリエイティブ系ディストーションを1本選ぼうとしている中〜上級者です。操作チュートリアルではなく、「どの処理がどこに刺さっていて、なぜそう効くのか」を扱います。
数値と仕様は Waves 公式ユーザーガイド(Berzerk Creative Distortion / User Guide・英語・全15ページ)に基づきます。バンドルされている PDF と、Waves の CDN が配信している PDF は sha256 が一致し、製品ページ内の manualPDF フィールドもこの同じファイルを指していました(2026年9月5日確認)。これに加えて、公式製品ページの説明文と Tech Specs(遅延表・対応サンプルレート・コンポーネント構成)、および日本代理店ページの定価表示を、出どころを明示して併用します。編集部はこの製品を所有していないため使用感の描写はせず、公式資料で裏が取れない数値は書きません。
カホディストーションの記事で最初に読むべきは、歪みカーブではなく信号経路です。Berzerk はそこが普通ではありません。
この記事でわかること
- Feedback と Dynamics が「出力に出ない」設計であることと、そこから導かれる操作順
- Drive が −24〜+16 dB という非対称な範囲を持つこと、Density が Go! を押すまで無効なこと
- HD(HQ)スイッチが x8 アップサンプリングであることと、公式遅延表に出ているその代償
- Rider/Dyn の説明が同じガイドの中で逆を向いている件と、どちらに裏付けが多いか
Berzerk Distortionとは|何を解決する製品か
Berzerk は、Waves が「Saturation & Distortion Plugins」に分類しているクリエイティブ系ディストーションです。ガイドの冒頭は、この製品を「楽器を良くする以上のことにディストーションを使いたい人のための、柔軟な道具」と位置づけ、「ディストーション、フィードバック、ダイナミクス、EQ、そして一定量の狂気を組み合わせて、トラックにまったく新しい人格を与える」と書いています。テープやチューブの再現ではなく、音を作り替える側の機械という宣言です。
コンポーネントはモノとステレオの2つ(ガイド p.3)。公式 Tech Specs のチャンネル構成表も Mono と Stereo だけが有効で、モノ→ステレオ(Mono-to-Stereo)専用コンポーネントの欄は無効になっています(この表の3列目はミッド/サイドではなくモノ→ステレオです)。ガイドは両者の違いを「チャンネル数以外は同一。ただしモノ版には Input セクションの Stereo Mode セレクターと、Feedback セクションのチャンネルセレクターが無い」と明記しています。つまり後述する M/S 処理とフィードバックの片チャンネル追従は、ステレオ版だけの機能です。ガイドは同じ段落で「両コンポーネントとも、アップサンプリング時でさえ CPU 消費は非常に小さい」とも書いています。
よく紹介される「10種類のディストーション波形」という数え方は、公式製品ページ(英語・日本語とも)と、マニュアル PDF のメタデータの説明文に書かれているものです。本稿が全15ページのガイド本文を見たかぎり、Character の選択肢の個数を示す記述は見当たりませんでした。個数を根拠に何かを主張するときは、ガイドではなく製品ページを出どころとして書くのが正確です。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
FeedbackもDynamicsも「出力に出ない」——歪みの手前を作る機械
Berzerk の中心にある設計はここです。Feedback モジュールはオシレーターで、入力セクションの振幅を追いかけるサイン波を生成します。その出力は Drive セクションへ送られ、Drive の出力がまたオシレーターへ戻る——という往復になっており、ガイドは「このモジュールはオーディオチェインの一部ではない」と言い切っています(p.11)。Dynamics も同様で、「Drive セクションへ送られる信号のダイナミクス特性をコントロールする。出力へ送られるオーディオ信号のダイナミクスには影響しない」(p.13)。
つまりこの2つは、エフェクトの後段ではなく前段の材料作りを担当します。コンプで音を整えてから歪ませる、という手順をプラグインの内部に畳み込んだ構造です。ガイドの「ゼロから作る」手順(p.6〜7)が、Feedback と Dynamics を設定したあとに「Drive セクションに戻る。Feedback と Dynamics で行った調整によって、Drive の音はおそらく変わっている」と指示しているのは、この経路の当然の帰結です。
三段目の EQ だけは向きが違います。3バンド EQ は「歪んだ信号の色を作る。出力セクションの直前にあり、Drive セクションへは戻されない」(p.14)。Feedback と Dynamics が入口側、EQ が出口側、という非対称な作りです。



Feedback の Level を上げても、その音が直接聞こえるわけではありません。聞こえているのは「その波形で歪まされた元の音」です。ここを取り違えると、いつまでも狙いに届きません。
Driveは −24〜+16 dB。下に24 dB、上に16 dB
Drive の範囲は Range: -24 dB to +16 dB(p.10)。上下対称ではありません。同じページの UI 図版でも、つまみの目盛りは左端が −24、右端が 16 です。Input と Output がどちらも −24〜+24 dB で対称なのと対照的で、Drive だけが上側を 8 dB 削っています。
ガイドは Drive を「選択した Character に基づいて、生成されるディストーションの量をコントロールする」と説明し、Drive セクション全体を「入力信号に選択した波形を適用するゲインシェイパー」と定義しています。マイナス側が広いのは、シェイパーに入る量を絞る方向にも大きく振れるということです。
Go!を押すまでDensityは無効——ランダムを「保存させる」設計
Density の記載は Range: 0 to 100, Default: Disabled until Go! is clicked.(p.10)。初期値の欄に数値ではなく「Go! をクリックするまで無効」と書いてある、珍しいコントロールです。ガイドの説明も「Density つまみは最初グレーアウトしている。Go! がクリックされたあとにのみ有効になる」。
Go! は「現在の波形のランダムな変種を1つ作る。派生元と同じ基本形は保つ」ボタンで、ガイドは「Go! が無くてもディストーションは作れるが、ユニークなディストーションを作るには必要だ」と書いています。さらに「新しい波形の変種が気に入ったらプリセットとして保存すること。二度とまったく同じものは得られない」という警告まで付いています(p.6)。Density はその「ランダムさの量」を制御するつまみなので、種となる波形が生成されるまで動かせない、という順序です。パネル上の Density つまみの両端は Order/Disorder と刻まれており、ガイドも「通常、設定が低いほど、選んだ Character はクリーンに感じられる」と説明しています。
HD(HQ)は x8 アップサンプリング。代償は公式の遅延表に出ている
パネル右側の HD ボタンについて、ガイドは2か所で別々の呼び方と説明をしています。インターフェイス概観(p.8)では「High Definition Switch は低レベル信号の出力を改善する」。Drive セクションの解説(p.10)では「HQ ON/OFF:(オン)で出力信号の x8 アップサンプリングを有効にする。低解像度のファイルでは信号の低域と高域が潰れがちで、コンプレッションがエッジーに感じられることがある。アップサンプリングはこれらの部分に余地を与え、より心地よい音になりうる。HQ がオフのときは、よりざらついた音が得られる」。同じスイッチに2つの名前が付いているので、他所の解説と用語が食い違って見えることがあります。
面白いのは、この 1 個のスイッチが公式 Tech Specs の遅延表にそのまま出ていることです。Berzerk の遅延はサンプル数で次のように公表されています(No HD=オフ、HD=オン)。
| サンプルレート | HDオフ | HDオン |
|---|---|---|
| 44.1 kHz | 0 サンプル | 147 サンプル |
| 48 kHz | 0 サンプル | 147 サンプル |
| 88.2 kHz | 0 サンプル | 98 サンプル |
| 96 kHz | 0 サンプル | 98 サンプル |
| 176.4 kHz | 0 サンプル | 49 サンプル |
| 192 kHz | 0 サンプル | 49 サンプル |
オフならレイテンシーはゼロ、オンにすると遅延が発生し、その量はセッションのサンプルレートが高いほどサンプル数としては小さくなる。この表が公表されているおかげで、「HD を入れるか」はドラムのトランジェント素材でも判断材料を持って決められます。なお対応サンプルレートは 192 kHz までと公表されています。
出力リミッターは −0.9 dB、しかもOutputつまみの「前」
Output の説明(p.15)に、この製品でいちばん実務的な一文があります。「出力リミッターは −0.9 dB に設定されており、出力ゲインコントロールの前に置かれている。つまみの隣の LED がリミッターの動作を示す。赤は過剰なリミッティングを示し、出力の音に色が付くことがある。リミッターのあとで出力ゲインを上げると、DAW へ送る信号がクリップしうる」。
順番が「リミッター → Output つまみ」なので、Output を上げればプラグインの外へは −0.9 dB を超えて出ていきます。「内部にリミッターがあるから安全」という読み方はできません。ガイドが Output セクションの冒頭で「プラグインの出力はリミットされているので、出力ゲインを大きく上げるとプラグインの感触が変わる」(p.7)と書いているのも同じ話です。
Temperatureは「0が初期位置」ではない
Temperature は出力セクションにあり、範囲は 0〜100。ガイドの記載は Default: 64.4; Reset: 0 で、初期値とリセット値が別々の数字として併記されています。本稿が pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で抽出して数えたかぎり、Reset: の行が付いているコントロールはこの Temperature だけでした。つまり Temperature は 0 が初期位置ではなく、目盛りの真ん中よりやや上が出荷状態です。
効き方の向きは「高い設定は一般に、より広がりのある(roomier)、暗く、滑らかな音になる。低い設定はたいてい、より存在感(presence)と輪郭(articulation)を与える」。EQ との関係についてガイドは「Temperature は EQ セクションのコントロールと同じ効果を持ち、音を取り巻く『空気』により大きな影響を与える傾向がある」と書いていますが、この一文は文意が通りにくく、原文のまま以上の解釈は本稿ではしません。
【公式が割れている】Rider/Dynの説明が、同じガイドの中で逆を向いている
Dynamics セクションには2つのスイッチがあります。Up/Down は「レベルがしきい値を通過したときに信号を上げるか下げるかを設定する」。もう一方の Rider/Dyn は「信号のどのダイナミック部分を歪んでいると知覚するかを決める」。問題は後者の説明です。
p.13 の箇条書きはこう書いています。
- Dynamic:主に低レベルの音が、歪み処理のために Drive セクションへ戻される
- Rider:主に高レベルの音が、歪み処理のために Drive セクションへ戻される
ところが次のページ(p.14)の組み合わせ表は、こうなっています。
| Up/Down | Rider/Dyn | ガイドが書いている効果 |
|---|---|---|
| Up | Dynamic | しきい値を超えた音が歪む。ポンプ的なディストーションになりうる |
| Up | Rider | しきい値より下の弱い信号が歪む。大きい音は歪まない |
| Down | Dynamic | しきい値より上の音がダウンワードコンプレッションを受け、歪みは減る |
| Down | Rider | しきい値より上の音が圧縮され、低レベルの音は圧縮されない |
Up の行だけを見ると、Dynamic が「上」、Rider が「下」になっており、p.13 の箇条書きと入れ替わっています。どちらかが誤植だと本稿は断定しません。ただし裏付けの数は偏っています。プリセット解説の章(p.5)が、Up/Dyn のプリセット EXPLODE について「Rider プリセットと同じく、このプリセットは主にしきい値より上の音を歪ませる」と書き、Down/Rider のプリセット RIDER について「Down/Rider の組み合わせは、しきい値より上の音だけを圧縮し、静かな音は変えないままにする」と書いています。つまり p.5 と p.14 は互いに一致し、p.13 の箇条書きだけが反対を向いている、という状態です。
実務上の結論は単純で、この2つのスイッチについては耳で確かめてから決めるのが確実です。ガイド自身も p.7 で「まずはスイッチとしきい値で実験して、音への効き方の感触をつかんでほしい」と書いています。



公式資料の中で言っていることが割れている。こういうときは、どちらかを黙って採用するより、割れていること自体を知っているほうが事故が減ります。
全パラメーター
ガイドが見出しを立てているコントロールを、記載されている範囲・初期値とともに並べます。範囲や初期値の欄が空いているものは、ガイドにその記載が無かったものです(本稿が3系統の抽出器で数えたかぎり、このガイドの Range: 行は9本、Default: 行は5本、Reset: 行は1本でした)。
| セクション | コントロール | 役割 | 範囲/初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | Input | DAWからの入力レベル。隣のLEDがピークを示す | −24 dB 〜 +24 dB/0 dB |
| Input | ST(Stereo Input Mode) | Stereo=画像全体/M=中央のみ歪む(サイドは非処理)/S=サイドのみ歪む(中央は非処理) | — |
| Input | Mid or Side入力レベル | M/Sモード時に、その成分だけの入力レベル。Stereo選択時はグレーアウト | −24 dB 〜 +24 dB/0 dB |
| Drive | Character | ディストーション波形の基本形を選ぶドロップダウン | — |
| Drive | Drive | 選んだCharacterに基づく歪み量(ゲインシェイパー量) | −24 dB 〜 +16 dB |
| Drive | Density | 現在の波形に加えるランダムさの量。Order↔Disorder | 0 〜 100/Go!を押すまで無効 |
| Drive | Go! | 同じ基本形のまま、ランダムな波形の変種を1つ生成 | — |
| Drive | HQ(HDボタン) | オンで出力信号のx8アップサンプリング。オフでよりざらつく | On/Off |
| Feedback | Stereo Source | ピッチ追従に使うチャンネル(Stereo/R/L)。Input側がStereoのときだけ有効 | — |
| Feedback | Level | フィードバック処理からDriveセクションへの出力レベル | — |
| Feedback | Blend | Driveセクション出力とフィードバックセクションのミックス | — |
| Feedback | Low/High | ピッチが動く範囲。周波数表示と音名表示を切り替え可能 | 周波数:各20 Hz〜20,000 Hz/音名:C0〜C8 |
| Feedback | Freq/Pitch | Low・Highの単位切替。Pitch側では±ボタンで1オクターブずつ移動 | — |
| Feedback | Link | LowとHighのあいだにある小さなボタン。2つを連動させる。既存のオフセットは維持される(p.12) | — |
| Feedback | Speed | LowからHighまでピッチが一巡するのに要する時間 | — |
| Feedback | Type | 変調される対象=入力信号か、生成されたサイン信号か | — |
| Feedback | Side Chain Source | 内部/外部サイドチェインの選択 | INT/EXT |
| Feedback | Side Chainフィルター | サイドチェイン用のHP・LPフィルター | 5 Hz 〜 22 kHz |
| Feedback | Side Chain Listen | サイドチェインをソロ。作動中はパネルが白く点滅 | — |
| Dynamics | Blend | Drive信号とDynamicsセクションのミックス。上げるほどShaper表示の波形が複雑になる | — |
| Dynamics | Threshold | RiderモードとDynamicsモードのしきい値 | — |
| Dynamics | Rider/Dyn | どのダイナミック部分を歪んでいると知覚するかを決める(前述のとおりガイド内で説明が割れている) | — |
| Dynamics | Up/Down | レベルがしきい値を通過したとき、信号を上げるか下げるか | — |
| EQ | Low band | 歪んだ信号を色付けする3バンドEQの低域 | Q 0.5〜100/ゲイン −12〜+12 dB/周波数 60〜550 Hz |
| EQ | Mid band | 同・中域 | Q 0.5〜100/ゲイン −12〜+12 dB/周波数 800〜2500 Hz |
| EQ | High band | 同・高域(ガイドの見出しの綴りは “High bank”) | Q 0.5〜100/ゲイン −12〜+12 dB/周波数 3000〜11,000 Hz |
| EQ | On/Off | EQセクションのバイパス | — |
| Output | Temperature | 出力全体の色と感触。高いほど広がって暗く滑らか、低いほど存在感と輪郭 | 0 〜 100/初期値 64.4・リセット 0 |
| Output | Mix | ディストーション処理全体と入力信号のバランス | 0% 〜 100%/100% |
| Output | Output | プラグイン出力レベル。−0.9 dBのリミッターがこのつまみの前段にある | −24 dB 〜 +24 dB |
用途別・設定の始点
以下はすべて、ガイドが自分で挙げているプリセット解説(p.4〜6)と「ゼロから始める」手順(p.6〜7)に書かれている内容です。編集部が試した設定ではありません。ガイドは、比較しやすいようにこれらのプリセットがすべて Character「Crushed」を使っていると断ったうえで、「Character を変えれば、この基本設定の重要さが分かる」と付け加えています。
| やりたいこと | ガイドが示す出発点 | 出どころ |
|---|---|---|
| ループのキックとスネアは歪ませ、シンバルは残したい | Stereo Input Mode を M、入力は中庸/Drive フル・Density は Order 側/FDBK は Blend オフで実質バイパス/DYN バイパス/Mix 100%。ガイドいわく「シンバルがステレオ画像の外側にあるなら、ほぼ非処理で通る」 | プリセット M/S PROCESSING(p.4) |
| ブリックウォール感が強すぎる。もっと動きが欲しい | ST・中庸/Drive フル・Density Order/FDBK Blend オフ/DYN Blend フル+Down/Rider/Mix 100%。Threshold と Blend で「Drive に入っていく音」を整える(出力ではない) | プリセット RIDER(p.5) |
| 効果が上品すぎる | 上と同じで DYN を Up/Dyn に。ガイドは「音符の間の床を持ち上げる、ポンプ的な音になりうる」と説明 | プリセット EXPLODE(p.5) |
| もっと狂わせたい | Stereo・中庸/Drive フル・Density Order/FDBK は Level を高め・Blend は低め/Low=D(オクターブ1)、High=D(オクターブ5)/Speed 中庸・Type sine・Dynamic・Down/Dyn/Mix 100% | プリセット IMPLODE(p.5) |
| プリセットを使わずゼロから組みたい | ①入力レベル(LEDが常時赤なら下げる。低すぎると Dynamics が正常に働かないことがある)②ステレオモード ③Character を選んでから Drive ④Go! ⑤Density ⑥Feedback ⑦Dynamics ⑧Drive に戻る ⑨EQ ⑩Output、の順 | Getting Started from Scratch(p.6〜7) |
Feedback を追い込むときに知っておきたい但し書きもガイドに書かれています。「Low/High の値はピッチ運動の最大範囲を定義するが、ピッチが指定範囲いっぱいを移動するとは限らない。エンベロープのレベルが低すぎるか、振幅が小さすぎる可能性が高い。解像度を上げるためエンベロープは変調前に正規化されるが、それでもダイナミックレンジが不十分なら、ピッチは選択した範囲をカバーしない。場合によってはピッチが静止したままになる」(p.12)。フィードバックが動かないときに疑うのはつまみではなく、入ってくる素材のダイナミクスだということです。
似た製品との使い分け
同じ Waves の歪み系と並べると、Berzerk の立ち位置がはっきりします。以下の比較は、いずれも比較先の公式ユーザーガイドを実際に読んで書いています。
Magma Lil Tube・Magma BB Tubes(真空管サチュレーター)との違い。Lil Tube のガイドは全3ページしかなく、範囲や初期値を書く Range: Default: Options: の行は0件でした(pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で抽出して、いずれも0件)。BB Tubes も、主役の Beauty/Beast がともに 0〜10 で、加える倍音の系統(主に偶数次/主に奇数次)を分ける構成になっています。本稿が参照した2本のガイドのコントロール一覧に、波形そのものを差し替える Character に相当するものや、ピッチが動くフィードバックに相当するものは出てきませんでした。逆に、この2本がそろって書いている「つまみを最小にしても少量のサチュレーションが掛かる」に相当する記述は、Berzerk のガイドの側に見当たりません(全15ページを minimum と residual で検索して、いずれも0件)。Berzerk は Mix(0〜100%、初期値 100%)で乾いた音とのバランスを取る設計です。
Retro Fi(ローファイFXチェイン)との違い。Retro Fi のガイドは「内部処理は 16 bit・44.1 kHz サンプリングで行われ、プラグインの出力で元のフォーマットに再サンプリングされる」と明記しています。劣化を作るために解像度を落とす製品です。対する Berzerk は 192 kHz まで対応し、HD スイッチで x8 アップサンプリングまでできる。同じ「汚す」系でも、解像度に対する態度が正反対です。狙いが「年代物の再生系」なら Retro Fi、狙いが「新しい音を作る」なら Berzerk、という分かれ方になります。
価格については、日本代理店のページ(wavesjapan.jp)に表示されている定価が 17,380円です(2026年9月5日時点)。Waves はセールが非常に多く、実売価格は時期によって大きく動きます。本記事では観測した実売価格が1時点しかないため、実売のレンジは書きません。現在の価格は公式ページで確認してください。
よくある質問
Feedbackのサイン波は、そのまま出力に混ざりますか?
ガイドは「このモジュールはオーディオチェインの一部ではない」(p.11)と書いています。Feedback の出力は Drive セクションへ送られ、Drive の出力がまたオシレーターへ戻る往復になっています。Level は「フィードバック処理から Drive セクションへの出力レベル」、Blend は「Drive セクションの出力とフィードバックセクションのミックス」と定義されているので、耳に届くのは「その信号によって歪まされた音」です。
つまみを下げたのに音が大きくなりました。故障ですか?
ガイドが p.15 の囲みで先回りして書いています。「Berzerk は、まあ Berzerk なので、コントロールが期待どおりに振る舞わない特殊な状況がある。たとえば、ゲイン系のコントロール(Drive など)を下げたり、別の Character を選んだりすると、レベルが上がることがある。その逆もある。この挙動はオーディオソースとそのダイナミクスにも依存する。心配はいらない、ただの Berzerk の挙動だ。別の Character を選ぶか、他のコントロールを調整すれば、たいてい収まる」。波形そのものを差し替える機械なので、つまみの位置と最終的なレベルが単調に対応しない、ということです。
モノ版とステレオ版で、できることは変わりますか?
変わります。ガイド p.3 は「モノコンポーネントには Input セクションの Stereo Mode セレクターと、Feedback セクションのチャンネルセレクターが無い」と明記しています。M/S を分けて歪ませる使い方と、左右どちらかのチャンネルだけでピッチを追従させる使い方は、ステレオ版でのみ可能です。Feedback の Stereo Source については、p.11 に「このコントロールは Input セクションの Stereo Input Mode スイッチが Stereo に設定されているときにのみ利用できる」という条件も付いています。
サイドチェインは何に使うものですか?
Berzerk のサイドチェインは Feedback セクションに属します。内部/外部を選ぶ Side Chain Source と、5 Hz〜22 kHz の HP・LP フィルター、そしてサイドチェインをソロで聴く Side Chain Listen(作動中はパネルが白く点滅)が用意されています。ガイドの「ゼロから作る」手順でも、Low/High と Speed を決めたあとに「サイドチェインフィルターを調整し、INT か EXT を選ぶ」というステップとして出てきます(p.7)。少なくとも、Dynamics セクションではなく Feedback セクションに属するサイドチェインである点は押さえておいてください。Feedback のオシレーターは「入力セクションの振幅を追いかける」とガイドが書いているので、追従させる信号を差し替えるためのものと読めますが、ガイドはそこまで明示していません。
まとめ
- Feedback と Dynamics は出力に出ない。どちらも Drive に入る前の信号を作り替える機械で、EQ だけが出口側にある。だからガイドの手順も「Feedback と Dynamics のあとに Drive へ戻る」になっている。
- 数値で押さえるべきは、Drive の非対称な範囲(−24〜+16 dB)、Go! を押すまで無効な Density、Temperature の初期値 64.4/リセット 0、そして Output つまみの前にある −0.9 dB のリミッター。
- Rider/Dyn の説明はガイド内で割れている(p.13 の箇条書き 対 p.5・p.14)。ここだけは資料を信じきらず、耳で確かめてから決めるのが安全。



「狂った音が出るプラグイン」で片付けると、いちばん設計が効いている部分を見落とします。歪みの手前に何を置けるか——そこがこの機種の本体です。




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