Waves Greg Wells VoiceCentricは、ボーカルトラック用のワンノブ・プロセッサーです。そしてこの製品のユーザーガイドには、姉妹機3本のガイドには無い1ページがあります——内部の信号図です。Input→EQ→DeEsser→Fast Compression→Slow Compression→Output、そしてコンプレッションの後段から3系統の並列エフェクトが分岐する。「ノブの裏で何が起きているか」を、公式が図で描いてしまっている。この記事では、その図と各コントロールの範囲・初期値から、Intensityの初期値が0ではなく50であることの意味と、ゲインリダクションメーターが姉妹機MixCentricの倍の深さまで振れることの意味を解剖します。
想定読者は、すでにVoiceCentricを持っている人と、買うか迷っている人です。操作手順の説明ではなく、「なぜこの仕様なのか」「その数値はどの資料の何ページに書かれているのか」を扱います。姉妹機MixCentric・PianoCentric・ToneCentricとの数値比較も、それぞれのユーザーガイド(と、必要な箇所ではその公式製品ページ)を読んだうえで書いています。
仕様・数値はWaves公式のGreg Wells VoiceCentricユーザーガイド(全9ページ)と、waves.com/wavesjapan.jpの製品ページ(いずれも2026年9月5日取得)に基づきます。ユーザーガイドは同梱版とWaves配信版がバイト単位で同一で、製品ページが指すマニュアルURLも同じファイルでした。編集部は本製品を所有していないため使用感の描写はせず、裏が取れない項目は書きません。
カホワンノブ製品の記事は、たいてい「中身は分かりません」で終わります。この製品は違います。公式が図を出しているので、そこから読みます。
この記事でわかること
- 公式の信号図が明かす内部の並び——EQ、DeEsser、そして速さの違う2つのコンプレッション
- Delay・Doubler・Reverbが「圧縮後」から分岐しているという構造の意味
- Intensityの初期値が50であることの意味と、本人が言う「60%や80%で立ち上がる要素」との関係
- 全コントロールの範囲・初期値(入出力±24 dB、GRメーター0〜−12 dB、Doubler/Reverb初期値−11.3 dBなど)と、公式の技術表が公表しているレイテンシー
Greg Wells VoiceCentricとは|何を解決する製品か
VoiceCentricは、WavesがプロデューサーのGreg Wellsと共同開発したGreg Wells Signature Seriesの1本で、ユーザーガイドが「the first in a line of Greg Wells Signature Series plugins」——このラインの最初の1本——と明記しています(p.3)。日本語製品ページも「Greg Wells Signature Seriesからリリースされた、最初のプラグインです」と書いています。MixCentric・PianoCentric・ToneCentricの各ガイドはいずれも自製品を「シリーズの一部(part of the Greg Wells Signature Series)」と書いており、順番を名乗っているのはこの1本だけです。なお2026年9月5日時点のwaves.comのプラグイン一覧に並ぶGreg Wells名義の製品は、この4本でした。
Greg Wellsはグラミー賞を2度受賞したプロデューサー/ソングライター/ミュージシャン/ミックスエンジニアです。2019年に『The Greatest Showman』サウンドトラックでBest Compilation Soundtrack for Visual Media、2023年にMichael Bublé『Higher』でBest Traditional Pop Vocal Albumを受賞し、ほかに4度ノミネートされています(受賞2件・ノミネート4件はRecording Academy公式のアーティストページによる)。手がけた名前としてAdele、Katy Perry、OneRepublic、Mika、Twenty One Pilotsが挙げられ、参加曲の累計セールスは、Wavesのマニュアル(p.3)が8,500万ユニット以上、英語版Wikipediaは1億5,000万ユニットとしています。なおこの数字は、日本語公式ページの中で割れています。製品説明の本文は「その売上枚数は累計で850万枚以上にものぼります」ですが、同じページ下部のGreg Wells Signature Seriesの紹介欄は「関わった楽曲の累計売上数が8500万ユニット」——同じ1枚の中で桁がひとつ違います(2026年9月6日確認)。マニュアルp.3の8,500万と一致するのは、後者のバンドル紹介欄のほうです。日本語ページの製品説明だけを見ると1桁少ない数字に出くわすので、ここで断っておきます。
なおWavesのマニュアルと日本語製品ページは、肩書きを「複数回グラミー賞にノミネート」と書いたままです。これは受賞前の英語コピーが残っているもので、現行の英語版公式ページは「Grammy-winning producer」と改められています。本稿は受賞・ノミネート数をRecording Academy公式の記載に合わせました。
製品の役割は、ボーカルトラックに「A級のミックス済みボーカルの音」を素早く与えることです。ユーザーガイドの製品概要は構成を「1本のメインコントロールと、Wellsがカスタマイズしたディレイ・ダブラー・リバーブのための3本の追加コントロール」と自ら数えています(p.3)。英語版製品ページの特徴欄も「Intensityノブが複雑なEQとコンプレッションのチェーンを束ねる」「Delay・Reverb・Doublerを追加」「リード/バッキングどちらのボーカルにも、ジャンルを問わず」と並べています。
コンポーネントはVoiceCentric Mono(モノ入力→モノ出力)、VoiceCentric Mono-to-Stereo(モノ入力→ステレオ出力)、VoiceCentric Stereo(ステレオ入力→ステレオ出力)の3つ。この数はマニュアル自身が「three components」と数えており(p.4)、公式製品ページのチャンネル・コンポーネント表もMono/Stereo/Mono-to-Stereoの3つだけをtrueとしています。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
公式が図で描いた内部——EQ、DeEsser、速さの違う2つのコンプ
ユーザーガイドの3.3節は「Greg Wells VoiceCentric Signal Flow」というタイトルのブロック図です(p.9)。並びはこうなっています。
Input → EQ → DeEsser → Fast Compression → Slow Compression → Output。そしてSlow Compressionの出口から下に分岐して、Delay・Doubler・Reverbの3つが並列にぶら下がり、それぞれ「Level」を経てOutputへ合流する。
この図は本稿がテキスト抽出では拾えなかったもので、誌面を画像化して読みました。そして図の内容は独立に裏が取れます。日本語製品ページの特徴欄は「2つの異なるコンプレッサーと理想的なEQをプロセッシングに合わせて自動調整」と書いており、英語版は「Intensity knob combines complex EQ and compression chains」。図の「速いコンプ+遅いコンプ」「EQ」は、公式のコピーとも一致しています。
ここから読み取れることが2つあります。1つは、この製品がディエッシングを内蔵していること。歯擦音の処理は普通なら別プラグインを立てる工程です。VoiceCentricではそれがEQの直後、コンプレッションの前という定位置に置かれている。歯擦音を先に均してからコンプに渡す、という順序が固定されているわけです。
もう1つは、コンプレッションが速い段と遅い段の直列2段だということ。1本のコンプで速さを妥協するのではなく、役割を分けて縦に並べる——ボーカルのチェーンを手で組むときに定番の考え方が、そのまま内部に入っています。ただし各段のレシオ・アタック・スレッショルドといった数値は、ガイドにも製品ページにも書かれていません。図が示すのは並びと段数までです。



ワンノブなのに、中身の並びが公式に開示されている。姉妹機3本のガイドには、この信号図の節そのものがありません。
3つの返しは「圧縮後」から分岐している
信号図でもうひとつ重要なのが、Delay・Doubler・Reverbへの送りがどこから取られているかです。図の分岐点は入力側ではなく、Slow Compressionの出口。つまり3つの返しは、EQ・ディエッシング・2段のコンプレッションをすべて通り抜けた後の音を受け取っています。
これは効き方に直接影響します。Intensityを上げてコンプが深く掛かるほど、送り元の信号自体が変わる。Levelのつまみに触っていなくても、Intensityを動かせば返しの鳴り方は追随します。3本の追加コントロールは独立したセンドではなく、メインの処理にぶら下がった枝だということです。
各コントロールの説明文も、この構造と揃っています。Delay/Doubler/Reverbのオン・オフはいずれも「並列(パラレル)処理のリターンをオン/オフする」と書かれ、Levelは「どれだけ信号に加えるか」を決めるもの(p.7〜8)。ウェット/ドライの比率ではなく、原音に足す量というモデルです。
Intensityの初期値が50であることの意味
Intensityの範囲は0(Min)〜100(Max)の0.1刻み、そして初期値は50です(p.7)。これは4本の中でこの製品だけの仕様で、MixCentricのIntensity、ToneCentricのTone、PianoCentricのPianoは、いずれも初期値が0——つまり無処理側の端です。VoiceCentricだけが、挿した瞬間から真ん中で処理をしている。
この50という位置は、Wells本人の説明と重ねると意味が見えてきます。ユーザーガイドに載る2015年10月付のコメントで、彼はこう言っています。「メインのIntensityノブは見かけによらず単純だが、カーテンの裏では多くのことが起きている。特定の要素は60%、あるいは80%まで回さないと立ち上がらない。つまりこれは0〜100のコントロールではない。ただ、そう使うように設計されてはいる」(p.4)。
本人の言葉をそのまま受け取れば、初期値の50は「まだ全部の要素が起きていない位置」です。100はその2倍ではなく、途中で別の処理が加わった別の状態になる。50から上げていく操作は、量を増やす操作であると同時に、要素を呼び出す操作でもある——というのが公式の説明から言える範囲です。どの要素が何%で立ち上がるのかは、ガイドにも製品ページにも書かれていません。
興味深いことに、この発言は現行の英語版製品ページでは結びが差し替わっています。「60%や80%まで立ち上がらない要素がある」までは同じで、その先が「だから、そのノブ1本で遊ぶだけで多くの異なるフレーバーが手に入る」になっている。ガイドに残る2015年10月付のコメントが「0〜100のコントロールではない」という注意喚起だったところが、現行の販売文では長所として語り直されているわけです。前提は同じ、結論の向きが違う。
数値が語る「深く掛ける前提」
シリーズ4本のガイドを並べると、VoiceCentricだけ物差しが一段広いことが分かります。
| 項目 | VoiceCentric | MixCentric | PianoCentric | ToneCentric |
|---|---|---|---|---|
| Input/Output | −24〜+24 dB | −18〜+18 dB | −18〜+18 dB | −18〜+18 dB |
| GRメーター | 0〜−12 dB(0.5 dB刻み) | 0〜−6 dB(0.25 dB刻み) | 記載なし | 記載なし |
| クイックスタートの目安 | 最も大きな部分でGR 3〜4 dB | GR 1.5〜2 dB | 記載なし | 記載なし |
| 並列エフェクトのLevel | −30〜0 dB(Delay/Doubler/Reverb) | — | −24〜0 dB(Delay/Doubler) | — |
| メインノブの初期値 | 50 | 0 | 0(ニュートラル) | 0 |
ゲインリダクションメーターのフルスケールがMixCentricの倍(−12 dB対−6 dB)で、クイックスタートが示す起点もおよそ倍(3〜4 dB対1.5〜2 dB)。入出力トリムも±24 dBと広い。ミックス全体の仕上げを担うMixCentricが「触るか触らないか」の浅い側で設計されているのに対し、VoiceCentricは数dB単位で潰すことを前提にした物差しを持っています。ボーカルという素材の性質——ダイナミクスが大きく、ミックスの中で前に出し続けなければならない——を考えれば、筋の通った差です。
ただし注意したいのは、GRメーターの説明が「Intensityコントロールによって適用されたゲインリダクションの量」を示すと書かれていること(p.8)。速いコンプと遅いコンプのどちらの分か、あるいは合計かは書かれていません。メーターが3 dB分のリダクションを示しているとき、それが2段の合計だという読み方は、ガイドから直接は取れません。



メーターの目盛りは、設計者が想定した掛かりの深さを正直に告白します。−6 dBで終わる機械と、−12 dBまで用意した機械は、別の仕事をするつもりです。
挿した時点で鳴っているのはDoublerとReverb
3つの並列エフェクトの初期値は、そろっていません。Delayはオフ(Level −30 dB)、DoublerはオンでLevel −11.3 dB、ReverbもオンでLevel −11.3 dB(p.7〜8)。−30 dBはLevelの下端なので、Delayはスイッチも量も最小側で二重に黙っている状態です。一方DoublerとReverbは、−30〜0 dBというレンジの中ほどより上、−11.3 dBの位置で鳴っています。
つまり、トラックに挿して何もしなければ、すでにダブリングとリバーブが混ざった音が出ます。Intensityの効果だけを聴き分けたいなら、先にこの2つをオフにする必要があります。クイックスタートの手順4も「使いたければ並列エフェクトをオンにする」と書いており(p.5)、初期状態で2つがすでにオンであることには触れていません。手順書と初期値が噛み合っていない箇所なので、ここは実機の表示を見てから判断してください。



「素の効きを確かめよう」と言いながら、リバーブとダブラーが鳴ったまま比べてしまう。初期値を見ないと、そういう比較になります。
モノとステレオで返しの響きが変わる
Delay Level・Doubler Level・Reverb Levelの3項には、それぞれ同じ趣旨の注記が付いています。「VoiceCentricはステレオでの挙動を念頭に設計されている。ディレイ(/ダブリング/リバーブ)のモノとステレオの特性差により、モノ版とステレオ版のコンポーネントでは効果の聞こえ方が異なる」(p.7〜8)。
モノで使うと壊れるという話ではなく、同じ設定でも返しの響きが変わるという公式の告知です。モノ素材からステレオ出力へ開くMono-to-Stereoコンポーネントが用意されているのも、ステレオ挙動を本来の姿とするこの設計と整合的です(これは本稿の読みで、マニュアルはMono-to-Stereoの存在理由を説明していません)。
細かいことをひとつ。この3つの注記は、VoiceCentricでは3か所とも自分の効果の名前(delay/doubling/reverb)を正しく書き分けています。一方、後発のPianoCentricのガイドでは、Doubler Levelの注記が「ダブリングの特性差」ではなく「ディレイの特性差」のままになっている。姉妹ガイドが文章を共有した痕跡です。この1か所に関しては、第1弾であるVoiceCentric側の記述のほうが正確ということになります。Waves自身も、公式ページではDoublerとDelayを別の効果として扱っています——PianoCentricの英語公式ページの箇条書きは「Add tempo-synced Delay for animation and motion」と「Add Doubler for a gorgeous, richer and diffuse piano sound」を別項目に立てています(2026年9月6日確認)。ずれているのはPianoCentricのガイドの側だ、と言ってよさそうです。
全パラメーター
ユーザーガイド p.6〜8 に記載された範囲・初期値です。2系統のテキスト抽出で突き合わせ、さらにp.6〜8を画像化して目視で確認しました。
| コントロール | 役割 | 範囲 | 初期値 |
|---|---|---|---|
| Input | 入力レベル(プリセットで変化しない) | −24〜+24 dB(0.1 dB刻み) | 0 |
| Sensitivity LED | 入力レベルの適正表示 | 消灯(低すぎ)/緑(良好)/黄(最適)/赤(かなり熱い) | — |
| Intensity | ボーカル信号にどれだけ処理を掛けるか | 0(Min)〜100(Max)(0.1刻み) | 50 |
| Delay On/Off | 並列ディレイの返しのオン/オフ | On/Off | Off |
| Delay Level | ディレイを信号にどれだけ加えるか | −30〜0 dB(0.1 dB刻み) | −30 dB |
| Doubler On/Off | 並列ダブラーの返しのオン/オフ | On/Off | On |
| Doubler Level | ダブラーを信号にどれだけ加えるか | −30〜0 dB(0.1 dB刻み) | −11.3 dB |
| Reverb On/Off | 並列リバーブの返しのオン/オフ | On/Off | On |
| Reverb Level | リバーブを信号にどれだけ加えるか | −30〜0 dB(0.1 dB刻み) | −11.3 dB |
| Gain Reduction Meter | Intensityによるゲインリダクション量の表示 | 0〜−12 dB(0.5 dB刻み) | — |
| Output | 出力レベル(プリセットで変化しない) | −24〜+24 dB(0.1 dB刻み) | 0 |
このほか画面上部にWaveSystemツールバーがあり、プリセットの保存・読み込み、設定の比較、Undo/Redo、画面のリサイズを行います(p.9)。なお本稿が参照した版のガイドには、後発3本のガイドが各コントロールに併記している「Reset:」(リセット時の値)の行がありません。本人コメントが2015年10月付である第1弾だけ、書式が違っています。
公式の技術表が公表している値
waves.comの製品ページには、マニュアルには載っていない技術表があります(2026年9月5日取得)。
| 項目 | 公表値 |
|---|---|
| レイテンシー(サンプル数) | 44.1 kHz=65/48 kHz=65/88.2 kHz=0/96 kHz=0 |
| 対応サンプルレート | 96 kHzまで |
| コンポーネント | Mono/Mono-to-Stereo/Stereo(公式表ではサラウンド系のコンポーネントはいずれもfalse) |
| 提供バージョン | V17/V16/V15/V14/V13/V12/V11/V10/V9 |
| フォーマット(日本語ページ) | SoundGrid・AAX Native・Audiosuite・Audio Units・VST3 |
レイテンシーは推測ではなく、公式の遅延表がサンプル数で公表している数字です。44.1/48 kHzで65サンプル、88.2/96 kHzでは0。DAWの遅延補正が効く環境なら意識せずに済みますが、SoundGridやライブ用ラックで詰める場面では効いてくる値です。提供バージョンはV9からV17まで並んでいます。
用途別・設定の始点
| やりたいこと | 触る場所 | 始点(公式記載の範囲) |
|---|---|---|
| 基本の手順 | Input → Intensity → 並列エフェクト → Output | 曲の最も大きな部分でLEDが黄になるようInputを合わせ、Outputを同じ量だけ逆方向に動かして等音量にする(p.5) |
| 掛かりの目安を決める | Intensity | トラックの最も大きな部分でゲインリダクションが3〜4 dBに達するあたりで実験する(p.5) |
| Intensityの効果だけを聴く | Doubler/ReverbのOn/Off | 初期状態でこの2つがオン(各Level −11.3 dB)なので、先にオフにする |
| 厚み・空間を足す | Delay/Doubler/ReverbのLevel | 使いたいものをオンにし、ミックスでのブレンドが良くなるよう各Levelを調整(p.5) |
| 処理後の音量ずれを直す | Output | 必要なら、処理によるゲイン変化を補うためOutputを調整(p.5) |
| 迷ったら | プリセット | 気に入ったものを見つけて起点にし、そこから調整する(公式の推奨・p.5) |
| モノ素材をステレオに開く | コンポーネント選択 | Mono-to-Stereoを選ぶ(返しの響きはモノ版と異なる) |
Intensityを何%にするか、というジャンル別・声質別の推奨値は公式マニュアルにも製品ページにもありません。公式が示す目安は、LEDの色と「最も大きな部分でGR 3〜4 dB」だけです。声質別・ジャンル別のパーセンテージ表を見かけることがありますが、少なくとも本稿が確認した公式資料には根拠がありません。
似た製品との使い分け
Greg Wells Signature Seriesの中で
4本の役割は各ガイドの製品概要ではっきり分かれています。VoiceCentricはボーカル(挿す場所は「処理したいトラック」)、PianoCentricはピアノ/キーボード録音、ToneCentricはトラックでもバスでも使える倍音と奥行きの付加、MixCentricはマスターバスまたはグループの最終仕上げ。素材特化の2本(VoiceCentric・PianoCentric)は3コンポーネント構成でDelayとDoublerの返しを持ち、質感系の2本(MixCentric・ToneCentric)は2コンポーネントで返しを持ちません。4本のガイドのコントロール一覧を突き合わせると、Reverbの返しが載っているのはVoiceCentricだけでした。
逆方向の差もあります。MixCentric・PianoCentric・ToneCentricの3本のガイドには、いずれもAnalog Noise——アナログ信号経路のモデリングに伴う微量のノイズをツールバーからオン/オフする項目——が載っています。VoiceCentricの9ページのガイドには、この項目が出てきません。2系統のテキスト抽出でも全コントロールページの目視でも「analog」という語自体が0件で、英語版製品ページにも「Analog Noise」は0件、日本語版の特徴欄にも挙がっていませんでした。ノイズを足す機能が本当に無いのか、単に文書化されていないだけなのかまでは、本稿が確認した資料からは決められません。
他社系ではなく、Waves内の他のボーカル用プロセッサーと
同じ「ボーカル用の畳んだチェーン」でも、CLA Vocalsとは思想が違います。CLA Vocalsは低域・高域・コンプ・リバーブ・ディレイ・ピッチの6系統に、それぞれ1本のフェーダーと3種のキャラクターを割り当てた製品で、判断の粒度が6×3に分かれている。対してVoiceCentricは、EQ・ディエッシング・コンプレッションをまとめてIntensity 1本に畳み、ユーザーに残しているのは返し3つのオン/オフとレベルだけです。またCLA Vocalsのガイドが挙げるコンポーネントはMono-to-StereoとStereoの2つで、モノ→モノの構成はありません。モノトラックにモノで挿したい場合はVoiceCentric側に分があります。
Renaissance Voxはさらに少ない操作数ですが、中身の方向が違います。R-Voxのマニュアルが説明するのはコンプレッション(自動メイクアップゲイン付き)とダウンワード・エキスパンダー、そして出力段のリミッターです。EQ・ディエッサー・空間系の返しは、本稿が参照した全6ページのガイドには出てきません。ダイナミクスだけを手早く整えるのがR-Vox、音色まで含めて「ミックス済みの声」に寄せるのがVoiceCentric、という住み分けになります。
各段を自分で決めたいならAudioTrackのような汎用チャンネルストリップ、歯擦音だけを狙って追い込みたいならDeEsser、空間を自分で作り込みたいならRenaissance Reverbが受け皿です。VoiceCentricは、それらの決定を「Intensityの位置」と「返し3つの量」に畳んだ製品と位置づけられます。
価格と入手経路
永続ライセンスの定価は26,180円です(wavesjapan.jp・2026年9月5日時点)。価格は変動するため、購入前に公式ページで確認してください。
サブスクリプションで使う場合、注意点があります。同じ日に見た日本語製品ページでは、VoiceCentricのサブスクリプション欄に表示されるのはUltimateのみで、Essentialの選択肢が出ません。比較のためMixCentricのページを同じ方法で開くと、そちらにはEssentialとUltimateの両方が並びます。英語版製品ページの内部データでも、VoiceCentricは下位ティア側のフラグが立っていない一方、MixCentricは両方立っていました。2つの経路が同じことを示しているので、サブスクで狙う場合はプラン内容を必ず確認してください。
バンドルについては、日本語製品ページが同日時点でContent Creator Audio Toolkit、Greg Wells Signature Series、Mercuryの3つを挙げています。バンドル構成は改編されるので、現在の収録状況は公式ページで確認してください。
よくある質問
ディエッサーを前段に挿す必要はありますか
公式の信号図(p.9)によれば、VoiceCentricの内部にはEQの直後・コンプレッションの前にDeEsserの段があります。ただし、本稿が参照した版のコントロール一覧にディエッシング関連の項目は無く、周波数もしきい値も量も、ユーザー側からは触れません。狙った帯域を指定して追い込みたい場合は、専用のディエッサーを併用する余地があります。
Intensityは何%から始めればいいですか
公式は%で答えていません。クイックスタートが示す指標はゲインリダクション量で、「トラックの最も大きな部分でGRが3〜4 dBに達するあたりで実験する」(p.5)。挿した時点の初期値は50なので、そこからGRメーターを見ながら上下させることになります。声の大きさも録音レベルも曲ごとに違う以上、%ではなくメーターで決めるのが公式の作法です。
リバーブやディレイを他のプラグインで作りたいのですが
3つの返しはそれぞれ独立してオフにできます。Delayは初期状態からオフ、DoublerとReverbは初期状態でオンなので、外部のセンドで作るならこの2つを切ってください。なお内部の返しは信号図のとおりコンプレッションの後段から分岐しているので、外部センドを原音側から取る場合とは送り元の音が変わります。
プリセットを読み込むと入出力の校正はやり直しになりますか
なりません。InputとOutputはいずれも「プリセットを読み込んでも値が変わらない」と両コントロールの項に明記されています(p.6・p.8)。先に入力を合わせてからプリセットを聴き比べる、という順序が仕様で守られています。
まとめ
- 公式の信号図が中身を開示している——EQ→DeEsser→速いコンプ→遅いコンプ。3つの返しはその後段から分岐する
- Intensityの初期値は50で、シリーズ4本の中でこれだけ0ではない。本人が言う「60%や80%で立ち上がる要素」はその先にある
- GRメーター0〜−12 dB、目安はGR 3〜4 dB。姉妹機MixCentric(−6 dB/1.5〜2 dB)より深く掛ける前提で作られている



入力を合わせて、GRを3〜4 dB。まず覚えるのはそこだけです。返しの2つを切るかどうかは、その次に決めれば足ります。





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