この記事では、Waves Primary Source Expander(PSE)がなぜ「引く」のではなく「開け閉めで抑える」側の道具なのかを、公式ユーザーガイドの記載だけで分解します。Threshold と Range が同じ目盛りで同心円に並んでいる理由、リリースが3択しか無いこと、そしてダッキングというひとつのボタンがサイドチェーン源によって別の仕事に切り替わる仕組みまでを扱います。
先に版の話をひとつ。本稿は公式製品ページの manualPDF フィールドが指している現行版のユーザーガイド(全14ページ・PDFの更新日 2026年6月22日)を主資料にしています。プラグイン同梱の版(同じく全14ページ・更新日 2021年5月16日)と本文を1行ずつ突き合わせたところ、違いはちょうど2か所で、どちらも「5Hz Shift」という新しいコントロールの追加でした。同梱版だけを読んで書いていたら、この製品のいちばん新しい機能に触れないまま公開するところでした。
以下の範囲・数値はすべて公式ユーザーガイド(本製品のもの、および比較先として引く eMo D5・C1 のもの)と公式サイト(英日の製品ページ、および Waves 公式の製品フィード)の記載で、編集部の実測値ではありません。ガイドが数値を置いていない項目は、置いていないと書きます。
カホノイズを減らす道具は、大きく二手に分かれます。鳴っている最中の音から成分を引き算するものと、音が来ていない時間だけ音量を落とすもの。PSE は後者です。ここを取り違えると、選ぶ場面ごと間違えます。
この記事でわかること
- Range が「削る量」ではなく「これ以上は下げない床」である理由と、Threshold と同じ目盛りになっている必然
- ダッキングが、サイドチェーンが内部か外部かで別の仕事に変わる仕組み(4つのモードの正体)
- ディレイをフィートとメートルで指定できる理由と、複数ソースを送ったときの合わせ方
- 2026年6月版で追加された「5Hz Shift」が何をするか、そしてなぜ歌には推奨されないのか
Primary Source Expanderとは|何を解決する製品か
公式ガイドの導入(p.1)は、この製品の目的を「ステージのノイズを減らし、ソースの音色を歪めずに、フィードバックが起きるまでのゲインを稼ぐこと」と書いています。想定されている現場はライブショーが第一で、スタジオでも有用、ライブ素材のミックスでは「その場所の自然なアンビエンスを失わずに余計なノイズを減らす」ために使う、という立て付けです。
中心にあるのは「精密なエキスパンダー」で、ガイドはこれをボーカル・ストリングス・木管・金管・ギターといったメロディを持つソース向けに仕立てたものだと説明しています。動き方の記述がそのまま設計の宣言になっていて、PSE は「ソースがある一定のしきい値を下回ったときに、チャンネルのレベルを下げるフェーダーのように働く」。しきい値と減衰量の両方をユーザーが決める、と続きます。
そして最後に、この製品の性格を決める一文が来ます。「このシンプルだが効果的なツールはコントロールが少なく、たいていの場合はチャンネルごとに『設定して、あとは忘れる(set and forget)』でよい」。ライブの卓に何十本と並ぶチャンネルへ挿す道具である以上、追い込む余地よりも、一度決めたら放っておけることのほうが価値になる——という判断が最初に置かれているわけです。
公式サイト(waves.com)の技術仕様も、この性格を裏づけています。レイテンシーの表はネイティブの 44.1/48/88.2/96/176.4/192 kHz すべてで 0サンプル。対応プラットフォーム欄には MultiRack・StudioRack・SuperRack の各 Native/SoundGrid、eMotion ST Mixer、eMotion LV1 Mixer、DiGiCo、Venue が並びます。チャンネルコンポーネントは Mono と Stereo で、サラウンドは対象外です(2026年9月5日確認)。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
しきい値の上では、何もしない
Threshold の項(p.4)に、この製品を理解するうえでいちばん効く一文があります。「オーディオのレベルが Threshold を上回っているとき、オーディオはまったく影響を受けない」。
これがノイズ抑制系との分岐点です。周波数帯域ごとにノイズ成分を減らす種類の道具は、目的の音が鳴っている最中も処理を続けます。だからこそ帯域や深さの追い込みが要る。PSE は違って、しきい値の上に居る間は素通しです。歌っている最中の声質は触られず、歌っていない時間だけチャンネルのレベルが下がる。「音色を歪めずに」という導入の一文は、この構造から出ています。
サイドチェーン入力メーターの色分けも、同じことを目で見せる設計です。ソースがしきい値より下ならオレンジ、上なら青。ガイドのクイックスタート(p.2)は、この色を見ながら Threshold フェーダーを上げていき、歌っている間は青のまま、フレーズの合間にオレンジへ落ちる位置を探せ、と指示しています。上げすぎれば歌の途中でオレンジに落ちてしまうので、上限はそこで決まります。
Range は「削る量」ではなく「床」
Range の項(p.4)は、この値を「入力信号が Threshold を下回ったときに、どれだけレベルを下げるか」と定義したうえで、こう続けます。「リダクション量が Range コントロールの値より下へ行くことはない」。つまり Range が決めているのはレベルがどこまで下がるかの行き止まりで、減衰はこの値より深くなりません。クイックスタート3番目が「歌っていないとき、レベルは最大で -6 dB まで下げられる」という言い方をしているのも同じ意味です。Range に -6 dB を入れたなら、いちばん深いときで 6 dB 下がる、ということになります。
ここで操作の向きに注意が要ります。ガイドはクイックスタート5番目で「Range をゆっくり増やしていき、-12 dB まで上げてよい」と書きますが、数値としては -6 から -12 へ、つまり下へ動きます。増えているのは減衰量で、目盛りの数字は減る。この2つを混同すると、指示と逆方向に動かすことになります。
そして Threshold と Range は、ガイドの記載でどちらも -60〜0 dB です。範囲がそろっているのは偶然ではなく、この2つが同心円の内側と外側という1つのつまみに同居しているからです(p.3 のパネル図)。上半分の青が Threshold、下半分の赤が Range。判断すべき2つの数値を、同じ目盛りの上で見比べられるようにした、というのがこの配置の意味です。
もうひとつ、記載範囲そのものが物語ることがあります。Range の下端は -60 dB です。本稿が3系統の抽出で現行版・同梱版それぞれ全14ページを検索したかぎり、-Inf・infinity・∞ のような「無限に下げる」側の値は、どちらの版にも現れませんでした(該当語のヒットは information と reinforcement のみ)。60 dB 下げれば実用上は消えたも同然ですが、仕様の書き方としては「完全に閉じる」側ではなく「深く絞る」側に置かれている、と読めます。ゲートではなくエキスパンダーだ、という名乗りと矛盾しない書き方です。



アタックタイムのつまみを探して止まる人がいます。本稿が pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で全14ページを検索したかぎり、attack という語は現行版・同梱版とも0件でした。設定できないのではなく、設定させない設計です。
時間軸を3つに畳んである
Release(p.5)は、連続可変のつまみではなく3つのラジオボタンです。ガイドが与えている値は Slow が約500ミリ秒、Medium が約250ミリ秒、Fast が約100ミリ秒。いずれも「approximately(約)」付きの概数で、素材の性格に応じて1つ選ぶ、という使い方が想定されています。
選び方の基準もガイド自身が書いています。クイックスタート4番目は「最初は SLOW にして、語尾が切れるのを避ける」。6番目は「レガート寄りの音は SLOW、スタッカート寄りの音は FAST のほうが合う」。まず遅い側から入って、必要なら速くするという順序です。
この3択という設計は、先ほどの「set and forget」と地続きです。ライブの現場で調整の自由度を上げることは、そのまま迷いどころを増やすことでもある。時間軸の判断を3つに畳んでおけば、選び直しは一瞬で済みます。逆に言えば、素材ごとに立ち上がりを追い込みたい用途には向きません。
ダッキング:同じボタンが、二つの別の仕事をする
PSE でいちばん誤解されやすいのがダッキングです。ガイドは Ducking セクションの冒頭(p.6)で「相対的に静かな区間にゲインリダクションを与える」と定義したうえで、わざわざ「Ducking/Side Chain の設定によって、異なる振る舞いを示す」と断っています。この一文が4つのモードの前置きになっています。
サイドチェーンが内部(INT)のとき、ダッキングは外から来る信号を使いません。ガイド p.10 の説明では、この場合ダッキングはサイドチェーンの検出部に DC(直流)を加え、それによってサイドチェーンのノイズフロアが持ち上がり、低レベルの検出が滑らかになる、とされています。環境ノイズが不安定でリダクションがガタつく現場のための仕掛けです。ダッキングゲインを上げるとフレーズ間のリダクションが安定し、一貫性が増す。ただし「上げすぎるとフレーズの頭と終わりを切り落としかねない」という警告が同じ段落に置かれています。
サイドチェーンが外部(EXT)のときは、まったく別の仕事になります。p.12 のモード4は「ステージ上の大きな音がかぶって PSE が安定して減衰できないとき、サイドチェーン入力が追加の減衰を引き起こす」構造だと説明します。加える減衰の量はダッキングゲインの設定で決まります。ボーカルマイクにスネアがかぶってフレーズ間のゲインが下がりきらない、という具体例が挙げられています。
なお、ガイドは Ducking Gain の項(p.6)で「高い設定ほど大きなゲインリダクションになる」と書き、モード2の項(p.10)で「DC を加えてサイドチェーンのノイズフロアを上げる」と書いていますが、この2つの記述をつなぐ極性の説明は置いていません。本稿はガイドが書いている範囲、つまり「ダッキングゲインを上げるほどリダクションは深くなる」「上げすぎるとフレーズの頭尻が切れる」という挙動の記述までに留めます。



ON/OFF ひとつのボタンが、隣の SOURCE スイッチの状態で意味を変える。ガイドが4つのモードを別々の章に分けているのは、親切ではなく必要だからです。マニュアルの構成そのものが仕様を語っている例です。
外部トリガーは、しきい値の「測る対象」を入れ替える
モード3(EXT・ダッキングOFF)の説明(p.11)には、基準点を取り違えると設定が逆立ちする箇所があります。EXT にすると、PSE が減衰させるのは挿してあるチャンネルのままですが、減衰するかどうかを決めているのは外部ソースのレベルになります。外部サイドチェーン入力のレベルがしきい値を下回っているときだけ減衰し、上回れば減衰しません。ガイドはご丁寧に「このモードでは Threshold の背後にある入力メーターは EXT サイドチェーン入力のレベルを表す」と補足しています。つまみの位置は同じでも、メーターが見ている信号が別物だ、ということです。
ガイドが挙げる用例が合唱です。全員が一緒に歌う合唱は感度の高いコンデンサーマイクで拾うため、歌っていない間のカブりが問題になる。そこでいちばん声の大きな歌い手にラベリアマイクを付け、それを PA には出さずトリガー専用に使う。合唱のマイク群をグループにまとめて PSE を挿し、EXT サイドチェーンにこのトリガーマイクを指定する。トリガーの歌い手が歌っていない間は合唱マイクが減衰し、歌えば減衰しない、という運用です。
ディレイの単位に、フィートとメートルがある
Ducking Delay(p.6)は「サイドチェーンのソースを PSE のチャンネルと揃えるためにディレイを入れる」コントロールです。値の範囲は 0〜50 ms。面白いのは Delay Units で、記載されている選択肢はミリ秒・フィート・メートルの3つ。ガイドは「単位を変えてもディレイの量は変わらず、表示のされ方が変わるだけ」と明記しています。
なぜ距離で入れられるようにしてあるのか。ライブでかぶりが問題になるとき、原因は物理的な距離だからです。モード4の用例(p.12)はそこまで具体的で、スネアがボーカルマイクから6フィート離れているなら、Delay Units を FEET にして Ducking Delay を「6」にせよ、と書いています。卓の前でミリ秒に換算する必要がない。
さらに最終ページ(p.13)には、複数のソースを PSE のサイドチェーンに送ったときの決め方が置かれています。エレキギターとスネアの両方がボーカルマイクにかぶっていて両方をサイドチェーンに送るなら、Ducking Delay は物理的に近いほうのソースに合わせる。ギターアンプのほうが近ければギターアンプとボーカルマイクの距離、スネアのほうが近ければスネアとボーカルマイクの距離を入れます。
なお、サイドチェーンが INT のとき Ducking Delay は「関係が無いので無効化される」とガイド p.7 が注記しています。外部の音を待ち合わせるための機能なので、内部検出では出番が無いという理屈です。



「近いほうに合わせる」という指定は、後から効いてきます。遠いほうに合わせると近いソースのぶんが先に届いてしまう。距離で入力させる設計と、この一行はセットで読むところです。
2026年6月版で増えた「5Hz Shift」
現行版のユーザーガイド p.5 に、同梱の2021年版には無かった項目があります。5HZ SHIFT です。ガイドの説明はこうです。「わずかな 5 Hz の周波数シフトをかけ、自然なスピーチの品質を保ち、耳につくアーティファクトを避けながら、フィードバックが起きるまでのゲインを約4 dB 改善する」。
用途もはっきり書き分けられています。スピーチ用のマイクからより多くのレベルを取り出すための機能で、プレゼンター、礼拝施設、企業イベント、パネルディスカッション、放送的なスピーチ拡声で特に有用。そして最後に一行、「スピーチに推奨。歌には推奨しない」。周波数をずらす処理である以上、音程が意味を持つ素材には向かない、という線引きです。
この項目には、他のコントロールにある Range: の行がありません。オン/オフ以外に何を設定できるのか、シフトが固定値なのか、といったことはガイドに書かれていないので、本稿もそこには踏み込みません。ちなみに本稿が確認した2026年9月5日時点で、waves.com の製品ページの HTML 全体(約51万文字)を検索したところ「5 Hz」という語は0件でした。この機能は現時点でユーザーガイドにしか記載がない、というのが確認できた範囲です。
全パラメーター
以下は現行版ユーザーガイドの記載をそのまま整理したものです。本稿が3系統の抽出で数えたかぎり、範囲を示す Range: の行は8か所、Options: は1か所、そして初期値を示す Default: の行は現行版・同梱版とも0か所でした。したがって初期値の列は作っていません。
| セクション | コントロール | ガイド記載の範囲 | 働き |
|---|---|---|---|
| Dynamics | THRESHOLD | -60〜0 dB | PSE がレベルを下げ始める位置。上回っている間はまったく影響しない。+/−ボタンで1クリック1 dB |
| Dynamics | RANGE | -60〜0 dB | しきい値を下回ったときの減衰量。リダクションはこの値より下へは行かない。+/−ボタンで1クリック1 dB |
| Dynamics | RELEASE | Slow 約500 ms/Medium 約250 ms/Fast 約100 ms | ラジオボタン3択。素材に合わせて選ぶ |
| Dynamics | 5HZ SHIFT | 記載なし | わずかな 5 Hz のシフト。フィードバックまでのゲインを約4 dB 改善。スピーチに推奨・歌には非推奨(現行版のみ) |
| Ducking | Ducking On/Off | ON/Off | セクションのオン・オフ |
| Ducking | Delay Units | ミリ秒/フィート/メートル | 表示と入力の単位。変えてもディレイ量は変わらない |
| Ducking | Delay Value | 0〜50 ms | サイドチェーンのディレイ量。パネル中央に表示される |
| Ducking | Ducking Gain | -48〜+12 dB | ダッキングのゲイン。高い設定ほどリダクションが大きくなる |
| Side Chain | SC MON | ON/OFF | サイドチェーンソースのモニター |
| Side Chain | SC SOURCE | INTernal/EXTernal | サイドチェーンソースの選択 |
| Side Chain | HPF/LPF/LINK | 記載なし | サイドチェーンソースだけを濾す。実際の音には影響しない。LINK は HPF と LPF を連動させる |
表で「記載なし」とした2項目について補足します。パネル図(p.3・p.7)にはサイドチェーンの HPF に 60、LPF に 15000 という数字が写っていますが、画面図はその値が初期値である証拠になりません。実際、本稿が3系統の抽出で大文字小文字を区別せず Hz を検索したところ、現行版のヒットは4件でその全部が 5Hz Shift 関連(p.3 のコールアウト、p.5 の見出し、本文2か所)、同梱版は0件でした。HPF/LPF の周波数は、両版ともガイドの文章中に数値として置かれていません。可変の上下限も同様です。
もうひとつ、現行版 p.3 のパネル図では Ducking Gain の欄が -59.7 と表示されています。同じガイドが p.6 で示す Ducking Gain の範囲は -48〜+12 dB なので、図と本文が食い違っています。本稿は本文側の記載を採り、図の数値は根拠に使っていません。
用途別・設定の始点
以下はすべて公式ガイドが自分で挙げている手順と用例です。編集部が試して決めた値ではありません。
| 場面 | ガイドが示す始点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ボーカル(基本手順) | 歌唱中は青・フレーズ間はオレンジになる位置まで Threshold を上げる → Range を -6 dB 前後 → Release は SLOW | クイックスタート 2〜4(p.2) |
| もっと効かせたいとき | 滑らかに効いていることを確かめながら、Range を -12 dB まで少しずつ深くする | クイックスタート 5(p.2) |
| レガート寄りの素材 | Release は SLOW(約500 ms) | クイックスタート 6(p.2) |
| スタッカート寄りの素材 | Release は FAST(約100 ms) | クイックスタート 6(p.2) |
| アイドル時のギターアンプのノイズ | モード1(INT・ダッキングOFF)。ギターのチャンネルに挿すだけ | モード1 用例(p.9) |
| ステージ騒音が不安定/歌い手が PA の前に立つ | モード2(INT・ダッキングON)。Threshold と Range を決めてから、ダッキングゲインを控えめに足す | モード2 用例(p.10) |
| 合唱のマイク群 | モード3(EXT・ダッキングOFF)。PA に出さないトリガーマイクを外部サイドチェーンに指定 | モード3 用例(p.11) |
| スネアがボーカルマイクにかぶる | モード4(EXT・ダッキングON)。スネアを外部サイドチェーンへ送り、ディレイを距離で合わせる | モード4 用例(p.12) |
| 複数のソースをサイドチェーンへ送る | Ducking Delay は物理的に近いほうのソースまでの距離に合わせる | p.13 |
| スピーチ拡声(プレゼン・礼拝・パネル等) | 5Hz Shift を使う | 5HZ SHIFT(p.5・現行版) |
| 歌 | 5Hz Shift は推奨されない | 5HZ SHIFT(p.5・現行版) |
似た製品との使い分け
Waves の中で PSE といちばん近い層にあるのは、eMo D5 Dynamics のゲートセクションです。両方の公式ガイドを突き合わせると、同じ「しきい値を下回ったら下げる」処理に対して、置いているコントロールの数がまるで違うことが分かります。
| 比べる点 | PSE | eMo D5 のゲート/エキスパンダー |
|---|---|---|
| エキスパンダーの位置づけ | 製品そのもの | ゲートのモード(GATE/EXP の切り替え・初期値 GATE) |
| 下限を決めるコントロール | RANGE:-60〜0 dB | FLOOR:-Inf〜0 dB(初期値 -Inf) |
| しきい値 | THRESHOLD 1つ(-60〜0 dB) | OPEN THRESHOLD(-Inf〜0 dB・初期値 -Inf)と CLOSE(-48〜0 dB・初期値 0 dB)の2つ |
| アタック | ガイドに項目なし | 0.1〜100 ms(初期値 1 ms) |
| ホールド | ガイドに項目なし | 0〜10000 ms(初期値 0 ms) |
| リリース | 3択(約500/約250/約100 ms) | 1〜1000 ms の連続可変(初期値 100 ms) |
| サイドチェーンのフィルター | HPF/LPF あり・数値はガイド本文に記載なし | HPF・LPF とも 16〜18000 Hz(初期値 60 Hz/15000 Hz) |
| ダッキング/遅延合わせ | ダッキングセクションあり・遅延を距離で指定できる | 該当するコントロールはガイドの一覧に挙げられていない |
eMo D5 の数値は eMo-D5 ユーザーガイド §3.2 より。同ガイドは EXP モードを「より自然な結果になり、オーディオを完全にミュートすることはない。ゲートは決して完全には閉じず、より柔らかいゲーティングになる」と説明しています。D5 のほうは FLOOR に -Inf があるので「完全に閉じきる」設定も選べるのに対し、EXP モードはそれをしない側の選択肢として用意されている、という構造です。前述のとおり PSE のガイドは Range に -Inf 相当の値を書いていないので、向きとしては近いところにいます。違いは、D5 が時間軸と2つのしきい値まで全部握らせるのに対し、PSE は握らせるものを削って、代わりに現場の物理(距離・トリガーマイク)を扱う道具を足している点にあります。
もう一方の極が C1 Compressor の Gate/Exp モジュールです。C1 のマニュアル第3章によれば、Floor は -infinity から 0 dB を経てプラス側 +12 dB まで動き、低レベルの信号を持ち上げる「低レベルコンプレッション」になります。さらにエキスパンダーモードでは -infinity の先に「-100 N 〜 -10 N」という負極性の設定域があり、しきい値から指定 dB 下の音を打ち消すモードに入ります。アタックは 0.01 ミリ秒〜1秒、リリースは 1 ミリ秒〜10秒。スタジオで一点を追い込むための道具です。PSE の Range が -60〜0 dB という素直な範囲に収まっているのと比べると、目的の違いがそのまま範囲の違いに出ています。
ノイズ抑制系(NS1・WNS・W43 などのポストプロダクション系)とは、そもそも相手にしている問題が違います。あちらは「鳴っている音に混ざっている背景」を減らす道具で、目的の音が鳴っている最中も処理が続きます。PSE は先に見たとおり、しきい値の上では何もしません。混ざってしまったノイズを取るのではなく、混ざる時間そのものを短くするのが PSE の仕事です。録り終えた素材から背景を減らしたいならあちら、ステージ上でカブりとフィードバックの余裕を稼ぎたいならこちら、という分かれ方になります。
圧縮という処理そのものの考え方を先に整理しておきたい場合は、コンプレッサーの基礎 を読んでおくと、しきい値の上下でどちらを触っているのかが混乱しにくくなります。
よくある質問
アタックタイムやホールドの設定はどこにありますか?
本稿が pypdf・pdfminer.six・PyMuPDF の3系統で現行版・同梱版それぞれ全14ページを検索したかぎり、attack と hold はいずれも0件でした。時間軸に関して設定できるのは Release の3択だけ、というのがガイドから読み取れる範囲です。立ち上がりやホールドを素材ごとに追い込みたい場合は、それらを持つ製品(たとえば eMo D5 のゲートセクションや C1 の Gate/Exp モジュール)を選ぶことになります。
Range を深くしたのに、思ったほど静かになりません
まず数値の向きを確認してください。ガイドの言う「Range を増やす」は、目盛りとしては -6 から -12 のように下へ動かすことです。そのうえで、ガイドが挙げている次の一手はダッキングです。モード2(p.10)は、環境ノイズが不安定でリダクションが滑らかに効かない状況のための設定として説明されており、ダッキングゲインを手で上げながらフレーズ間で十分なリダクションが得られるところを探す、という手順が書かれています。ただし上げすぎるとフレーズの頭と終わりが切れるので、Ducking の ON/OFF を切り替えて結果を素早く見比べろ、とも書かれています。
サイドチェーンの HPF/LPF は、聞こえる音も削りますか?
削りません。ガイド p.7 は「HPF と LPF は PSE をトリガーするサイドチェーンソースにのみ作用する。実際の音には影響しない」と明記しています。検出だけを狙った帯域に絞り込むためのフィルターです。LINK ボタンを押すと HPF と LPF の値が連動して動きます。なお前述のとおり、これらの周波数の可変範囲はガイドの本文に記載がありません。
価格はどのくらいですか
日本の公式ページ(wavesjapan.jp)に表示されている永続ライセンス版の定価は 13,860円、waves.com 側の Full Price は 79ドルです(いずれも2026年9月5日時点。2026年9月6日に取り直しても同額でした)。2026年9月6日時点で公式の機械可読フィードに掲示されていたキャンペーンは「Buy 2 Get 2 Free Sale – August/September 2026」で、期間は 2026年8月25日から9月8日まででした。割引後の価格そのものは、観測が1時点ぶんしかないため載せません。現在の価格は公式ページで確認してください。
永続ライセンスのバンドルへの収録についても、2026年9月6日に3か所を突き合わせました。日本語ページの「収録バンドル製品」欄、英語ページの Included In タブ、そして公式の製品フィードです。3か所すべてに共通して出てくるバンドルは Mercury でした。ただし英語ページとフィードには Live・Live Plus・Pro Show など日本語ページに出てこない名前も並んでおり、3面の一覧は一致しません。そのため本稿はいくつのバンドルに入っているかを数えません。サブスクリプションのほうも同様で、英語ページとフィードは Waves Essential と Ultimate の両方を挙げますが、日本語ページのサブスクリプション欄に付いているバッジは Ultimate だけでした(同日取得)。バンドルもサブスクリプションも構成は改編されるので、購入前に公式ページで現在の収録内容を確認してください。
まとめ
- PSE はしきい値の上では何もしない。混ざったノイズを引くのではなく、混ざる時間そのものを短くする道具である。
- Range(-60〜0 dB)は減衰の行き止まりを決める値で、これより深くは下がらない。「Range を増やす」は目盛りとしては下へ動かすことなので、向きを取り違えない。
- ダッキングは SC SOURCE の状態で別の仕事に変わる。INT では検出部を安定させ、EXT では外部トリガーで減衰を足す。



つまみが少ない製品ほど、資料を正確に読めているかで差が出ます。それと、同梱のマニュアルが最新とはかぎらない。この製品は現行版で機能がひとつ増えていました。
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