この記事では、Waves Bass Slapper が「サンプルを鳴らす」だけの音源とどこで違うのかを、公式ユーザーガイドの記載だけで分解します。フレットボード上のポジションという概念、Slap と Pull を弦の境界で切り替える仕組み、レガートの5モードが何を段階的に外していくのか、そして Low Boost だけが処理チェーンを迂回する理由までを扱います。
先に、最も間違われやすい点を一つ。名前から音量やアタックを加工するエフェクトだと思われがちですが、Bass Slapper はエフェクトではなく、MIDI キーボードでベースギターを弾くためのサンプルベース仮想楽器です。公式ユーザーガイドの冒頭がそう定義しており、Waves の製品ページでもバーチャルインストゥルメントとして扱われています。既存のベーストラックに挿すプラグインではありません。
以下に出てくる範囲・モード名・セクション構成は、すべて公式ユーザーガイド(英語版)の記載であり、編集部の実測値ではありません。この資料には2つの版があります。①Wavesが現在配布している版(全24ページ。PDFの作成日は2017年11月29日)。以下ではこれを「現行ガイド」と呼びます。②製品に同梱されている版(全22ページ。作成日は2017年11月6日)。作成日は3週間しか離れていませんが、現行ガイドのほうが新しく、2ページぶん厚くなっています。本記事は現行ガイドを基準にしました。
本稿が両版を1行ずつ突き合わせたところ、削られた章はなく、増えたのは次の2種類でした。1つは新設された5つの節——WaveSystem Toolbar(現行p.21)、Sample Libraries(同p.21)、Tune(同p.22)、Velocity(同p.22)、Save MIDI Mapping(同p.23)。もう1つは既存の節への追記で、Amp Typeドロップダウン(現行p.11)、アンプの電源を切ったときの挙動(同)、EQがアンプの一部であること(同)、Positionが弦をまたぐ同時発音を左右すること(同p.13)、Positionはホストのオートメーション不可であること(同p.17)の5点です。ページが2つ増えた内訳は単純ではありません——新設5節が p.21〜23 の3ページを使う一方、Standalone の節が同梱の p.21〜22(2ページ)から現行の p.24(1ページ)へ詰められており、差し引きで +2 になっています。追記5点は本体内(本体の終わりは両版とも p.20)なのでページ数を増やしていません。なお Welcome の定型文・Navigating the Presets・Standalone / Preferences の節は、増減ではなく書き換えが入っています。このうち製品の理解が変わる9点(WaveSystem Toolbarの節を除く全部)は、以下の本文に織り込みました。価格の項だけは公式サイト(製品ページと、Waves 公式の製品フィード)の表示です。
カホベース音源の善し悪しは、音の良さより「どのサンプルが選ばれるか」で決まります。この製品はそこに設計の重心を置いています。
この記事でわかること
- Bass Slapper がエフェクトではなくサンプルベースの仮想楽器であること、そのライブラリの構成
- Position Selector(11段・各5フレット)と Slap/Pull スライダーが、鳴るサンプルをどう決めているか
- Legato Type の5モードが、実機の物理制約をどの順番で外していくか
- Low Boost・Sub Octave・Direct・Amp の4系統が信号フロー上でどこを通るか
Bass Slapperとは|何を解決する製品か
公式ガイドは、この製品の狙いを一文で書いています。ベテランのベーシストが弾くのと同じやり方で音符を鳴らすこと。単に音程を出すのではなく、フレットボード上の正しい位置と、それに対応するアーティキュレーションの選択まで込みで再現する。その結果として「手動でレイヤーを選ばなくても自然なサンプルが得られる」というのが公式の主張です。エンジンは Waves Sampler Engine(WSE)と呼ばれるマルチサンプルエンジンです。
そもそもスラップとは何か、についてもガイドは定義を置いています。弦がフレットに跳ね返ることで生まれる打楽器的な音に焦点を当てた奏法で、親指の側面で弦を叩き、人差し指か中指で弦を引っ張ってフレットに当てる。結果として、鋭いアタックのあとに速いディケイが続く。ガイドはこれを「ある意味でバスドラムとスネアの両方の音に似ている」と表現しています。1970年代のファンク・ディスコ・ポップのシーンで Larry Graham、Louis Johnson、Bootsy Collins といったベーシストによって広まった、というのが公式の説明です。
サンプルは全て Or Lubianiker というライブ/セッションのベーシストが録音しています。ガイドは、本人が選んだベース・弦・プリアンプを使い、彼のシグネチャーサウンドを念頭に録音したこと、そしてスラップ技術に対する彼の技術的理解がレガートとアーティキュレーションのシステムの土台になったことを明記しています。奏者が音を出しただけでなく、ロジックの設計まで関与しているという書き方です。
ライブラリの規模は3,700 を超えるサンプル。ガイドが挙げているカテゴリーは次の6種類です。
- スラップのサンプル
- 人差し指・中指によるプルのサンプル
- ハンマリングオンとプリングオフ(レガート)のサンプル
- パーカッシブなサンプル
- リリースのサンプル
- スライドと特殊効果のサンプル
これらは全て、複数のベロシティレイヤーとラウンドロビンで収録されています。さらにライブラリは Standard と High Definition の2種類が用意されており、ガイドによれば中身は同一で違うのは品質とファイルサイズだけ。ノートパソコンで作って別のスタジオでミックスする、といった運用のために分けられています。ライブラリを切り替えてもプログラミングは維持されると明記されています。
コンポーネントについても書かれています。Bass Slapper はステレオ専用の仮想楽器プラグインで、DAW 上ではバーチャルインストゥルメントのメニューに現れます。加えて、ASIO(Windows)または Core Audio(Mac)を使うスタンドアロンアプリケーションとしても動作します。
設計思想:なぜこの効き方をするのか
ポジションという概念が中心にある
画面の中央には、24フレット・5弦のベースのネックが置かれています。ここには赤くハイライトされた5フレット幅のポジション表示があり、音符を弾くとサンプルされた音の正確な位置がフレットボード上に視覚表示されます。任意のフレットの弦をクリックすれば、その音が表示されます。
フレットボードの上には11個の数字が並んでいて、これが Position Selector です。ガイドの説明は明快で、各選択肢が5フレット分の範囲を表し、その範囲の中で「実際のベース奏者が演奏するとおりに」音が選ばれる。なぜこれが要るのか。理由も書かれています。弦どうしは同じ音をいくつか共有しているからです。同じ音程でも、どの弦のどの位置で押さえるかで音色が変わる。Position Selector は、その音色のバリエーションを探るための入口だ、というのが公式の位置づけです。
推奨は「弾いている音の音域に対応した値に合わせる」こと。理由は音色の好みではなく、その音域の中で自然に聴こえるレガートとアーティキュレーションの選択が働くようにするためだとガイドは書いています。設定によって同じフレーズがまるで違う響きになる、とも付け加えられています。
現行ガイド p.13 には、もう1つ実務で効く記述が追記されています。Position は、弦をまたいだ同時発音の可否まで決めているという話です。2つの音を同時に鳴らしたいのにそれができないことがあり、原因は「今の Position では、その2音が同じ弦に載っている」から。解決策としてガイドが挙げているのは、Position を動かして2音が別々の弦から鳴るようにすることです。和音が鳴らないときに音色の設定を疑っても解決しない、という指摘になっています。この段落は同梱の2017年11月6日版にはありません。
操作方法にも制限があります。現行ガイド p.17 の注記によれば、Position コントロールはホストからオートメーションできません。曲中で正確に切り替えたい場合は、スライダーを MIDI コントロールに割り当てるか、Keyswitch Editor を使ってサンプル単位で正確なポジション変更を行う——というのがガイドの示す代替手段です。これも現行ガイドで追記された注記です。
Slap と Pull を弦の境界で分ける
ベース本体の弦の下にあるスライダーが Slap/Pull です。これは効き方の強さを決めるつまみではなく、選んだ弦の範囲に対して、どちらのアーティキュレーションを既定にするかを決める境界線です。
ガイドが挙げている例そのままに説明すると、D弦を選んだ場合、D弦とG弦で弾かれるサンプルは全て Pull になり、それ以外は全て Slap になります。実際の奏法どおり、低い側の弦は親指で叩き、高い側の弦は指で引っ張る、という分担がそのまま設定になっているわけです。公式の初期設定の推奨は4番目の弦(D)で、そこから試せ、と書かれています。
レガート5モードは「物理制約をどこまで守るか」の目盛り
Legato Type は5つのモードを持ちます。ガイドの各説明を並べると、実機の制約をどこまで守るかという一本の軸に沿って並んでいることが分かります。
| モード | 公式ガイドの説明 |
|---|---|
| Realistic | Position 設定を使い、文脈に応じてレガート/非レガートのサンプルを生成する。直前と同じ弦で新しい音を弾くと、実機では同じ弦で2音を同時に鳴らせないため、弾かれた音をミュートする |
| Extended | 同じ弦でのレガートを、Position Selector が定めるフレット範囲を超えてトリガーできる。広いレガート範囲のフレーズで有効 |
| Force Legato | 現実的な制約や特定の弦を無視してレガートサンプルをトリガーする。実機では不可能な、弦をまたぐ連続したハンマリング/プリングが弾ける。奏者がずっとタッピングしているような響きになる |
| Always | 弾いた音が重なっていなくても常にレガートサンプルをトリガーする。スラップとプルのサンプルが鳴らなくなるため、全体の音がかなり柔らかくなる |
| Off(Polyphonic) | レガートのルールを一切適用しない。実質的にポリフォニックになり、同じ弦でも全ての音を同時に鳴らせる。シンセ的な感触になる |
Realistic が守っているのは「同じ弦で2つの音は同時に鳴らない」という物理です。ここを外すと弦をまたぐタッピングになり、さらに外すとポリフォニックになる。ベース音源としてのリアリティと、鍵盤楽器としての自由度は、この製品では明示的にトレードオフとして設計されているということです。



打ち込みが不自然になる原因は、たいてい音色ではなく運指です。Position と Legato を放置したまま音色だけ探しても、たどり着きません。
Low Boost だけが処理チェーンを迂回する
ボディ上のつまみのうち、Low Boost の説明だけが他と毛色が違います。ガイドは「サンプルの低域とサブ帯域を強調するが、それらを処理チェーンへは送らない」と書いています。目的も明記されていて、複数のストンプやエフェクトで音が激変するプリセットでも、低域の応答が一貫して保たれるようにするため。
ガイドに載っている機能ブロック図でも、Low Boost の線だけがストンプ・アンプ・EQ・空間系をすべて飛び越えて、リミッターの手前まで引かれています。プリセットで遊んでも低音の芯が崩れない、という設計上の担保がここに置かれているわけです。
対照的なのが Sub Octave です。こちらは音域に応じて追従して音色が変わるサブオクターブのシンセレイヤーで、処理チェーンへ送られ、楽器内の全てのモジュレーションとエフェクトの影響を受けるとガイドは書いています。同じ「低音を足す」でも、通す経路が正反対です。
Direct と Amp は並列の2経路
Levels セクションの Direct と Amp は、音量バランスのつまみである以上に、経路の選択です。ガイドの定義では、Direct はアンプシミュレーションを通さずに処理チェーンを通ったサンプルのレベル。Amp は同じ処理を通ったうえで、最後にアンプシミュレーションのモジュールに入る経路のレベルです。
アンプ側については「8×10 のキャビネットのように音色を形作る」と具体的に書かれています。そしてこの経路は DI レベルと並列かつ独立で、Direct とは周波数特性もコンプレッション特性も異なる、と明記されています。公式の推奨手順はまずアンプかダイレクトのどちらかをメインの音色として選び、そこから少しずつ混ぜてバランスを探るというものです。最初から半々で混ぜない、という指示です。
アンプの中身を選ぶ道具もあります。Amp Type ドロップダウンメニューです。現行ガイド p.11 は「6種類のベースアンプ IR から選んで、ベーストーンのサイズと温かさを変える」と説明しています。GUI 上ではこのメニューが LEVELS セクションの Amp ノブのラベル位置に置かれていて、DIRECT/[AMP Type メニュー]/LIMITER/OUTPUT という並びになります。現行ガイド p.11 の図でメニューを開いた状態が写っており、そこに見えるのは Amp 810c(チェック付き)/Amp 810d/Amp V115/Amp 410d の4つです。本文が「6種類」と書いているので、図に写っているのはその一部ということになります。残り2つの名称はガイドに書かれていないので、ここでは挙げません。
この節にはもう2つ、経路を理解するうえで効いてくる但し書きが付いています。1つ目、アンプの電源を切ると Direct と Amp のコントロールがバイパスされ、Amp Type メニューも無効になります。つまり Power の Amp トグルは「アンプ側だけを止める」スイッチではなく、Levels の2つのレベルつまみごと迂回させるスイッチです。2つ目、EQ はアンプの一部であり、アンプを切るとバイパスされます。4バンド EQ をペダルボードの一部として独立に効かせているつもりでも、アンプを切った瞬間に一緒に外れる、という関係です。
この3点(Amp Type・アンプ電源時の挙動・EQ とアンプの関係)は、いずれも現行ガイドで追記された記述で、同梱の2017年11月6日版には対応する文がありません。
全パラメーター
公式ガイドの記載順に整理します。範囲の数値が書かれていないコントロールが多く、その場合は「記載なし」としています。推測で埋めていません。
Tone セクション(ベース本体の上のコントロール)
| コントロール | 役割 | 範囲 |
|---|---|---|
| Slap/Pull | 選んだ弦の範囲に対して既定のアーティキュレーション(SlapかPull)を決める境界 | 弦の位置で指定(推奨初期設定は4番目の弦=D) |
| Vintage/Modern | 左いっぱいで低域の豊かな温かいヴィンテージトーン、右いっぱいで細部の出るモダンなパンチのある音 | 記載なし(連続可変のノブ) |
| Low Boost | サンプルの低域とサブ帯域を強調する。処理チェーンへは送らない | 記載なし |
| Sub Octave | 音域に応じて追従するサブオクターブのシンセレイヤー。処理チェーンを通る | 記載なし |
| Release | 音を止めたり次の音へ移るときに実機が出す機械的なノイズ(リリースサンプル)の量 | 記載なし |
Release については補足があります。リリースサンプルはすべてのサンプルの最後にトリガーされ、音ごとに固有のものが用意され、しかも全ベロシティで収録されている。キーを離した時点で、その音に対応するものが鳴ります。
EQ・Levels・Power
| コントロール | 役割 | 範囲・選択肢 |
|---|---|---|
| EQ | 4バンドEQ。処理チェーン上ではペダルボードの「Stomps」と「Effects」のあいだに位置する。アンプの一部であり、アンプを切るとバイパスされる | Bass/Low Mid/High Mid/Treble のブースト・カット |
| Direct | アンプシミュレーションを通らない直接音のレベル | 記載なし |
| Amp | アンプシミュレーション経路のレベル(8×10キャビネット相当の音色) | 記載なし |
| Amp Type(ドロップダウン) | アンプIRの選択。ベーストーンのサイズと温かさを変える。アンプの電源を切ると無効になる | 6種類のベースアンプIR(p.11の図で確認できるのは Amp 810c/810d/V115/410d の4つ。残り2つの名称はガイドに記載なし) |
| Limiter | 出力リミッターのスレッショルド。設定を高くするほどゲインリダクションが増える | 記載なし |
| Output | 楽器全体の出力レベル | 記載なし |
| Power | セクションを個別に無効化する5つのトグル。無効化するとCPU負荷が下がる。Ampを切ると、DirectとAmpのコントロールがバイパスされAmp Typeも無効になる | Tone/Pre FX/Amp/Post FX/Limiter |
フレットボードとMIDI/アーティキュレーション
| コントロール | 役割 | 範囲・選択肢 |
|---|---|---|
| Position Selector | 演奏ポジションを選ぶ。各選択肢が5フレット分の範囲に対応する。弦をまたぐ同時発音の可否もここで決まる(同じ弦に載る2音は同時に鳴らせない)。ホストのオートメーションは不可(MIDIコントロールへの割り当てか Keyswitch Editor を使う) | フレットボード上の11個の数字 |
| Position(スイッチ) | ポジションを固定するか、弾いた音に応じて動かすか | Manual/Adaptive(Adaptive では Position スライダーは無効) |
| Dead-notes Trigger | 鍵盤の全ての音を、フレットボード上の位置とアーティキュレーション設定に応じたデッドノートのサンプルに置き換える | オン/オフ(オートメーション不可・MIDIアサインは可能) |
| Keyswitch Editor | 最低オクターブのキーにサンプルとアーティキュレーション操作を割り当てる。工場出荷時の設定つき | C0〜B0 |
| Round Robin Mode | ラウンドロビンの再生順。オフのときは常に最長のサンプルが鳴る | forward/reverse/random/off |
| Transpose | 受信したMIDIノートに半音単位のピッチオフセットを加える | −24 〜 +24 半音 |
| Tune | 楽器全体のファインチューニング。標準では A=440 に調律されている。他の調律法に合わせたり、セッション内の他の楽器と合わせたりするのに使う | 範囲 −100〜100 セント/初期値 0/リセット値 0/連続可変(現行ガイドの例:A=442 に合わせるなら +8 セント、A=432 なら −32 セント) |
| Velocity(上部バーのVELボタン) | プリセット読み込み時にベロシティ設定を引き継ぐかどうか。チェックの向きの説明が現行ガイド内で食い違っている(下の注記を参照) | チェックのオン/オフ |
| Velocity to Volume | ベロシティレイヤー間で再生音量がどれだけ違うかを決める | 0(全レイヤーが元のレベルで鳴る)〜 10(音量差が極端になる) |
| Velocity Curve | ベロシティ応答のカーブを対数から指数まで変える | 記載なし |
| Modulation | ピッチモジュレーションの深さと速さ。Depth は既定でモジュレーションホイールに割り当てられる | Depth/Rate |
| Sustain Pedal | サステインペダルの有効・無効。使用中は Sustain LED が点灯する | オン/オフ |
| Open Strings | 対応する開放弦の音程で弾いたとき、Position 設定に関係なく開放弦のサンプルを強制する4つのトグル | E1/A1/D2/G2 |
| Legato Type | レガートサンプルのトリガー方法(上の表を参照) | Realistic/Extended/Force Legato/Always/Off(Polyphonic) |
Tune について補足します。この製品のガイドで、範囲と初期値がラベル付きの行で明記されているコントロールは Tune だけです。現行ガイド全24ページを検索したところ、「Range:」「Initial Value:」「Reset Value:」という書き方が出てくるのは p.22 の Tune の1か所だけでした(Transpose の「−24〜+24 半音」と Velocity to Volume の「0〜10」は地の文で書かれていて、ラベル付きの行ではありません)。上の表で「記載なし」が並ぶのは、そういう資料だからです。この節は現行ガイドで新設されたもので、同梱の2017年11月6日版には Tune の項目そのものがありません。
Velocity(VEL)ボタンについては、現行ガイドが2か所で逆のことを書いています。クイックスタート(p.7・手順5)は「キーボードのタッチが決まったら、上部バーの VEL ボックスのチェックを外せる。これでプリセットを読み込んでもベロシティ設定が変わらなくなる」。一方、p.22 に新設された Velocity の節は「Velocity ボタンがチェックされているとき、プリセットを読み込んでもベロシティ設定は変わらない。チェックが外れているとき、ベロシティ設定はプリセットの指定値に読み込まれる」。チェックの向きと結果の対応が真逆です。どちらが実機の挙動かは公式資料からは決められないので、本記事では断定しません。実際に触るときは、プリセットを1つ読み込んで設定が動くかどうかで確かめるのが確実です。
ペダルボード(7個)
ペダルは全部で7個。最初の5個が信号フロー上でアンプの前、残り2個がアンプの後に位置します。FX Pre の結線順もガイドに明記されていて、Compressor → Overdrive → Wah → Phaser → Chorus の順です。各ペダルはパラメーターのコントロールとバイパスボタンを持ち、ライブ使用やオートメーションにも対応する、と書かれています。
| ペダル | 位置 | 公式ガイドが挙げているコントロール |
|---|---|---|
| Compressor | Pre 1 | Amount(どれだけの信号を圧縮するか)/Ratio(圧縮の量) |
| Overdrive | Pre 2 | Mix(クリーンとドライブ音のバランス)/Gain(歪みの量)/Hi-Gain スイッチ |
| Wah | Pre 3 | Trigger(In=入力信号に反応/Key=MIDIノートで起動)ほか。※下の注記を参照 |
| Phaser | Pre 4 | Mix/Depth(モジュレーションの量)/Rate(モジュレーションの速さ) |
| Chorus | Pre 5 | Mix/Depth |
| Delay | Post 1 | Mix/Feedback(FDBK)/Time |
| Reverb | Post 2 | Mix/Time(残響の減衰時間) |
Wah については、公式ガイドの本文と、同じガイドに載っている画面写真が一致していません。本文の箇条書きは Trigger・Mix・Freq・Sens・Res・Attack の6項目を挙げていますが、画面写真に写っているノブは SENS・FREQ・RES・SPEED・TRIGGER(IN/KEY)です。本文が触れている Speed が写真にはあり、本文の Mix と Attack は写真では確認できません。どちらが現行の仕様かをこの記事では断定しません。確実に言えるのは、Trigger が In と Key の2モードを持ち、In では入力信号(ベロシティに反応)、Key では受信した MIDI ノートでフィルターエンベロープが起動する、という点です。
Delay の Time だけは動作が特殊なので補足します。ガイドによれば、1つのノブで Sync(4分音符などの音価)と Free(ミリ秒)の両方を扱います。12時の位置が Free の最も遅い値で、そこから時計回りに回すとレートが上がる。12時より反時計回り側はホストに同期した値になり、回すほどホストの BPM に紐づいた音価が細かくなっていきます。
用途別・設定の始点
公式ガイドの「Getting Started」と各節に書かれている推奨手順だけを並べたものです。ガイド自身が「慣れたら好きなように組み替えてよい」と断っている、あくまで出発点です。
| やりたいこと | 触るところ | 起点 |
|---|---|---|
| とりあえず音を出す | インストゥルメントトラックに挿す/スタンドアロンを起動する | デフォルトプリセットが読み込まれる。FX セクションは初期状態では隠れている(左下の+で開く) |
| 基本の音色を決める | ボディ上の Tone コントロール | Vintage/Modern で骨格を決める |
| 音色と音質を詰める | Fretboard の Position | 弾いている音域に合わせる |
| 奏法の割り振りを決める | Slap/Pull スライダー | 4番目の弦(D)から試す |
| アンプ感を作る | Levels の Direct と Amp | どちらか一方をメインに決めてから混ぜる |
| 鍵盤のタッチを合わせる | MIDI セクションの Velocity Curve | 決まったら上部バーの VEL を操作して、プリセット読み込みで設定が動かないようにする。ただしチェックをどちら向きにするかは現行ガイド内で記述が割れている(p.7は「チェックを外す」、p.22は「チェックされているとき変わらない」)。プリセットを1つ読み込んで、実際に動くかどうかで確かめる |
| 他の楽器や別の調律に合わせる | Tune | 0(=A=440)から動かす。A=442 なら +8 セント、A=432 なら −32 セント。範囲は −100〜100 セント |
| 開放弦の響きを優先したい | Open Strings のトグル | E1/A1/D2/G2 の各トグル |
| CPU 負荷を下げたい | Power の5トグル | 使っていないセクションを無効化する |
初回起動時の注意も書かれています。プラグインを初めて立ち上げると「Waves のインストゥルメント用サンプルライブラリのフォルダを指定してください」というプロンプトが出ます。指定したパスはプラグインの環境設定に保存されます。フォルダに WSF リソースを持つ有効な Waves のサンプル楽器ファイルが入っていないと、OK ボタンがグレーアウトして進めません。



音が出ないという相談の第一候補がサンプルフォルダの指定です。音源系は音色を疑う前に、まず参照先を確認してください。
似た製品との使い分け
Waves には指弾きに焦点を当てたベース音源 Bass Fingers もあり、公式製品ページはこれを「キースイッチによるアーティキュレーションを備えたフィンガースタイルのマルチサンプルベース」と説明しています。奏法という軸で分かれた別製品という関係です。ただし両者の内部仕様の差については、この記事では踏み込みません。Bass Slapper のユーザーガイドが Bass Fingers を扱っていないからです。詳細は公式ページで確認してください。
ひとつ断っておくと、現行ガイドに「Bass Fingers」という語は1度だけ出てきます(同梱の2017年11月6日版では0件)。場所は p.24、見出しが「Bass Slapper Standalone Application」の節の1文目で、「The Bass Fingers application can be used as a standalone instrument.」となっています。ただし直後の文は「Bass Slapper.exe(Win)or Bass Slapper.app(Mac)」で、同梱版の同じ文は「The Bass Slapper application—」でした。つまりこの1件は、Bass Slapper と Bass Fingers を比べた記述ではなく、現行ガイドの改稿時に製品名が入れ替わったまま残っているものと読めます。本記事はこれを比較の根拠にはしません。
もう一つの使い分けは、この製品の内部にあります。内蔵ペダルと、単体のプラグインのどちらで処理するかという判断です。ガイドは FX Pre の5つについて「スラップ奏法を引き立てるために専用に設計された」と書いています。汎用のコンプやワウではなく、この楽器のために作られたもの、という位置づけです。一方で、内蔵ペダルには範囲や単位が公開されていないパラメーターが多く、数値で管理したい工程には向きません。音作りの一部として内側で完結させるか、素の音を出して外側で仕上げるか——この境界をどこに引くかが、実務上の判断になります。
ライブラリの使い分けもここに入ります。Standard と High Definition は中身が同じで品質とサイズだけが違い、切り替えてもプログラミングは維持される。制作環境と仕上げ環境が別なら、これは実利のある切り替えです。切り替え手順は現行ガイド p.21 に新設された「Sample Libraries」の節に書かれています——Samples ボタンを押して別のサンプルライブラリのフォルダを指定する(SD から HD へ、という例が挙がっています)。一度選んだライブラリは、次に別のものを読み込むまで既定として残ります。
もう1つ、現行ガイド p.23 に新設された「Save MIDI Mapping」の節にも触れておきます。外部の MIDI コントローラーは「Learn」機能で割り当てられますが、その設定はKeyswitch Editor の設定ごと保存できる——WaveSystem ツールバーの Save メニューから「Save MIDI Map To New File」を選ぶ、と書かれています。納得のいく割り当てができたら、それを既定の MIDI マップに設定しておく。Position がホストのオートメーションに乗らない製品なので、MIDI 側の割り当てを保存できるかどうかは実務では効いてきます。この節も同梱の2017年11月6日版にはありません。
価格について。Waves Japan の製品ページ(wavesjapan.jp)に表示されている永続ライセンス版の定価は 13,860円です(2026年9月6日取得)。waves.com 側の希望小売価格は 79 米ドルでした(同日・公式の製品フィード)。同じページには割引後の価格も併記されていましたが、本稿の価格の観測は1時点ぶんだけなので、実売の相場は書きません。購入前に必ず公式ページで現在の価格を確認してください。バンドルへの収録状況も構成が改編されるため、同じく公式ページでの確認をおすすめします。
よくある質問
録音済みのベーストラックに挿して使えますか?
そういう製品ではありません。公式ガイドは Bass Slapper を「MIDI キーボードでベースギターを演奏できるサンプルベースの仮想楽器」と定義しており、ノートのトリガーとコントロールチェンジのために MIDI データを受け取る、と書かれています。オーディオを加工するプラグインではなく、音を発生させる側です。
モノラルでは使えないのですか?
公式ガイドのコンポーネントの項は「Bass Slapper はステレオ専用の仮想楽器プラグイン」と書いており、モノラルのコンポーネントには触れていません。
キースイッチは何ができますか?
Keyswitch Editor で、最低オクターブ(C0〜B0)のキーに特定のサンプルとアーティキュレーション操作を割り当てられます。ガイドはこのオクターブが他の用途で使われていないため、割り当ててもサンプルの演奏に影響しないと説明しています。使い方には順序があり、アーティキュレーション操作を割り当てたキースイッチは先にキースイッチを押さえてから音を弾く。サンプルを割り当てたキースイッチは通常のキーと同じでベロシティに反応します。
出力レベルはどこで確認しますか?
ディスプレイの右側に出力レベルのインジケーターがあります。ガイドはこのメーターに目盛りが振られていないことを明記したうえで、出力が極端に高いか低いかは分かるので、それを見てコントロールを調整せよと書いています。上部にはクリップのインジケーターがあり、クリップが起きると赤く光ります。クリックするとリセットされます。
まとめ
- Bass Slapper はエフェクトではなく、3,700 を超えるサンプルを持つステレオ専用の仮想楽器。既存トラックに挿すものではない。
- 音色を決めているのは Position Selector(11段・各5フレット)と Slap/Pull の境界。音色探しより先に運指の設定を合わせる。
- Legato Type の5モードは、実機の物理制約をどこまで守るかの目盛り。リアリティと自由度はトレードオフとして設計されている。
- Levels には 6種類のアンプIRを選ぶ Amp Type メニューがあり、アンプの電源を切ると Direct・Amp・Amp Type・EQ がまとめて外れる。EQ はペダルボードの一部ではなくアンプの一部。
- 範囲と初期値の両方が書かれているコントロールは Tune だけ(−100〜100 セント/初期値0)。範囲だけなら Transpose(−24〜+24 半音)と Velocity to Volume(0〜10)にもあるが、初期値は書かれていない。残りは「記載なし」で、推測では埋めていない。



この音源で覚えることは、つまみの名前より「どの弦のどこで弾いているか」です。そこが合っていれば、あとの処理は普段どおりで足ります。
関連記事
- コンプレッサーの基礎 — 内蔵の Compressor ペダルを外側の処理に置き換えるとき
- Waves Q10 Equalizer — 内蔵の4バンドEQより細かく帯域を指定したいとき
- Waves S1 Stereo Imager — ステレオ専用音源の広がりを整理する
- VSTプラグイン解説の記事一覧



コメント