Waves H-Compの設計思想|Punchが効き方を変える仕組み

この記事では、Waves 🎛️H-Comp 📖Hybrid Compressor が「なぜあの効き方になるのか」を、Waves 公式サイトが配布している現行の公式ユーザーガイド(全10ページ)を土台に分解します。プラグインに同梱されている2011年版のガイド(全16ページ)とは、Limiter・Mix・Analog の3か所で記述が変わっているので、そこは版を明示して両方を示します。ガイドに載っていない仕様については、公式製品ページ(wavesjapan.jp)と公式の解説記事を、そのつど出典を分けて示します。📖アタックタイムを速くしたまま📖トランジェントを残す 📖Punch、圧縮量を変えても出力レベルをおおよそ保つ自動📖メイクアップゲイン、そして立ち上げた時点でアナログモード 2 が乗っているという既定値。操作手順ではなく、その手前にある「なぜそう作られているか」を扱います。

先に、出回っている解説との食い違いをひとつ。H-Comp のアナログモードを「Opto / FET / VCA / Transformer」という名前で説明する資料がありますが、公式ユーザーガイドには、本文にも図にも、4つのモードの名称も、どの機種を模したかの記載もありません。それどころか現行ガイドは p.9 で「これらの設定は一般的なアナログのエミュレーションであり、特定の機器をモデリングしたものではない(they are not modeled after specific devices)」と明記しています。ガイドが与えているのは Off とモード 1〜4、初期値は 2、そして5つの設定がそれぞれ近似している「状態」(🎵トランスまたは真空管/トランジスタ/ドライブされたトーン2種/Off)です。公式製品ページにも、独立した音楽メディアにも、モードと機種の対応表は見当たりません。本記事はモードの名称について、ガイドに記載のある範囲だけを扱います。

以下に挙げる範囲と初期値はすべて現行の公式ユーザーガイドの記載で、編集部の実測値ではありません。コンポーネントは H-Comp Mono(📖モノラル入出力)と H-Comp Stereo(📖ステレオ入出力)の2種類。価格は、公式日本語サイト(wavesjapan.jp)の製品ページに単体永続📖ライセンスの通常価格 26,180円(税込)が表示されています(2026年9月時点)。本稿が価格を確認できたのはこの1時点だけなので、実売がどのあたりに落ち着くかという幅は書きません(定価のまま扱う販売店もあります)。現在の価格は必ず公式ページで確認してください。

カホ

アタックを遅くすればトランジェントは残る。でも圧縮の反応は遅れる。この二律背反に、H-Comp は Attack とは別のつまみで答えを出しています。まずそこから見ていきます。

目次

この記事でわかること

  • Punch が「速いアタック」と「トランジェント保持」を切り離している仕組み
  • 自動メイクアップゲインがある機械で Mix をどう読むか。あわせて、📖GR メーターの定義がガイドにどう書かれているか
  • Analog の初期値が Off ではなく 2 であることの意味と、A/B 比較への影響
  • 各コントロールの範囲と初期値(現行の公式ユーザーガイド記載・出典ページ付き)と、ガイドには無く公式製品ページにだけ挙がっている機能(外部📖サイドチェーン)

H-Compとは|何を解決する製品か

出自から入ります。公式ガイドの製品概要(p.3)は、H-Comp が属する Waves Hybrid Line の成り立ちをこう説明しています。まず 🎛️SSL 4000 Collection、V-Series、The API Collection で🎵クラシックなハードウェアをモデリングしたときに学んだことを全部持ち寄る。次に「昨日の音の良いところと今日の技術を混ぜ合わせる」プラグイン群を構想する。最後にそれらの要素をまとめてプラグインとして実現する——その結果が Hybrid Line だ、という順序です。

そのうえで H-Comp 自身は「トランス、真空管、トランジスタのモデリングされた挙動を、プラグインでなければ得られない力と精度と組み合わせたダイナミクス処理」と定義されています。ここで押さえておきたいのは、この定義が「特定の実機1台の複製」を名乗っていない点です。本稿が参照した公式ユーザーガイドには、H-Comp が何という機種のモデルであるかは出てきません。

「モデリングされた挙動」と「プラグインでなければ得られない力と精度」を並べるこの立て付けが、そのままコントロールの構成に出ています。ガイドの「概念と用語」の節(1.3・p.4)は、標準的なコンプレッションのパラメーター(📖Threshold・Attack・📖Ratio・📖Release)に加えて、独自の音作りを可能にするコントロールとして Mix・Limiter・Punch・📖Sync・Analog Modes の5つを挙げています。この5つが、以降で見る効き方の癖をほぼ決めています。

この5つのうち、Limiter と Sync の定義はここで済ませておきます。Limiter は「出力📖リミッターを有効にする」もので、現行ガイドの同じ節(p.4)はそのすぐ後ろに「リミッターがオフに切り替えられると、代わりにクリッパーに置き換わる」と書いています。オフが「何もしない」ではない、というのがこのコントロールの要点です(同梱の2011年版ガイドでは、この一文が無く、Limiter は「0dBFS を超えるピークを防ぐ出力リミッターを有効にする」と定義されていました。数値の 0dBFS は現行ガイドからは消えています)。Sync は「ホスト同期と 📖BPM 同期のリリースタイム制御を提供する」もの。残る Punch・Mix・Analog Modes の3つは、効き方そのものを左右するので章を分けて扱います。なお、ガイドのこの一覧に入っていない機能が公式製品ページには1つ挙がっています(外部サイドチェーン)。これは設計思想の最後に、出典を分けて扱います。

設計思想:なぜこの効き方をするのか

Punch:アタックタイムとトランジェント保持を切り離す

ガイドの Punch の説明は「非常に速いアタックタイムであっても、トランジェントが📖コンプレッサーを通り抜けることを許す」(p.4)という言い方をしています。この「であっても」という譲歩が、前提を明かしています。アタックタイムを詰めるほど立ち上がりは削られる——だからトランジェントを残したければアタックを遅くする、という関係が前提にある。圧縮の反応速度とトランジェントの残り具合が1本の軸に乗っている状態です。

Punch は、この1本の軸を2本に割るためのコントロールです。p.8 の定義はこうです。「アタックタイムに関わらず、トランジェントの『通り抜け』の量を制御する。値が高いほど多くのトランジェントが圧縮を迂回し、結果としてよりパンチのある音になる」。アタックタイムに関わらず、という条件節がこのつまみの全てです。圧縮が始まる速さは Attack が決め、その圧縮をどれだけトランジェントに素通りさせるかは Punch が決める。役割が分かれています。

操作の順番についても、ガイドは立場を明示しています。クイックスタートガイド(p.5)の並びは「Attack で圧縮が始まる速さを設定する」→「トランジェントの情報が失われたら、Punch を使って取り戻す」です。トランジェントが消えたときの一手目として、アタックを緩めるのではなく Punch を上げることが想定されている、と読めます。

範囲は 0 から 30、初期値は 1。ゼロではありません。プラグインを挿した時点で、わずかにトランジェントが通る設定から始まります。

カホ

アタックが速すぎたかな、と手が Attack に伸びるのは他のコンプで身についた癖です。この機械には、その用途のつまみが別に付いています。まず Punch を上げてから、それでも足りないかを判断してください。

自動メイクアップゲインと Mix。あわせて GR メーターの定義

p.7 の Mix の項に、短いけれど効き方を左右する注記があります。「H-Comp は自動メイクアップゲインを備えており、これは非圧縮の信号と圧縮された信号の両方について、おおよそ同じレベルを維持するよう設計されている」。メイクアップゲインのつまみが見当たらないのは、載せ忘れではなく、自動で処理されているためです。

この一文から、実務上の帰結が2つ出てきます。そのうえで、メーター表示についてガイドが別のページで独立に定めている定義を、読み違えやすいので並べて置いておきます。

ひとつめ。Threshold を動かしても、比較が音量差に汚されにくい。メイクアップを手で埋める運用では、しきい値を下げるたびに落ちた分を足し直さないと、「圧縮が深くなった」のか「音量が下がった」のかを耳で判別できません。ここが自動で処理されるぶん、圧縮量そのものの比較に集中できます。

ふたつめ。Mix が音量の📖フェーダーにならない。📖パラレルコンプレッションでは、圧縮側と原音側のレベルが揃っていないと、ブレンドのつまみが音量調整に化けます。非圧縮と圧縮がおおよそ同じレベルに保たれる設計なら、Mix を回して変わるのは主に質感の配分です。ガイドが Mix を「通常なら専用のセットアップと追加📖トラックが必要になるパラレルコンプレッションを簡単に実現する手段」(p.4)と位置づけているのは、この土台があってこそ成立する説明です。

そしてもう一点、📖GR メーターの定義。これは上の自動メイクアップゲインの注記(p.7)とは別に、p.10 に独立して書かれているものです。ガイドは両者を因果で結んではいませんが、実務では続けて効いてくるのでここに置きます。p.10 の記載はこうです。「GR モードは IN と OUT モードとは異なるメータリングスケールを用いる。GR は減衰の総量を表示し、そこには圧縮、Mix の位置、リミッターの動作が織り込まれている」。Mix の位置も、Limiter の動作も、表示される減衰量に織り込まれるということです。表示されているのは「コンプ段の生のゲインリダクション量」ではなく、「最終的に信号がどれだけ減衰させられたか」です。この数字を、別のコンプレッサーの GR 表示と同じものとして扱わないでください。定義がここまで明示されている以上、比べるなら相手側の定義も先に確かめる必要があります。

カホ

「GR を 3dB に揃える」という手癖の人は、ここで一度立ち止まってください。この機械の 3dB は、Mix の位置とリミッターの動作を織り込んだ後の 3dB だと書かれています。数字の意味は、機械ごとに定義を確かめること。

Analog の初期値は Off ではなく「2」

p.9 の記載は「範囲:Off、モード 1 から 4/初期値:2」。p.6 のインターフェース図でも、Analog つまみには OFF・1・2・3・4 の5ポジションが刻まれています。名前は付いていません。

ここで効いてくるのが初期値の位置です。初期状態はモード 2、つまりアナログのキャラクターが乗った状態から始まります。素の状態が「色の付いていないデジタル圧縮」ではない、ということです。

これは音作りの判断に直接効きます。プラグインをバイパスして A/B を取ると、切り替わっているのは圧縮の効果とアナログモードの色の合計です。「思ったより太くなった」「思ったより硬い」といった印象のうち、どこまでが圧縮でどこからが色なのかを切り分けたいなら、Analog を Off にした状態を一度経由する必要があります。圧縮のかかり方だけを詰める工程と、質感を選ぶ工程を分けたほうが、判断が速くなります。

各モードが何をしているかについては、現行ガイドの p.9 に説明があります(同梱の2011年版ガイドでは、この項は「アナログのキャラクターモードを切り替える」の1行と範囲・初期値だけで、内訳はありませんでした)。まず総論として「アナログモデルは、特定の📖倍音を強調し、少量のノイズを加えることで、アナログ機器特有の温かみとドライブをもたらす。これらの設定は一般的なアナログのエミュレーションであり、特定の機器をモデリングしたものではない」。そのうえで、5つの設定がそれぞれ近似している状態が並びます。

  • 1:トランス、または真空管
  • 2:トランジスタ(初期値)
  • 3:ドライブされた真空管/トランジスタのトーン 1
  • 4:ドライブされた真空管/トランジスタのトーン 2、ノイズ付加なし
  • 5:Off — アナログ処理なし

ここで注意したいのは、これが回路方式の名前ではなく「近似している状態」の記述だという点です。ガイドは同じ段落で「特定の機器をモデリングしたものではない」と断っているので、モード 1 を「あのトランス入りの名機」と読み替えることはできません。📖歪み率や📖周波数特性といった数値も示されていないので、この記事でも書きません。クイックスタート(p.5)でも Analog モードは「コンプレッサーの音のキャラクターを変えるために試す」段階として、Mix の設定より後に置かれています。圧縮を決めてから色を選ぶ、という順序です。

ただし、加わるのは「色」だけではありません。上の総論のとおり、現行ガイド p.9 は Analog モデルが少量のノイズを加えると本文で明言しています。これは同梱の2011年版ガイドには無かった記述で、当時はメーカーの解説記事だけが触れていた点でした。公式解説記事(wavesjapan.jp)のほうも、Analog の 1〜4 について、モードごとに「異なるアナログスタイルのノイズと倍音特性を加える」とし、Analog ノブは「アナログ機器独特のノイズもシミュレート」するため、ノイズが気になる場合は Off にすればクリーンで透明度の高い処理になる、と書いています。ガイドと解説記事が同じことを言っている、という状態です。

初期値がモード 2 であることと、これは合わせて効きます。挿した時点で色だけでなくノイズも乗っている、ということだからです。実害が出やすいのは、📖フェードイン・📖フェードアウトや曲間、無音に近いパッセージのある🎵アンビエント、📖ソロの📖アコースティック楽器、ナレーションやセリフといった、背景が静かな素材です。何本も直列にすれば、そのぶん積み上がります。静けさを保ちたいトラックでは Analog を Off にする、という判断が要ります。逆に言えば、色を積極的に使いたいトラックでは、ノイズも含めて選んでいることになります。ここで効いてくるのがモード 4です。現行ガイド p.9 の内訳は、4 を「ドライブされたトーン 2、ノイズ付加なし」としています。無ノイズの選択肢は Off だけではないので、ドライブの質感は欲しいがノイズは載せたくない、という場合はまず 4 を試す手があります。なお、モードごとのノイズ量や倍音の量を示す数値は、ガイドにも公式解説記事にも出てきません。数値は書きません。

カホ

読み込んだ瞬間からモード 2 が乗っています。バイパス比較で聴いている差は、圧縮とアナログ色とノイズの合計です。切り分けたいなら Off を通る。これを知らないまま評価すると、何を聴いているのか分からなくなります。

Sync:リリースを「時間」ではなく「拍」で決める

Sync の設計理由は、ガイド p.4 が丁寧に書いています。適切なリリースを決めるには、圧縮の音そのものと、信号との音楽的な相互作用の両方に注意を払う必要がある。したがってリリースタイムは、ドラムの打点の間隔や、その他の鋭い立ち上がりの間隔と関係することが多い。言い換えれば、リリースタイムは曲の 📖BPM に対応することが多い——だから直感的な音楽の値でリリースを設定できるようにした、という筋道です。

実装は3モード。Host はホストアプリケーションの 📖BPM 設定に同期、🎛️BPM は手動設定の値に同期、📖MS はミリ秒での手動設定。初期値は 📖MS です(p.8)。Host と BPM のモードでは、Release の値表示が BPM の倍数(📖音価)に変わります。p.8 のリリースつまみの図には、両端の目盛りとして 1/64 と 2 Bar が刻まれています。その間にどの音価が並ぶかはガイドに一覧がありませんが、公式の解説記事(wavesjapan.jp)は範囲を「64分音符から2小節まで」とし、「付点音符や三連符にも対応」と書いています(下限の表記が資料で割れている件は、後述のよくある質問で扱います)。ミリ秒モードでの範囲は 3ms から 3sec、初期値は 100ms。BPM の読み出し表示は Off と 30〜300 の範囲を取り、初期値は Off です(p.9)。

Host に任せると何が変わるか。リリースの意味が「音がどれくらいで戻るか」から「次の打点までにどれくらい戻るか」に置き換わります。テンポの違う曲へ📖プリセットを持ち込んだときも、ミリ秒指定なら拍との関係がずれますが、音価指定なら関係が保たれます。

Threshold は時計回りで深くなる

細かい話ですが、最初に戸惑うところなので書いておきます。Threshold の範囲は 0 から -48dB、初期値は -18dB(p.7)。p.6 のインターフェース図では、つまみの目盛りは左端が 0、右端が -48 です。そしてクイックスタートの1行目は「大きな Threshold つまみを、圧縮がはっきり聞こえるまで時計回りに回す」(p.5)。

つまり、時計回り=しきい値が下がる=圧縮が深くなる、という対応です。「右に回すと値が増える」に慣れていると数値の向きが逆に見えますが、操作感としては「右に回すほど効く」で一貫しています。同じ行に「その時点で、GR に設定した VU メーターに表示の動きが出るはずだ」とあり、メーター表示の初期値も GR(p.10)。挿した直後からリダクション量が見える状態で立ち上がるよう揃えてあります。

Ratio は 1 から 50、初期値は 3(p.7)。ガイドの表記は「1 to 50」で、無限大の記号ではなく有限の上限として書かれています。Limiter は「ピークリミッティングと📖クリッピングの機能を切り替える」もので、範囲はOn:リミッター/Off:クリッパー、初期値 Off(現行 p.4・p.9)。Output は ±18dB、初期値 0(p.9)です。

Limiter のオフはクリッパー。ガイドが説明していないのは外部サイドチェーンのほう

公式日本語サイト(wavesjapan.jp)の H-Comp 製品ページは、特徴として「limiter/clipper出力モード」と「外部サイドチェーン対応」を挙げています。2009年4月の Waves のプレスリリース(KVR Audio 掲載)にも「Output limiter/clipper modes」「External sidechain support」が並んでいます。この2つのうち、クリッパーのほうは現行の公式ユーザーガイドが説明しています。p.4 の「リミッターがオフに切り替えられると、代わりにクリッパーに置き換わる」と、p.9 の「Limiter はピークリミッティングとクリッピングの機能を切り替える/範囲:On:リミッター、Off:クリッパー」の2か所です。

これは版で変わった箇所です。プラグインに同梱されている2011年版のガイドでは、clipper・clipping の語は全16ページで0件(別々の方法で2度読み取って検索)、Limiter は「0dBFS を超えるピークを防ぐ出力リミッター」の On/Off として書かれていました。現行の10ページ版では clip を含む語が3か所に増えています。同梱ガイドだけを読むと「オフ=リミッターが外れる」と受け取ってしまいますが、現行ガイドの書き方ではオフでも出力段には何かが立っていることになります。ここは実機の版と手元のガイドを突き合わせて読んでください。

残るのは外部サイドチェーンです。現行ガイド全10ページを検索しても、sidechain・side-chain・external・key input のいずれの語も出てきません(全ページを2通りの方法で読み取って検索。同梱の16ページ版でも同じく0件)。3.2 節のコントロール一覧にも、p.6 のインターフェース図の呼び出しにも、外部から📖キー信号を入れる経路は出てきません。製品ページとプレスリリースが機能として挙げているのに、ユーザーガイドがそれを説明していない——という食い違いは、外部サイドチェーンの1件に絞られます。

実務での扱い方としては、こうなります。📖DAW 側で外部サイドチェーンを送る使い方(📖キックでベースを踏ませる等)はメーカーが機能として挙げている。ただしその操作方法・切り替え位置・レンジはガイドに書かれていないので、手順は実機の画面と DAW 側のルーティングで確かめる必要があります。本記事では、確認できない操作手順を推測で書くことはしません。以降の「全パラメーター」の表は、あくまで現行ガイドに範囲と初期値が明記されているコントロールだけの一覧です。

全パラメーター

現行の公式ユーザーガイド記載の範囲と初期値です(3.2 節・p.7〜p.10)。

コントロール範囲初期値役割
Threshold0 〜 -48 dB-18 dB圧縮が始まる点
Ratio1 〜 503圧縮比。高いほど圧縮量が増える
Attack0.5 〜 100 ms7 ms圧縮のアタックタイム
Punch0 〜 301アタックタイムに関わらずトランジェントを通す量
Release3 ms 〜 3 sec、または BPM の倍数(音価)100 ms圧縮のリリースタイム
SyncHost / BPM / 📖MS📖MSリリースタイムのモード切り替え
BPM ReadoutOff、30 〜 300Offテンポの表示と手動設定
Mix0(Dry)〜 100(Wet)100圧縮音と原音のブレンド
AnalogOff、モード 1〜42アナログキャラクターの選択(1=トランス/真空管、2=トランジスタ、3・4=ドライブされたトーン、4はノイズ付加なし)
LimiterOn:リミッター/Off:クリッパーOffピークリミッティングとクリッピングの切り替え
Output±18 dB0出力📖ゲイン
Meter DisplayIN(入力レベル)/ GR(リダクション量)/ OUT(出力レベル)GRメーター表示の切り替え
VU メーター0 dB 〜 -48 dB—レベル/リダクション表示

表に入れきれない補足を5つ。GR モードは IN・OUT とは別のメータリングスケールを使い、圧縮・Mix の位置・リミッターの動作を織り込んだ減衰の総量を表示します(p.10)。メイクアップゲインのコントロールは、この 3.2 節の一覧に出てきません——自動で処理されるためです(p.7)。p.6 のインターフェース図には「Peak Indicator」という呼び出しが1つありますが、本文(3.2 節)に対応する解説はありません。挙動が書かれていないので、この記事でも推測しません。そして前章で見たとおり、公式製品ページが挙げている外部サイドチェーンには、この表に対応する行がありません。ガイドに範囲も初期値も書かれていないためです(clipper のほうは Limiter 行が担っています)。

5つめ。Mix の下限は、版で直っています。同梱の2011年版ガイド p.7 の表記は「Range: 1(Dry) to 100 (Wet)」で下限が 1 でした。ところが同じページに載っているつまみの画像は目盛りが「0 DRY」から始まっており、2009年のメーカー発表(KVR Audio 掲載)の仕様表も「Mix – (Dry/Wet) 0 to 100」で、本文だけが 1 という状態でした。現行ガイド p.7 は「Range: 0 (Dry) to 100 (Wet)」に改められており、この食い違いは解消しています(つまみの画像は両版でまったく同じものです)。上の表は現行の表記に従って 0 としました。古い版のガイドを見て「下限は 1」と読んだ場合は、現行の記載を優先してください。

用途別・設定の始点

このプラグインについては、公式ガイド自身が触る順番を提示しています。クイックスタートガイド(p.5)の並びは Threshold → Ratio → Attack → Punch → Release → Sync → Mix → Analog → Output / Limiter。どこから手を付けるか迷ったら、これが設計側の想定です。以下の表は、その順序と各コントロールの定義から導ける「困りごと別の一手目」です。

困りごと一手目ガイド上の根拠
立ち上がりが鈍った・トランジェントが消えたAttack を遅くする前に Punch を上げる「トランジェントの情報が失われたら Punch で取り戻す」(p.5)/Punch は「アタックタイムに関わらず」通り抜け量を制御(p.8)
潰したいが原音の勢いも残したい圧縮を作り込んでから Mix を下げる「正しい圧縮ができたら、Mix で圧縮信号と元の入力をブレンドする」(p.5)。追加トラックも📖バス構成も不要(p.4)
リリースが曲に馴染まないSync を Host にするリリースは打点の間隔=BPM に対応することが多い、という設計理由(p.4)
音のキャラクターを変えたいAnalog を 1〜4 で切り替えるクイックスタートでは Mix を決めた後の工程(p.5)
圧縮の効果だけを確認したいまず Analog を Off にする初期値がモード 2 のため、初期状態は色が乗っている(p.9)
背景を静かに保ちたい(無音に近い箇所・ソロ楽器・ナレーション)Analog を Off にする(ドライブは残したければ 4)Analog モデルは「少量のノイズを加える」、モード 4 は「ノイズ付加なし」(現行 p.9)。公式解説記事も同旨
出力を整えたい・ピークを止めたいOutput Trim、必要に応じて Limiter「出力レベルを制御するには Output Trim を使い、必要に応じて Limiter を有効にする」(p.5)。Limiter を On にするとリミッター、Off ではクリッパーに置き換わる(現行 p.4・p.9)

具体的なリダクション量の目安は、公式ガイドに数値の推奨がありません。クイックスタートの表現は「圧縮がはっきり聞こえるまで Threshold を回す」「Ratio で圧縮量を調整する」で、何 dB という指定は出てきません。ここに数字を置くのは編集部の作文になるので、書かないことにします。GR メーターが初期表示になっているので、耳と表示の両方で判断してください。

似た製品との使い分け

H-Comp 側にあるものを整理します。公式ガイドが「標準的なコンプレッションのパラメーター(Threshold・Attack・Ratio・Release)に加えて」と前置きしたうえで、独自の音作りを可能にするものとして挙げているのは、Mix・Limiter・Punch・Sync・Analog Modes の5つ(p.4)。このうち他社の一般的なコンプレッサーと最も違うのは、アタックと独立したトランジェント制御(Punch)、追加トラックもバス構成も要らないパラレル(Mix)、拍で決めるリリース(Sync)の3つでしょう。加えて Limiter は、On でリミッター・Off でクリッパーという二択のコントロールで、これも普通のコンプレッサーには付いていません。さらに公式製品ページは、ガイドが説明していない外部サイドチェーン対応も特徴に挙げています。判断の材料はこの範囲にあり、3つに絞り切れるものではありません。

逆に、この3つが要らない場面——反応の時間軸とレシオだけを素直に決めたい場面では、H-Comp の追加コントロールは判断の手数を増やすだけになります。当サイトで個別に解説している Waves のコンプレッサーとしては、V-Comp、API 2500、Kramer PIE Compressor、C1 Compressor、Renaissance Compressor があります。それぞれのコントロール構成・範囲・初期値は各製品のマニュアルで確認する必要があるため、この記事では比較の数値を出しません。

また、H-Comp の Limiter について現行ガイドが書いているのは、出力リミッターを有効にすること、オフではクリッパーに置き換わること(p.4)、そして「ピークリミッティングとクリッピングの切り替え」であること(p.9)で、音圧を上げる用途の説明は付いていません。3.2 節のコントロール一覧にリミッターのしきい値やシーリングに当たる項目は無く、On/Off の二択です。天井を管理して音量を持ち上げる工程そのものが目的なら、L1 Ultramaximizer のような専用の製品を見たほうが早いはずです。圧縮そのものの考え方を整理し直したいときは、コンプレッサーの基礎 を先に読むと、以降の判断が速くなります。

なお、H-Comp の各つまみを実際にどう動かすかという手順は、Waves H-Comp の使い方 で扱っています。この記事は設計の理由と数値の出どころに寄せているので、操作から入りたい場合はそちらが先です。

よくある質問

アナログモードの 1〜4 は Opto・FET・VCA・Transformer のことですか?

いいえ。現行の公式ユーザーガイドは p.9 で、その読み方を自分から否定しています。「これらの設定は一般的なアナログのエミュレーションであり、特定の機器をモデリングしたものではない(they are not modeled after specific devices)」。そのうえでガイドが与えているのは、5つの設定がそれぞれ近似している状態の記述です——1:トランス、または真空管/2:トランジスタ/3:ドライブされた真空管・トランジスタのトーン 1/4:同トーン 2、ノイズ付加なし/5:Off、アナログ処理なし。範囲は「Off、モード 1 から 4」、初期値は 2。p.6 のインターフェース図でも、つまみの目盛りは OFF・1・2・3・4 で、名称は付いていません。

つまり公式が示しているのは「どの機種を模したか」ではなく「どんな状態に近いか」です。この内訳自体が版で増えた部分で、プラグインに同梱されている2011年版のガイドでは Analog の項は「アナログのキャラクターモードを切り替える」+範囲・初期値の3行しかありませんでした。「1 は LA-2A、2 は 1176」といった対応表を載せている資料は、少なくとも現行ガイド・公式製品ページ・公式の解説記事のいずれにも裏づけを持ちません。数値(歪み率・周波数特性)も公式資料には無いので、最終的には耳で選ぶコントロールとして扱うのが確実です。

Punch と Attack は何が違うのですか?

Attack は圧縮が始まる速さ(0.5〜100ms、初期値 7ms)。Punch は、そのアタックタイムに関わらずトランジェントを圧縮に通り抜けさせる量(0〜30、初期値 1)です。ガイドの表現は「値が高いほど多くのトランジェントが圧縮を迂回し、結果としてよりパンチのある音になる」(p.8)。速く反応させたいがトランジェントは残したい、という両立を狙うための独立した軸です。

メイクアップゲインのつまみが見当たりません

自動です。p.7 に「H-Comp は自動メイクアップゲインを備えており、これは非圧縮の信号と圧縮された信号の両方について、おおよそ同じレベルを維持するよう設計されている」と明記されています。手動で出力を上下させたいときは Output(±18dB、初期値 0)が別にあります。

Sync を使うと、リリースはどの音価まで指定できますか?

公式の解説記事(wavesjapan.jp)が答えています。同記事は音価の範囲を「64分音符から2小節まで」とし、「付点音符や三連符にも対応」と書いています。付点と三連符も選べる、というのがメーカー自身の説明です。一方、公式ユーザーガイドは p.8 のリリースつまみの図に両端の目盛りとして「1/64」「2 Bar」を刻んでいるだけで、その間に並ぶ音価の一覧を載せていません。

下限の表記だけは資料によって違います。ガイドのつまみ画像の刻印は「1/64」ですが、2009年4月の Waves のプレスリリース(KVR Audio 掲載)の仕様表は「Release – 3 to 3000 ms | 1/64T to 2 Bar」で、三連64分から始まると書いています。三連符に対応するという公式解説と突き合わせれば、1/64 より細かい値まで回る可能性は高いのですが、資料が割れているので実機の表示で確認してください。

モードは Host(ホストアプリの BPM 設定に同期)・BPM(手動設定に同期)・📖MS(ミリ秒での手動設定)の3つで、初期値は MS。Host と BPM では Release の値表示が BPM の倍数に変わります。BPM の読み出しは Off と 30〜300 の範囲です(p.9)。

まとめ

  • Punch は「アタックタイムに関わらず」トランジェントを通す量を決めるコントロール。圧縮の速さとトランジェントの残し方が、別々の軸になっている。
  • 自動メイクアップゲインがあるため、Mix を回して変わるのは主に質感の配分。GR メーターは圧縮・Mix の位置・リミッターの動作を織り込んだ減衰の総量を示す。
  • Analog の初期値は Off ではなく 2。現行ガイド p.9 が「少量のノイズを加える」と明記しているので、圧縮の効果だけを確かめたいときと、背景を静かに保ちたいときは Off を経由する。ドライブは欲しいがノイズは要らない場合はモード 4(ノイズ付加なし)。
  • Limiter は On でリミッター、Off でクリッパー(現行 p.4・p.9)。オフは「何もしない」ではない。一方、公式製品ページが挙げる外部サイドチェーンは、現行ガイドが説明していない。操作手順は実機で確認すること。
カホ

つまみの数が多い機械ほど、初期値の置き場所に設計者の意図が出ます。Punch が 1、Analog が 2、メーターが GR。読み込んだ瞬間の状態を見れば、この機械が何を大事にしているかは分かります。

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